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第二章 おもちゃの密室
15.
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丸みをおびた顔立ちとまばたきをくり返す黒い瞳。ゆるく三つ編みにまとめた髪。そう言われればなんとなく覚えているような気がする。
「あの時、水嶋さんと少しお話しさせてもらって、学校を案内してもらって……すっごく楽しかったです。よければラインの連絡先を交換させていただけませんか?」
あの交流会の日か。
僕は思わず沈黙した。あの後、僕は笑香をレイプしたのだ。
「悪いけど」
僕は乾いた声で答えた。見る見るうちにその女子生徒がくしゃくしゃと顔をゆがませる。
「もう、彼女いるから」
それだけ言って門を出る。涙を含んだ嗚咽の声が僕の背中を追いかけて来た。
ウザい。
僕はそのまま歩をゆるめずに、自宅の道とは反対方向へ歩き出した。もし後をつけられたら困る。しばらくは速い足どりで町の繁華街に向かったが、人混みが増えてくるとともに目立たないよう流れに乗った。
交差点のはしで足を止め、僕はゆっくりとふり向いた。幸いあの女子生徒は妙な気を起こさなかったようで、特に気になる人影は僕の視界に入らなかった。
僕は安堵のため息をついた。と、その時。
「いいよな、彼女がいるやつは。あの子けっこうかわいかったぜ。他の女子に告白されてもぜんっぜん相手にしないなんて、ちょっとかっこよすぎだろ」
背後からそう声をかけられ、僕はぎょっとしてふり向いた。
そこにいたのは自転車に乗ってにやにや笑う新保だった。
「……今帰りか?」
僕は冷静をよそおい、言った。
「おう。部活が遅くなって。部長がやけにやる気でさ、二学期は毎月広報を出すとかで、めんどくせえったらねえの」
サドルに太い両腕をかけ、上目づかいに僕を見る。何なんだ今日は。次から次へと。
僕は内心うんざりしながら口を開いた。
「新保、広報部?」
「そう。でもうちゴシップ禁止だから安心しろよ。……って言っても、わざわざ俺が記事にしなくたって明日には学校中に広まってると思うぜ。『お前が校門のまん前で北高の女子に告白されてた』って。あの子、ずいぶん長い間学校の前にいたらしいし、俺以外にもけっこう見てるやつがいたから。お前はお前で役員だからそれなりに顔が知れてるし」
僕は思わずこめかみを押さえた。
本気で片頭痛がする。そんな僕の様子を眺めて、新保が面白そうな顔で言った。
「なあ、一緒にメシ食いに行かねえ? 俺今すっげえ腹減ってんだ」
予想外の新保の提案に僕は両目を丸くした。
「いいだろ、たまにはつき合えよ。俺は男なんだから柿崎に遠慮することもないだろ」
繁華街にハンドルを向け、ゆっくりと自転車をこぎ出す。
何とも言えない気持ちを胸に、僕はさそわれるままついていった。
「あの時、水嶋さんと少しお話しさせてもらって、学校を案内してもらって……すっごく楽しかったです。よければラインの連絡先を交換させていただけませんか?」
あの交流会の日か。
僕は思わず沈黙した。あの後、僕は笑香をレイプしたのだ。
「悪いけど」
僕は乾いた声で答えた。見る見るうちにその女子生徒がくしゃくしゃと顔をゆがませる。
「もう、彼女いるから」
それだけ言って門を出る。涙を含んだ嗚咽の声が僕の背中を追いかけて来た。
ウザい。
僕はそのまま歩をゆるめずに、自宅の道とは反対方向へ歩き出した。もし後をつけられたら困る。しばらくは速い足どりで町の繁華街に向かったが、人混みが増えてくるとともに目立たないよう流れに乗った。
交差点のはしで足を止め、僕はゆっくりとふり向いた。幸いあの女子生徒は妙な気を起こさなかったようで、特に気になる人影は僕の視界に入らなかった。
僕は安堵のため息をついた。と、その時。
「いいよな、彼女がいるやつは。あの子けっこうかわいかったぜ。他の女子に告白されてもぜんっぜん相手にしないなんて、ちょっとかっこよすぎだろ」
背後からそう声をかけられ、僕はぎょっとしてふり向いた。
そこにいたのは自転車に乗ってにやにや笑う新保だった。
「……今帰りか?」
僕は冷静をよそおい、言った。
「おう。部活が遅くなって。部長がやけにやる気でさ、二学期は毎月広報を出すとかで、めんどくせえったらねえの」
サドルに太い両腕をかけ、上目づかいに僕を見る。何なんだ今日は。次から次へと。
僕は内心うんざりしながら口を開いた。
「新保、広報部?」
「そう。でもうちゴシップ禁止だから安心しろよ。……って言っても、わざわざ俺が記事にしなくたって明日には学校中に広まってると思うぜ。『お前が校門のまん前で北高の女子に告白されてた』って。あの子、ずいぶん長い間学校の前にいたらしいし、俺以外にもけっこう見てるやつがいたから。お前はお前で役員だからそれなりに顔が知れてるし」
僕は思わずこめかみを押さえた。
本気で片頭痛がする。そんな僕の様子を眺めて、新保が面白そうな顔で言った。
「なあ、一緒にメシ食いに行かねえ? 俺今すっげえ腹減ってんだ」
予想外の新保の提案に僕は両目を丸くした。
「いいだろ、たまにはつき合えよ。俺は男なんだから柿崎に遠慮することもないだろ」
繁華街にハンドルを向け、ゆっくりと自転車をこぎ出す。
何とも言えない気持ちを胸に、僕はさそわれるままついていった。
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