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第八章 人の数だけ気持ちがある

197 ブーディカは自殺しない ②

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 ただ、八つ当たりの気持ちも、全くなかったとは言わない。
 私には夜の外出が許されなかったから、よく新をパシリに使っていた。コンビニでアイス買ってこいとか。今考えると、夜の外出が可能であることをやっかむ気持ちがあったし、防犯をまるで意識していなかったことに背筋が寒くなる。男子だからといって犯罪被害に遭わないとは限らない。新に何もなくて、本当によかった。

 新は、本質的には、面倒なことが嫌いで、攻撃的で、自分本位に判断する人間なんだと思っている。でも、今、そういう印象を持つ人間は少ないだろう。優しくて、穏やかで、思慮深い。そんな風に評されることが多いように思う。
 もしあのまま育っていたら、新はDVモラハラ路線まっしぐらだった気がしてならないから、将来のパートナーは私に感謝するといい。

 母方の祖父母は、ゴリゴリの男尊女卑だ。何かにつけて新と差をつけられるのが、ものすごく悔しかった。実際に会った時の対応も、お祝いの品も。昭和か。

 母方の祖父母が、新へと与えたゲームや本を、私にも使わせろ読ませろと何度も訴えた。簡単には貸してもらえなかったから、最後の方は実力行使のようになった。
 私に与えられたものは、当然のように新も楽しんでいるのに、なぜ私の方は必死に訴えないと要求が通らないんだろう。私のものは共有財産だとみなされるのに、新のものは個人の所有物になってしまうのはなぜなんだろう。

 両親から「お姉ちゃんなんだから」という言葉を掛けられたことはない。けれども、無言でその我慢は求められていた。

 私が一番むかついたのはお年玉だ。母方の祖父母は「新は誕生日がお正月だから」と言って毎年私よりも多い金額を渡していた。
 誕生祝いも兼ねて、というのは理にかなっているように聞こえる。でも私は母方の祖父母から誕生祝いをもらったことがない。もちろん両親に渡されている訳でもない。

 差別をされたことそのものよりも、さも理屈が成り立っているように装ういやらしさが、私はたまらなく嫌だった。

 大学に入って、初めてバイトをした。高校時代は両親がバイトを認めてくれなかったからだ。実家から通える大学にしてくれと言われていて、通学圏内で私の希望する進路と合致するのは難関の国立大ただ一つだったから、バイトどころではなかったというのもある。

 金銭的なゆとりは心の余裕に直結した。冷静になって新を見てみると、私をいらつかせた暴君の姿はその頃には鳴りを潜めていて、むしろ目立たない無気力な高校生になっていた。二人きりのきょうだいなんだし、私はお姉ちゃんなんだし、何か買ってやってもいいかな。そんな気分になった。

 新は身だしなみに無頓着すぎる。私の弟なんだから、素材は悪くない。顔立ちはそこそこ整っているし、身長もある。磨けば光るはずだ。そう思って服と眼鏡を買ってやった。結局、あんまり身に着けてもらえなかったけど。
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