【R18】ハシビロコウによろしく

本編

07 一人でやってみて？ ①

　朝起きてすぐ目に入ったのは、眠っている宮西みやにしさんの姿だった。無防備というか無邪気というか、いつもより表情が幼い気がする。二年先輩だし、いつもきちんとしているから、なんだかレアだ。ツチノコに遭遇したみたいな気分。

　整った顔立ちだし、見ていて飽きないな。そんなことを思いつつ眺めていると、宮西さんの瞼がゆっくり動き、開く。起きた。
　私を視認したと思しき瞬間、宮西さんは目を見開いた。ホラー映画か。
　ガバッと起き上がり、自らの身体を上から覗き込むようにし、さわる。胸と、お腹と、その下も。
　もう一度目が合う。ものすごく気まずそうな顔。ざーっと音が聞こえそうな勢いで顔色が悪くなっていく人を、私は初めて見た。漫画か。

「……渡辺わたなべさん」

　いつもよりも低く弱々しいトーンで名前を呼ばれる。気まずいというより、沈痛な面持ちに変わった宮西さんが、次に発する言葉の想像はついた。

「その……ご」
「合意！」
「合意……」

　謝られたら、みじめになる。そう思ったから、手で制し、みなまで言わせなかった。

「宮西さんは覚えてないかもしれないですけど、昨日、合意、取りましたから」
「……いや……断片的に覚えては……いる、けど……」
「問題ないです」
「いや、でも、女の子の初めてはやっぱり特別だと思うし……。俺はどう責任を取ればいいのか……」

　責任。真面目か。
　ここで「責任取って付き合ってください」と言えば、宮西さんは受け入れてくれそうな気さえする。でも、さすがにそれは良心がとがめた。むしろ私は「好きな人と合法的にヤレてラッキー」みたいに思っていた訳だし。

「もっと気楽に考えてください。私は宮西さんの誘いに合意したから行為に及んだ。それだけの話です」
「いや、でも……」

　手慣れてた割にセックスに対して意外と堅い。やっぱり真面目か。

「じゃあ、もうしばらくお相手してもらえませんか」
「相手って……」
「宮西さん、たぶん上手なんだと思ったし、彼女いないんだし、言葉攻め楽しそうだったし、悪い話じゃないんじゃないかと」

　宮西さんに罪悪感を持たないでほしいと思ったし、何回かすればたいしたことないと思ってくれるかもしれない。
　正直気持ちよかったから、一回で終わらせるのはもったいない気がしてきた。結局弱みに付け込んではいる。でも、処女を盾に恋人になれと迫るよりはマシかと思った。

「それは、都合のよすぎる話だと思う……」
「私にも都合いいですよ」
「え？」

　しまった。「合法的に好きな人とできるから」というのは、さすがにアレな気がする。どれだ。

「ほら、私も彼氏がいないので、練習できて」
「練習」
「そう。練習に付き合ってほしいです。もちろん、宮西さんに新しい彼女ができるか、私に彼氏ができたら、終わり。約束します」

　精一杯、軽い調子で言ってみる。明るい声を出せたから、たぶん表情も大丈夫だろう。
　宮西さんはしばらく迷っている様子だったけど、わかったと頷いてくれた。

　だから、私達の関係は、合意に基づいている。