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本編・取り違えと運命の人

079 ごはんがおいしくない ①

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「どうぞ」
「おじゃまします」

 結局、正しい組み合わせで帰ることになってしまったから、私の家にはルーカさんが来た。

「夕飯の支度、しますから、座っといてください」
「あ、はい」
「まずは飲み物を用意して……」

 買い置きの炭酸水にしよう、ルーカさんがアルコール大丈夫かわからないし。と、瓶を手に取ってから、自分の嘘に気づいた。
 違う。ほんとは、今日、リカルドの誕生祝いに職場からいただいたワインを飲む予定だったのに。あれ、リカルドの大切なお酒だから、出したくないんだ、私。

「どうぞ」
「……豪勢ですね」
「今日は、一周年のお祝いの予定だったので」

 黙。お互い、しゃべるのが得意じゃないんだろう、それきり会話がなくなった。

 リカルドが今日のお祝いすごく楽しみにしてたから、私、いつもよりも丁寧に、時間をかけて夕飯準備したんだ。リカルド、喜んでくれるかな? 絶対いつもよりもおいしいって言わせてやるんだから! って思いながら準備してたら、全然苦じゃなくて、むしろとても楽しかった。

 今日のスープ、何度も何度も裏ごししてすごくなめらかにしたんだから。とろけるような舌ざわりにできたと思うんだ。野菜の種類多めで風味豊かだし、ダシもじっくり時間かけて鶏ガラを煮てとって、いつもより味わい深くなったしね。

 パンはね、普段だったら高くて買うのためらっちゃうような最高級の強力粉買ってきて、贅沢に香りづけのバターも入れたんだよ。だってお祝いだもの。パン、いつもはパン屋さんで買ってくるから、こねるの慣れてなくてちょっと大変だったんだけど、かなり綺麗にふわふわに焼き上げられたと思うの。

 ご飯ものも好きだから、初日に喜んでたパエリアを作ったよ。いつもケチってあんまり入れないサフランを、少し多めにしたから、今日の、色鮮やかでしょ? お祝いだし、春らしくていいよねって思って。魚介も、新鮮なのを市場で買ってきたから、いいダシ出てるはず。

 魚介といえば、今の時期鯖がよくとれるから、ムニエルにしてみたんだ。やっぱり旬の魚は、脂がのってておいしいよね。

 リカルドはなんでもおいしそうに食べてくれるけど、ほんとは癖のあるピーマンとセロリがちょっぴり苦手だよね。でも、少しでもたくさん野菜とってほしいから、テリーヌにしてみたんだ。肉好きだし、一緒に食べたらそんなに癖も気にならないかなと思って。彩りも綺麗だし。あと、セロリ、実はスープにも入れてるんだ。臭味が消えるし、味の奥行きがぐっと増すから。ごめん、だまし討ちしちゃったけど、許してくれるよね?

 野菜は温めた方が効率よくとれるから、スパニッシュオムレツを作ってみたの。歯ごたえもいいし、卵とトマトソースの色と味の組み合わせは正義だよね。チーズも入ってるから温かいうちに食べようよ。

 ちょっと野菜少ないから、春野菜を蒸したものもたくさん準備したよ。味つけてないけど、手抜きじゃないんだからね! 他の料理が結構味濃いし、春野菜は蒸しただけでも甘くておいしいもの。もし、もの足りなかったら、他の料理と一緒に食べてね。

 メインディッシュは、やっぱりリカルドの大好きなローストビーフ。昨日から準備してたから、食べるの楽しみにしてたよね。一日置いたから、いつもより味もしみてておいしいはずだよ。

 今夜は、そんな風に自慢しようと思ってたのにな。
 なんだかどれを口にしても、砂を噛んだり、泥を飲んでるみたい。
 味つけ、失敗しちゃったかな。
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