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3.ミカちゃんと私
2.ミカちゃんは落ち着け
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人間が……いや、律子がよくわからない。
律子は、自分がミカの家畜でただの食料なのだと頑なにこだわるし、ミカはどうせ数年で離れてしまうのだと考えている。
ミカが離れることが嫌なら、では絶対離れないようにすればいいのだと“血の盟約”を申し出たのに、それも嫌だと拒絶した。
自分の知る“人間”なら、この申し出に喜んで飛び付くはずだった。
いや、人間だけではない。
他の種族だって涎を垂らして食い付くだろう。何しろ、数百年生き続ける、吸血鬼の中でも古参であるミカを完全に支配できるのだから。
少しどころか相当な価値を持つ申し出のはずなのに、律子はそんなものはいらないと言うのだ。
それを拒否された今、いったい何を差し出せば良いのか。ただただ途方に暮れるばかりで、ミカには何も思いつかない。
挙げ句の果てには、ミカではない、誰か他の人間の伴侶となることまで匂わせて……心も含めて律子が欲しいのに、どうしても手に入らない。
いつものようにテレビを見る律子を背後から抱え込むように座り、そっと腕を回して抱き締めた。
いつかこの腕すら拒否されるのではないかと考えて、けれど今日は大丈夫だったと安心するのだ。
自分は、いったいいつまでここに居ることを許されるのだろうか、と。
ミカは溜息を吐く。
「――律子さんは」
「ふぇ?」
突然ミカに呼ばれて、律子は振り返る。
「律子さんは、私を滅したいのでしょうか」
「へ?」
律子は目をまん丸に見開いて、ぽかんと口を開ける。まじまじとミカを見つめるが、しかし、肩に顔を埋めたミカの表情は、律子にわからない。
「ミカちゃん、いきなり何を言い出すの? そんなわけないよ?」
「では、なぜ私を拒否するのですか」
かすかに息を吐くミカの声に、いつものような強さはない。寄る辺のない不安定さだけが伝わってきて、律子は少し慌ててしまう。
あれからずっと何も言わないから、もう終わったことだと思っていたのに。
というか、拒否?
拒否なんて、した覚えがない。
やっぱり律子には訳がわからない。
「ミカちゃん、拒否ってなんのこと? こっちのほうがわけわかんないよ。なんでそんなこと考えるの」
「私は、律子さんにとって無価値なのでしょう?」
「ちょ、ちょっと待ってよミカちゃん。ほんとにどうしたの?」
ミカが無価値?
いったい何のことなのかと、律子は本格的に慌て出す。自分はミカの何の地雷を踏んでしまったのか、と。
僅かに顔を上げて自分を見つめるミカの視線に、どことない危うさを感じて、律子はごくりと喉を鳴らした。
「何と引き換えなら、律子さんは私のものになるのですか」
「何と引き換えって……」
はっと、律子は先日の、盟約がどうのこうのというやり取りをようやく思い出した。もしかして、あれはミカなりの譲歩的な何かだったのか。
……あれが?
「ちょっと待って、ミカちゃん」
身体を捻り、律子はしっかりとミカに向き合った。伏せたままのミカの顔を両手に挟み、ぐいと上向かせて覗き込む。
「どこからそんな発想がきたの? 私がミカちゃん拒否したって何のこと?」
「私自身では、律子さんには釣り合わないのでしょう?」
「は?」
ミカは何を言ってるのか。
ミカが律子に釣り合わないなんて、律子がミカに釣り合わないことはあっても、逆はありえないだろう。
何がどうしてそうなれば、そんな結論に至るのか。
「どういうこと?」
「私の提示できる最上の条件を差し出したのに、律子さんのお眼鏡に叶わないのです。つまり、私には価値がないということでしょう?」
「なんでそうなるの!」
最上の条件って、あれか。
あの、ミカちゃんを支配できるってやつ。
そんなものいらないがミカちゃんには価値がないになるって、どうしてそう極端に解釈するの!
律子の内心はパニックで、叫び出したくなってくる。
支配権不要イコール価値がないって、吸血鬼の価値基準が理解し難い。
「あのね、あのねミカちゃん」
律子は必死にミカを揺さぶった。
ガクガク揺らして、どうにかミカの視線を得る。
「“盟約”がどうのこうのって、私、別にミカちゃんのことを支配したいとか思ってないんだよ。だからいらないって言ったの」
「普通なら、どんな種族のものであっても欲しがる条件ですのに」
「でも、私にはそういうの、いらないの」
「それは、私が律子さんにとって有用でないからで……」
「そうじゃなくって!」
どう説明すれば理解してくれるのだろう。
もしかして、ミカはそういう、代償をよこすから心を寄越せみたいな、ギブアンドテイクもどきしか知らないとでも言うのか。
「ミカちゃんは、ここに居たいだけ居ていいんだからね。それに、あのね、価値とか言うなら、私こそなんだよ。
今はまだ若いから、ミカちゃんに喜んでご飯をあげられるけど、そうじゃなくなったら? 私のほうこそ、ミカちゃんにとっていらないものになるでしょ?
そうなった時に、急に明日からさようならって言い出したりしたら、たぶんお互いが困るんじゃないかと思ったの。
だから、あの時、期限を決めようって言ったんだよ」
じっと顔を見ながら、律子は必死にそう述べた。
けれど、ミカはついと視線を外す。言外に、律子はミカの餌なのだから、律子の言葉こそが当然なんだと言われている気がして。
「それにさ……そうなったときに、無理やり命令されて側にいなきゃいけないとかになったら、お互い辛いよ?」
「――私が律子さんの血を飲むから、律子さんは自分を家畜だと考えるのですよね。それなら、今後、律子さんから血をいただくことは、やめます」
「えっ?」
律子はまたぽかんと口を開く。
「ミカちゃん? あの、じゃ、ミカちゃんのご飯は」
「どうとでもします」
「どうとでもって、また、夜な夜な出歩いて知らない人の血を貰うの? また天使が来ちゃうよ?」
「私があんな小僧に遅れを取ると思っているのですか?」
「そういう問題じゃなくって!」
がっちりとミカの腕を掴む。
「というか、かっ、家畜は、まあ、言葉のあやかもしれないけど……でも、血を採らないなら、それこそここにいる意味がなくなっちゃうよ?
ミカちゃんは、私におさんどんに使われるだけになっちゃうよ?」
「構いません」
ミカはまた目を伏せる。
「それとも、律子さんは私がいては迷惑だと仰いますか」
「そんなことないってば!」
では、とミカが小さく呟いて、目をあげる。
「どうしたら、律子さんを得られますか」
「……え?」
えられる? と、律子はまたぽかんと口を開けた。しばし唖然として、つまり、“得たい”と言われているのかとようやく思い至る。
「既成事実が必要ですか。それとも、正式な求婚をすればよろしいですか」
「き、既成事実?! 正式な求婚って、何のこと?」
「律子さんのお父様にお会いし、まずは求婚の許可をいただき……」
「ちょ、それいつの時代の話?! 今の時代は成人した両性の合意があれば結婚していいって法律で決まってるよ!」
「では、律子さんは合意をくださるのですか」
「いや、そういうんじゃなくってさ!」
ミカがおかしい。
ひょっとしてキレちゃったというやつだろうか。
そう考えて律子は焦る。これまでにないくらい焦る。
彼氏ポジションがどうとかと言っていたのは、まさかのまさか、そういう意味で本気だったということか?
「みっ、ミカちゃん、どうどう」
まるで動物でもなだめるように、律子はミカの両肩をポンポンと叩く。
「ちょっと、落ち着こうか」
「私は落ち着いています」
目を細めるミカに律子はぶんぶんと頭を振った。
ミカの言葉に自分こそが慌てているのは棚上げだ。
「いや、落ち着いてない。絶対落ち着いてない。ミカちゃん今正気じゃないから、落ち着こう、ね?」
「私は十分落ち着いていますし、正気です」
「いや、少し頭冷やそう。なんか、血が上ってるよ」
「だって、律子さんは、誰か他の人間を伴侶に迎えるつもりなのでしょう」
「ミカちゃん!」
どうしてこうなった。
ほんとにどうしてこうなった。
ミカはどうにも変なところで思考が固まったまま停止しているようだ。
「この前の言葉は具体的に考えてる訳じゃなくて、一般論だってば。それに、私が結婚したいなとか考え出すのなんてまだまだ先だよ? あと、二、三年はこのままお気楽に独身満喫したいし、だから今のとこ伴侶がどうとかはないから」
「……二、三年なんて、一瞬で過ぎます」
「え、結構長いよ?」
ミカの言葉に律子は驚く。
二年や三年は一瞬じゃない。
――けど、もしかしたらミカの感覚では一瞬なのだろうか。ナイアラが、“長命な種族の時間感覚はおかしい”と言ってたではないか。
律子は思い切り溜息を吐いて、よしよしとミカの頭を撫でた。何度も何度もなでながら、律子は幼い子に言い聞かせるように言う。
「今のミカちゃんは、やっぱり正気じゃないんだよ。
いくら私の血が気に入ってるからって、それで結婚とか考えるのはやり過ぎだよ。二、三年があっという間なら、それからでいいじゃない。
ミカちゃんだって私だって、その時は気が変わってるかもしれないよ?」
律子が、また肩に顔を埋めるミカの背をとんとんと叩き続ける。
駄々をこねる子供を落ち着かせてるみたいだと、律子は小さく笑う。
「ミカちゃんは、たぶん、私が“オカン”て言ったから意地になっちゃってるだけだよ。ごめんね、いろいろやってもらってるのに失礼だったね。
ミカちゃんにはいつもいろいろ気を配ってもらってて、すごく感謝してるんだよ。本当にありがとうね」
言い聞かせるように、律子はゆっくりと告げる。
「だから期限を決めたくないなら決めなくていいし、これまで通りちゃんとご飯も提供するし、落ち着いて、ゆっくり考えよう。
ミカちゃんも、好きなだけうちにいていいから、ね?」
小さくこくんと頷くミカに、律子はようやくほっと息を吐いたのだった。
律子は、自分がミカの家畜でただの食料なのだと頑なにこだわるし、ミカはどうせ数年で離れてしまうのだと考えている。
ミカが離れることが嫌なら、では絶対離れないようにすればいいのだと“血の盟約”を申し出たのに、それも嫌だと拒絶した。
自分の知る“人間”なら、この申し出に喜んで飛び付くはずだった。
いや、人間だけではない。
他の種族だって涎を垂らして食い付くだろう。何しろ、数百年生き続ける、吸血鬼の中でも古参であるミカを完全に支配できるのだから。
少しどころか相当な価値を持つ申し出のはずなのに、律子はそんなものはいらないと言うのだ。
それを拒否された今、いったい何を差し出せば良いのか。ただただ途方に暮れるばかりで、ミカには何も思いつかない。
挙げ句の果てには、ミカではない、誰か他の人間の伴侶となることまで匂わせて……心も含めて律子が欲しいのに、どうしても手に入らない。
いつものようにテレビを見る律子を背後から抱え込むように座り、そっと腕を回して抱き締めた。
いつかこの腕すら拒否されるのではないかと考えて、けれど今日は大丈夫だったと安心するのだ。
自分は、いったいいつまでここに居ることを許されるのだろうか、と。
ミカは溜息を吐く。
「――律子さんは」
「ふぇ?」
突然ミカに呼ばれて、律子は振り返る。
「律子さんは、私を滅したいのでしょうか」
「へ?」
律子は目をまん丸に見開いて、ぽかんと口を開ける。まじまじとミカを見つめるが、しかし、肩に顔を埋めたミカの表情は、律子にわからない。
「ミカちゃん、いきなり何を言い出すの? そんなわけないよ?」
「では、なぜ私を拒否するのですか」
かすかに息を吐くミカの声に、いつものような強さはない。寄る辺のない不安定さだけが伝わってきて、律子は少し慌ててしまう。
あれからずっと何も言わないから、もう終わったことだと思っていたのに。
というか、拒否?
拒否なんて、した覚えがない。
やっぱり律子には訳がわからない。
「ミカちゃん、拒否ってなんのこと? こっちのほうがわけわかんないよ。なんでそんなこと考えるの」
「私は、律子さんにとって無価値なのでしょう?」
「ちょ、ちょっと待ってよミカちゃん。ほんとにどうしたの?」
ミカが無価値?
いったい何のことなのかと、律子は本格的に慌て出す。自分はミカの何の地雷を踏んでしまったのか、と。
僅かに顔を上げて自分を見つめるミカの視線に、どことない危うさを感じて、律子はごくりと喉を鳴らした。
「何と引き換えなら、律子さんは私のものになるのですか」
「何と引き換えって……」
はっと、律子は先日の、盟約がどうのこうのというやり取りをようやく思い出した。もしかして、あれはミカなりの譲歩的な何かだったのか。
……あれが?
「ちょっと待って、ミカちゃん」
身体を捻り、律子はしっかりとミカに向き合った。伏せたままのミカの顔を両手に挟み、ぐいと上向かせて覗き込む。
「どこからそんな発想がきたの? 私がミカちゃん拒否したって何のこと?」
「私自身では、律子さんには釣り合わないのでしょう?」
「は?」
ミカは何を言ってるのか。
ミカが律子に釣り合わないなんて、律子がミカに釣り合わないことはあっても、逆はありえないだろう。
何がどうしてそうなれば、そんな結論に至るのか。
「どういうこと?」
「私の提示できる最上の条件を差し出したのに、律子さんのお眼鏡に叶わないのです。つまり、私には価値がないということでしょう?」
「なんでそうなるの!」
最上の条件って、あれか。
あの、ミカちゃんを支配できるってやつ。
そんなものいらないがミカちゃんには価値がないになるって、どうしてそう極端に解釈するの!
律子の内心はパニックで、叫び出したくなってくる。
支配権不要イコール価値がないって、吸血鬼の価値基準が理解し難い。
「あのね、あのねミカちゃん」
律子は必死にミカを揺さぶった。
ガクガク揺らして、どうにかミカの視線を得る。
「“盟約”がどうのこうのって、私、別にミカちゃんのことを支配したいとか思ってないんだよ。だからいらないって言ったの」
「普通なら、どんな種族のものであっても欲しがる条件ですのに」
「でも、私にはそういうの、いらないの」
「それは、私が律子さんにとって有用でないからで……」
「そうじゃなくって!」
どう説明すれば理解してくれるのだろう。
もしかして、ミカはそういう、代償をよこすから心を寄越せみたいな、ギブアンドテイクもどきしか知らないとでも言うのか。
「ミカちゃんは、ここに居たいだけ居ていいんだからね。それに、あのね、価値とか言うなら、私こそなんだよ。
今はまだ若いから、ミカちゃんに喜んでご飯をあげられるけど、そうじゃなくなったら? 私のほうこそ、ミカちゃんにとっていらないものになるでしょ?
そうなった時に、急に明日からさようならって言い出したりしたら、たぶんお互いが困るんじゃないかと思ったの。
だから、あの時、期限を決めようって言ったんだよ」
じっと顔を見ながら、律子は必死にそう述べた。
けれど、ミカはついと視線を外す。言外に、律子はミカの餌なのだから、律子の言葉こそが当然なんだと言われている気がして。
「それにさ……そうなったときに、無理やり命令されて側にいなきゃいけないとかになったら、お互い辛いよ?」
「――私が律子さんの血を飲むから、律子さんは自分を家畜だと考えるのですよね。それなら、今後、律子さんから血をいただくことは、やめます」
「えっ?」
律子はまたぽかんと口を開く。
「ミカちゃん? あの、じゃ、ミカちゃんのご飯は」
「どうとでもします」
「どうとでもって、また、夜な夜な出歩いて知らない人の血を貰うの? また天使が来ちゃうよ?」
「私があんな小僧に遅れを取ると思っているのですか?」
「そういう問題じゃなくって!」
がっちりとミカの腕を掴む。
「というか、かっ、家畜は、まあ、言葉のあやかもしれないけど……でも、血を採らないなら、それこそここにいる意味がなくなっちゃうよ?
ミカちゃんは、私におさんどんに使われるだけになっちゃうよ?」
「構いません」
ミカはまた目を伏せる。
「それとも、律子さんは私がいては迷惑だと仰いますか」
「そんなことないってば!」
では、とミカが小さく呟いて、目をあげる。
「どうしたら、律子さんを得られますか」
「……え?」
えられる? と、律子はまたぽかんと口を開けた。しばし唖然として、つまり、“得たい”と言われているのかとようやく思い至る。
「既成事実が必要ですか。それとも、正式な求婚をすればよろしいですか」
「き、既成事実?! 正式な求婚って、何のこと?」
「律子さんのお父様にお会いし、まずは求婚の許可をいただき……」
「ちょ、それいつの時代の話?! 今の時代は成人した両性の合意があれば結婚していいって法律で決まってるよ!」
「では、律子さんは合意をくださるのですか」
「いや、そういうんじゃなくってさ!」
ミカがおかしい。
ひょっとしてキレちゃったというやつだろうか。
そう考えて律子は焦る。これまでにないくらい焦る。
彼氏ポジションがどうとかと言っていたのは、まさかのまさか、そういう意味で本気だったということか?
「みっ、ミカちゃん、どうどう」
まるで動物でもなだめるように、律子はミカの両肩をポンポンと叩く。
「ちょっと、落ち着こうか」
「私は落ち着いています」
目を細めるミカに律子はぶんぶんと頭を振った。
ミカの言葉に自分こそが慌てているのは棚上げだ。
「いや、落ち着いてない。絶対落ち着いてない。ミカちゃん今正気じゃないから、落ち着こう、ね?」
「私は十分落ち着いていますし、正気です」
「いや、少し頭冷やそう。なんか、血が上ってるよ」
「だって、律子さんは、誰か他の人間を伴侶に迎えるつもりなのでしょう」
「ミカちゃん!」
どうしてこうなった。
ほんとにどうしてこうなった。
ミカはどうにも変なところで思考が固まったまま停止しているようだ。
「この前の言葉は具体的に考えてる訳じゃなくて、一般論だってば。それに、私が結婚したいなとか考え出すのなんてまだまだ先だよ? あと、二、三年はこのままお気楽に独身満喫したいし、だから今のとこ伴侶がどうとかはないから」
「……二、三年なんて、一瞬で過ぎます」
「え、結構長いよ?」
ミカの言葉に律子は驚く。
二年や三年は一瞬じゃない。
――けど、もしかしたらミカの感覚では一瞬なのだろうか。ナイアラが、“長命な種族の時間感覚はおかしい”と言ってたではないか。
律子は思い切り溜息を吐いて、よしよしとミカの頭を撫でた。何度も何度もなでながら、律子は幼い子に言い聞かせるように言う。
「今のミカちゃんは、やっぱり正気じゃないんだよ。
いくら私の血が気に入ってるからって、それで結婚とか考えるのはやり過ぎだよ。二、三年があっという間なら、それからでいいじゃない。
ミカちゃんだって私だって、その時は気が変わってるかもしれないよ?」
律子が、また肩に顔を埋めるミカの背をとんとんと叩き続ける。
駄々をこねる子供を落ち着かせてるみたいだと、律子は小さく笑う。
「ミカちゃんは、たぶん、私が“オカン”て言ったから意地になっちゃってるだけだよ。ごめんね、いろいろやってもらってるのに失礼だったね。
ミカちゃんにはいつもいろいろ気を配ってもらってて、すごく感謝してるんだよ。本当にありがとうね」
言い聞かせるように、律子はゆっくりと告げる。
「だから期限を決めたくないなら決めなくていいし、これまで通りちゃんとご飯も提供するし、落ち着いて、ゆっくり考えよう。
ミカちゃんも、好きなだけうちにいていいから、ね?」
小さくこくんと頷くミカに、律子はようやくほっと息を吐いたのだった。
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