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第十章 扉が閉じて別の扉が開く

303 カルネアデスの板は一枚 ⑧

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 やたらおばあさんの影響を受けている気がする。片岡にとって特別な存在なのだろうか。気になったので訊ねてみた。

「おばあさんは脚が悪い?」
「ああ。なぜ知っている?」
「弟さんが、塾に迎えに来てもらうのを躊躇していて、そう言っていたから」
「祖母は近所に住んでたんだ。自由を愛する人だし、死ぬまで一人で暮らすなんて言ってた。でも、足を怪我して、自由が利かなくなって、今は一緒に住んでる」

 片岡は少し遠い目をして、シェイクを啜る。中身がなくなったのか、ズッ……とかすれた音に変わった。

「北村さんのことは、大事だから守らなければといけないと思ってた。でも、相手の人生を全て抱えることなんかできない。人一人の重みはそんなに軽くない」
「どうして、そんなことを」
「今日の渋沢は、北村さんと付き合ってた頃の俺と、たぶん、同じ表情をしてた。俺にも、ハンバーガーを奢るくらいはできる」
「正直、意外だった」
「何が」
「片岡は、ファストフードなんか、食べなさそうに見える」

 僕の言葉を聞いて、片岡はつまらなそうに眉を寄せた。

「憧れだったんだ」
「憧れ」
「俺が小さい頃は親が厳しかったから、食べさせてもらえなかった。自由にしてよくなった時、ジャンクフードも死ぬほど食べた」

 憧れの場所に僕を連れてきてくれたのか。

「……ありがとう」
「何がだ?」
「……ごめん」
「だから、何がだ?」

 僕が黙っているので、片岡もそれ以上は問うてこなかった。
 しばらくして片岡が食べ終えたので、僕達は店を出て、別れた。

 僕は片岡のことをずっと、嫌な奴だと思っていた。でも、仕事への取り組み方や、片岡なりにがんばって若葉ちゃんを大切にしようとしていたのであろうことが垣間見えて、少し考えが変わった。

 おそらく僕は片岡と友達にはなれない。むしろ僕の方が片岡を無駄に傷つけてしまったようにも思う。それでも、片岡は僕を気に掛けてくれていて。
 なんだか少しだけ、楽になってしまった。
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