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第七章 雨が降れば必ず土砂降り

174 雨の降る日は天気が悪い ⑦

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 家に向かってピーターラビット号を走らせていると、スマホに着信があった。車を停め、発信者を見る。響さんだ。折り返し連絡をする。

「ボーダーコリー、今、電話大丈夫?」
「はい。ちょうどバイト先から帰っていたところでした」
「車?」
「はい。ヤスさんにどうぞよろしくお伝えください。とても快調ですし、毎日愛用しています」
「わかった、伝えとく。本当に申し訳ないけど、この雨で動けなくて困ってるんだ。来てもらっていい?」

 指定されたのは、一時間ほど離れた場所。
 行ってみると、響さんは一人ではなかった。側にいたのは、若葉ちゃんの親友の土屋さん。ああ、塩対応の彼女は。点と点がつながる。

「ボーダーコリー、ありがとう。大雨の予報だったから公共交通機関使ったんだけど、車で来ればよかったなって、こんなに後悔したことない」
「僕の方こそ、少しでもお役に立てたなら嬉しいです」

 一番近くの駅に行ってみたところ、運転が復旧していたので、響さんを降ろす。よかった。響さんの家まで送ることになると、往復に数時間かかってしまうので、さすがに避けたかった。

 あとは土屋さんだ。土屋さんは一人暮らしだと若葉ちゃんが言っていたし、大学近辺までは聞かなくてもなんとかなる。
 沈黙が重苦しくて、思わずラジオをつけた。流行りのラブソングが流れる。「大切な人だから本音を言えない」、そんなありきたりな歌詞の。
 ラジオは音楽を流し続ける。曲とディスクジョッキーの喋りの合間に聞こえる雨の音。さああ、さああ。
 土屋さんはやっぱり黙ったままだ。信号待ちの時、膝の上で指を動かしているのが目に入った。タイピストのように。

「渋沢くん」
「はい」
「あの角を曲がったところだから、このあたりで」
「わかりました。停めやすいところで停めますね」

 結局、土屋さんが住んでいるマンションの駐車場に停めた。他に停めやすい場所がなかったし、まだ雨が降っているから若葉ちゃんの親友を濡らしたくなかったのもある。

「渋沢くん」
「はい」
「このことは、若葉には黙っていてほしい」
「僕に人のプライバシーを勝手に話す趣味はないです」

 響さんの気持ちを考えてしまい、つい少し辛辣な言葉になった。響さんはオープンな人だし、大事な妹の親友なのだし、若葉ちゃんに話したいのだろうと思う。でも土屋さんが嫌がるから黙っているのだ。

「わかった。送ってくれてありがとう」

 土屋さんはピーターラビット号から降りた。そのまま僕も家路を急ぐ。もうすぐ日付変更線を越える。
 雨脚は弱まっている。でも止んではいない。慎重に運転しないと。

 今日は、これまで隠れていた部分が、雨で洗われてはっきりしたような、でもやっぱりまだ見えないような、なんだか不思議な日。



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It never rains but it pours.
雨が降れば必ず土砂降り。一難去ってまた一難。踏んだり蹴ったり。弱り目に祟り目。泣きっ面に蜂。二度あることは三度ある。
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