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01 レファレンス・リファレンス reference ①
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「あっ……やぁん……っ!」
「山内さん、すごくいい声……」
横井くんは熱っぽい瞳で私を見つめ、唇を奪った。
唾液を飲み尽くすような、激しいキス。
でも、胸をさわる手は優しくて、その落差に私は訳がわからなくなってしまう。
横井くんは中に入れる指を増やしていく。
「もうちょっとかな」
「や……」
「今は、中より、クリの方がよさげだよね」
横井くんは指を一旦抜くと、垂れている愛液を拭うようにまぶした。クリトリスをそっとさすられる。鋭い快感に、思わず嬌声を上げてしまう。
「あ、ああっ……!」
「また溢れてきた。素直」
くすくす笑われて思わず顔をそむけると、もう一度キスを落とされた。今度は優しく。
「ねえ、俺の名前呼んでよ。その方がきっと気持ちいいよ」
「う……」
「言ってみて。勇登って」
「ゆ、ゆう……勇登……」
たったそれだけで、横井くんはすごく嬉しそうに笑み、引き続き丁寧に愛撫してくる。頭がぼんやりしてきた頃、横井くんは私の耳に口を寄せ、囁いた。
「可愛いよ、有紗」
不意に名前を呼ばれ、思わず身体の力が抜けた。横井くんはそれを見逃さず、素早くゴムを着け、私の中に入ってくる。
「んんっ!」
私の声が大きかったからだろう、横井くんの表情が不安げになる。
「大丈夫……?」
「うん……」
「よかった……」
横井くんはそのまま全て挿れてしまうと、ほっとしたように息を吐く。
今回はそこまで痛くない。今まで横井くんとの初めては、毎回すごく痛かった。
今回は初めてなのに、横井くんがすごく丁寧で、上手。
今回は。
五回目の「初めて」だ。どうしても、こうなってしまう。
◆◇◇◇◇
「地下書庫に入りたいんですが」
「学生証の提示とご記入お願いします」
カウンターで学生証を見せ、示された台帳に入室日時と氏名を記入する。
山内有紗
私は自分の名前が少し苦手だ。ありさという音はなんだか可愛らし過ぎる気がするし、漢字は雰囲気が美人過ぎる。要は名前負け。友達からも「山ちゃん」と呼ばれることが多い。キャラ的に安心。
でも、名前を書くのは結構好き。意外とこの名前、見ない。
高校時代、図書カードへ最初に名前を書くのはひそかな楽しみだった。一番乗りになることが多かったから。まだ誰も気づいていない銀世界にそっと足を踏み入れるようなもの。
品揃えがそこまでよくなかったし、ちょうど私の卒業と同時に新校舎に移転する予定だったからか、図書室はさびれていた。私は偏った蔵書からのんびり掘り出し物を探すのが好きだった。
地下書庫への階段を下り、ドアを開ける。古い蔵書がここに集められている。私はここが好きだ。古い本の匂い、知へのアプローチ。高校の図書室と似た、居心地のよい、静かな空間。
奥の方から人影が近づいてくる。横井くん。研究資料を探しているのか、単純に本が好きなのか、そこらへんはわからないけど、たまに見かける。
地下書庫に来る人はほとんどいない。もしかしたら今ここにいるのは私と彼だけかもしれない。とはいえ、図書館だ。私語厳禁なので、頭だけ下げる。向こうも会釈を返してくれた。
横井勇登くんは高校時代の同級生だ。進路別に分かれた二、三年で同じクラスだった。私大文系クラス。
彼ははっとするほど綺麗な顔立ちをしている。ふとした時の目線が、流し目のようで色っぽい。私は面食いなので、近くで見ることのできた日はラッキーだなと正直思っていた。
常に女の子が近くにいて、彼女も途切れないと噂だったので、同じクラスといっても別世界の人という印象しかない。必要事項以外に話をしたことはないし、話したいとも思わないけど。そもそも無口で何考えてるかわからない人だし。観賞用。眼福。
しばらく地下書庫で過ごした後、図書館を出ると、少し離れたところに黒い塊がいた。なんだろう? 近づいてみると、子猫だ。田舎だからか、たまに動物が紛れ込む。
猫は結構好き。こっち来てくれないかなあ。
「にゃーん」
ちょっと甘えた鳴き真似をしてみると、黒猫と目が合った。と思ったら、露骨にそらされる。なんだか鳴き真似をしたこっちが馬鹿みたい。でも、そんなツンとした態度も似合う、綺麗な猫だ。
……嫌だったら逃げるよね。きちんと挨拶したら来てくれるかな。
「こんにちは」
ピクリと猫が反応したので、おっと思い、片っ端から挨拶の言葉を投げてみる。
「ハロー! ニーハオ! チャオ! グーテンターク!」
あと何語があるかな? 日本語、英語、中国語、イタリア語、ドイツ語ときたから……
「ボン……ジュール?」
私の挨拶に応えるようににゃあと鳴いて、黒猫は近づいてくれた。そっとなでるとゴロゴロと喉を鳴らしてくれる。可愛い。
ボンジュールの黒猫は図書館の近くに住み着いたみたいで、それからもたまに見かけるようになった。連れて帰りたいけど、うちのアパートはペット不可物件だ。
まあ、実際飼うとなると、いろいろ大変だろうし。遭遇した時に可愛いと思うくらいで、きっとちょうどいい。
「山ちゃん! 週末暇?」
「うん。暇だけど」
「飲み会があるんだけど、来ない?」
「飲み会?」
友達が申し訳なさそうに言う。私が大学に入って初めて話した相手だからか、たまに声を掛けてくれる。
「うん。来てもらうはずだった子に彼氏ができちゃって」
「それは合コンというやつでは」
「そうだったんだけどさあ。セッティングしたのに、肝心の本人が来ないんだから、単なる飲み会だよ、もう」
とはいえ、私は場違いというか、もっと可愛い子の方がいいんじゃないかな。私、全然モテるタイプじゃないし。そんな台詞が口から出そうになるのを飲み込む。
「ほんとごめん! 助けると思って来て!」
場所を聞くと、おいしそうで気になっていたお店だ。行く機会もそんなにないし、気楽に参加することにした。
五対五の飲み会だけど、私以外の女子四人は男子達と面識があるらしく、内輪の話題で盛り上がっている。
これ、私、別に来なくてよかったのでは? そう思いつつ、食べに走る。元は取ろう。おいしい。
周囲を見ていると、他にも飲み会をしているグループがあった。
あっ、と気づく。
近くで見ることのできた日はラッキー。そんな横井くんを合法的に眺められる機会に恵まれるとは。
なんだかつまらなそうな表情だけど、それすら彼の美しさを引き立てているように感じられて。
とりあえず、終わりまで、食べて飲んで、合間に横井くんを眺めてやり過ごそうと決め、実行した。
「山内さん、すごくいい声……」
横井くんは熱っぽい瞳で私を見つめ、唇を奪った。
唾液を飲み尽くすような、激しいキス。
でも、胸をさわる手は優しくて、その落差に私は訳がわからなくなってしまう。
横井くんは中に入れる指を増やしていく。
「もうちょっとかな」
「や……」
「今は、中より、クリの方がよさげだよね」
横井くんは指を一旦抜くと、垂れている愛液を拭うようにまぶした。クリトリスをそっとさすられる。鋭い快感に、思わず嬌声を上げてしまう。
「あ、ああっ……!」
「また溢れてきた。素直」
くすくす笑われて思わず顔をそむけると、もう一度キスを落とされた。今度は優しく。
「ねえ、俺の名前呼んでよ。その方がきっと気持ちいいよ」
「う……」
「言ってみて。勇登って」
「ゆ、ゆう……勇登……」
たったそれだけで、横井くんはすごく嬉しそうに笑み、引き続き丁寧に愛撫してくる。頭がぼんやりしてきた頃、横井くんは私の耳に口を寄せ、囁いた。
「可愛いよ、有紗」
不意に名前を呼ばれ、思わず身体の力が抜けた。横井くんはそれを見逃さず、素早くゴムを着け、私の中に入ってくる。
「んんっ!」
私の声が大きかったからだろう、横井くんの表情が不安げになる。
「大丈夫……?」
「うん……」
「よかった……」
横井くんはそのまま全て挿れてしまうと、ほっとしたように息を吐く。
今回はそこまで痛くない。今まで横井くんとの初めては、毎回すごく痛かった。
今回は初めてなのに、横井くんがすごく丁寧で、上手。
今回は。
五回目の「初めて」だ。どうしても、こうなってしまう。
◆◇◇◇◇
「地下書庫に入りたいんですが」
「学生証の提示とご記入お願いします」
カウンターで学生証を見せ、示された台帳に入室日時と氏名を記入する。
山内有紗
私は自分の名前が少し苦手だ。ありさという音はなんだか可愛らし過ぎる気がするし、漢字は雰囲気が美人過ぎる。要は名前負け。友達からも「山ちゃん」と呼ばれることが多い。キャラ的に安心。
でも、名前を書くのは結構好き。意外とこの名前、見ない。
高校時代、図書カードへ最初に名前を書くのはひそかな楽しみだった。一番乗りになることが多かったから。まだ誰も気づいていない銀世界にそっと足を踏み入れるようなもの。
品揃えがそこまでよくなかったし、ちょうど私の卒業と同時に新校舎に移転する予定だったからか、図書室はさびれていた。私は偏った蔵書からのんびり掘り出し物を探すのが好きだった。
地下書庫への階段を下り、ドアを開ける。古い蔵書がここに集められている。私はここが好きだ。古い本の匂い、知へのアプローチ。高校の図書室と似た、居心地のよい、静かな空間。
奥の方から人影が近づいてくる。横井くん。研究資料を探しているのか、単純に本が好きなのか、そこらへんはわからないけど、たまに見かける。
地下書庫に来る人はほとんどいない。もしかしたら今ここにいるのは私と彼だけかもしれない。とはいえ、図書館だ。私語厳禁なので、頭だけ下げる。向こうも会釈を返してくれた。
横井勇登くんは高校時代の同級生だ。進路別に分かれた二、三年で同じクラスだった。私大文系クラス。
彼ははっとするほど綺麗な顔立ちをしている。ふとした時の目線が、流し目のようで色っぽい。私は面食いなので、近くで見ることのできた日はラッキーだなと正直思っていた。
常に女の子が近くにいて、彼女も途切れないと噂だったので、同じクラスといっても別世界の人という印象しかない。必要事項以外に話をしたことはないし、話したいとも思わないけど。そもそも無口で何考えてるかわからない人だし。観賞用。眼福。
しばらく地下書庫で過ごした後、図書館を出ると、少し離れたところに黒い塊がいた。なんだろう? 近づいてみると、子猫だ。田舎だからか、たまに動物が紛れ込む。
猫は結構好き。こっち来てくれないかなあ。
「にゃーん」
ちょっと甘えた鳴き真似をしてみると、黒猫と目が合った。と思ったら、露骨にそらされる。なんだか鳴き真似をしたこっちが馬鹿みたい。でも、そんなツンとした態度も似合う、綺麗な猫だ。
……嫌だったら逃げるよね。きちんと挨拶したら来てくれるかな。
「こんにちは」
ピクリと猫が反応したので、おっと思い、片っ端から挨拶の言葉を投げてみる。
「ハロー! ニーハオ! チャオ! グーテンターク!」
あと何語があるかな? 日本語、英語、中国語、イタリア語、ドイツ語ときたから……
「ボン……ジュール?」
私の挨拶に応えるようににゃあと鳴いて、黒猫は近づいてくれた。そっとなでるとゴロゴロと喉を鳴らしてくれる。可愛い。
ボンジュールの黒猫は図書館の近くに住み着いたみたいで、それからもたまに見かけるようになった。連れて帰りたいけど、うちのアパートはペット不可物件だ。
まあ、実際飼うとなると、いろいろ大変だろうし。遭遇した時に可愛いと思うくらいで、きっとちょうどいい。
「山ちゃん! 週末暇?」
「うん。暇だけど」
「飲み会があるんだけど、来ない?」
「飲み会?」
友達が申し訳なさそうに言う。私が大学に入って初めて話した相手だからか、たまに声を掛けてくれる。
「うん。来てもらうはずだった子に彼氏ができちゃって」
「それは合コンというやつでは」
「そうだったんだけどさあ。セッティングしたのに、肝心の本人が来ないんだから、単なる飲み会だよ、もう」
とはいえ、私は場違いというか、もっと可愛い子の方がいいんじゃないかな。私、全然モテるタイプじゃないし。そんな台詞が口から出そうになるのを飲み込む。
「ほんとごめん! 助けると思って来て!」
場所を聞くと、おいしそうで気になっていたお店だ。行く機会もそんなにないし、気楽に参加することにした。
五対五の飲み会だけど、私以外の女子四人は男子達と面識があるらしく、内輪の話題で盛り上がっている。
これ、私、別に来なくてよかったのでは? そう思いつつ、食べに走る。元は取ろう。おいしい。
周囲を見ていると、他にも飲み会をしているグループがあった。
あっ、と気づく。
近くで見ることのできた日はラッキー。そんな横井くんを合法的に眺められる機会に恵まれるとは。
なんだかつまらなそうな表情だけど、それすら彼の美しさを引き立てているように感じられて。
とりあえず、終わりまで、食べて飲んで、合間に横井くんを眺めてやり過ごそうと決め、実行した。
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