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第九章 青天にいかずちが落ちる
235 素敵な靴は素敵な場所へ ①
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今日も三浦先生に和訳と学会発表の内容を添削していただいた。和訳はほとんど問題なかったし、発表内容のご指摘もすぐ修正できそうだった。
留学について、私は何も言わなかった。三浦先生も、何も訊ねてはこなかった。
ありがとうございましたとご挨拶をし、そっと研究室を後にする。
三浦先生にご提案いただいた日からずっと考え続けている。
留学なんて、現実的じゃない。就職活動しますと言ってしまえばおしまいなのに、私は言えずにいる。どんな職業に就けばいいのかわからないから。何がしたいのか、何ができるのか。私は将来のビジョンをきちんと描けていない。
とりあえず、ごはんを食べよう。そう思い食堂へ足を運ぶ。お昼休みの食堂は少し混んでいて、なかなか席が見つからない。見回していると、眼鏡の女の子が目に入った。
「理奈ちゃん! ご一緒していい?」
「もちろん!」
理奈ちゃんの優しい返事にほっとする。ここにいていいんだ。
向かいの席に荷物を置いて、アジフライ定食を注文し、席に戻る。
目の前の理奈ちゃんを見る。後ろに一つにまとめた黒髪。シンプルだけどきちんとしていて清潔感のある服装。綺麗に磨かれた眼鏡。とても真面目で模範的な女の子という印象。思えば今までこういうタイプの女の子とはほとんど関わりがなかった。向こうから避けられてしまうことが多かったから。
「そうだ! 若葉ちゃんにお礼を言わなきゃってずっと思っていたの。ありがとう!」
「お礼?」
「うん! 若葉ちゃんが名前で呼んでくれたから、向井くんも私のことを名前で呼んでくれるようになったの!」
「名前?」
「それまでずっと名字呼びだったの。変えるきっかけをつかめなかったんですって」
「向井くん、そういうの、さらっと変えそうなのに」
そう言って、はたと気がついた。向井くんは「渋沢」から「新」に呼び方を変えるまでも、しばらく時間がかかった気がする。思っていたよりも人間関係の変化に慎重なのかもしれない。
留学について、私は何も言わなかった。三浦先生も、何も訊ねてはこなかった。
ありがとうございましたとご挨拶をし、そっと研究室を後にする。
三浦先生にご提案いただいた日からずっと考え続けている。
留学なんて、現実的じゃない。就職活動しますと言ってしまえばおしまいなのに、私は言えずにいる。どんな職業に就けばいいのかわからないから。何がしたいのか、何ができるのか。私は将来のビジョンをきちんと描けていない。
とりあえず、ごはんを食べよう。そう思い食堂へ足を運ぶ。お昼休みの食堂は少し混んでいて、なかなか席が見つからない。見回していると、眼鏡の女の子が目に入った。
「理奈ちゃん! ご一緒していい?」
「もちろん!」
理奈ちゃんの優しい返事にほっとする。ここにいていいんだ。
向かいの席に荷物を置いて、アジフライ定食を注文し、席に戻る。
目の前の理奈ちゃんを見る。後ろに一つにまとめた黒髪。シンプルだけどきちんとしていて清潔感のある服装。綺麗に磨かれた眼鏡。とても真面目で模範的な女の子という印象。思えば今までこういうタイプの女の子とはほとんど関わりがなかった。向こうから避けられてしまうことが多かったから。
「そうだ! 若葉ちゃんにお礼を言わなきゃってずっと思っていたの。ありがとう!」
「お礼?」
「うん! 若葉ちゃんが名前で呼んでくれたから、向井くんも私のことを名前で呼んでくれるようになったの!」
「名前?」
「それまでずっと名字呼びだったの。変えるきっかけをつかめなかったんですって」
「向井くん、そういうの、さらっと変えそうなのに」
そう言って、はたと気がついた。向井くんは「渋沢」から「新」に呼び方を変えるまでも、しばらく時間がかかった気がする。思っていたよりも人間関係の変化に慎重なのかもしれない。
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