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一攫千金の町

探索

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「ナイエの話じゃ、やっぱり先に入った者たちが何組かいるみたいだ」

 斥候に出ていた猫人と一緒に、アールが戻ってきた。
 ここから遺跡の入口はそう遠くない。半刻一時間も掛からず往復できる程度の距離である。その入り口を確認だけするからと偵察に出た、アールとナイエが帰ってきたのだ。

「そうでしょうね」

 コリーンがやれやれと息を吐く。

「手つかずの遺跡が出たのに、ほっとく冒険者はいないでしょう。あまり変に荒らされてないといいんですけど」
「これで少しは罠や魔物の危険は減ったって考えていいのかな」

 レフが首を傾げると、ナイエが小さく鼻を鳴らした。

「そう上手くいくといいんだけど。まだ外に出た形跡はなかったから、中で夜明かししてるのかも。鉢合わせする可能性もあるね」
「それは面倒臭そうだ」

 遺跡探索を専門にする冒険者は、あの町でも十グループいるかどうかというところだ。
 通常なら探索中にかち合うことはあまりないが、これから行くところは別だ。未探索ということで注目されている。
 すでに探索された場所ならともかく、あの中で遭ってしまったら、争いにならない保証はない。

「どこのグループが潜ってるのかわかればよかったんだけどね」

 アールが困ったように眉尻を下げる。
 聖騎士や善なる神の司祭が入っているようなグループであれば、お互い穏やかに情報の交換などもできるだろうが、そういうグループばかりでないのは確かだ。
 だが、今、そんなことをあれこれ心配したところでしかたない。

「まあ、かち合ったときにはミーケルの口車に期待しておくよ」
「もちろん、最善は尽くすつもりさ」

 ふ、と笑ってひらひら手を振るミーケルを、エルヴィラがじっと見上げる。

「何、不安? まんいち鉢合わせて交渉決裂ってなったら今度は君の出番なんだから、そしたらよろしく頼むよ」

 ぽんぽんと頭を叩かれて、エルヴィラはこくんと頷いた。




 翌日、日の出とともに起きて、野営の後を片付ける。荷物をまとめて、アールの「行こうか」という言葉で歩き出した。

「……ミケは、なんでこの仕事受けたんだ?」

 ミーケルが冒険者と一緒に遺跡に潜るなんて、思いもよらなかった。ミーケルは、貴族や領主や、人の集まる店を相手にばかり仕事をしていたから。だから、エルヴィラは、冒険者をしてればミーケルと会うこともないだろうと考えたのだ。

「――まずひとつは君の噂を聞いたから。アールに君を引き入れてもらうために」
「う……」
「あとは、まあ、ちょっと行ってみたいところがあったんだ」
「行ってみたいところ?」
「そ。これから行く遺跡がそうかはわからないんだけど、この荒れ地のどこかに、僕の家系に関わりの深い遺跡があるんだよね」
「へえ? ミケの家は冒険者でもしてるのか?」
「いや、違う――ある意味、僕の家系の始まりになった遺跡なんだ」
「ふうん?」

 遺跡が始まりってなんだろう。

 そんなことを考える。でも、ミーケルが自分のことを少し話してくれたことが嬉しくて、エルヴィラは兜の奥でにひゃっと笑ってしまった。
 ミーケルの望むものが見つかるといいな。

「でも、ミケの故郷って、ここじゃないんだろう?」
「そうだよ。ここからだと……もう少し北寄りで、もっと東になるのかな」
「北寄りの、東って……何にもなかったような?」
「うん、今は何もないね」
「ふうん?」

 またぽんと頭を叩いて、「ほら、先頭は君だろう?」とミーケルはエルヴィラの背を押した。



 遺跡の入口から先、アライトはナイエと一緒に皆より少し先行して進むことになっていた。アライトの竜の感覚とナイエの捜索能力があれば、罠や魔物にあらかじめ気付く可能性が上がると判断してだ。
 その後ろは、先頭にエルヴィラと並んで司祭の森小人レフ、真ん中は魔術師コリーンとミーケル、さらに殿しんがりを務めるアール……という順番だ。

 皆、ナイエの指示に従ってゆっくりと進んでいく。
 普通に考えれば、その昔神殿として使われた場所ならこんな場所に何か仕掛けておくなんて考えにくい。
 けれど、何があってもおかしくないのが遺跡探索というものなのだ。

 まだ入り口に近い場所の壁はとくにこれといった特徴はなく、ここがどういう場所かを示すようなものも見当たらない。
 結構な距離をまっすぐ進んだ先で、通路が2つにわかれていた。

「どっちに行く? どっちにも、誰かが入っていったあとがあるよ」
「臭いはどっちも変わらねえな。この先にも、とくに気になる感じはないし、どっちがいいとかは知らねえよ」

 ナイエとアライトの言葉に、アールがじっと考える。
 どっちに行っても変わらないように思えるのだから、コイントスで決めてもいいんじゃないだろうか。

 ――なんてエルヴィラが考えていると、レフがとてとてと前に出て、「じゃあ、神様に聞いてみようか」と杖をぐいと差し出した。
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