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1.おいしい餌とオカン吸血鬼
6.ブルジョワジー・ミカちゃん
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「夏季休暇きたわー!」
今年は順調に休めた。
去年は結局取り損なって気づいたら消えていた夏季休暇が、今年はちゃんと取れたのだ。嬉しさのあまりひたすら部屋でごろごろと転がっていたら、ミカちゃんがちょっと呆れた顔で私を覗き込んだ。
「どこかへ出かけたりとかしなくていいんですか?」
「出掛けたいけど、外は暑すぎるんだよねえ」
日本の夏はとにかく暑い。三十度どころか、連日の三十五度越えとか、頭がおかしくなりそうだ。こんなんじゃ外に出る気がしない。出たらたぶん死ぬ。
「たしかに、日差しも暑さも相当きついですね」
真昼の日差しがギラギラ照りつける外をちょっと嫌そうに眺めてから、ミカちゃんも苦笑混じりに呟いた。
「そういえば、ミカちゃんてずっと日本にいたわけじゃないんだよね。前にも来たことあるの?」
「ええ、それほど昔ではありませんが」
「へえ」
その割に、日本語上手だなと思う。
つまり頭の出来も違うというやつか。
「そうですね、初めて来たのは第二次大戦後です。それより前は、こちらへの渡航は色々と面倒でしたので」
「そうなんだ。もっと前に来たんだと思ってた」
意外に最近だったので、つい驚いてしまう。
ミカちゃんなら、もっと前に来ていてもおかしくないと思っていたのだ。
ミカちゃんがくすりと笑った。
「昔は船で何日もかけて海を渡らないといけなかったものですから、少々リスクが高かったのですよ」
「リスク?」
「万一バレた時に、逃げ場がありませんし」
「あ、そっか」
狭いとこにずっと一緒にいると、どうしても吸血鬼バレする危険は高くなるんだろう。何日も顔を合わせてれば、そりゃ違和感だって仕事をする。
その点、飛行機なら長くても十二時間くらいだし、その間寝てればうるさいこと言われないし、それほど他人を気にすることもない。
うんうんと頷く私に、ミカちゃんは、そういえばと思い出したように続けた。
「同族の中には、新天地を目指し、自分で船を仕立てて渡るものもおりました。ですが、私は面倒だったもので、ずっと大陸のほうに留まっていたんです」
苦笑するミカちゃんに、私はぽかんと口を開ける。
「船を仕立ててって、船って、大きいよね」
「はい。三本マストの帆船だったと記憶しておりますよ」
「てことは船員さんもたくさんいるんだよね、たぶん」
「そうですね……大洋を渡るような船でしたら、一隻あたり、少なくとも数十人は必要なのではないでしょうか。それに、一隻だけではありませんでしたしね」
あまり詳しくはありませんがと言いつつも、ことも無げに頷いてみせるミカちゃんにも呆然とする。
「それ全部雇って、お給料払わなきゃいけないんだよね。あと、海で寄り道とかもできないから食糧積んで……あ、水もか」
「ええ。ですから、かなり面倒なことになりますよ」
「いや……面倒以前に専用船とかどんだけブルジョワなの……」
「そういう者は、交易品もずいぶん積んでいたようですし、そこで何か利益を出していたのでしょう」
吸血鬼でも貿易するんだ、と妙なことに感心してしまう。ミカちゃんは、というより、吸血鬼でも意外に現実的なんだなと。
おまけに、首を傾げて費用よりも面倒くささのほうが問題であるかのように言うミカちゃんに、ひょっとして金銭感覚が違うんじゃないかと考える。
そういえば、映画だの何だのにでてくる吸血鬼って、大抵、貴族とか大金持ちとかじゃなかったっけ?
「ミカちゃんてもしかして貴族なの?」
「昔はそうでしたね」
「えっ」
「けれど、身分制度は無くなりましたし、今はただの平民ですよ」
「領地とか持ってたりするの? ミカちゃんて地主さん?」
もしかして私、世が世なら殿様でもあるやんごとない身分のお方にオカン業などさせていたのか――
不敬罪!
不敬すぎる私!
水戸の副将軍におさんどんさせちゃったとかそういうこと?!
二百年前なら切り捨て御免?!
いきなり頭を抱えて悶えだす私に、ミカちゃんはくすくすと笑っている。
「いえ、領地などあっても先すぼまりかと思いましたので、一世紀ほど前にすべて金銭に変えてしまいましたよ」
「えっ」
「今はその金銭を信用できる者に預けて、信託や有価証券の形で運用を任せております」
「夢の、不就労収入……ミカちゃんて本気でブルジョワなんだ……」
財テクする吸血鬼とは。
やはり人外でも時代に乗らなきゃ生き残れないのか。
「バブルのころはよかったんですが、最近は不景気ですし、そうでもありませんよ」
「はあ」
ミカちゃん半端ない。
「そこから毎月一定額を、ゆうちょ銀行に日本円で給金の形で入金していただいておりますから、私自身に必要なものはそこから出しております」
「――給金」
「はい、一応こちらへは就労ビザで来日しておりますし、収入がなければ不審となりますからね」
痛くもない腹を探られても困りますと笑うミカちゃんに、最近の吸血鬼ってすごいんだなあと思った。
私なんかよりもずっといろいろ考えてるし、日本の制度やらなんやらにも詳しいんじゃないだろうか。
「っていうか、そんな会社があるの? ミカちゃんて会社員?」
「こういうことのために、有志で会社を興しております。税金対策も兼ねてですが」
「税金対策なんだ」
人外であっても税金対策とか、世の中って本気で世知辛いんだな。まあ、たしかに税務署は呆れるくらいがっつり持って行くからなあ。
「世の中、とても便利になりましたからね。なかなか曖昧なところにふんわり潜むというのが、昔に比べて難しくなってしまいました。先進国住まいでいるなら、同族同士助け合わないと難しいのですよ」
「互助組合の会社なんだ」
「そのようなものです。有志の中には経営などが趣味のものもおりますし、そういったものが会社を維持しているようです。私は出資のみの参加ですね」
「はあ」
人外社会も世の中に適応していってるのか。いろいろ頑張っているんだな。
年をとればとるほど新しいことに馴染むの大変だって婆ちゃんも言ってたし、たぶん婆ちゃんよりずっと長生きしてるようなミカちゃんなんて、すごく大変だったんじゃないだろうか。
特に、産業革命の後って、世の中の仕組みとかもわけがわからないくらい変わってるはずだし。
「ですからね、律子さん」
「へぁ?」
つらつらと取り留めなく考えているところをミカちゃんに呼ばれて、私は変な返事をしてしまう。
ミカちゃんがぷっと吹き出した。
「な、何、ミカちゃん」
「こちらの家賃ですとか光熱費ですとか、私も楽に負担できますよ?」
「いや、それはミカちゃんが労働で払ってくれてるから問題ないよ。それに、ミカちゃんが来てからもさほど増えてるわけじゃないし」
「そうなんですか?」
首を傾げるミカちゃんに、私は力いっぱい頷き返す。
「そ。むしろ私のほうが助かってるくらいだもん。お弁当のおかげでエンゲル係数も下がったし、体重も減ったし、やっぱ健康的な食生活って大事だなあって思った!」
ぱん、とお腹を叩いてから、ふと私は「あ」と気になったことを尋ねる。
「もしかして、ミカちゃんはこのアパートだと住みづらい? 私はほとんど帰って寝るだけだし、私が借りられる家賃で駅から一番近くて部屋が広いところを選んだから、築年数もかなりのものだし……」
とはいえ、同等の広さで築年数浅めで探すと家賃が跳ね上がってしまう。
どうしたものかと腕を組み、うんうん唸りつつ考え出す私に、またミカちゃんはくすっと笑った。
「大丈夫ですよ。それとも、律子さんはお引越しなさりたいんですか?」
「え? 私はここで十分かなあ。家賃もちょうどいいし広いし、それにこういうとこのほうがペトラちゃんも暮らしやすいでしょ?」
「律子さんは欲がありませんね」
笑いながら言われて、そうかなと思う。
けど、私だってもうちょっとお給料あがったら、もう少し壁の厚いとこに移りたくはあるんだけど。
そう言うと、ミカちゃんには「そういうところが欲がないと言うんですよ」と返された。
「私が半分家賃を持てば、もっと良いところに住めますよ? なんなら、私が家賃を負担しても構いませんしね」
「いやいや、それはなんか違うし。今だって、ミカちゃんにはいろいろやってもらって分不相応だなって思うのに、これ以上はただのたかりになっちゃうよ」
私が至極当然と思うことを述べると、ミカちゃんはまた首を傾げた。そんなに変なことを言ってるんだろうか。
「あの駄犬に聞かせてやりたいですね。
律子さんのそういう謙虚で慎み深いところは美点かと思いますが、あなたの提供してくれる“栄養”にはそれだけの価値があるのですよ。ですから、あまり変に遠慮はなさらないでくださいね」
「いや、謙虚でも慎み深くもないよ全然。
ミカちゃんこそ、昼間なのに私がいろいろこき使って悪いなーって思ってるんだ。ほんとなら寝てる時間だよね。暗いとこで」
なんとなく申し訳ない気持ちになって上目遣いで見上げると、ミカちゃんはにっこりと微笑んだ。
「そんなことを気になさってたのですか。問題はありませんよ。昼寝をする時間も十分ありますし」
「昼寝できてるの?」
「はい。畳にゴロ寝というのは、なかなか乙なものですね」
「え」
畳にゴロ寝。吸血鬼が畳にゴロ寝。
いいのか、そんなんで。
「それで寝たことになるの?」
「はい」
そういうものなんだ。元やんごとなき貴族なのに。
「ところで、夕飯ですが、何か食べたいものはありますか?」
せっかくの休暇だから、希望のものを作りましょうとミカちゃんが言う。
「何がいいかなあ。暑いからさっぱりしたものがいいなあ……あ、冷麺とかどうだろう。こないだ買ってあったよね」
「ありますよ。それでは冷麺にしましょうね」
「今日はミカちゃんも一緒に食べよう」
「はい、ではご相伴に預からせていただきますね」
夕食まで、私は存分にごろごろだらだらを楽しんだ。
ミカちゃん様様である。
今年は順調に休めた。
去年は結局取り損なって気づいたら消えていた夏季休暇が、今年はちゃんと取れたのだ。嬉しさのあまりひたすら部屋でごろごろと転がっていたら、ミカちゃんがちょっと呆れた顔で私を覗き込んだ。
「どこかへ出かけたりとかしなくていいんですか?」
「出掛けたいけど、外は暑すぎるんだよねえ」
日本の夏はとにかく暑い。三十度どころか、連日の三十五度越えとか、頭がおかしくなりそうだ。こんなんじゃ外に出る気がしない。出たらたぶん死ぬ。
「たしかに、日差しも暑さも相当きついですね」
真昼の日差しがギラギラ照りつける外をちょっと嫌そうに眺めてから、ミカちゃんも苦笑混じりに呟いた。
「そういえば、ミカちゃんてずっと日本にいたわけじゃないんだよね。前にも来たことあるの?」
「ええ、それほど昔ではありませんが」
「へえ」
その割に、日本語上手だなと思う。
つまり頭の出来も違うというやつか。
「そうですね、初めて来たのは第二次大戦後です。それより前は、こちらへの渡航は色々と面倒でしたので」
「そうなんだ。もっと前に来たんだと思ってた」
意外に最近だったので、つい驚いてしまう。
ミカちゃんなら、もっと前に来ていてもおかしくないと思っていたのだ。
ミカちゃんがくすりと笑った。
「昔は船で何日もかけて海を渡らないといけなかったものですから、少々リスクが高かったのですよ」
「リスク?」
「万一バレた時に、逃げ場がありませんし」
「あ、そっか」
狭いとこにずっと一緒にいると、どうしても吸血鬼バレする危険は高くなるんだろう。何日も顔を合わせてれば、そりゃ違和感だって仕事をする。
その点、飛行機なら長くても十二時間くらいだし、その間寝てればうるさいこと言われないし、それほど他人を気にすることもない。
うんうんと頷く私に、ミカちゃんは、そういえばと思い出したように続けた。
「同族の中には、新天地を目指し、自分で船を仕立てて渡るものもおりました。ですが、私は面倒だったもので、ずっと大陸のほうに留まっていたんです」
苦笑するミカちゃんに、私はぽかんと口を開ける。
「船を仕立ててって、船って、大きいよね」
「はい。三本マストの帆船だったと記憶しておりますよ」
「てことは船員さんもたくさんいるんだよね、たぶん」
「そうですね……大洋を渡るような船でしたら、一隻あたり、少なくとも数十人は必要なのではないでしょうか。それに、一隻だけではありませんでしたしね」
あまり詳しくはありませんがと言いつつも、ことも無げに頷いてみせるミカちゃんにも呆然とする。
「それ全部雇って、お給料払わなきゃいけないんだよね。あと、海で寄り道とかもできないから食糧積んで……あ、水もか」
「ええ。ですから、かなり面倒なことになりますよ」
「いや……面倒以前に専用船とかどんだけブルジョワなの……」
「そういう者は、交易品もずいぶん積んでいたようですし、そこで何か利益を出していたのでしょう」
吸血鬼でも貿易するんだ、と妙なことに感心してしまう。ミカちゃんは、というより、吸血鬼でも意外に現実的なんだなと。
おまけに、首を傾げて費用よりも面倒くささのほうが問題であるかのように言うミカちゃんに、ひょっとして金銭感覚が違うんじゃないかと考える。
そういえば、映画だの何だのにでてくる吸血鬼って、大抵、貴族とか大金持ちとかじゃなかったっけ?
「ミカちゃんてもしかして貴族なの?」
「昔はそうでしたね」
「えっ」
「けれど、身分制度は無くなりましたし、今はただの平民ですよ」
「領地とか持ってたりするの? ミカちゃんて地主さん?」
もしかして私、世が世なら殿様でもあるやんごとない身分のお方にオカン業などさせていたのか――
不敬罪!
不敬すぎる私!
水戸の副将軍におさんどんさせちゃったとかそういうこと?!
二百年前なら切り捨て御免?!
いきなり頭を抱えて悶えだす私に、ミカちゃんはくすくすと笑っている。
「いえ、領地などあっても先すぼまりかと思いましたので、一世紀ほど前にすべて金銭に変えてしまいましたよ」
「えっ」
「今はその金銭を信用できる者に預けて、信託や有価証券の形で運用を任せております」
「夢の、不就労収入……ミカちゃんて本気でブルジョワなんだ……」
財テクする吸血鬼とは。
やはり人外でも時代に乗らなきゃ生き残れないのか。
「バブルのころはよかったんですが、最近は不景気ですし、そうでもありませんよ」
「はあ」
ミカちゃん半端ない。
「そこから毎月一定額を、ゆうちょ銀行に日本円で給金の形で入金していただいておりますから、私自身に必要なものはそこから出しております」
「――給金」
「はい、一応こちらへは就労ビザで来日しておりますし、収入がなければ不審となりますからね」
痛くもない腹を探られても困りますと笑うミカちゃんに、最近の吸血鬼ってすごいんだなあと思った。
私なんかよりもずっといろいろ考えてるし、日本の制度やらなんやらにも詳しいんじゃないだろうか。
「っていうか、そんな会社があるの? ミカちゃんて会社員?」
「こういうことのために、有志で会社を興しております。税金対策も兼ねてですが」
「税金対策なんだ」
人外であっても税金対策とか、世の中って本気で世知辛いんだな。まあ、たしかに税務署は呆れるくらいがっつり持って行くからなあ。
「世の中、とても便利になりましたからね。なかなか曖昧なところにふんわり潜むというのが、昔に比べて難しくなってしまいました。先進国住まいでいるなら、同族同士助け合わないと難しいのですよ」
「互助組合の会社なんだ」
「そのようなものです。有志の中には経営などが趣味のものもおりますし、そういったものが会社を維持しているようです。私は出資のみの参加ですね」
「はあ」
人外社会も世の中に適応していってるのか。いろいろ頑張っているんだな。
年をとればとるほど新しいことに馴染むの大変だって婆ちゃんも言ってたし、たぶん婆ちゃんよりずっと長生きしてるようなミカちゃんなんて、すごく大変だったんじゃないだろうか。
特に、産業革命の後って、世の中の仕組みとかもわけがわからないくらい変わってるはずだし。
「ですからね、律子さん」
「へぁ?」
つらつらと取り留めなく考えているところをミカちゃんに呼ばれて、私は変な返事をしてしまう。
ミカちゃんがぷっと吹き出した。
「な、何、ミカちゃん」
「こちらの家賃ですとか光熱費ですとか、私も楽に負担できますよ?」
「いや、それはミカちゃんが労働で払ってくれてるから問題ないよ。それに、ミカちゃんが来てからもさほど増えてるわけじゃないし」
「そうなんですか?」
首を傾げるミカちゃんに、私は力いっぱい頷き返す。
「そ。むしろ私のほうが助かってるくらいだもん。お弁当のおかげでエンゲル係数も下がったし、体重も減ったし、やっぱ健康的な食生活って大事だなあって思った!」
ぱん、とお腹を叩いてから、ふと私は「あ」と気になったことを尋ねる。
「もしかして、ミカちゃんはこのアパートだと住みづらい? 私はほとんど帰って寝るだけだし、私が借りられる家賃で駅から一番近くて部屋が広いところを選んだから、築年数もかなりのものだし……」
とはいえ、同等の広さで築年数浅めで探すと家賃が跳ね上がってしまう。
どうしたものかと腕を組み、うんうん唸りつつ考え出す私に、またミカちゃんはくすっと笑った。
「大丈夫ですよ。それとも、律子さんはお引越しなさりたいんですか?」
「え? 私はここで十分かなあ。家賃もちょうどいいし広いし、それにこういうとこのほうがペトラちゃんも暮らしやすいでしょ?」
「律子さんは欲がありませんね」
笑いながら言われて、そうかなと思う。
けど、私だってもうちょっとお給料あがったら、もう少し壁の厚いとこに移りたくはあるんだけど。
そう言うと、ミカちゃんには「そういうところが欲がないと言うんですよ」と返された。
「私が半分家賃を持てば、もっと良いところに住めますよ? なんなら、私が家賃を負担しても構いませんしね」
「いやいや、それはなんか違うし。今だって、ミカちゃんにはいろいろやってもらって分不相応だなって思うのに、これ以上はただのたかりになっちゃうよ」
私が至極当然と思うことを述べると、ミカちゃんはまた首を傾げた。そんなに変なことを言ってるんだろうか。
「あの駄犬に聞かせてやりたいですね。
律子さんのそういう謙虚で慎み深いところは美点かと思いますが、あなたの提供してくれる“栄養”にはそれだけの価値があるのですよ。ですから、あまり変に遠慮はなさらないでくださいね」
「いや、謙虚でも慎み深くもないよ全然。
ミカちゃんこそ、昼間なのに私がいろいろこき使って悪いなーって思ってるんだ。ほんとなら寝てる時間だよね。暗いとこで」
なんとなく申し訳ない気持ちになって上目遣いで見上げると、ミカちゃんはにっこりと微笑んだ。
「そんなことを気になさってたのですか。問題はありませんよ。昼寝をする時間も十分ありますし」
「昼寝できてるの?」
「はい。畳にゴロ寝というのは、なかなか乙なものですね」
「え」
畳にゴロ寝。吸血鬼が畳にゴロ寝。
いいのか、そんなんで。
「それで寝たことになるの?」
「はい」
そういうものなんだ。元やんごとなき貴族なのに。
「ところで、夕飯ですが、何か食べたいものはありますか?」
せっかくの休暇だから、希望のものを作りましょうとミカちゃんが言う。
「何がいいかなあ。暑いからさっぱりしたものがいいなあ……あ、冷麺とかどうだろう。こないだ買ってあったよね」
「ありますよ。それでは冷麺にしましょうね」
「今日はミカちゃんも一緒に食べよう」
「はい、ではご相伴に預からせていただきますね」
夕食まで、私は存分にごろごろだらだらを楽しんだ。
ミカちゃん様様である。
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