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53.探索 1

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 夕闇が影をかくす頃、裏の木戸を叩く音がした。一度小さく鳴った後、少しくせのある叩き方で三回音が続けられる。
 台所に立っていたミラはすぐに裏口へ足を向けた。そっと開くと、見慣れた影がカンテラも持たずに立っている。
 昨夜と同じく無言のままでミラはグラタスをまねき入れた。最低限の明かりしか部屋にはつけていないので、影をまとった長身がさらに大きく感じられる。

「……村長の家へ」

 唇だけでグラタスがささやく。

「いいえ。私もここにいます、ここは私の店ですから。それに、もしも何かあったら助けを呼びに行かなくては」

 ミラがきっぱり断ると、彼はわずかに肩をすくめた。

     *

「あなたは夜ごと私の館を訪れることになっています。人に見られないようにしますから、裏の木戸の鍵を開けてください」
「はっ?」

 道でいきなり逢引きを示唆され、ミラはひたすら面食らった。

「日暮れが来たら、私が行くまでなるべく明かりはつけないように。外に知られたらこまります」
「えっ──えええっ!?」

 人目を忍ぶ恋人同士のような言葉に絶句する。昨夜、ミラが行ったことはグラタスの名前を呼んだだけだ。決して彼の求愛を頭から受け入れたわけではない。
 ミラが領主の館で目覚め、寝ていた寝台の幕を開くと、すでにグラタスは起きていて拝礼規程を読んでいた。朝の挨拶をかわした時も特に変わった様子はなく、見かけは一応人畜無害な茶飲み友達のままだった。ミラの体もおかしなことをされた痕跡は見つからず(一度経験済みなので、さすがにそれくらいはわかる)、二人で取った朝食も普通においしく食べられた。
 それが一体いつから夜ごと逢引きする仲になったのか? それとも自分が寝ている間に何か物事が進展し、関係ができてしまったのだろうか?

──部屋で一晩過ごしたことが既成事実になったのかしら。

 ミラが混乱していると、グラタスは苦笑して口を開いた。

「訳はまた後で話します。とりあえず今夜うかがいます、言われた通りにお願いします」

 言葉を残してさっさと背を向け、祈りの館へ帰ってしまう。
 夜、店のドアではなくて木戸を叩いたグラタスは、後ろにサイランを伴っていた。彼一人なら納得できずに木戸を開かなかっただろうが、苦笑まじりに後見人から事情を聞かされ、ミラはうなずいた。家にグラタスをまねき入れ、そのまま二人で一晩を過ごす。

 そして今夜もグラタスはミラの家へとやって来た。昼間は師教の仕事を行い、日暮れになると早々に家の裏口へ顔を出す。ろくに眠っていないようだが表情はいつもと変わらない。ただ、やはり疲れているのか言葉の数は少なかった。
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