87 / 293
第四章 文化祭
2.
しおりを挟む
「あんたが言うこと聞かないからでしょ。今朝だって、早く洗濯物を出しとけって言ったのに出さないから……」
不毛な姉弟ゲンカをわって、僕はケーキの箱を差し出した。
「はいどうぞ」
その効果はてきめんで、争っていた二人の視線がケーキの箱に注がれる。
僕はにこやかに言葉を続けた。
「とりあえず今、これを食べよう。おばさん達の分は別に買って来たから」
二人を黙らせるにはこれに限る。
三人でケーキを食べた後、午後からサッカーの練習に出かける勇人の姿を見送って、僕達は部屋に引き上げたのだ。
「生徒会でも、もう文化祭の準備が始まってるんでしょ?」
笑いをふくんだ笑香の問いに、僕は思わず渋面を作った。
「書類作りに苦労してるよ。それぞれの場所の配置図と、イベントごとのタイムスケジュールを確認してるところなんだ。申請して来た団体を一つ一つふりわけないと……。例年通りの場所が多いから、そのへんは楽なんだけど」
「うちのクラスは、出店で焼きそばとフランクフルトを出すんだけど」
笑香が言った言葉の内容に、僕は部屋の天井を仰いだ。
「焼きそば、これで五軒目だぞ。違うものに変更できないか?」
「えっほんと? それなら先生に相談しなくちゃ」
あわてた笑香に僕は笑った。
「変更の締め切りは木曜日だから、それまでにクラスで考えて結論を出してくれ。……それより来週中間だろ? 試験の範囲は大丈夫なのか?」
底意地の悪い僕の質問に、笑香が胸を張って答えた。
「悪いけど、今回そんなに教えてもらう科目はないわよ。むしろリーダーと現文は史郎君にも勝てるかも」
「それは楽しみだな」
僕はにっこりと微笑んだ。
笑香がふっと眉をひそめた。
「史郎君、何か考えてるでしょう」
「何かって?」
「そういう顔をする時は、たいてい何か悪いことを思いついた時なのよ。前はわからなかったけど最近ちょっとわかって来た」
僕は口元に今までと違う笑みを浮かべた。
「賭けをしないか?」
笑香が黒い目を丸くする。
「賭け? 何の?」
「今言った、リーダーと現文のテストの点。もしどちらかでも君が勝ったら、何でも君の言うことを聞くよ。その代わり……」
「その代わり?」
僕はもう一度、にっこりと笑って見せた。
「両方負けたら、僕の部屋に来ないか」
笑香は両目をしばたたかせた。
「なんで? そんなこと。だって──」
そこまで言って、はっと僕の真意に気づく。みるみるうちに真っ赤になると上目遣いに僕を見た。
「……そういうのって、良くないと思う」
「そうか。じゃあこの件はなしだ」
あっさり僕は引き下がった。だが笑香はスカートをぎゅっとにぎりしめ、しばらくうつむくと口を開いた。
「何でもって、何でも私の言うことを聞いてくれるの?」
不毛な姉弟ゲンカをわって、僕はケーキの箱を差し出した。
「はいどうぞ」
その効果はてきめんで、争っていた二人の視線がケーキの箱に注がれる。
僕はにこやかに言葉を続けた。
「とりあえず今、これを食べよう。おばさん達の分は別に買って来たから」
二人を黙らせるにはこれに限る。
三人でケーキを食べた後、午後からサッカーの練習に出かける勇人の姿を見送って、僕達は部屋に引き上げたのだ。
「生徒会でも、もう文化祭の準備が始まってるんでしょ?」
笑いをふくんだ笑香の問いに、僕は思わず渋面を作った。
「書類作りに苦労してるよ。それぞれの場所の配置図と、イベントごとのタイムスケジュールを確認してるところなんだ。申請して来た団体を一つ一つふりわけないと……。例年通りの場所が多いから、そのへんは楽なんだけど」
「うちのクラスは、出店で焼きそばとフランクフルトを出すんだけど」
笑香が言った言葉の内容に、僕は部屋の天井を仰いだ。
「焼きそば、これで五軒目だぞ。違うものに変更できないか?」
「えっほんと? それなら先生に相談しなくちゃ」
あわてた笑香に僕は笑った。
「変更の締め切りは木曜日だから、それまでにクラスで考えて結論を出してくれ。……それより来週中間だろ? 試験の範囲は大丈夫なのか?」
底意地の悪い僕の質問に、笑香が胸を張って答えた。
「悪いけど、今回そんなに教えてもらう科目はないわよ。むしろリーダーと現文は史郎君にも勝てるかも」
「それは楽しみだな」
僕はにっこりと微笑んだ。
笑香がふっと眉をひそめた。
「史郎君、何か考えてるでしょう」
「何かって?」
「そういう顔をする時は、たいてい何か悪いことを思いついた時なのよ。前はわからなかったけど最近ちょっとわかって来た」
僕は口元に今までと違う笑みを浮かべた。
「賭けをしないか?」
笑香が黒い目を丸くする。
「賭け? 何の?」
「今言った、リーダーと現文のテストの点。もしどちらかでも君が勝ったら、何でも君の言うことを聞くよ。その代わり……」
「その代わり?」
僕はもう一度、にっこりと笑って見せた。
「両方負けたら、僕の部屋に来ないか」
笑香は両目をしばたたかせた。
「なんで? そんなこと。だって──」
そこまで言って、はっと僕の真意に気づく。みるみるうちに真っ赤になると上目遣いに僕を見た。
「……そういうのって、良くないと思う」
「そうか。じゃあこの件はなしだ」
あっさり僕は引き下がった。だが笑香はスカートをぎゅっとにぎりしめ、しばらくうつむくと口を開いた。
「何でもって、何でも私の言うことを聞いてくれるの?」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
Catch hold of your Love
天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。
決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。
当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。
なぜだ!?
あの美しいオジョーサマは、どーするの!?
※2016年01月08日 完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる