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第一章 バレる前

11.

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 あいまいすぎるみのりの答えに、音々は思いきり眉をひそめた。

「なんだそりゃ。学生っぽいとか仕事してそうとか、そんなこともわからないの? 顔は?」
「顔……」

 何とも言えない表情でみのりは音々を見返した。音々はいらいらと言葉を続けた。

「イケメンとかイケメンとか、それくらい答えられるでしょうが! それとも何? いつもサングラスとマスクとか? そんなのどう見ても不審者じゃん!」

──はい、実際その通りです。

「よくわかんないんだよね。真面目そう……だとは思う。優しい感じの……。多分、悪い人じゃない」

 深刻に悩むその雰囲気に、今度は音々がため息をついた。

「犯罪者にだまされた人間って、みんなそう言うんだよね。『そんな人だとは思わなかった』って。──何があったかわからないけど、うまく行かなくて良かったんじゃない? まあいい経験したと思って、きれいさっぱり忘れたら? とりあえず得したみたいだし」

 音々が最後に放った言葉に、みのりはぱちぱちとまばたきした。

「得? なにが」

 音々はくすっと笑って答えた。

「あんた可愛くなったわよ。前とくらべて格段に。やっぱそれなりに気を使えばさ、あんたも可愛くなるんだね」

 ずけずけ言われた言葉の内容に、みのりは首筋まで熱くなった。けなされているようにも聞こえるが、とりあえずなぐさめてくれているらしい。探偵ばりの観察眼もたまには有意義に使えるようだ。

「今日は部活もない日だから、放課後一緒にカラオケ行こうよ。失恋祝いってことで」

 みのりが笑って音々をさそうと、音々はにっこり微笑んだ。

「もちろん、あんたのおごりだよね。相談に乗ってやったんだから」

 あくまでも強気で押し通す友人に、みのりは苦笑しつつもうなずいた。

     *

 華道教室の日がやって来た。
 気まずい思いを抱えながらも雄基と二人のお稽古を終えると、いつものように教室で彼と二人きりになった。今回もあわてて出て行くだろうとみのりは考えていたのだが、手早く片づけを終えた雄基はみのりの作業を手伝ってくれた。

 ならんだ机を整えて、ハサミや剣山、花器などの必要な道具を運び込み、次の教室の準備をする。華道教室で使う道具は、その優雅な印象のわりに意外と重い物が多いし、水の入ったバケツもある。雄基のような男手があるのは本当にありがたかった。

「あ、ありがとう……」

 とまどいながらも伝えるといつも通りに首を振る。言葉はないが、以前のような彼の優しさを前にして、みのりの心はやわらいだ。

──やっぱり気にしすぎだったのかな。

 ただ、それにしてはニブいみのりでも丸わかりなほどおかしかったが、きっと真面目な彼のことだから深い事情があったのだろう。
 準備を終えて、とりあえず手があく。すると、雄基は待っていたように真剣な顔で聞いて来た。

「──一ノ瀬、ちょっと時間あるか」
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