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本編・取り違えと運命の人
085 運命のオーダーメイド ①
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「リカルド、どうしてこんなに早く帰ってこられたの?」
少し気持ちが落ち着いたからか、疑問がわいてきたので訊ねる。もう列車もないし、あったとしても数時間かかる距離なのに。
「あっちのジュリエッタさんが魔力持ちで。魔法でここまで跳んでもらったんだ」
「そうだったんだ」
魔力持ちの人、会ったの初めてかもしれない。残念ながら、魔法を使ってるところは直接見てないけど。
「ごめん」
「リカルド……」
「俺、もう、君をあんな風に泣かせたり、絶対しない」
「……ううん。ほんとは、リカルドのせいじゃ、なくて。ルーカさんの、シャツのボタンが、掛け違ってて」
「ボタン?」
「なんだか、私達みたいだなあって、思っちゃったの」
リカルドがよくわからないという表情をしているので、まとまらないけど、さっきの気持ちを伝える。
「私、リカルドとすごくうまくいってるって思ってたの。毎日楽しくて、一緒にいるだけでとっても嬉しくて。でも、それは見せかけで、そもそもの最初が間違ってるから全然意味がない、そんな風にこの一年を全て否定されたような気がして。とても、悲しくて、苦しくて、やりきれなく」
「違うっ!」
リカルドが人の話に割り込むように強く否定することなんて、今まで一度もなかったから、とてもびっくりした。
「俺達、絶対……これ以上なく、ぴったりで……」
声がかすれて、リカルドにあまりにも不似合いな、悲しい顔。なんとか、なんとかしなきゃと、強く思う。
「私もそう思う。……気が合うね」
笑おうと思うのに、どうしても笑えない。
だって、どんなに合ってるように見えても、二人が同じように思っていたとしても、私達は運命の人同士じゃない。
リカルドとずっとずっと一緒にいたい。私とリカルドが偶然出会って恋に落ちていたのなら、それはきっと難なく叶う願いなんだろう。
でも、私達は、神託で結ばれた。そもそもの出会いが神の定めた運命のはずだったのに、それが取り違えられていたのなら。一緒にいたいという思いだけで、ただの人間が運命を変えることなんて、できるんだろうか。
やっぱり神託はただのお見合いじゃなくて。「運命の人」という通り名は、伊達じゃないし、重い。
「このまま神託を無視してジュリエッタと暮らし続けるって選択肢もあるのかもしれないけど……。それを選んだら、たぶん俺、後悔すると思うんだ。俺達の想いまで嘘の上に成り立ってるみたいで」
「うん……。私達の気持ちは本物だって、自信を持って言えるけど、このままじゃやっぱりもやもやする」
「俺はできることをちゃんとして、君と添い遂げたい。父ちゃんがしきたりを守ったみたいに」
「うん……。ありがとう……」
そんな風に考えてくれるリカルドだから、私は好きになったんだと思った。
それ以上言葉が出なくて、私達はもう一度静かに抱き合う。
少し気持ちが落ち着いたからか、疑問がわいてきたので訊ねる。もう列車もないし、あったとしても数時間かかる距離なのに。
「あっちのジュリエッタさんが魔力持ちで。魔法でここまで跳んでもらったんだ」
「そうだったんだ」
魔力持ちの人、会ったの初めてかもしれない。残念ながら、魔法を使ってるところは直接見てないけど。
「ごめん」
「リカルド……」
「俺、もう、君をあんな風に泣かせたり、絶対しない」
「……ううん。ほんとは、リカルドのせいじゃ、なくて。ルーカさんの、シャツのボタンが、掛け違ってて」
「ボタン?」
「なんだか、私達みたいだなあって、思っちゃったの」
リカルドがよくわからないという表情をしているので、まとまらないけど、さっきの気持ちを伝える。
「私、リカルドとすごくうまくいってるって思ってたの。毎日楽しくて、一緒にいるだけでとっても嬉しくて。でも、それは見せかけで、そもそもの最初が間違ってるから全然意味がない、そんな風にこの一年を全て否定されたような気がして。とても、悲しくて、苦しくて、やりきれなく」
「違うっ!」
リカルドが人の話に割り込むように強く否定することなんて、今まで一度もなかったから、とてもびっくりした。
「俺達、絶対……これ以上なく、ぴったりで……」
声がかすれて、リカルドにあまりにも不似合いな、悲しい顔。なんとか、なんとかしなきゃと、強く思う。
「私もそう思う。……気が合うね」
笑おうと思うのに、どうしても笑えない。
だって、どんなに合ってるように見えても、二人が同じように思っていたとしても、私達は運命の人同士じゃない。
リカルドとずっとずっと一緒にいたい。私とリカルドが偶然出会って恋に落ちていたのなら、それはきっと難なく叶う願いなんだろう。
でも、私達は、神託で結ばれた。そもそもの出会いが神の定めた運命のはずだったのに、それが取り違えられていたのなら。一緒にいたいという思いだけで、ただの人間が運命を変えることなんて、できるんだろうか。
やっぱり神託はただのお見合いじゃなくて。「運命の人」という通り名は、伊達じゃないし、重い。
「このまま神託を無視してジュリエッタと暮らし続けるって選択肢もあるのかもしれないけど……。それを選んだら、たぶん俺、後悔すると思うんだ。俺達の想いまで嘘の上に成り立ってるみたいで」
「うん……。私達の気持ちは本物だって、自信を持って言えるけど、このままじゃやっぱりもやもやする」
「俺はできることをちゃんとして、君と添い遂げたい。父ちゃんがしきたりを守ったみたいに」
「うん……。ありがとう……」
そんな風に考えてくれるリカルドだから、私は好きになったんだと思った。
それ以上言葉が出なくて、私達はもう一度静かに抱き合う。
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