愛してしまうと思うんだ

ゆれ

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あなた病

07

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『月曜から金曜まで、この時間にお送りする22ナイトダイバー。月曜担当のヤシキコウです。お前ら週の滑り出しはどうだったか? 最高な奴も最低な奴も、最後まで聴いて明日は気合い入れ直せ。俺は……そうだなぁ、まあまあってとこか?』
「……もうそんな時間か」

 独り言に音が反応し、唇のまえに指を立てる。愉しみの邪魔をするのは間借りする身で申し訳ないため素直にくちを噤んでおいた。場所を身振り手振りで確認してから布団を広げて寝床を作る。

 音の部屋は姉と違いごく普通の内装だった。龍の自室とそう変わらない。ベッドと勉強机とオーディオ機器またはテレビ。本棚。天才高校生の生態もそれはそれで気になるので、つい物珍しく見回してしまう。音に「ほら龍さんも! 一緒聴いて!」と怒られた。イヤダとは言えずラジオのほうへ頭を向けて寝転がる。

「つかなんか音すげー久し振り? 最近来ねえな」
「あ~……ああ、うん、さすがに10月ともなると学校うるさくて」

 八色の番組を聴くのはこれで二回目か三回目くらいだと思うが相変わらずくちが悪く、すこぶる元気そうでムカついた。おなじ一日を過ごしたとは信じられない落差だ。0時まで起きていられる自信がないので、いつ寝落ちてもいいよう枕の向きを変えて上掛けをかぶる。音はベッドに腰掛けて八色の喋りに合わせ、飛んだり跳ねたりしてリアクション芸をしている。

 一二三の話を聞いていて思ったが、音も母親に可愛がられなかった子どもなのだろうか。尤も玉山家は父親がしっかりしているので龍ほど孤独ではなかった筈だ。音にそういった薄暗い雰囲気はない。頭が良いとあらゆることに余裕が生まれる。その化身みたいな、輝かしい将来性に満ち満ちた少年でも、一二三の母にとっては違う見方の対象だったのだと思うと運命の皮肉を感じずにいられなかった。

 男尊女卑が根深く残っているこの世の中では珍しい。だが実際に女性でなければ、女性のほうが好ましいという役割はどうしてもあるため陋習はとっとと消え去ってくれたらいいのにと思っている。龍も「あたしより腰ほっそ!」とか「絶対並んで歩きたくなーい」とか見ず知らずの女子に陰口されると、それなりに傷つくし気にしている。男とか女とか関係ない世界に転生したい。

「うあー……やべ、布団ふっかふか……」

 寝具がいいと眠るのも楽しい。最後に行ったのはいつだったかというような、遠い旅の記憶が瞬時によみがえる。ホテルや旅館で寝るのが好きで、寝つきが悪くなったりはまったくしない龍なので、のびのびと入眠の心地よい感覚に全身を投げ出す。

 ほんのすこし窓が開いていて、室内にふわっと風が巻く。ごろんと寝返りを打って壁側へ顔を向けたタイミングで、掛かっていたカーテンのような長い布がすこしだけ持ち上がって中が見えた。どうやら元々はクローゼットだったところを一部扉を外して目隠し布で覆っているようだ。

(ん?)

 ポスターか何か。人の顔みたいなものがチラついた気がしたが、もう眠たくて定かじゃない。急に音がベッドを降りてその場所のまえに立った。瞬きを遅くし、滂沱し散らかした余韻で猛烈な睡眠圧に遭って、龍が半分以上寝かけているのを確かめていたのかもしれない。ややあってから歩いていって窓を閉めたようだ。物音が響いて消える。意識もそこまでが限界だった。



 
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