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本編・取り違えと運命の人

058 秋は夕暮れ ①

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「旦那さんどんな人なのか見たい! 今度連れてきて!」
「ジュリエッタの旦那さん、ほんとアタリだわ。しかも神託でとか、運よすぎ」
「淡々とのろけるジュリエッタを見る日が来るとは思わなかった。それも笑顔で」

 最近友達と会うたびに言われる三大台詞がこれだ。見事なまでに全部リカルド絡みという……。

「その、のろけてる……?」
「うん。淡々と、でも明確に」
「こんなに表情豊かだって、全然知らなかったくらいの笑顔で」
「無自覚なとこが邪悪」
「リカルド、アタリ?」
「うん。大当たり」
「たぶん恋愛結婚でもそんなにしてくれないよ、普通」
「釣った魚に餌やらない方向に全くなりそうにないところがすごい」
「そんなに見たい? 社交辞令じゃなく?」
「うん。見たい。ここまでジュリエッタを骨抜きにした勇者を!」
「そんだけ影響力あるのに、強引な俺様ではないって、想像が追いつかない」
「いわゆるイケメンじゃないってところがかえってイケメンな感じとみた」
「ごめん、それ意味わかんない」

 友達のアンナ・ビアンカ・キアラの三人は服飾学校の同級生。見た目も性格も作る服の方向性も全く違うので、かえって友情が成り立っている。
 ちなみに、みんなで会っている時、仕事の話は一切しない。たぶん、みんな、純粋に会合を楽しみたいんだろう。

 アンナはレースやフリルがふんだんにあしらわれたデコラティブな服を作る。作る服同様、本人も小っちゃくて可愛らしい乙女な感じの外見で、内面も女の子らしくて穏やか。でも、きちんと自分の意見を持っていて、実は一番漢気があるのではと私はヒソカに思っている。

 ビアンカはこの中で一番普通にモテるタイプ。流行をうまく取り入れた女子力の高いモテ服を作る。本人曰く「戦闘服」。気をつけろ、彼女の服を身にまとった女子は猛禽肉食だ。食い殺された男子たちよ、成仏せよ。

 キアラはコスプレイヤーの神。マニアがいくらでも出すので、たぶん一番の高給取りなんだけど、その分趣味に費やしてるから貯金はないらしい。

 そして私は、地味女子が着る服を淡々と作ってる感じでしょうか。最近はリカルドのアイデアを取り入れて、少し傾向が変わりつつあるけど。

「ジュリエッタ、結婚してからほんとに幸せそうよね」
「ジュリエッタを見てると、結婚よさそうだなあ、したいなあと思うんだよね」
「趣味が合わなくてもなんとかなるんだなあと参考になる」

 これまで恋バナに全然参加できなかったから、会うと肴にされてる感半端ない。
 アンナは長く付き合っている彼氏がいるし、ビアンカはモテるから彼氏途切れないし、キアラは恋愛にあんまり興味なさげだったけど、熱烈な崇拝者にほだされて付き合い始めたところ。

「とりあえず、私が一番に結婚するとは思ってなかった。ビアンカあたりかと」
「んー。どうも、そういうタイプじゃないみたいよ、私。結婚は、たぶん最後か、しないんじゃないかな」

 苦笑するビアンカにちょっとびっくり。なんだって? こと恋愛にかけては、百戦錬磨だと思っていたのに。

「そういうタイプじゃないってよりは、幻想抱かれちゃう感じよね、たぶん。いいようにヤラレるっていうか」
「もう! アンナひどい!」
「まあまあ、ビアンカ、お前がいいヤツだってことは、私らみんな知ってるから」

 なんか、しまった。悪気はなかったけど、デリカシーないこと言った感満載。長く付き合ってるアンナは、長い春過ぎてもし破局したらまずいと思ったから、無難な線で言ったつもりが。さりげなくあしらってネタにしてくれるキアラに、キアラにしとけばよかった!っていうか、一人既婚者の私が、こういうビミョーなネタ投げるんじゃなかった! 私、やっぱり、人間関係うまくない!

「そんな顔しないでよ、ジュリエッタ。今度、旦那さんのお友達でも紹介して?」

 あああ、ビアンカ、その気づかいがたまらなく痛い。ごめん。
 ほんとに、ビアンカ、おしゃれだし、綺麗だし、気配り上手で、優しくて、いい奥さんになりそうなのに。そして、今まで付き合った人もいわゆるモテそうなイケメンばっかりで、みんな最初はいい感じだったのに。とか、こんな勘繰りがまた失礼なんだろうか。そもそも結婚だけが幸せじゃないんだし。

 それからしばらくたわいない話をして解散、ということになったけど、なんだかビアンカに申し訳ないのと、幸せになってほしい気持ちがないまぜになってしまって、いまひとつ集中できなかった。
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