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5.吸血鬼と私
1.結婚のごあいさつ
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「ミカちゃん、どうしよう」
「どうしましたか?」
「なんかすごく緊張してきちゃった」
武者震いなのかなんなのか、とにかく足が震えてしまう。
「大丈夫ですよ」
その声にハッとして顔を上げると、にっこり微笑むミカちゃんにキスをされて……これだけで大丈夫だ、なんて思ってしまう私は、やっぱりチョロい。
* * *
今日現在、夏休みを利用して、ミカちゃんの親戚というか同類というか、そういうひとたちへのお披露目のために海外へと出て来ている。
なんとヨーロッパだ。
ヨーロッパどころか海外だって初めての小市民なのに、もっと言えば仕事でもないのに、ビジネスクラスになんて乗ってしまった。
しばらく前にパスポートを作ったのは、ミカちゃんとの結婚があるからだった。そのミカちゃんに、夏休みの日程を確認されて答えたのがひと月ほど前。そこから、ミカちゃんはいつの間にかあれこれ手配を済ませていたようだ。
私の荷物までしっかりまとめられ、差し出された航空チケットでここへ連れて来られて……ミカちゃんは、いったいどれだけ無駄遣いすれば気がすむのか。最初はファーストにしようかと思ったんですが、などと言うが、私をそんなところに乗せても無駄遣いの極みにしかならないだろう。
私は石油王なんかじゃないんだぞ。
ただの交通機関であれこれ世話を焼かれるとか、分不相応すぎて落ち着かないに決まってる。
そして成田から約十二時間あまり。
オランダのなんとかいう大きな空港からさらに飛行機を乗り継いでデンマークの空港に降り立ち、ミカちゃんの流れるような案内でレンタカーを借りて北の……対岸の、スウェーデンのなんとかいう町に連れてこられたらしい。
地名を聞いたところで、私の乏しい地理知識ではさっぱりだった。そもそもデンマークとかスウェーデンの国の位置すらも怪しいくらいの地理感覚なのだ。
さすがに、ヨーロッパの北側にくっついてる大きな半島のあたりだ、くらいは知ってるけど、それだけだ。
入国手続きも何もかも、言葉がわかるミカちゃん頼りだった。ミカちゃんに全て任せたおんぶに抱っこに肩車という待遇あってこそ、つつがなくここまで来られたのだ。ここまで、私はパスポートを出して見せる程度のことしかしていない。
英語じゃないことはわかるけど、何語かすらもわからない言葉を流暢に話すミカちゃんは、さすがだと思う。
夜が長いはずの夏なのに、すっかり日も暮れたところで、こじんまりとした小さな田舎町に入った。たぶん、観光地でもあるんだろう。
ミカちゃんは、その町の真ん中にあるホテルに入る。
「約束している場所まで、ここからは車であと二時間程度でしょうか。もう遅いですし、今日はここに泊まりますね」
にっこりと笑うミカちゃんに、私はこくんと頷く。町の名前を聞いても、やっぱりどの辺りなのかわからない。
「ミカちゃんはずるい」
「ずるい、とは?」
部屋に荷物を置いて、置いてあったソファにすとんと座って伸びをしながら、私は口を尖らせる。
「だって、ミカちゃんてほんとに何でもできるんだもん。英語どころか、なんかよくわからない言葉もペラペラだし」
「そんなことはありません。言葉も、単なる年の功ですよ」
笑いながらミカちゃんは隣に腰を下ろすと、すっと肩を抱いて耳元に口を寄せ、「律子さん、お疲れですね?」と囁いた。
ちゅ、と音を立てて頬にキスをするミカちゃんは、既に律子甘やかしモードに入っているのだろう。たしかに、丸一日かけた移動で身体はくたくたで、どことなく私の虫の居所が悪いのも間違いじゃない。
「ここの一階がレストランになっています。夕食はそこで軽く済ませて、今夜は早く休みましょうか」
「――うん」
では、とミカちゃんは私を抱えるようにして立ち上がり、部屋の鍵を取るともう一度私にキスをした。
それにしてもヨーロッパ。しかも北欧。
ここへ来るまで、テレビで見たような色とりどりの建物が並んでて、どこを撮っても絵になる街並みだった。
このホテルも、外側は壁も屋根もきれいに赤く塗られた普通の建物なのに、レストランの内装は木目を生かしたシックでシンプルなカントリー風……みたいな雰囲気で、なんだかホッとする。
照明はほんのりと暗い。各テーブルには小さな花瓶とランプが置かれ、灯された蝋燭の炎がゆらゆらと揺らめいている。
まるで、ミカちゃんと私だけの空間を作っているみたいに。
なんてことないホテルの小さなレストランで、たぶん地元の人も利用するようなところなのに、普通にこんな演出があるんだなと感心してしまう。
「どうかしましたか?」
じっと蝋燭を眺めながらぼんやりとスープを食べる私に、ミカちゃんが小さく首を傾げた。ほんのりと赤みがかった灯りに照らされるミカちゃんの顔は、ちょっと直視に困るくらいのイケメンだ。蝋燭補正が付いてるから、きっとイケメンの殿堂入りしてる。
「ん。なんか、ほんとに外国に来ちゃったなあと思って。聞こえてくる言葉も全然わけわかんないし。
それに、なんかすごく見られてる気がする。ミカちゃん効果かな」
日本人が珍しいのか、単にミカちゃんがイケメンだからなのか、ほかのお客からなんやかやと見られている気がするのだ。
特に小さい子供に。
「律子さんがかわいいからですよ」
くすりと笑って返すミカちゃんに、私は顔を顰めてみせた。
「それから、明日から三日ほど、山の中に滞在することになります。少し退屈かもしれません」
「山の中?」
「はい。小さいですが、山の上のほうに建てられた館なんです。麓には、たしか……小さな村がある程度ではないかと」
「へえ?」
やっぱり、吸血鬼だから人目をはばかる山奥に集まるのかな。
「昔からある古い建物なんですよ。もう数百年も前から、何かあるとそこに集まるというのが、決まりになっているんです」
私の考えてることなんて丸わかり、という顔でミカちゃんが続けた。
何かあると、って、今回はミカちゃんの結婚か。田舎の爺婆のように、結婚するなら挨拶しろとうるさいものなのか。
「そんなに古いって、お城か何かなの?」
「はい」
「え」
お城? と、私はぽかんと口を開けてミカちゃんを見つめてしまう。
「ミカちゃんて、お城持ってるの?」
「いえ、私の城ではありません。
そうですね……長というか、いちおう、同族をまとめる者の住んでいる城館といいましょうか。けれど、それほど大きくはありませんよ。
山の中で少し不便なのですが、そこへ顔見せに行かなければならないというのが決まりでして」
やっぱり田舎の風習みたいだ。
結婚するなら相手と一緒に本家に挨拶に来い、みたいなやつ。
「じゃあ、ミカちゃんより偉い吸血鬼なの?」
「そうなりますね。心配ですか?」
「んー、ミカちゃんがいるから大丈夫、かな」
そうか、これから行くところは吸血鬼の本拠地なのか……とちょっと不安になったけれど、ミカちゃんをちらりと見て、ま、平気かなと思い直す。ミカちゃんがいれば、周りが吸血鬼だらけでも変なことにはならないはずだ。
ミカちゃんが嬉しそうににっこりと微笑む。
それにしても長か。吸血鬼も仲間で団結したりするものなんだ。
「とはいえ、今そこにいるのは“最長老”の代理人なんですよ。最長老自身はここ二百年ほど姿を見せず、所在は不明なんです」
「死んだとかじゃなくて? 生きているのに、代理人に任せっぱなし?」
「はい。滅んでいれば、その代理人も同様に滅ぶはずですから」
「そういうものなの……」
主人と一連托生って、さすが吸血鬼とその部下、ってことなのだろうか。ミカちゃんも、そんな部下を持ってたりするんだろうか。
「じゃ、その最長老って放蕩者なんだ?」
「放蕩……」
ぷっ、とミカちゃんが噴き出した。私、何か変なこと言っただろうか。
「律子さんにかかっては、千年以上生きていると言われる吸血鬼の最長老ですら放蕩者呼ばわりですか」
「だって、二百年とか代理人に全部押し付けてふらふら行方くらましてるんでしょ? だから放蕩者なのかなって思っただけだし。有閑マダム的にさ」
くっくっと肩を震わせるミカちゃんに、私はむうっと口を尖らせる。
「放蕩というわけではありませんが……もしかしたら眠っているのかもしれませんね。起きていることに退屈して」
「退屈で何百年も寝るものなの?」
「はい。ただ、力のない者が長く眠ると、眠ったまま飢えすぎて滅んでしまうこともあるようです。最長老ともなれば、そんなことはないと思いますが」
「ええ? そんな、滅ぶほどお腹が空く前に、ちょっとくらい起きようよ」
呆れる私に、ミカちゃんはびっくりしたように目を瞠って、それからまた楽しそうに笑い出した。
「それが、律子さんの感想ですか」
「え?」
「やっぱり律子さんはかわいいですね」
「なんでそうなるの?」
何がどうツボに入ったのか知らないが、ミカちゃんはくつくつ笑い通しだ。
「ミカちゃん笑いすぎ!」
もう、と眉間に縦皺を入れて、私はぱくぱくとひたすらスープを食べる。
何がそんなにおもしろいのかわからない。
部屋のベッドはダブルベッドのように二台ぴったりつけて置かれている。
今日は疲れているから別寝のほうがいいのかな、と思っていたのに、ミカちゃんは当然のような顔をして私を抱え込むと、同じベッドにごろりと横になった。
私がミカちゃんに抱えられて寝るのが当たり前になってしまったように、ミカちゃんも私を抱えて寝るのが当たり前になってしまったのだろうか。
うつらうつらとしながら、考える。
吸血鬼の長とか代理人というのが、今のミカちゃんみたいなひとならたぶん怖くない。やさぐれたり荒ぶったりしていた時のミカちゃんみたいだったら、ちょっと怖いかもしれない。
でも、ミカちゃんが一緒なのだ。筋を通さないと、あとでミカちゃんが困ることになるのだし、ここは私もがんばろう。
「どうしましたか?」
「なんかすごく緊張してきちゃった」
武者震いなのかなんなのか、とにかく足が震えてしまう。
「大丈夫ですよ」
その声にハッとして顔を上げると、にっこり微笑むミカちゃんにキスをされて……これだけで大丈夫だ、なんて思ってしまう私は、やっぱりチョロい。
* * *
今日現在、夏休みを利用して、ミカちゃんの親戚というか同類というか、そういうひとたちへのお披露目のために海外へと出て来ている。
なんとヨーロッパだ。
ヨーロッパどころか海外だって初めての小市民なのに、もっと言えば仕事でもないのに、ビジネスクラスになんて乗ってしまった。
しばらく前にパスポートを作ったのは、ミカちゃんとの結婚があるからだった。そのミカちゃんに、夏休みの日程を確認されて答えたのがひと月ほど前。そこから、ミカちゃんはいつの間にかあれこれ手配を済ませていたようだ。
私の荷物までしっかりまとめられ、差し出された航空チケットでここへ連れて来られて……ミカちゃんは、いったいどれだけ無駄遣いすれば気がすむのか。最初はファーストにしようかと思ったんですが、などと言うが、私をそんなところに乗せても無駄遣いの極みにしかならないだろう。
私は石油王なんかじゃないんだぞ。
ただの交通機関であれこれ世話を焼かれるとか、分不相応すぎて落ち着かないに決まってる。
そして成田から約十二時間あまり。
オランダのなんとかいう大きな空港からさらに飛行機を乗り継いでデンマークの空港に降り立ち、ミカちゃんの流れるような案内でレンタカーを借りて北の……対岸の、スウェーデンのなんとかいう町に連れてこられたらしい。
地名を聞いたところで、私の乏しい地理知識ではさっぱりだった。そもそもデンマークとかスウェーデンの国の位置すらも怪しいくらいの地理感覚なのだ。
さすがに、ヨーロッパの北側にくっついてる大きな半島のあたりだ、くらいは知ってるけど、それだけだ。
入国手続きも何もかも、言葉がわかるミカちゃん頼りだった。ミカちゃんに全て任せたおんぶに抱っこに肩車という待遇あってこそ、つつがなくここまで来られたのだ。ここまで、私はパスポートを出して見せる程度のことしかしていない。
英語じゃないことはわかるけど、何語かすらもわからない言葉を流暢に話すミカちゃんは、さすがだと思う。
夜が長いはずの夏なのに、すっかり日も暮れたところで、こじんまりとした小さな田舎町に入った。たぶん、観光地でもあるんだろう。
ミカちゃんは、その町の真ん中にあるホテルに入る。
「約束している場所まで、ここからは車であと二時間程度でしょうか。もう遅いですし、今日はここに泊まりますね」
にっこりと笑うミカちゃんに、私はこくんと頷く。町の名前を聞いても、やっぱりどの辺りなのかわからない。
「ミカちゃんはずるい」
「ずるい、とは?」
部屋に荷物を置いて、置いてあったソファにすとんと座って伸びをしながら、私は口を尖らせる。
「だって、ミカちゃんてほんとに何でもできるんだもん。英語どころか、なんかよくわからない言葉もペラペラだし」
「そんなことはありません。言葉も、単なる年の功ですよ」
笑いながらミカちゃんは隣に腰を下ろすと、すっと肩を抱いて耳元に口を寄せ、「律子さん、お疲れですね?」と囁いた。
ちゅ、と音を立てて頬にキスをするミカちゃんは、既に律子甘やかしモードに入っているのだろう。たしかに、丸一日かけた移動で身体はくたくたで、どことなく私の虫の居所が悪いのも間違いじゃない。
「ここの一階がレストランになっています。夕食はそこで軽く済ませて、今夜は早く休みましょうか」
「――うん」
では、とミカちゃんは私を抱えるようにして立ち上がり、部屋の鍵を取るともう一度私にキスをした。
それにしてもヨーロッパ。しかも北欧。
ここへ来るまで、テレビで見たような色とりどりの建物が並んでて、どこを撮っても絵になる街並みだった。
このホテルも、外側は壁も屋根もきれいに赤く塗られた普通の建物なのに、レストランの内装は木目を生かしたシックでシンプルなカントリー風……みたいな雰囲気で、なんだかホッとする。
照明はほんのりと暗い。各テーブルには小さな花瓶とランプが置かれ、灯された蝋燭の炎がゆらゆらと揺らめいている。
まるで、ミカちゃんと私だけの空間を作っているみたいに。
なんてことないホテルの小さなレストランで、たぶん地元の人も利用するようなところなのに、普通にこんな演出があるんだなと感心してしまう。
「どうかしましたか?」
じっと蝋燭を眺めながらぼんやりとスープを食べる私に、ミカちゃんが小さく首を傾げた。ほんのりと赤みがかった灯りに照らされるミカちゃんの顔は、ちょっと直視に困るくらいのイケメンだ。蝋燭補正が付いてるから、きっとイケメンの殿堂入りしてる。
「ん。なんか、ほんとに外国に来ちゃったなあと思って。聞こえてくる言葉も全然わけわかんないし。
それに、なんかすごく見られてる気がする。ミカちゃん効果かな」
日本人が珍しいのか、単にミカちゃんがイケメンだからなのか、ほかのお客からなんやかやと見られている気がするのだ。
特に小さい子供に。
「律子さんがかわいいからですよ」
くすりと笑って返すミカちゃんに、私は顔を顰めてみせた。
「それから、明日から三日ほど、山の中に滞在することになります。少し退屈かもしれません」
「山の中?」
「はい。小さいですが、山の上のほうに建てられた館なんです。麓には、たしか……小さな村がある程度ではないかと」
「へえ?」
やっぱり、吸血鬼だから人目をはばかる山奥に集まるのかな。
「昔からある古い建物なんですよ。もう数百年も前から、何かあるとそこに集まるというのが、決まりになっているんです」
私の考えてることなんて丸わかり、という顔でミカちゃんが続けた。
何かあると、って、今回はミカちゃんの結婚か。田舎の爺婆のように、結婚するなら挨拶しろとうるさいものなのか。
「そんなに古いって、お城か何かなの?」
「はい」
「え」
お城? と、私はぽかんと口を開けてミカちゃんを見つめてしまう。
「ミカちゃんて、お城持ってるの?」
「いえ、私の城ではありません。
そうですね……長というか、いちおう、同族をまとめる者の住んでいる城館といいましょうか。けれど、それほど大きくはありませんよ。
山の中で少し不便なのですが、そこへ顔見せに行かなければならないというのが決まりでして」
やっぱり田舎の風習みたいだ。
結婚するなら相手と一緒に本家に挨拶に来い、みたいなやつ。
「じゃあ、ミカちゃんより偉い吸血鬼なの?」
「そうなりますね。心配ですか?」
「んー、ミカちゃんがいるから大丈夫、かな」
そうか、これから行くところは吸血鬼の本拠地なのか……とちょっと不安になったけれど、ミカちゃんをちらりと見て、ま、平気かなと思い直す。ミカちゃんがいれば、周りが吸血鬼だらけでも変なことにはならないはずだ。
ミカちゃんが嬉しそうににっこりと微笑む。
それにしても長か。吸血鬼も仲間で団結したりするものなんだ。
「とはいえ、今そこにいるのは“最長老”の代理人なんですよ。最長老自身はここ二百年ほど姿を見せず、所在は不明なんです」
「死んだとかじゃなくて? 生きているのに、代理人に任せっぱなし?」
「はい。滅んでいれば、その代理人も同様に滅ぶはずですから」
「そういうものなの……」
主人と一連托生って、さすが吸血鬼とその部下、ってことなのだろうか。ミカちゃんも、そんな部下を持ってたりするんだろうか。
「じゃ、その最長老って放蕩者なんだ?」
「放蕩……」
ぷっ、とミカちゃんが噴き出した。私、何か変なこと言っただろうか。
「律子さんにかかっては、千年以上生きていると言われる吸血鬼の最長老ですら放蕩者呼ばわりですか」
「だって、二百年とか代理人に全部押し付けてふらふら行方くらましてるんでしょ? だから放蕩者なのかなって思っただけだし。有閑マダム的にさ」
くっくっと肩を震わせるミカちゃんに、私はむうっと口を尖らせる。
「放蕩というわけではありませんが……もしかしたら眠っているのかもしれませんね。起きていることに退屈して」
「退屈で何百年も寝るものなの?」
「はい。ただ、力のない者が長く眠ると、眠ったまま飢えすぎて滅んでしまうこともあるようです。最長老ともなれば、そんなことはないと思いますが」
「ええ? そんな、滅ぶほどお腹が空く前に、ちょっとくらい起きようよ」
呆れる私に、ミカちゃんはびっくりしたように目を瞠って、それからまた楽しそうに笑い出した。
「それが、律子さんの感想ですか」
「え?」
「やっぱり律子さんはかわいいですね」
「なんでそうなるの?」
何がどうツボに入ったのか知らないが、ミカちゃんはくつくつ笑い通しだ。
「ミカちゃん笑いすぎ!」
もう、と眉間に縦皺を入れて、私はぱくぱくとひたすらスープを食べる。
何がそんなにおもしろいのかわからない。
部屋のベッドはダブルベッドのように二台ぴったりつけて置かれている。
今日は疲れているから別寝のほうがいいのかな、と思っていたのに、ミカちゃんは当然のような顔をして私を抱え込むと、同じベッドにごろりと横になった。
私がミカちゃんに抱えられて寝るのが当たり前になってしまったように、ミカちゃんも私を抱えて寝るのが当たり前になってしまったのだろうか。
うつらうつらとしながら、考える。
吸血鬼の長とか代理人というのが、今のミカちゃんみたいなひとならたぶん怖くない。やさぐれたり荒ぶったりしていた時のミカちゃんみたいだったら、ちょっと怖いかもしれない。
でも、ミカちゃんが一緒なのだ。筋を通さないと、あとでミカちゃんが困ることになるのだし、ここは私もがんばろう。
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