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第四章 文化祭
24.
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「お前に言われるまでもなく、前から写真のプロに頼んで技術を教えてもらおうって話はしてたんだ。タイミングよく面倒を見てくれる人が見つかって、とんとん拍子に話が進んだ。俺が部長を説得して、真下と並行して教えてもらうって話をその人だけにした。だから逆に考えるんだ。……俺が話を進めなかったら真下はどうなってたんだろう」
「それはもちろん、今まで通りさ。もしかして後悔してるのか?」
僕の言葉に首を横に振る。
「いや。盗撮されてた子達のことを考えたら、早く見つかってよかったと思うよ。もちろん広報部のためにもな。だけど、あの時の真下の顔を見たら、何だか……」
一旦口をつぐむ。
「あいつ一体、なんで今までこんなことをしてたのかと思ってさ」
「──僕の周りは、お人好しばっかりだな」
ため息まじりに僕がつぶやくと、肩を落としていた新保が顔を上げた。
僕は続けた。
「真下が対象にしてたのは、なぜか二年の女子だけだった。僕はその事を知ってたからあいつの犯罪を見逃してたんだ。もしも笑香が対象になってたら、真っ先に僕が暴露していた。別に誰のせいでもない。真下自身の問題だ」
新保は大きく眉尻を上げた。
「まさかお前になぐさめられる日が来るとはな」
「笑香のお人好しがうつったんだ」
僕が口元に笑みを乗せると新保は改めて僕を見た。細い両目を上に向け、ぼやくような口調でつぶやく。
「こんな所でのろけられるとはね」
僕は病室の入り口を見た。ちょうど看護師が通りかかったが、まだ同室の大学生はもどって来る気配がない。
僕は静かに両手を組んで、再びゆっくりと口を開いた。
「前に、僕に聞いただろ。『そこまでして、何がしたいんだ?』って。そんなに無理して何がしたいんだ? そこまでする必要はないだろう? ってね」
鋭い新保の視線を受けて、小さく微笑む。
「結城先生なら少しは知ってると思うけど。──僕の父親は、地元ではわりと名の知れた流通企業の社長でね。父の会社の相続争いで、僕と母にも色々あったんだ」
言葉を選び、整理しながら、僕は静かに話を続けた。
「僕はずっと不安だった。家庭でも、教室でもね。僕には僕の居場所がなかった。何をしていいかわからなかった。小さな頃から母や祖母から、僕は何をしたらいけないかをさんざん吹き込まれてきたからね。……今の僕を作り上げる時、僕は思った。人から理想だとされることを何でも率先してやろう、ってね。それが一番楽だった。何がしたいかを考えるんじゃなくて、何をすれば他人から──特に、大人の目から見て理想的かを考える方が楽だった。なりたい自分になるよりも、他人から見て理想的な人間を作り上げる方が楽だったんだ。それでやっと自分の居場所をそれなりに確保することができた。……だけど、僕にそれができたのが不幸の始まりだったのかもしれない」
「それはもちろん、今まで通りさ。もしかして後悔してるのか?」
僕の言葉に首を横に振る。
「いや。盗撮されてた子達のことを考えたら、早く見つかってよかったと思うよ。もちろん広報部のためにもな。だけど、あの時の真下の顔を見たら、何だか……」
一旦口をつぐむ。
「あいつ一体、なんで今までこんなことをしてたのかと思ってさ」
「──僕の周りは、お人好しばっかりだな」
ため息まじりに僕がつぶやくと、肩を落としていた新保が顔を上げた。
僕は続けた。
「真下が対象にしてたのは、なぜか二年の女子だけだった。僕はその事を知ってたからあいつの犯罪を見逃してたんだ。もしも笑香が対象になってたら、真っ先に僕が暴露していた。別に誰のせいでもない。真下自身の問題だ」
新保は大きく眉尻を上げた。
「まさかお前になぐさめられる日が来るとはな」
「笑香のお人好しがうつったんだ」
僕が口元に笑みを乗せると新保は改めて僕を見た。細い両目を上に向け、ぼやくような口調でつぶやく。
「こんな所でのろけられるとはね」
僕は病室の入り口を見た。ちょうど看護師が通りかかったが、まだ同室の大学生はもどって来る気配がない。
僕は静かに両手を組んで、再びゆっくりと口を開いた。
「前に、僕に聞いただろ。『そこまでして、何がしたいんだ?』って。そんなに無理して何がしたいんだ? そこまでする必要はないだろう? ってね」
鋭い新保の視線を受けて、小さく微笑む。
「結城先生なら少しは知ってると思うけど。──僕の父親は、地元ではわりと名の知れた流通企業の社長でね。父の会社の相続争いで、僕と母にも色々あったんだ」
言葉を選び、整理しながら、僕は静かに話を続けた。
「僕はずっと不安だった。家庭でも、教室でもね。僕には僕の居場所がなかった。何をしていいかわからなかった。小さな頃から母や祖母から、僕は何をしたらいけないかをさんざん吹き込まれてきたからね。……今の僕を作り上げる時、僕は思った。人から理想だとされることを何でも率先してやろう、ってね。それが一番楽だった。何がしたいかを考えるんじゃなくて、何をすれば他人から──特に、大人の目から見て理想的かを考える方が楽だった。なりたい自分になるよりも、他人から見て理想的な人間を作り上げる方が楽だったんだ。それでやっと自分の居場所をそれなりに確保することができた。……だけど、僕にそれができたのが不幸の始まりだったのかもしれない」
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