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第二章 おもちゃの密室

28.

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 残暑の悪あがきを感じる中、やっと懸案の体育祭が終わった。
 役員の仕事の合間をぬってクラスの競技にも参加するため、僕は本部とクラスの間を何往復も走らされた。最後のリレーにまでかり出され、名実ともに雑用係の僕は心底うんざりした。

 そして今、僕は校庭の片すみにある倉庫の前で、競技に使われたライン引きの後片づけを行っていた。
 熱気の後の土ぼこりがねばつく汗にまといつく。最後のライン引きをしまった時、僕は背後の足音に気づいた。

「よう」

 無遠慮にかけられた太い声。いくつものカメラをぶら下げて、腕に広報の腕章をつけた新保がのそりと近づいて来る。

「アンカーでぶっちぎりの活躍を見せた、一組のヒーローの写真を撮らせてくれよ」

 ひょうひょうと言う広報部員に僕は無感情に答えた。

「写真ならほかにいくらでも撮るやつがいるだろ」
「部長直々にたのまれてね。どうしてもお前の写真が欲しいんだと。──元サッカー部のキャプテンで、ポジションはフォワードだったって? 須藤先輩が残念がってたぜ。やっぱり無理やりにでもサッカー部に入れときゃよかったって」

 僕は黙って作業にもどった。新保は写真を撮るわけでもなく、僕がすることを見守っていた。

「柿崎と別れたんだってな」

 いつも通りの口調で続ける。

「大西が言ってたぜ。北高の女子の告白が原因で、お前と柿崎がケンカしたって。もう別れてるらしいって話。本当か?」

 体育倉庫の扉を閉めて僕はゆっくりと振り向いた。クラスで話す時とは違う僕の冷ややかなまなざしに、新保が細いまなじりをさらに細めて笑いかける。

「やっと本当のお前の姿を見られたような気がするな。お前と駅で会ってから、雨の日のホームで電車を待つのが怖くて仕方ない。……あの時お前が後ろにいたのは、つまりそういうことなんだろ?」
「何の事だかさっぱりわからない」

 僕は抑揚のない声で言った。

「僕が笑香と別れたって、広報部に何の関係があるんだ?」

 新保はだまって僕を見下ろした。不意に、僕はにっこりと笑った。

「そういえば広報部の顧問って、うちの担任の真下だろ」

 まったく関係のない話題をふられ、新保が深く眉をよせる。

「真下、写真が趣味だって話だけど。──知ってたか? うちの学校の女子を盗撮して、陰で有名な盗撮サイトに投稿してるってこと。そうそう、十一月に高校生が対象の大きな写真コンクールがあるんだって? 君の部長、その真下に指導を受けてコンクールに応募するんだろ。もし今真下のことがバレたら、広報部はきっと大変だろうな」

 新保は細い目を見開いた。思った通りの反応に、僕はいつものさわやかな笑顔を見せた。

「大丈夫だよ。真下はけっこううまくやってるし、僕もまだしゃべるつもりはない。まだ、誰にもね」
「お前……!」
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