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本命(ウケ)と浮気相手(タチ)とその彼氏(ウケ)と宅飲みなんて泥酔覚悟で飲むしかない⑤
しおりを挟む右横から聞こえてきた、柔らかく穏やかに聞こえるのに感情の読めない声に身を固める。
帰ってきた缶ビールに口をつけて返事を先延ばしにしながら、水泡に視線を送ろうとした。しかし動く視界の中で水泡は出雲のいるほう、つまりは正反対の方向に向かって横切っていき、すれ違う。
「やきもち?」
急いで二人のいるほうへ振り返れば、たこ焼き粉や卵を入れた大きなボウルをかき混ぜる出雲の背後に水泡は立っていた。出雲の姿はほとんど見えないが、水泡がその肘を指先で撫でているのがわかる。
「違いますよ。実際お二人とーっても仲が良いでしょう?」
耳の裏や、首筋に向かって、水泡が鼻先をすべらせている。出雲は動じることなくそれを受け入れながら刻んでいたネギを生地に投入していた。
「知り合いの医師に……彼のこと、任せてしまったから。定期的に、様子くらい見る」
主治医の進藤先生の顔がパッと浮かぶ。ごくりとビールを飲み込む音が耳奥に響く。
「うそです」
「先生、教えてくれないし……ね。大鳥の様子。守秘義務。でも、迷惑……かけてるから。彼、有名になってしまったし」
「そんなに気にされてるのは水泡さんが隼人のこと大好きだからでしょう?」
「やっぱり、やきもち? かわいい」
後ろからでも水泡の鼻先や唇が、出雲の肌を滑って移動していくのがわかる。でもそれしかわからない。表情は見えないし、出雲が怒ってるのか悲しんでるのか、水泡が飄々としているのか愛おしい目を向けているのか、わからない。肘を撫でられる出雲の腕が時折ピクっと震えてる。
「おい、隼人」
こそりと小さな声をした玲児に服の裾を引かれ、はっと振り返る。
「あちらにいよう。具は切ってあると言っていたし、食器類は用意ができた。待っていればくるだろう」
「あ……そだな」
「まったく、相変わらずだな。あの二人は。見てるこちらが気まずい。口付けだしたらたまったもんじゃないぞ。早く行こう」
「ん……」
冷蔵庫を開けて、追加で二缶のビールを取り出してからキッチンをあとにする。冷蔵庫開けて壁になっていたからその時はわからなかったが、閉めてキッチンから出ようとした時に玲児の言う通りキスしてた気がする。ちゃんと見てないからわかんねぇけど。
未開封のビールのうち一本は玲児に渡し、リビングのソファーに座るなりビールを飲み干してもう一本を開ける。すきっ腹なせいか身体の中を冷たいビールが流れていくのを鮮明に感じる。胸の真ん中から、腹に流れていって、すぐに肌表面まで熱くなっていく。
――水泡が俺と飲んでたのって、元々はそういう理由だったのかな。
だったらなんなのだという話なのだが、ビールが流れてくのばっかり感じているこの身体の芯を何故だか寂しくする。
あっちもくっついていたし。
そんな意味のない言い訳を頭でしながら隣に座る玲児と距離を詰め、寄りかかる。玲児細い。細いから実際より小さく感じる。頼りない、自分より弱いものだけど、そんな彼に受け入れられるのは嬉しくて、甘えたくなる。
「どうした?」
「なんも。ただあいつらの前なら俺らもくっついていいじゃんって思って」
「むっ? いや、それもどうなんだ? 知ってればいいと言うわけではないだろう」
「いいだろー別にさー」
「まったく……甘えんぼめ」
「へへ」
ビールを啜りながら、冷たく華奢な指を絡めて手を握る。力を何度も入れてにぎにぎとする俺に玲児も恥ずかしそうにちょっとだけ応えてくれる。
「なぁ、隼人」
「んー?」
自分の肩に凭れる俺にグッと顔を近づけ、玲児は再び声を潜めた。
「加賀見が浮気をしていると出雲が言っているのだが、何か知ってるか」
「はっ……」
「それで過敏になってしまっているんじゃないか。お前に対してもあんなふうに言うとは……だが実際、お前たちは仲がいいだろう? 何か知らないか。加賀見の交友関係など狭いだろう。急に誰かの話をするようになったとか、職場に新しい人間が入ったとか……」
固まってしまった俺に玲児はどんどん話を進めるが、俺は寄りかかっていた身体を起こして目を白黒とさせながら玲児を見つめ返すしかできない。
玲児は何も知らない。心配そうに眉根を寄せ、ただ一生懸命に思い当たることが俺にないか探っている。
浮気がバレたら女が相手だと誤魔化せるようにとそればっかり考えていて、まさか水泡サイドから詰め寄られるとは思わなかった。水泡の浮気に出雲が苦しんでいることでさえこんなに悲しそうな顔をするなんて考えてもいなかった。
「なんも知らねーよ。出雲の勘違いじゃねぇの? あいつが浮気とかねぇだろ」
アルコールを入れながらそう返すだけで精一杯だ。
「確かにそうですよね、水泡さんと交流があるのなんて隼人だけです」
背もたれの後ろから聞こえる声に玲児だけが振り返る。ああもう立ち上がりたくない。来るんじゃなかった。楽し
みにしてる玲児を気遣わないでやめさせればよかったんだ。いいことなんてあるわけないのに。
今日これから何回、心臓にナイフを突きつけられるんだ?
「用意ができたのでたこ焼きを焼き始めましょう。玲児くん、ひっくり返して丸くするのやりたいっておっしゃってましたもんね」
「む! それはやってみたいぞ。教えてくれ」
すっと立ち上がった玲児は出雲のほうに近づき、耳元で何か声をかけている。聞こえなかったが、大丈夫かと気遣っているのだろう。
出雲は玲児の声に耳を傾けながら、横目で俺を見てる。常に笑っているような柔和に細めた目は、既に疲れきった俺を自業自得だと笑っているみたいだ。
唇を固く結んで、立ち上がらなきゃと思う。
しかしソファーの背もたれに顎を乗せ胸をくっつけて、体重をかけた上半身を起こせずにいる。すると目の前にホタテやら海老の乗った平皿がスッと現れた。
「手伝って」
顔を上げれば水泡が俺を見下ろしているのだろう。でも見れない。出雲が切り分けてくれた具材を凝視していると海老の赤と白の縞模様が浮かび上がってくるみたいで、ちょっと気持ち悪いなと思いながら皿を受けとる。
そうやって空いた片手が俺の頭に乗ってくる。よし、よしって二回撫でて、離れてく。
「君もおいで」
身体の重心が下腹部のほうへ落ちてく。やらしい意味じゃないと思うけど、むずむずして。安心すると同時に溢れそうになる。
やっぱり上を向けないで、黙ったまま小さく頷いた。
四人でダイニングテーブルについてからは玲児にたこ焼きの焼き方を教えるのに出雲も忙しそうで俺に噛みついてくることはなくなった。
縦四つ横五つの円が並んだ一回で二十個のたこ焼きが作れる鉄板の上に生地を広げ、そこに水泡がポイポイと具を入れ、出雲が竹串で器用に焼けてきた生地をくるりと回して手本を見せ、玲児がそれを真似てみる。それだけなのだが、俺の皿の上には今、たこ焼きともお好み焼きとも言えないぺろんと広がった生地の上に堂々と姿を見せつけるタコの足が五つ並んでいる。ちなみにプレートに生地を広げるのはすでに三回目である。
「すまぬ隼人……次こそはきれいな丸いたこ焼きを作るぞ!」
「んー、いいよぉ、別に……味はうまいし、玲児が焼いたって感じでかわいいし、写真撮っちゃお」
スマホを取り出してぱしゃり。うん、いい出来。ぐちゃっと具合がいい。これだけでしょんぼりした玲児の顔が目に浮かんでニンマリしてしまう。
「玲児らしいとはなんだ! 難しいのだぞ、貴様もやってみろ」
「やんねぇよ、たぶん俺一発でできるもん、玲児が落ち込んじゃうじゃん。落ち込む玲児も可愛いけどなぁー」
椅子から腰を上げて真剣に鉄板に向かう玲児の腰に抱きついて顔をずりずりごしごしと擦り寄せたら「こら危ないぞ!」と怒られた。ちぇっと舌打ちをして酒を呷る。ビールが合うと思ったけれど、コーラハイボールもいい。ソースじゃなくて醤油たらしたら日本酒も合う。たこ焼き最高。
「あの。ちょっとほっといたらいつの間にかその人酔っ払ってません?」
「そうみたいだ……そんなに弱くないはずなんだが」
「え? 俺? いっぱい飲んだけど別に酔ってねぇよ? ほら角瓶空けちまった! こーれーはー、日本酒ぅー」
「貴様! それは飲みすぎだ!」
「大丈夫だって……なーたこ焼きなんて出雲に焼かせとけよ、玲児は座ってろって。ほらーなー膝乗るかぁー?」
「乗らん!」
「ちえー」
膝には座ってくれないらしいが腰に抱きつく俺を振りほどくことはなさそうなので薄い尻を撫でる。やめろと言われたけど知らない。別にいいじゃん、俺たち恋人だし。こいつらも知ってるし。なんか凄いくっつきたいし。
玲児に顔をくっつけながら、ちらりと横目で向かいに座る加賀見を覗き見る。
頭撫でてきたくせに、あれからちっともこっちを見やしない。話しかけもしない。俺もしてないけど。出雲はさっきのヒヤヒヤする態度とは打って変わって玲児とキャッキャッしてるし、意味わかんねぇ。でも油断できない。来た瞬間から圧力かけてきたんだ、いつ豹変して変なこと言い出すか。
みんながたこ焼き作ってくれるから俺はやることがない。ただ玲児が生焼けとか大きな穴の空いたたこ焼きを量産するのだけが癒し。でもそれだけではこのストレスをカバーできず酒が進む。進む。進む。進む。
「隼人離れろ……俺も座るから」
「なぁー玲児のたこ焼き可愛いけど食いにくいから食わせて」
「なっ、貴様、あーんしろと……?」
「あーんだって、玲児かわいー超好き大好き」
席に着いた玲児に改めて抱きつくが、肩を押されて剥がされる。
「ちょっと落ち着け、恥ずかしいだろう!」
「いーじゃん! あいつらだってさっきキッチンでなんかエロかったし!」
二人を指さして再びチラと加賀見を見る。しかしなんも気にせずにたこ焼きをもくもくと咀嚼してビールで流してる。ほっぺ膨らませてるんじゃねぇよ、なんかムカつくなオイ。なんで俺ばっかお前のことチラチラ気にして見てんだよ、マジやだ。くそむかつく。
「ううー、玲児ぃ」
「むっ、おい、人前で抱きつくな!」
「隼人、玲児くんが困ってますよ」
「うっせばーか!」
「ほら、たこ焼き食わせてやるから落ち着け」
背中をさすられながら離れるように促され、あーんと最初に生地だけのやつ、それに続いて具を口に入れられる。
もぐもぐもぐ。うまい。
「別で具と生地食うの面白いなー玲児天才じゃね? 新しいたこ焼きじゃん」
「それは天然なのか馬鹿にしてるのかどっちなんだ」
「んんー? うまいよ」
「まったく……」
あっ。と口を開ければまた玲児が食わせてくれる。玲児の皿に乗ってるやつも。玲児もう腹いっぱいなんじゃねぇかな。小ぶりだけど十個は食べてたもんな。俺がいくらでも食べてやるから大丈夫だけど。
任せとけの気持ちでニコッと笑ったら、玲児は頬をちょっとだけ赤くしながらムッとした顔をして頬をつねってきた。なんでだよ。
「能天気でいいですねぇ。俺もお酒飲もうかな」
「いや貴様はやめておけ。酔っ払いがこれ以上増えるのは勘弁だ」
「一杯くらいなら大丈夫ですよ。お仕事でも少し飲んでますから」
鉄板にまた生地を流しながら語る言葉に違和感を感じ、咀嚼しながらじっと出雲を見つめる。瞬きする度に視界が狭くなるというか、瞼が重くなるというか、目がちょっと開きづらい。
「な、なんですか。変な顔してじーっと見ないでください」
「しごとぉ?」
「む、加賀見から聞いてないのか。出雲は今外に出て仕事をしているんだぞ。凄いだろう」
「へ……そと……? なんで? 出ちゃだめだろ?」
ゆっくりと首を動かして水泡を見る。しかしやっぱり俺を少しも見ることはなく、隣にいる出雲に顔を向けている。
出雲はそんな加賀見を伺うように顎を引いて上目遣いに見たあと、その角度のまま俺を見る。
「アルバイトなんですが、始めたんです。社会復帰しようかと」
「はぁ? なんで?」
「先生に頼りきりになっちゃいますから」
「それがいいんじゃねぇの?」
「だって……万が一のことがあったら俺、一人で生きていけませんし」
「万が一ってなんだよ。加賀見が死ぬとかぁ?」
「おい、やめろ隼人」
つい、と袖を引かれて玲児の方を見たら、口パクで「さっき話しただろう」と言われた。それに対して「はぁ?」と返したところで口にたこ焼きを放り込まれる。口封じだ。うまいね。
じゃなくて。
なんだよそれ聞いてない。どんな話の流れでそんなことになったのか知らねぇけど、そんな大事件あったなら俺に少しくらい話せばいいだろ。なんでなんにも話してくれないんだよ。
今度は盗み見るみたいにじゃなく、堂々と加賀見を真正面に見据える。
目の前に並ぶキリンクラシックラガーと黒ラベルの空き缶のあたりばっかり眺めていて、目を伏せっぱなしで何も見やしない。
この間会った時、こいつどうだったっけ。頭が回んない。玲児とセックスしたことで皮肉を言われたのは機嫌が悪かったからか。でもそのあとはいっぱい甘やかしてくれたのに。
「出雲の働いてるところなんだがな、とても洒落た店なのだ。たくさんお酒を扱っていて、店員さんが美男美女ばかりだ」
「そうですね、オシャレで素敵なところですよ。ミックスバーってご存知です? 色んな性指向を持った方がそれをオープンにして働いている……」
「知らねぇ」
加賀見がこっちを全然見なくても構わない。じっと見続ける。なんで俺に何も話してくれないんだよ。
「俺も一度行ったぞ。いい店だった。店長さんが見た目はとてもこう……妖艶というか、近寄り難いのだが話すと気さくな人でな」
「バーを経営されながら彫り師もされてるので、見た目がちょっとイカついんですよね……話すと本当に優しい方なんですけど。ワンポイントで可愛いデザインもあるので俺もタトゥーいれちゃおうかな、なんて」
「だめ」
玲児が俺をなだめているため一人でたこ焼きを転がしながら肩を浮かせて茶目っ気たっぷりに冗談を言う出雲に、隣に座る男は微動だにせずせず伏せ目のまま、ぴしゃりと低い声を響かせる。
「ここにいるうちは、だめ」
「いますよ、ここに」
水泡の一言で全員が息を飲む中、だしの焼ける香ばしい香りとジュージューと食欲を刺激する音があまりにも場違いで、そんなリビングにぽつりと零れた出雲の声は吐く息の余韻が残る寂しいものだった。
「なら、だめ」
「冗談ですから……」
鉄板を乗せたカセットコンロの火を止める音をカチンと鳴らすと、ますます静かになって。できあがったたこ焼きを誰もとることもせず、ただ見つめ、気まずい空気が流れる。
隣にいる玲児だけが、静かにきょろきょろと首を振って俺を見たり出雲を見たりしているのが可哀想だった。
「な、なぁ隼人。彫り物をする予定はないが、出雲を見に今度一緒に行かないか。どんなものが飲みたいか話せば良いカクテルを選んでくれるし、特別なものも作ってもらえるぞ」
「行かねぇし」
「いらしたらいいじゃないですか。玲児くんとでも、水泡さんとでも。水泡さんもまだお店にはいらしてないんですよ」
「行かない」
再び、静寂。
焼き音もなくなって、今度はキッチンの換気扇すらうるさく感じるほどのだ。
ずっと水泡を見ていて、やっぱり本当は出雲が外に出て働くことなんて認めてないんだってわかった。食ってる間も静かだったし俺を見向きもしねぇけど、出雲を手伝ってる時の息の合い方はさすがだと思ったし、玲児が一生懸命焼いてるとこもちゃんと見守ってやってた。
しかし今は微かに、わからないほど微かに眉根を寄せて、空き缶がある空間にただ目を向けてるだけ。
気に入らないくせに黙って好きにさせているんだ。
なんで。なんでだよ。出雲のこと独り占めにしたいくせに。誰にも見せたくないくせに。なんでだよ。
目の前のグラスをぐっと飲み干す。あ、やば。入ってるのハイボールじゃなくて日本酒だった。むせそう。いや、なんとか堪えた。そして。
「なんでだよ、なんでだよぉ、みなわぁ!」
立ち上がった瞬間、押し黙って空虚を見ていた全員が弾かれたように顔を上げる。目を丸くして俺を見あげてる間抜け面だ。あーもう、イライラする。
「おまえ出雲のこと愛してんだろ! だから閉じ込めてさ、ほらTシャツ一枚にノーパンとか変態オヤジの趣味みたいな格好させてさ、でもなんか楽しくやってたんだろ! 監視カメラまで仕込んで家にいる出雲見てニヤニヤしたキッショい顔してスマホで見てたじゃねぇか! いつも! いつも! いつも!」
「おい、隼人、どうした。落ち着け。とりあえず座れ」
「うるせぇよ!」
また袖を引かれたが腕をぶんと思い切り上げて振り払う。
「やなんだろ?! しんどいんじゃねーの?! 外出るなって言えよ! 家出したくらいで俺に泣きついてきてたくせに!」
あれ、なんか。水泡のキョトンとした顔見てたら、なんか。
腹ぐるぐるして、頭もくらくらするし、なんかなんか、胸も苦しいし痛いし、冷や汗出てきた。
頭に血が上って熱くて、泣きそうで、でも泣くっていうより溢れ出してて。
急にスコンと力が抜けて、その場にしゃがみ込んだ。
膝抱えて顔沈めて、しゃがみ込んだ。
背中さすられてる。でも違う。違くて。
「うー、おしっこ行きてぇ!」
「むっ?! おしっ……む?!」
「はっ!? 気持ち悪いとか吐きそうとかじゃないんですか!?」
緊張感でビリビリと電気が走りそうなくらいだった空気感に「おしっこ」という幼児語が突然飛び出し、仰天してその場でずっこけそうな勢いで二人は上擦った調子外れな声をあげた。
そんな中、落ち着いた様子でガタリと椅子を引く音が聞こえてくる。
トン、トン、トン……ゆっくりとした足音。歩幅が大きいからゆっくりで十分。自分の腕の隙間から見えていた床に、つま先が現れる。
「トイレ、行こう?」
「ばかみなわ」
「む、加賀見。吐いたりして迷惑をかけたらいけない、俺が連れて行く」
「いい。君じゃ……彼のこと、支えられない」
おい、水泡、ずっと背中をさすってくれてる玲児になんてこと言うんだよ。でもちょっと今言葉でないから何か言ってやれ玲児!
「危ない……から。どいて?」
しかしそんな俺の思い通りにはいかず、何故か玲児は黙ったままで、俺の身体はふわっと浮かび上がった。その瞬間にゾワッと鳥肌が立って、本能的に水泡の身体にしがみつく。首と……足、だろうか。落っこちないようにコアラが木にしがみついてる感じになっていると思う、たぶん。
「うん。そうやって、掴まってて?」
ぎゅっと力を入れ直すと、こくんと水泡が頷いたのが肩に伝わった。そしてあの、後ろ向きにずんずん進んでいく、運ばれてる不思議な感覚が始まる。
面白い。これ好き。楽しくてふふって笑い声が盛れる。愛されてる子供になったみたいで嬉しいんだ。
あれでも今ってなんだっけ。
ここホテルじゃなくね。
そうだよ、さっきまで玲児になんか言ってやれって思って。
「みなわ、ここどこ?」
「トイレ」
「あ、ションベンすんだった」
「そう。できる?」
「うん」
すとん、と床に足がつく。目の前には水泡の顔。なんか嬉しくなってへらっと笑うと、水泡も眉を平べったい八の字にして笑った。
「ちゅーしよ」
「しぃ……」
「んん?」
「漏らしちゃうよ?」
「そうだ」
ズボン下ろして、パンツ下ろして、ちんこ手で抑えてーってしてたら、水泡がシャツ汚れないようにたくし上げてくれた。
「出るとこ見るなよなぁ……」
「見ない。ほら、おいで」
「ん……」
水泡から股間が見えないようにギューって腹に抱きつく。その状態で頭頂部から後頭部にかけてたっぷりと頭を撫でられながら、用を足す。恥ずかしいけど、酔ってる時だけ甘えられる特別なやつ。
一人の時はそんなことないけど、水泡に抱かれながら漏らしちゃうことが増えたせいかこうやっておしっこするのが少し、少しだけど、気持ちいい。ゾクゾクってする。水泡には言ってないからバレてないと思う。さすがに恥ずかしすぎるし。
「気持ち悪くは、ない? 吐かない?」
「へーき」
「酔ったらだめ、て……言ったのに」
「んー?」
「君のために、バレないようにしてるんだよ?」
「水泡こっち見ねぇから寂しかったぁ……」
「加賀見……でしょ。二人、驚いてた。さっきも、今も……」
「水泡いんのにくっつけねぇのやだ……んんぅー」
「聞いてる?」
「はぁー?」
「隼人、声。大きい」
「なんだよ、うるせぇなぁっ、んむッ!」
え、あ、あれ、水泡の腹に顔くっつけてたのに。
急に顎掴まれて、力ずくで真上向かされて、唇押し付けられた。キスされた。
その瞬間、ガチャッて扉の開く音がして、心臓が跳ねる。目の神経が痛くなるくらい眼球必死に動かして、水泡の背後を見るが、ドアは開いてない。人が、そうだ、ここ水泡の家。廊下の扉だ。
俺バカだ。
酔っ払って、小便したくなって、いつも通り水泡に連れてけって。焦る。焦るけど、そんな簡単に酔いは冷めなくて、くらくらして、まだ思考はゆっくりで、ぬるっと舌が入ってくると、すぐそっちに神経引っ張られて。
あ、気持ちいい。だめ、裏あご。あ、あ、やだ、しょろろって、もう止まってたのにまたおしっこ出ちゃ、あ、はずかしい、やだ、やだ、や、下の歯の裏側、根っこ、そこもゾクゾクすんの、たまんない、大好き。
耳たぶ、耳の穴をくすぐられる。下半身疼いてたまんなくなる。ビクッビクッて内股にした膝が何度も跳ねて、こんな状態なのに。
コンコン、て。
外からノックが響いた。
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