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03 リサーチ3

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 とりあえず居酒屋を出た。あまりにも色気がなさすぎるから。

「研ちゃん、これからどうするの?」
「んー、美蘭ちゃんを家まで送るよ」

 この期に及んで何を言うんだ、この男は。バッグからスマホを取り出し、掛ける。

「もしもし、お母さん? そう、うん。今夜は帰らないから! うん。じゃあね、おやすみ!」

 電源ボタンを押し、切る。研ちゃんがあっけにとられた顔をしている。ざまあみろ。

「……え?」
「この流れでこのままおしまいとか、ありえないでしょ!」

 研ちゃんはしばらく固まっていたけど、ぼそりとつぶやくように言った。

「……これって、据え膳?」
「今更何言ってんだ、この唐変木トーヘンボク!」
「美蘭ちゃんは、傾向が読めるようでいて、対策が全然わかんないなあ」

 唐変木って罵倒、語感が好きなだけでしょ、と言われる。バレてる。研ちゃんの手を取り、指を絡めると、ゲラゲラ笑われた。全く色気のない。私も大概だが。

「じゃあ、ドラッグストア寄らせて」
「うん。私もいろいろ買う」

 こんな予定じゃなかったから、基礎化粧品も替えの下着も、ない。

「何年も身綺麗に暮らしてたから、まるで準備がない」
「……ん」
「そういう意味で取っていいんだよね? 据え膳」
「……ん」

 ドラッグストアに寄って、数分歩いて、研ちゃんの部屋に着いた。

「どうする? シャワー浴びる?」
「……うん」
「じゃ、着替え」

 研ちゃんはTシャツと短パンを貸してくれた。全然色気ないけど、まあ、仕方ない。

 化粧を落とすべきか、少し迷う。いいや。落としてしまおう。そこまで変わらないし、研ちゃんはすっぴんでも受け止めてくれる人だ。
 シャンプーを借り、髪を洗う。結構使ってしまった。ごめん。
 コンディショナーを塗り、待っている間にボディタオルに石鹸をつけ、身体を洗う。ボディソープじゃないのが、なんだか研ちゃんらしいなと思う。
 昔、鹸化の仕方を教えてもらった。「石鹸って自分で作れるんだ!」と驚いた思い出。それ以来私もボディソープじゃなくて石鹸派だ。

 シャワーは流れ作業だから、早い方だ。上がるの早いから、いつもめちゃくちゃびっくりされる。
 ドライヤーで髪を乾かす。ふっとシャンプーの香りが漂う。
 ああ、研ちゃんの匂いだ。すっきりして爽やかな。なんだかくすぐったい気持ちになる。

 髪が乾いたので部屋に戻ると、テーブルにお茶の入ったコップが置いてあった。

「俺もシャワー浴びてくる。まあ、茶でも飲んでて」

 そう言って研ちゃんはさっさと浴室へ行った。
 研ちゃんがコップについでくれていたお茶をこくりと飲む。

 あまりにも色気がなさすぎやしないだろうか。大体、私、がさつだもんなあ。
 ぼんやりと部屋を眺める。
 この部屋、ものすごく居心地いいな。研ちゃんらしい。
 汚くはないけど、綺麗過ぎなくて。ちょっと雑然としているところに生活感があって。本棚も、専門書だけじゃなくて、小説や漫画があるし。研ちゃんが好きな作品は、派手じゃないけど、何度読んでも面白いんだ。いくらでものんびり過ごせそう。

「なに体育座りしてんの」

 戻ってきた研ちゃんが私を見てゲラゲラ笑う。

「だって、正座は窮屈だし……」
「脚、伸ばせばいいのに」
「あ、そうか……」

 言われた通り、脚を伸ばすと、研ちゃんも脚を投げ出すように隣に座る。
 いつもだったら軽口ばかり叩いている研ちゃんが黙っている。こういう状況は初めてだ。
 うう、何を言ったらいいんだろう。思わず研ちゃんの方を見ると目が合った。
 いつも掛けてる眼鏡がないの、なんだか妙だ。

「来るまでは、あんなに勢いあったのに」
「それは……」

 ものすごくどきどきする。彼氏と二人きりになったことくらい、何度もあるのに。

「美蘭」

 不意に呼び捨てられ、え、と思ったら、唇を奪われた。
 唇が離れ、改めて研ちゃんの顔を見る。いつもとは違う、男の人の顔。

「ずっと、こうしたかった」
「……私も」
「美蘭の匂いと俺のシャンプーの匂いが混じってて、なんか妙な気分になる」
「妙な気分って……」

 もう一度キスされた。今度は研ちゃんの舌が私の唇を割って入ってくる。歯列をなぞり、私の舌を味わわれる。左手で胸をまさぐられて、お腹の奥がきゅんとなる。

「キスせずにはおられないというか、もっと混ぜたいというか」
「研ちゃん、私、もう、キスだけじゃ足りない……」
「ん……俺も……」

 ベッドいこ、と耳元で囁かれて。こくりと頷いた。
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