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後日譚・取り違えたその後の二人

131 ぶらり二人旅 ⑧ (はじめまして・その1)

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 墓地まで少し離れていたし、荷物もあるし、お互いちょっとよそ行きの格好だったので、馬車で向かうことにした。
 馬車が止まるとリカルドが声を掛ける。

「着いたよ。……行こうか」
「うん」

 リカルドは御者にチップを払うと、先に降り、私に向かって手を出す。

「……エスコートしてくれるの?」
「紳士の役割かと」
「ありがとうございます」

 リカルドの手を借りて馬車を降り、引かれるがまま、連れて行ってくれる方向へゆっくりと進む。

「ここだよ」

 寄り添うように二つ並んだ小さなお墓。そっと、駅前で購入した花束を供える。

「はじめまして、ジュリエッタと申します。リカルドの神託の相手です。リカルドはとっても優しくて、明るくて、家に来てくれてから毎日とても楽しく過ごしています。リカルドと結婚できてほんとによかったです。至らない嫁ですが、これからもどうぞよろしくお願いいたします」

 なんて言っていいかわからないから、とりあえず思ったことを正直に言ってみた。ご挨拶ってこんなんでいいのかな? ちらりとリカルドを見ると、ちょっと赤くなってる。
 こほん、と咳払いしてリカルドが続ける。

「俺達、父ちゃんと母ちゃんに負けないくらいなかよく暮らしてるよ。ジュリエッタはすっごく優しいし、とっても可愛いし、めちゃくちゃお料理上手だし、お針子の腕も確かで今日のスーツも仕立ててくれて、自慢の嫁なんだ。いっぱい幸せにしてもらってるから、今度は俺がたくさん楽しい思いをさせてあげないとバチがあたるよね。一生誰よりも大切にするって父ちゃんと母ちゃんと指輪と神様にかけて誓うよ」
「リカルド、褒めすぎ……」

 そう言いながら感極まって、思わずリカルドに抱きついてしまう。リカルドは私が落ち着くまで、背中をそっとなでていてくれた。

「直接お話ししてみたかったけど……きっと、私達のこと、見守っててくださるよね?」
「うん! 父ちゃんも母ちゃんも、人の面倒ばっかり見ちゃって、自分のこと全然かまわないタイプだから、絶対見守ってくれてるよ!」
「リカルド、それ、ばっちり遺伝してる!」
「えー? 別に、俺、好きにしてるだけだけどなあ」

 くすくす笑うリカルドが愛おしくてたまらなくなった。

「また、絶対会いに来ますね。これからもどうぞよろしくお願いいたします」

 去り際に頭を下げると、温かい風がほのかに吹いた。

「今、なんか父ちゃんと母ちゃんの雰囲気と似たものを感じた、なんて言ったら、ジュリエッタ、笑う?」
「ううん。なんとなく、私もそんな気がした」
「……今度来る時は、家族がもっと増えてるといいなあ」

 リカルドがぼそっとつぶやくように言う。

「父ちゃんと母ちゃんのこと、もちろん大好きだけど、小さい頃、兄弟ほしいなあってずっと思ってて……。大きくなったら、にぎやかな家族で楽しく暮らすのが、夢だったんだ。俺、仕事がんばるからさ。だから、その……」
「……授かりものだからどうなるかわからないけど、私も家族が増えるといいなって、思ってるわ」
「ジュリエッタ……」

 リカルドは私の目を見つめ、握っている手に少し力を込めた。震えながら。
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