セカンドクライ

ゆれ

文字の大きさ
上 下
6 / 67
1

01

しおりを挟む
 
 ひと突きごとにゴールの迫ってくる、もう自分では止められない腰の動きに翻弄されて身も世もなく明治の下で喘ぐ杏里は綺麗だった。「こんなでかい男つかまえてそんなことを言うのはあんたくらいだ」といつも冷たく退けられるが、事実なのだからおとなしく認めてただ賛美されていてほしい。本当に、こんな言い種をすると誤解を受けそうだが杏里の容姿ときたら、明治の好みど真ん中だったのだ。
 厚すぎず薄すぎず均整のとれた体つきと長い腕や脚。華奢で大きな手。細い首にのっかる小ぶりの頭。生まれて一度も色を入れたことのないような無垢な黒髪。念入りなことにそれに彩られる顔面さえも、黒目がちなアーモンドアイズの可愛い正統派の美形で。視界に捉えた瞬間にもう声を掛けていた。

「はっ、あっ、あっ、……んぅ、ああ、あぁっ」
「杏里。こーら」
「あ……やだッんで、はなせよ七緒ぉ」

 始末の手間を省くために杏里も避妊具をつけられた性器に、そろりと手をかけようとするので横から掬いあげるとすごい眼で睨まれる。もううしろで達けるようになったのだから見せてほしい。なかだけでの絶頂は尾を引くので彼自身はどうも嫌がるふしがあるのだけれど、あの色っぽさをひと目見てしまったらもう、何が何でもまえをさわらせまいと躍起になる気持ちもわかってくれないと困る。さりげなく邪魔を入れ続けてやっとここまできた。
 長身がふたり熱く絡み合ってもギシギシうるさい安物のベッドじゃないが、振り落とされまいと懸命にマットにしがみつくしぐさが可憐しくてつい激しく追い詰めてしまう。どうせ使わない手なのだからと首筋にまわさせて、これ以上ないまで身体を密着させると明治は腰だけを勢いよく振りたくった。

「うぁっだめ、も、……んなにしたら俺、ぅっ」
「は、俺もいくから、ぁんり」
「あっ、んんっ、んっ、もう……いく、いくっ……なおッ」
「杏里……く、」

 腕の中の痩身がビクビクッと震え、食い締めが最大限になったタイミングで明治も被膜の中にびゅうっと吐精する。無防備な体を寄せ合い、はあはあとだらしない呼吸が整うのも待てずに唇を貪り合って、めちゃくちゃに舌をからめ、口元をべったり汚しながら交わすキスはとても昂奮した。吸いすぎて真っ赤になった杏里の肉感的な唇を舐めてきれいにし、涙のにじんだ眦や頬、こめかみまで労るように触れていく。

 いまさら感想を聞くまでもなく今夜もよかった。すこし腰をまわすように捏ねてぬるりと滑らかに身体を離し、通常サイズに戻った器官が抜け出た瞬間やわらかく受け入れてくれていた杏里がちいさく掠れた声を洩らした。今日も変わらず若く美しく、しなやかな完璧な肢体の上から退くと寝返りを打ってこちらに向いた背中にもキスをひとつ。お終いの合図みたいになっているそれに、明治が顔を逸らしてから首を返した彼は若干不満そうにふてくされていた。

 素晴らしく充実した生活を送れている実感に自然と口角が上がる。仕事の進みはすこぶる順調で、マンションに帰れば年下の恋人が待っていて、就寝前の程よい運動にも付き合ってくれる。したあとは煙草もうまい。杏里のほうへけむりが行かないよう注意しつつスマートフォンを覗いていたが、やはりどうにも誤魔化しがきかなくて、仕方なく明治は下着とスウェットをさがして身に着ける。

「どこ行くの……」
「ん~? 何か食ってくる」
「え、この時間に?」
「自分でするから杏里は寝てていいよ」

 明治も重々承知だったが食欲が睡眠欲を押しのけてしまうのだから他に手立てもないだろう。初夏と盛夏のちょうど真ん中あたりの気候で、そもそも全室自動制御の空調の恩恵で頓着する必要はないのだが風邪の心配は無用。ついでにシャワーも済ませればいいかと上には何も着なかった。

 キッチンストッカーや冷蔵庫を覗いてメニューをいくつか頭の中に選び出す。杏里の姿を目にするとつい遅い夕食より先に彼に手を伸ばしてしまうため、こういうことはすくなくなかった。よって食材は常に備蓄がある。同棲してからは時間的な余裕の関係ですっかり杏里に任せきりになっているけれど、明治もだてに三十年生きてきてない。むしろ料理は好きなほうで、暇がある時はストレス発散にローストビーフや鶏チャーシューを作ったりよくしていた。
 キャベツやじゃがいも、人参をすこしずつ出してコンソメのもとを用意する。炭水化物をどうするか考えているといつの間にベッドから出てきていたのか杏里が明治の手から引き取って、流水で洗ってから皮をむき始める。

「杏里くん?」
「俺やっとくから、七緒はシャワー行ってくれば」
「……うん」

 口調はぶっきらぼうでも優しさが嬉しかった。20代の若者らしく薄い腰から、先程までたっぷり世話になっていた尻の罪作りなラインを掌でわざといやらしくたどり降りると大きな眼で睨まれた。かわいくて笑ってしまいながら、お言葉に甘えて明治はバスルームへ行く。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

バイバイ、セフレ。

月岡夜宵
BL
『さよなら、君との関係性。今日でお別れセックスフレンド』 尚紀は、好きな人である紫に散々な嘘までついて抱かれ、お金を払ってでもセフレ関係を繋ぎ止めていた。だが彼に本命がいると知ってしまい、円満に別れようとする。ところが、決意を新たにした矢先、とんでもない事態に発展してしまい――なんと自分から突き放すことに!? 素直になれない尚紀を置きざりに事態はどんどん劇化し、最高潮に達する時、やがて一つの結実となる。 前知らせ) ・舞台は現代日本っぽい架空の国。 ・人気者攻め(非童貞)×日陰者受け(処女)。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

記憶喪失の君と…

R(アール)
BL
陽は湊と恋人だった。 ひねくれて誰からも愛されないような陽を湊だけが可愛いと、好きだと言ってくれた。 順風満帆な生活を送っているなか、湊が記憶喪失になり、陽のことだけを忘れてしまって…! ハッピーエンド保証

処理中です...