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第一章 きらめきの日々
8.
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いつもの講義が終わった後、穏やかな口調を心がけながらできるだけ明るく言ってみる。
椅子に腰かけ、横の友達と楽しげに会話をしていた彼女は、雅文を見上げて目を丸くした。
「はい。……私達も入ったばっかりですけど」
「今日、五〇一号室で集まりますよね。ちょっと興味があるんですけど、顔を出してもいいのかな」
脇の友達と顔を見合わせ、彼女は小首をかしげて言った。
「特に問題はないと思います。きっと先輩も喜びます」
「先輩」という親しげな呼び方から、彼女が消極的な自分とは違って、すでにキャンパス内でそれなりの交友関係があることを知る。何だか置いて行かれた気がしてあせりの気持ちがわいて来た。
──もしかすると、彼女はもう誰かとつきあっているのかもしれない。
そんな予感まで込み上げて勝手に気分が暗くなった。もし文研に相手がいたら、自分は本当に馬鹿みたいだ。
内心の思いを押し隠し、雅文は丁寧に礼を言うと彼女の元を立ち去った。
放課後、雅文は期待と不安を交互に抱きながら教室に向かった。とりあえず顔を出しさえすれば彼女にまた会うことが出来る。だが、教室に集まっていた学生達の輪の中に、彼女の姿は見当たらなかった。
ぺちゃんこになった淡い期待を胸の奥へと押し込んで、雅文が気さくな上級生の声かけにただうなずいていると、ベリーショートの女の子がこちらを眺めているのが見えた。
どこかで見たことがある、と思って頭の中でぽんと手を打つ。見覚えのあるその顔は彼女の横にいた友人だった。
半分うわの空の状態で会の説明を聞き終わった後、議題の小説の話に移る。有名な書簡小説について担当の学生が説明し、軽いディスカッションがてら、実際にその書簡小説の形式で周囲の人間とやりとりした。最後に担当が議論をまとめ、今日の集まりは終了した。
面倒を見てくれた上級生とラインの交換を終えた後、おごってくれた飲み物を片手に雅文は小さくなっていた。会の雰囲気も悪くなく、名前通りのごく真面目な集まりのわりに、交わすやり取りが軽快だ。打ち解けやすい先輩の明るい雑談も楽しかった。
しかし本来の当てが外れた雅文はうつむきがちだった。次の集まりにも参加すべきか内心懊悩していると、隣に立った人物に軽い調子で声をかけられた。
「ねえ、来週も来るんでしょ?」
椅子に腰かけ、横の友達と楽しげに会話をしていた彼女は、雅文を見上げて目を丸くした。
「はい。……私達も入ったばっかりですけど」
「今日、五〇一号室で集まりますよね。ちょっと興味があるんですけど、顔を出してもいいのかな」
脇の友達と顔を見合わせ、彼女は小首をかしげて言った。
「特に問題はないと思います。きっと先輩も喜びます」
「先輩」という親しげな呼び方から、彼女が消極的な自分とは違って、すでにキャンパス内でそれなりの交友関係があることを知る。何だか置いて行かれた気がしてあせりの気持ちがわいて来た。
──もしかすると、彼女はもう誰かとつきあっているのかもしれない。
そんな予感まで込み上げて勝手に気分が暗くなった。もし文研に相手がいたら、自分は本当に馬鹿みたいだ。
内心の思いを押し隠し、雅文は丁寧に礼を言うと彼女の元を立ち去った。
放課後、雅文は期待と不安を交互に抱きながら教室に向かった。とりあえず顔を出しさえすれば彼女にまた会うことが出来る。だが、教室に集まっていた学生達の輪の中に、彼女の姿は見当たらなかった。
ぺちゃんこになった淡い期待を胸の奥へと押し込んで、雅文が気さくな上級生の声かけにただうなずいていると、ベリーショートの女の子がこちらを眺めているのが見えた。
どこかで見たことがある、と思って頭の中でぽんと手を打つ。見覚えのあるその顔は彼女の横にいた友人だった。
半分うわの空の状態で会の説明を聞き終わった後、議題の小説の話に移る。有名な書簡小説について担当の学生が説明し、軽いディスカッションがてら、実際にその書簡小説の形式で周囲の人間とやりとりした。最後に担当が議論をまとめ、今日の集まりは終了した。
面倒を見てくれた上級生とラインの交換を終えた後、おごってくれた飲み物を片手に雅文は小さくなっていた。会の雰囲気も悪くなく、名前通りのごく真面目な集まりのわりに、交わすやり取りが軽快だ。打ち解けやすい先輩の明るい雑談も楽しかった。
しかし本来の当てが外れた雅文はうつむきがちだった。次の集まりにも参加すべきか内心懊悩していると、隣に立った人物に軽い調子で声をかけられた。
「ねえ、来週も来るんでしょ?」
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