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しおりを挟むひと突きごとにゴールの迫ってくる、もう自分では止められない腰の動きに翻弄されて身も世もなく明治の下で喘ぐ杏里は綺麗だった。「こんなでかい男つかまえてそんなことを言うのはあんたくらいだ」といつも冷たく退けられるが、事実なのだからおとなしく認めてただ賛美されていてほしい。本当に、こんな言い種をすると誤解を受けそうだが杏里の容姿ときたら、明治の好みど真ん中だったのだ。
厚すぎず薄すぎず均整のとれた体つきと長い腕や脚。華奢で大きな手。細い首にのっかる小ぶりの頭。生まれて一度も色を入れたことのないような無垢な黒髪。念入りなことにそれに彩られる顔面さえも、黒目がちなアーモンドアイズの可愛い正統派の美形で。視界に捉えた瞬間にもう声を掛けていた。
「はっ、あっ、あっ、……んぅ、ああ、あぁっ」
「杏里。こーら」
「あ……やだッんで、はなせよ七緒ぉ」
始末の手間を省くために杏里も避妊具をつけられた性器に、そろりと手をかけようとするので横から掬いあげるとすごい眼で睨まれる。もううしろで達けるようになったのだから見せてほしい。なかだけでの絶頂は尾を引くので彼自身はどうも嫌がるふしがあるのだけれど、あの色っぽさをひと目見てしまったらもう、何が何でもまえをさわらせまいと躍起になる気持ちもわかってくれないと困る。さりげなく邪魔を入れ続けてやっとここまできた。
長身がふたり熱く絡み合ってもギシギシうるさい安物のベッドじゃないが、振り落とされまいと懸命にマットにしがみつくしぐさが可憐しくてつい激しく追い詰めてしまう。どうせ使わない手なのだからと首筋にまわさせて、これ以上ないまで身体を密着させると明治は腰だけを勢いよく振りたくった。
「うぁっだめ、も、……んなにしたら俺、ぅっ」
「は、俺もいくから、ぁんり」
「あっ、んんっ、んっ、もう……いく、いくっ……なおッ」
「杏里……く、」
腕の中の痩身がビクビクッと震え、食い締めが最大限になったタイミングで明治も被膜の中にびゅうっと吐精する。無防備な体を寄せ合い、はあはあとだらしない呼吸が整うのも待てずに唇を貪り合って、めちゃくちゃに舌をからめ、口元をべったり汚しながら交わすキスはとても昂奮した。吸いすぎて真っ赤になった杏里の肉感的な唇を舐めてきれいにし、涙のにじんだ眦や頬、こめかみまで労るように触れていく。
いまさら感想を聞くまでもなく今夜もよかった。すこし腰をまわすように捏ねてぬるりと滑らかに身体を離し、通常サイズに戻った器官が抜け出た瞬間やわらかく受け入れてくれていた杏里がちいさく掠れた声を洩らした。今日も変わらず若く美しく、しなやかな完璧な肢体の上から退くと寝返りを打ってこちらに向いた背中にもキスをひとつ。お終いの合図みたいになっているそれに、明治が顔を逸らしてから首を返した彼は若干不満そうにふてくされていた。
素晴らしく充実した生活を送れている実感に自然と口角が上がる。仕事の進みはすこぶる順調で、マンションに帰れば年下の恋人が待っていて、就寝前の程よい運動にも付き合ってくれる。したあとは煙草もうまい。杏里のほうへけむりが行かないよう注意しつつスマートフォンを覗いていたが、やはりどうにも誤魔化しがきかなくて、仕方なく明治は下着とスウェットをさがして身に着ける。
「どこ行くの……」
「ん~? 何か食ってくる」
「え、この時間に?」
「自分でするから杏里は寝てていいよ」
明治も重々承知だったが食欲が睡眠欲を押しのけてしまうのだから他に手立てもないだろう。初夏と盛夏のちょうど真ん中あたりの気候で、そもそも全室自動制御の空調の恩恵で頓着する必要はないのだが風邪の心配は無用。ついでにシャワーも済ませればいいかと上には何も着なかった。
キッチンストッカーや冷蔵庫を覗いてメニューをいくつか頭の中に選び出す。杏里の姿を目にするとつい遅い夕食より先に彼に手を伸ばしてしまうため、こういうことはすくなくなかった。よって食材は常に備蓄がある。同棲してからは時間的な余裕の関係ですっかり杏里に任せきりになっているけれど、明治もだてに三十年生きてきてない。むしろ料理は好きなほうで、暇がある時はストレス発散にローストビーフや鶏チャーシューを作ったりよくしていた。
キャベツやじゃがいも、人参をすこしずつ出してコンソメのもとを用意する。炭水化物をどうするか考えているといつの間にベッドから出てきていたのか杏里が明治の手から引き取って、流水で洗ってから皮をむき始める。
「杏里くん?」
「俺やっとくから、七緒はシャワー行ってくれば」
「……うん」
口調はぶっきらぼうでも優しさが嬉しかった。20代の若者らしく薄い腰から、先程までたっぷり世話になっていた尻の罪作りなラインを掌でわざといやらしくたどり降りると大きな眼で睨まれた。かわいくて笑ってしまいながら、お言葉に甘えて明治はバスルームへ行く。
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