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第八章 人の数だけ気持ちがある

206 狭き門にあるマシュマロ ⑦

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 ディスカッションで一緒になったメンバーとは、その後も関わりが多い。

 新とはバイトも一緒だし、俺は親友だと思っている。高校時代から気になっていたから、ぐっと距離が近くなって嬉しい。

 片岡と南部さんと藤田さんは教職の授業でいつも会う。つい、二人からは目をそむけがちになってしまうけれど。見なければやり過ごしやすい。マシュマロ実験と同じだ。

 藤田さんは地味だけれど、堅実な働きをする子で、人が気づきにくいちょっとした処理をさりげなく行っていることが多いと三年目で気づいてきた。プレゼンの前後にパソコンの準備と片づけと備品チェックをしていたり。アンケートを取った時に、後で確認を取りやすいよう、用紙の隅に連番の数字を振ったり。自分が評価されることよりも、どうすれば全体が円滑に進むのかを優先して考えている。

 教職課程を履修している人間は、基本的には真面目だ。それでも、片岡みたいに発言力のあるタイプや、要領がよくて自分がやりましたよというアピールが上手いタイプが、どうしても目立ってしまう。俺みたいな奴がもう少し均等に作業を割り振ったり、誰の功績かさりげなく明確にしていけばいいんだよな、と思う。

 自分が義務教育を受けていた頃や、今、小中学生と接していても思う。こんな風に全体のために動いてくれる人間のおかげで、なんとか成立していることは多いんだ。
 報われたと感じる機会は、重要だと思う。得られるものが何もなく、ただただ努力だけ重ねさせられると、人は簡単に心が折れてしまう。



 教職の授業終了後、たまたま片岡と俺が教室に残った。そのまま別れてもよかったのだが、ずっと気になっていた、片岡とグループディスカッションであえて言わなかったことを、訊ねることにした。

「一年の後期に、授業で片岡が熱弁してた、マシュマロ実験のことだけどさ」
「なんだ今更」
「再現実験のことを話さなかったのは、時間がなかったから?」
「再現実験?」
「そう。実験でが本当に正しかったのか、もう一度やってみたんだ。再現実験の結果、最初の結論は覆った」
「え……?」

 この顔。都合が悪いから隠していたのではなく、知らなかったのだろう。ネタにするくらいなら、もう少し調べたらいいのに。そんな風に、ちょっと意地悪く思ってしまう。

「我慢できた、自制心のある子が、その後伸びるんじゃない。もともと経済的に裕福な人間が、そのままレールを踏み外さずに進んでいった。それだけの話だ」
「マシュマロを食べるか食べないかの話だろ、裕福かどうかは関係……」
「マシュマロを我慢できずに食べてしまった子は、貧困層が多かった。約束が反故にされたり、次の機会に恵まれないことも多いから、その場で確実に報酬が得られることに重きを置いたんだ」
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