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第二章 おもちゃの密室

29.

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 頬をゆがめて僕をにらむ、新保の顔がふと気色ばんだ。

「お前、まさか……。まだ一年のお前があっさり役員になれたのは……」

 僕はおだやかに微笑んだ。

「役付きは色々と便利だからね」

 新保がこめかみに青筋を立てる。涼しい声で僕は続けた。

「あまり誤解しないで欲しいね。たしかに真下に口火は切らせたけど、僕が生徒会に入れたのは自分の実力だと思うよ? 自分から立候補するのは僕の性格に合わないからね。真下を使った理由はそれだけさ」

──真下先生。僕、実は見ちゃったんです。

 真下の驚愕に見開かれた瞳。その目の色が見る見るうちに絶望の奈落へと落ちる。
 僕は内心ほくそ笑み、すまなげな表情を作って見せた。

──もう二度とやらないと約束をしてくれるなら、このことは誰にも言いません。先生にも色んな事情があると思うから。それで、その、できたら……。

 恥ずかしそうに頭をかく。心底ほっとした顔の後、真下は気弱そうな笑みを浮かべた。
 僕を凝視する新保の視線に僕は腕組みをして言った。

「ただ、真下が少し勘違いしてるらしくてね。僕が真下のことを知ったのは、やつと同類だからだと勝手に思い込んだらしい。最近やたら押しつけがましく仕事を回してくることが多くて、いい加減うんざりしてたんだ。ちょうどいい機会だし、そろそろ真下に大人しくなってもらうのもいいかもな」
「お前の本当の姿をばらしてやる……!」

 手の中のカメラをにぎりしめ、歯ぎしりするように新保がつぶやく。僕は余裕の笑みを浮かべた。

「ああいいさ。でも、一体誰が信じると思う?」

 その時新保が僕の顔を、なぜか今までとは違うまなざしで見つめた。カメラを持つ手がだらりと下がる。

「お前はそこまでして何がしたいんだ?」

 どこか悲し気な問いかけに、僕は一瞬二の句につまった。

「俺は昔のお前を知ってる。その後、お前に何があったかも少しだけ話に聞いた。──そんなに無理して何がしたいんだ? 昔、自分につらく当たったやつらを見返したいだけだったら、そこまでする必要はないだろう?」
「お前に何がわかる」

 僕は冷たく吐きすてた。

「優しい母親がいたお前に、笑香以外に誰もいなかった僕の何がわかるっていうんだ」
「柿崎……そうだ、柿崎だ。どうしてお前はそこまで柿崎にだけ執着する? お前らの間に何があったんだ」

 食らいつくようにたたみかける新保に、僕はそっけなく返答した。

「何もないね」
「この……!」
「もう、何もない。笑香とはもう何の関係もない」

 吐き出すように言った僕を、無言になった新保が見下ろす。顔をそむけて僕は通告した。

「いいか。もし広報部に迷惑をかけたくなかったら、二度と僕に話しかけるな」

 有無を言わせず、新保を残して僕はそこから立ち去った。
 校庭を渡る一陣の秋風が僕の後ろを吹き抜けた。
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