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岩塩の町
これが話し合い、だと?
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「その、話し合いって……」
「うん?」
相変わらず笑みを絶やさず、ミーケルはにこにこと首を傾げる。
「話し合いって、まずは何から」
「そうだね、まずは、お互いの理解を深めようか」
「理解?」
確かに誤解があってはまずいと思う。
だが、この現状で何をどう誤解しているというのか。エルヴィラは怪訝な目でにミーケルを見上げた。
「理解って、何の理解を深めるんだ」
不審げなエルヴィラに、ミーケルはさらに笑う。
それからいきなり屈んで耳元に口を寄せると、「それはもちろん」と囁いた。
「──っひ?!」
い、今、こいつは耳を齧らなかったか!?
「も、もちろんって、もちろんって!?」
ミーケルは顔を寄せたまままた首を傾げた。
「深める理解なんて、ひとつしかないでしょう?」
「んっ!?」
いつぞやのようにいきなりぶちゅっとキスをされ、またもや舌の進入を許してしまった。
口の中を動き回るぐにぐにとした弾力のあるものに、背筋をぞわぞわとした何かが走る。
神よ、二度目もこれなんですか!?
エルヴィラは頭の中で悲鳴をあげる。
「ん、ん、んんっ、んーっ!?」
だんだんと息が苦しくなって、意識もぼんやりとしてきた。
ロマンス小説のヒロインたちは、この手のキスでものすごく恍惚としているが、これ、そんなにいいものだろうか。
いや待て、とエルヴィラは我に返って暴れる。
そういう問題じゃない。
「んっ、んっ、んんんんーっ!」
しかし、椅子に座ったまま、のし掛かられるような体勢ではうまく振りほどくこともできない。
押し返すことも、なんか無理。
「あれ、布なんか巻いちゃって」
必死で気づかなかったが、いつの間にか前をはだけられてさわさわと身体を触られていた。
「ひ、な、なんで……っ!? は、話し合いって」
「だから、大人の話し合いでしょう?」
ミーケルはふふっと笑ってまたエルヴィラの口を塞ぐ。
「む、んっ!?」
大人? 大人って、大人って――。
ふと、胸の圧迫がふわりと軽くなる。直接触れる感触がする。
「こんなに綺麗で柔らかいおっぱいなのにぎゅうぎゅうに押し潰すなんて、もったいないことするなあ。
潰れたまま固まっちゃったらどうするの」
きゅ、と柔らかく揉むように掴まれた。
エルヴィラは息を呑む。
なんで、どうしてこんなことになっているのか。
「うっ……な、な」
鎖骨のあたりにキスを落とされて、もう限界だった。
なんで? なんで?
自分はそんなに悪いことをしたのか?
「――う、うぅ」
ひくっとしゃくりあげるように息を吸い込んで、エルヴィラはぎゅっと唇を噛んだ。
何か一言でも口にした瞬間に、溜まったいろんなものが決壊しそうだ。
これはとてもまずい状況だ。
「んん? ――って!」
急にエルヴィラのようすが変わったことに気付いて、ミーケルが顔を上げた。
そのすぐ目の前の光景にぎょっとして、目を丸くする。
「ちょっ、何、どういうこと?」
顔を真っ赤に染めたエルヴィラが、唇をぎゅうっと噛み締めて唸りながらだらだら涙を流していた。
ミーケルはしばしぽかんとエルヴィラの顔を凝視して、それからはあっと大きく息を吐いて立ち上がる。
「――なんか興が削がれたな」
半眼になったミーケルはつまらなそうに言い捨てた。ベッドの上から毛布を取ると、エルヴィラの頭の上からばさりと被せてしまう。
「さすがに、泣いてる子を無理やり押し倒すのは趣味じゃないんだよねえ。
──あのさ、君、何しに来たの? 責任て、じゃあ何のことさ」
「あ、う、都、で、私の、はじめて、を」
「その“はじめて”って何のこと? 君こそ、今が初めてなんでしょ?
そんな初心い反応って今時ないよ。奪って欲しいのかと思ったら、違うみたいだし」
「……だって、だって」
「何? それとも、今ちょっとビビっちゃっただけだから、やっぱり続きがしたい?」
わずかに眉を顰め、口元を歪めるように口角あげたミーケルは、毛布の下でびくっと震えるエルヴィラを鼻で笑う。
「僕としてはヤるでもヤらないでもどっちでもいいんだけど」
「や、や、や、やるって」
「大人の話し合い」
毛布越しに抱き寄せられて、耳のあたりで低く囁かれた。
エルヴィラはまた「ひっ」と竦み上がる。
「そっ、それ、たぶん、話し合いじゃ、ないしっ!」
「ええ? 話し合いだよ?」
くっくっと喉で笑うミーケルに、毛布の中でエルヴィラは完全に途方に暮れてしまった。
もうどうしていいのかわからない。
こんなこと、騎士典範にだって戦神の教典にだって書いてなかった。
「そもそもさ」
なおも笑いながら、ミーケルは続ける。
「責任責任って言うけど、君、僕に何をさせたいの? 処女のくせにここまで来てやっぱやめって、僕にどういう責任を求めてるのさ」
「な、だって、お前のせいで……」
「僕のせいで?」
もぞもぞと身じろぎをして、エルヴィラは毛布から顔だけを覗かせる。
ミーケルはやっぱり笑っていた……さっきまでとは違う、人を嘲るような笑顔だ。
濡れた目をぐしぐしと擦りながら、エルヴィラはなんとか言葉を探す。
「せっかく得た姫の護衛騎士という役目がなくなって」
「うん?」
「お前が私にしでかしたことで、私が純潔でないという話になって」
「うん、で?」
「父上に、家が被った諸々の責任を取れと、勘当された」
ミーケルは目を眇めてじっとエルヴィラを見つめた。
「それが全部僕の責任だって?」
「そうだ」
じっと見つめられて、エルヴィラはまた落ち着かなくなる。
咎めているのはこちらのはずなのに、なぜ自分が咎められているような気になるのだろうか。
「うん?」
相変わらず笑みを絶やさず、ミーケルはにこにこと首を傾げる。
「話し合いって、まずは何から」
「そうだね、まずは、お互いの理解を深めようか」
「理解?」
確かに誤解があってはまずいと思う。
だが、この現状で何をどう誤解しているというのか。エルヴィラは怪訝な目でにミーケルを見上げた。
「理解って、何の理解を深めるんだ」
不審げなエルヴィラに、ミーケルはさらに笑う。
それからいきなり屈んで耳元に口を寄せると、「それはもちろん」と囁いた。
「──っひ?!」
い、今、こいつは耳を齧らなかったか!?
「も、もちろんって、もちろんって!?」
ミーケルは顔を寄せたまままた首を傾げた。
「深める理解なんて、ひとつしかないでしょう?」
「んっ!?」
いつぞやのようにいきなりぶちゅっとキスをされ、またもや舌の進入を許してしまった。
口の中を動き回るぐにぐにとした弾力のあるものに、背筋をぞわぞわとした何かが走る。
神よ、二度目もこれなんですか!?
エルヴィラは頭の中で悲鳴をあげる。
「ん、ん、んんっ、んーっ!?」
だんだんと息が苦しくなって、意識もぼんやりとしてきた。
ロマンス小説のヒロインたちは、この手のキスでものすごく恍惚としているが、これ、そんなにいいものだろうか。
いや待て、とエルヴィラは我に返って暴れる。
そういう問題じゃない。
「んっ、んっ、んんんんーっ!」
しかし、椅子に座ったまま、のし掛かられるような体勢ではうまく振りほどくこともできない。
押し返すことも、なんか無理。
「あれ、布なんか巻いちゃって」
必死で気づかなかったが、いつの間にか前をはだけられてさわさわと身体を触られていた。
「ひ、な、なんで……っ!? は、話し合いって」
「だから、大人の話し合いでしょう?」
ミーケルはふふっと笑ってまたエルヴィラの口を塞ぐ。
「む、んっ!?」
大人? 大人って、大人って――。
ふと、胸の圧迫がふわりと軽くなる。直接触れる感触がする。
「こんなに綺麗で柔らかいおっぱいなのにぎゅうぎゅうに押し潰すなんて、もったいないことするなあ。
潰れたまま固まっちゃったらどうするの」
きゅ、と柔らかく揉むように掴まれた。
エルヴィラは息を呑む。
なんで、どうしてこんなことになっているのか。
「うっ……な、な」
鎖骨のあたりにキスを落とされて、もう限界だった。
なんで? なんで?
自分はそんなに悪いことをしたのか?
「――う、うぅ」
ひくっとしゃくりあげるように息を吸い込んで、エルヴィラはぎゅっと唇を噛んだ。
何か一言でも口にした瞬間に、溜まったいろんなものが決壊しそうだ。
これはとてもまずい状況だ。
「んん? ――って!」
急にエルヴィラのようすが変わったことに気付いて、ミーケルが顔を上げた。
そのすぐ目の前の光景にぎょっとして、目を丸くする。
「ちょっ、何、どういうこと?」
顔を真っ赤に染めたエルヴィラが、唇をぎゅうっと噛み締めて唸りながらだらだら涙を流していた。
ミーケルはしばしぽかんとエルヴィラの顔を凝視して、それからはあっと大きく息を吐いて立ち上がる。
「――なんか興が削がれたな」
半眼になったミーケルはつまらなそうに言い捨てた。ベッドの上から毛布を取ると、エルヴィラの頭の上からばさりと被せてしまう。
「さすがに、泣いてる子を無理やり押し倒すのは趣味じゃないんだよねえ。
──あのさ、君、何しに来たの? 責任て、じゃあ何のことさ」
「あ、う、都、で、私の、はじめて、を」
「その“はじめて”って何のこと? 君こそ、今が初めてなんでしょ?
そんな初心い反応って今時ないよ。奪って欲しいのかと思ったら、違うみたいだし」
「……だって、だって」
「何? それとも、今ちょっとビビっちゃっただけだから、やっぱり続きがしたい?」
わずかに眉を顰め、口元を歪めるように口角あげたミーケルは、毛布の下でびくっと震えるエルヴィラを鼻で笑う。
「僕としてはヤるでもヤらないでもどっちでもいいんだけど」
「や、や、や、やるって」
「大人の話し合い」
毛布越しに抱き寄せられて、耳のあたりで低く囁かれた。
エルヴィラはまた「ひっ」と竦み上がる。
「そっ、それ、たぶん、話し合いじゃ、ないしっ!」
「ええ? 話し合いだよ?」
くっくっと喉で笑うミーケルに、毛布の中でエルヴィラは完全に途方に暮れてしまった。
もうどうしていいのかわからない。
こんなこと、騎士典範にだって戦神の教典にだって書いてなかった。
「そもそもさ」
なおも笑いながら、ミーケルは続ける。
「責任責任って言うけど、君、僕に何をさせたいの? 処女のくせにここまで来てやっぱやめって、僕にどういう責任を求めてるのさ」
「な、だって、お前のせいで……」
「僕のせいで?」
もぞもぞと身じろぎをして、エルヴィラは毛布から顔だけを覗かせる。
ミーケルはやっぱり笑っていた……さっきまでとは違う、人を嘲るような笑顔だ。
濡れた目をぐしぐしと擦りながら、エルヴィラはなんとか言葉を探す。
「せっかく得た姫の護衛騎士という役目がなくなって」
「うん?」
「お前が私にしでかしたことで、私が純潔でないという話になって」
「うん、で?」
「父上に、家が被った諸々の責任を取れと、勘当された」
ミーケルは目を眇めてじっとエルヴィラを見つめた。
「それが全部僕の責任だって?」
「そうだ」
じっと見つめられて、エルヴィラはまた落ち着かなくなる。
咎めているのはこちらのはずなのに、なぜ自分が咎められているような気になるのだろうか。
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