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第十章 扉が閉じて別の扉が開く

255 クーポン返せ、案を送れ ①

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 塾に出勤すると『申し訳ないけれど今日は早めに切り上げてほしい』と言われた。生徒から急に休みの連絡が入ったそうで、僕は過剰人員になってしまったらしい。たぶん、労働法からすると、そういうのは駄目なんだろうと思う。けれど、日頃からよくしてもらっているので、いいですよ、と答えた。

 今日は確かに生徒が少ない。バイト中にあまりよくないけれど、少しぼんやりと、三浦先生とのやりとりを思い返す。

『北村さんの進路は、僕も知りません』

 三浦先生はきっぱりそうおっしゃると僕の目をじっと見た。こんなにしっかり三浦先生と目が合ったことはない気がして、なんだかどきりとする。

『ご存じないんですか』
『ええ、知りません。ただ、北村さんが少し悩んでいるように見受けられたのが気になって、お訊ねしました。何かあるのなら、なるべく早いうちに手を打った方がいいので。渋沢くんを引き止めてしまって、申し訳なかったです』

 三浦先生はいつもの笑顔に戻っている。これ以上訊ねても、おそらく何もおっしゃらないだろう。そう思ったので、頭を下げ、退室した。

 僕も宗岡先生に卒論のテーマ変更を申し出るだけでとても緊張した。近しい人間に話すのと先生に話すのとでは、ハードルの高さがまるで違うというのは確かにわかる。
 ただ、そういう一般論ではない、何かがあるのではないかというひっかかりが、どうしても消えなくて。

「片岡くんは三頭政治の第一回と第二回のメンバーが混ざって困ってるんだ?」

 向井の声がして、はっと我に返る。よく通る、教師向きの声だ。

「はい」
「クーポン返せ、案を送れ」
「はい?」
「語呂合わせだよ。第一回のメンバーは『クーポン返せ』でラッススとポン、、ペイウスとカエ、、サル。第二回のメンバーは『案を送れ』でアン、、トニウスとオク、、タウィアヌスとピドゥス」
「へー、なるほどー」
「冷ややかな反応がたまらんな。オヤジギャグでもいいんだよ、覚えられれば」
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