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11 呪いをかけたのは

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 私は緊急事態ということで呼び出されたはずでしたが、そのまま婚礼の準備をすることになったため、母国に戻ることはありませんでした。急なお話でしたけれど、婚約破棄を恐れていた父母は二つ返事で了承し、およそ考え得る最も早い期間で婚礼の儀を迎えることになったのです。

 光り輝くような美しい純白のドレスに身を包み、私はヴィクトール殿下の元へ嫁ぎました。宝冠も首飾りも指輪も、全てこれまで見たこともないような、それこそ女の子なら誰でも憧れるような素敵なものを誂えていただきました。
 ふれるだけの誓いのくちづけを交わした後、目が合ったヴィクトール殿下がたまらなく凛々しく、胸の早鐘がなかなか鳴りやまなかったことを、私は今も忘れません。

 私達が初めての夜を過ごしたのは、ヴィクトール殿下のお部屋でした。

「私はそなたにしか我が子を産ませる気はない。申し訳ないが、たくさんがんばってもらわなければならぬ。覚悟してほしい」

 ヴィクトール殿下は淡々と私に告げました。

「このお部屋で話すことは、誰にも聞かれることはないのですよね」
「その通りだ。防御魔法が整備されている」
「王城、特にヴィクトール殿下のお部屋は、厳重に防御魔法が張り巡らされていて、人の侵入はおろか魔力が入り込むことすらできません。ずっと考えていたのです。一体誰ならば、ヴィクトール殿下に呪いをかけることが可能だったのかと」

 ここまで言って、私はふーっと息を吐きました。意を決し、私はヴィクトール殿下の瞳を見据えます。強い光を放つ紫の瞳。

「呪いをかけたのは、ヴィクトール殿下ご自身ではないですか?」

 私の問いにヴィクトール殿下はくくくと声を上げ、口を開けて笑いました。

「さすが賢姫と名高いブランシュ王女……」
「私は真剣にお訊ねしています」
「真剣に答えている。当ててもらえて嬉しく思った」

 ヴィクトール殿下があまりにもあっさり認めたので、私は少し拍子抜けいたしました。いろいろ思うところはあったのですが、私の口を突いて出たのはこの言葉でした。

「解呪の設定が雑過ぎます!」

 ヴィクトール殿下は大笑いしました。それこそ、少年に戻った時のように、とても楽しそうに。

「古来から、呪いを解くのは『愛する者のくちづけ』と相場は決まっている、のだろう? そなたが大切にしている本に載っていた」

 私は思わずよろめき、ため息を吐きました。
 民話集に載っていた『呪いで眠り続けた姫を本当に起こしたのは、世界の果てに生えていた薬草ではなく、騎士のくちづけだったのです』という結びの部分に、幼い頃の私は確かにときめきましたけれど、そんなことは全く意識していませんでした。単にヴィクトール殿下にくちづけたいと思って、本能のまま動いただけです。

「なぜそんなことをなさったのです? 理由がどうしてもわからないのです」
「そなたとの婚約を解消し、他国の姫を娶れと言われた。そなたの国と国交を結ぶ旨味がなくなったから」

 国力が弱まっているため、ヴィクトール殿下との婚約を破棄されてしまうかもしれない。ひそかに流れていた噂は、真実だったのでございます。
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