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第四章 走る前に歩くことを学べ

104 新世界とダイバーシティ ③

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 そんな風に毎日を過ごしていて、しばらく若葉ちゃんとはSNSの連絡だけで。
 バレンタイン、ひさしぶりに会ったら、襲われてしまった。正しくは、してるうちに乗られた。

「えへへー! まんぞくしたー!」
「そりゃ、よかったけど……」
「もしかして、きもちよくなかった?」
「いや、気持ちよかったけど……」

 なんだか奪われた感は否めない。

「やったあ! よかった……」

 そう言って若葉ちゃんはぱたんと倒れ込んでしまった。電池切れた。

「ねえ、若葉ちゃん」
「…………なあに?」

 まだ電池切れてなかった。いかにも寝に入りそうな口調だけど。

「僕は……若葉ちゃんとセックスしなくてもいいんだよ。……いや、すごくしたいけど」

 本音が漏れてしまって、全然締まらない。

「本当にしたいんならいいと思ってたんだけど。若葉ちゃん、フェラと騎乗位、無理にしてるよね」

 気になってた。若葉ちゃん、この二つに、なんだかこだわってる。

「……むり、してない。わたしが……したいんだよ」
「なんでそんなに? 理由を教えて」

 若葉ちゃんはしばらく黙っていて。本格的に寝てしまったかなと思った頃、僕の目の前におずおずと右手を出し、親指と人差し指と中指を見せた。

「何? バルカン人の挨拶?」
「……かいすう」
「何の?」

 若葉ちゃんはしゅるりと手を引っ込めて、僕に背を向けて丸まる。

「こわかったし、いたかったし、やだった」

 初めてした時、なんでこんなに可愛くて感じやすい子を愛でてないんだとひそかに憤ったことを思い出す。

「ふぇらはきもちわるかったし、きじょういはわからないから、ことわった」
「……うん」
「それからしばらくして、ふられちゃった」

 若葉ちゃんが、自分の身体を差し出すことで僕の機嫌を取ろうとしていたのなら、すごく嫌だ。そして、セックスがよくなければ別れを選ぶような男だと僕が思われていたとしても、大変心外だ。
 でも、それよりも。若葉ちゃんをこれ以上傷つけたくないという思いの方が、もっと強くて。
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