【R18】人の好みは説明できない

第八章 人の数だけ気持ちがある

191 神を愛したい者の回旋曲 ④

　少し落ち着くと、響はスマホで連絡を取った。

「若葉？　今、大丈夫？　……ちょっと時間もらえないかと思って連絡した。……ああ。そう。彼女を紹介したくて」

　響がこう言った瞬間、若葉の興奮している様子がこちらにも伝わってきた。きゃあきゃあ言ってるのがうっすら聞こえる。「……わかった。今から出る」と言ってスマホを切った響に、私は力なく問いかける。

「いきなりすぎない……？」
「こういうのは早い方がいいだろう」

　響はご機嫌な様子で車を飛ばし、若葉の部屋に向かう。心臓がばくばくするし、胃も痛い。チャイムを押すと、「はあい！」と元気な声がして、扉が開かれた。
　私達二人の姿を認めると、若葉は「えっ？　えっ？！」と言いながら、何度も見比べていた。ものすごくびっくりした顔で。これは脳が全然処理できてない。

「お兄ちゃんの彼女って、玲美ちゃんだったの？！」
「…………うん。隠してて本当にごめん……」
「すっごく嬉しい！」

　若葉は満面の笑みを浮かべる。

「玲美ちゃんが幸せそうで嬉しい！　うちの兄、ちょっとエキセントリックなとこあるけど、優しいよ！」
「うん……」
「お兄ちゃんも本当によかったよね！　今までお兄ちゃんの見た目に釣られて寄ってきても、すぐに幻滅する人ばっかりで悲しかったけど、玲美ちゃんならとっても優しいし、絶対大丈夫だよ！」
「ああ。よかった！」

　この兄妹は本当にものすごくそっくりな気がする。
　私は今まで一体何を悩んでいたのだろうか。これまで隠していたことを悲しまれるのではないかとか、大好きなお兄ちゃんの相手が私でがっかりされるんじゃないかとか、もし別れることになったらどうしようとか。そんな心配は若葉の笑顔で全て吹き飛んでしまった。

　相良さんの言葉が、不意に思い出される。「年を取ると、単純な方がいいって思うことが増えるんだよ」。本当にその通りだった。