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【番外編】プレゼントは洒落たケーキと煙草に唇

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※※※※※※※※※※※※※




ここで本編の途中ですが、また番外編を挟みます。

すみません。



5月20日は隼人の誕生日!!



……ということで、誕生日小話です。





小話を書こうと思ったら、うっかり2万字近くのしっかりお話になってしまいました。

時系列としては今行ってる旅行よりはあとの誕生日……ですね!



楽しんでいただけましたら幸いです!

隼人、誕生日おめでとう!





※※※※※※※※※※※※






 ドラマの現場にはいまだに慣れない。
 それもそのはずだ、出演した作品の本数でいったら今回でまだ四作目。しかもそのうち一つは連続ドラマの一話にしか登場しないモブみたいな役だったし、その他の作品も刑事モノのゲストキャラや特番の二時間ドラマだったので、撮影現場に参加する機会がそこまで多くなかった。
 今回は初めての映画で、芸能界にもともと疎かった俺ですら昔から知っているような大御所俳優も共演している。
 雑誌の撮影現場のように知った顔が多いわけでもなく、CMの撮影現場ほどの慌ただしさもなく、待ち時間も多い……にも関わらず、さっき長回しの台詞でNGを二回出してしまった。例の大御所俳優と自分の掛け合いで、彼の顔を間近にして珍しく緊張し、気圧された。
 別に怒られたわけでもないし、一発撮りできると期待されているシーンでもなかったようだったが、あれだけ台本確認したのになと、ただ単純に情けない。
 シーンは切り替わっていくので、引きずるわけにもいかない。だが強制的に気持ちを切り替えなきゃいけないということにはある意味では助けられた。おかげで今日の撮影はこれで終わりである。
 時計を確認する。まだ午後四時を回ったところだ。落ち込んでいたがその実かなり順調に進んでいたらい。

 ――水泡、定時上がりは厳しいって言ってたよな。なんか軽く食ってくるか。ホテルのチェックインの時間は……。

 そう。今日はこのあと水泡と会う約束をしている。
 いつもよりいいホテルなんか予約して。
 ケーキも注文したって言ってた。なんか洒落たやつがいいってリクエストしてみたけれど、それであいつがどんなチョイスをしてくるのか楽しみだ。ケーキ自体が凝ってたり珍しいやつか、それとも見た目が綺麗なやつか。キャラケーキとか、缶に詰まったケーキ持ってきたりして。
 なんでいいホテルにケーキかといえば、二日前に俺が誕生日を迎えたからである。
 色々あって二日遅れのお祝いだが、全然いい方だと思う。二日なんて誤差だよな。
 しかし、だ。
 スタジオにいるスタッフたちが急に手拍子をし始めた。そしてまばらに口ずさみ始めるバースデーソング。

 ――ハッピバースデートゥーユー……

 自分だろうと瞬時に理解する。ドラマの現場では初めてだが、この手のサプライズを受けたことはもちろんある。
 初めての時は真っ白い生クリームに真っ赤な苺が乗ったド定番なバースデーケーキだった。
 無理に食って車で移動中に気持ち悪くなり、次の現場は遅刻するわ和人さんの車汚しそうになるわで他方に迷惑をかけてしまった。
 その次からは和人さんが根回ししてくれるようになり、山のように積まれてデコレーションされたマカロンや、からあげとかフライドチキンとかピザが出されるようになった。
 なら何故こんなに脂汗が滲むような嫌な感じがするのか。
 この現場で和人さんが同行してくれたのは最初の一度のみで、そのあとはサブマネと一緒に行動しているからである。
 ガラゴロと硬いタイヤを転がしながらワゴンが背後に迫ってくる。
 手拍子している中には件の大御所俳優だけではなく、この人の前ではいい子にしてろと和人さんに注意された少し曲のある舞台役者なんかもいる。

 ――ああいやだ振り返りたくない。振り返りたくない。振り返りたくない!

 念じる意味もなく、戸惑いの隠しきれないニヤけ顔をして振り返る。

 ――Happy Birthday 隼人くん

 そうしてチョコレートでできたプレートの文字だけがやたらとくっきり浮かび上がって見えるケーキをこの目に映し、満面の笑みを作るのだ。





 先に部屋に入ってるから仕事が終わったら連絡しろ。
 それだけメッセージには残した。

「おまえの為にこんなホテルとってたわけじゃないってわかってんによくついてくるよなー……」

 さっきの現場にいたアイドルグループに所属している女を見上げながらそんなことをボヤく。
 さっきまで私立のお嬢様っぽい制服(衣装だから制服風だが)に身を包まれていた身体は、今では白い肌のすべてが隠すことなく灯りの下で曝け出されている。光を反射しながら肌の上を滑り落ちていく汗の粒までよく見える。

「隼人くんこそどうして連れてきたの? 彼女に悪いじゃん」
「時間潰しに決まってんだろ、そんなもん……」
「本命の彼女はいつ来るのー?」
「本命も彼女もいねーよ、馬鹿か」
「その馬鹿に興奮してこんなにおっきくしてるくせにぃー」
「無駄口叩いてないでもっと動けって。おらっ、頑張れ、頑張れ、うーごーけっ!」

 掛け声に合わせて俺の上に跨る白い太ももを肉が震える程に平手で打つ。手のひらにピシャンと響く感覚も、叩かれて締まる膣もいい感じだ。

「や、叩かないでよぉ、叩かないでぇ」
「うっせぇな、ハメ撮りすんぞ」
「あっ、それは絶対だめっ!」
「ハメ撮り晒すなんて言ってねぇじゃん、俺に誕生日プレゼントだと思ってエロいかっこして」
「やぁあっ……! うぅー、やだぁー、こういうの嫌いなのに隼人くんに言われるとドキドキしてやばぁーい……っ」
「いいよ冷めるからそんな媚び売んなくて……お」

 動きもトロいしマジでハメ撮りしてやろーかなと枕元のスマホを手に取れば、水泡から「仕事終わった。お店いくつか寄って向かう」と三十分前に連絡が入っていた。
 さすがにまだすぐには来ないだろうけど、一旦〆るか。

「突き上げてやるから身体倒して。ほら、こいって」

 騎乗位する女の腕を引いて抱きしめるように身体を固定する。そして下からガンガン突き上げた。これぐらいやらないとイける気がしない。
 テクニックはイマイチだが、この女の肉付きはいい。業界で出会うのは細い女が多くてガッカリする。掴めば指が脂肪に沈む、この感覚が好きだ。指の跡つけてやりたくなる。

「な、こんくらい動かすんだよ……わかったか? 喘いでないで返事くらいしろよ」
「あっあっわかった、わかったからっ、待ってぇ!」
「待たねぇよ、このままイクっつーの……お前もイケよ、お前のまんこ気持ちいいよ。あーそうそう、そうやって締めとけ締めとけ、ん、いい子……」

 いい子、つったあと「うわ水泡みてぇじゃん!」て寒気した。あーキモイキモイ、でもいつも言われてるせいかふとした時に同じような言葉を使ってしまう時がある。
 ビクビクしてる女の頭を撫でながら、女と自分が重なる。
 さっきまで心のどっか遠い部分で、叔母さんと重ねてたのに。
 手つきが優しくなる。乱暴にできなくなる。けれどその反面、少し手を下ろして首を絞めたくなる。
 水泡にこんな風にぐっちょぐちょになってる奥ぐりぐりと捏ね回されたい……――
 中を意識した途端に腰周りがゾクリと震え、コンドーム越しに射精した。
 息を荒げながらスマホをまた確認すれば「部屋番号は」とメッセージ。

「なぁ、まだいける?」
「ちょっと、ちょっとまって……いまむりだよぉ」
「つかさ、3Pていける人?」
「いけない人ぉ……」
「そっか、そりゃ残念」





 三人でするのは断られてしまったが、面白いからインターホンが鳴ったらお前が出てそのまま帰れと女に言えば、彼女は渋々ながら了承してくれた。
 どんな女がくるのか興味があったのかもしれない。まぁ女は来ないんだけど。

「……どうゆうこと?」

 そうしてやってきた大男は見知らぬ女を見て首を傾げた。女も女ででっかい目をまん丸にして俺と水泡の顔を交互に見て口をあんぐりと開けている。

「えっ、えっ? 隼人くんそっち系?」
「ばーか、これから別の女呼ぶの」
「えー! 隼人くんのことだから女2人の3Pかと思った! いがーい!」
「うっせぇなぁ、デケェ声出すなよ。ほら帰れ帰れ。また撮影の時よろしくな」

 謎に二人が会釈して女は去り、水泡は部屋に入り扉は閉まる。二人が頭ぺこってやってるだけでめちゃくちゃ面白く、俺はベッドに転がったままゲラゲラと笑っていた。
 水泡はそんな俺を一瞥し、明らかにケーキの入った箱と他にも様々な形をした、だがどれも品のいい綺麗な持ち帰り用の紙袋をテーブルに置いた。

「別の女の子……呼ぶの?」
「は、呼ばねぇよ。呼ぶわけねーじゃん、帰らすための嘘だって」
「そう。こんなことするくらいだから……本気かと、思った」

 スーツのジャケットをソファーの背もたれにかけながら「シャワー浴びてくる」と言う水泡はずっと俺を見ようとしない。

「いいよ、シャワーとか。早く来いよ。待ちくたびれた」
「待ちくたびれた? 待ってたの? 僕のこと。へぇ。そう」

 あくまで語り口調は淡々としているが、やっと俺を見た水泡の目は明らかに怒りを含んでいた。眉根をやや顰め、責めるような眼差しで俺を見る。
 早くこっちに来て欲しいのに、ソファーの片隅に立ったまま。

「待ってたよ。すげー会いたかった」

 水泡は何も言わない。
 ソファーに座ることもせず、その場で煙草に火をつける。

「なぁ、ケーキ何買った? ちゃんと洒落たヤツ?」

 ケーキ、楽しみにしてた。去年食ったフルーツいっぱいのチーズタルトが美味かったから。バースデーケーキ美味いじゃんって思ったから。
 それなのにケーキと自分で発しながら、目の前がぐらりと揺れて胃の中がぐるぐると回る感覚に襲われる。あ、やばい。やばい。

「くさい」
「……え…………?」
「知らない……匂いがする。香水。あと汗と、女の子の匂いだ。君の匂いも混ざってる。くさい」
「あ……ぇと……」

 薄暗い暖色の灯の下なのに、カメラのフラッシュが繰り返されるみたいに何度も目の前が真っ白になる。

「セックスしたのが、わかるにおい。その中に君の匂いがするんだ。なんて気分にさせてくれるんだ、君は…………はぁ」
「みなわ……」

 喉元まで込上がってくる。やばい。

「隼人?」

 口を抑えて蹲るのを見て、水泡はまだ長い煙草をすぐに灰皿に押し付け駆け寄ってきた。丸まった背中に大きな手のひらが乗る。それだけで目頭がぐっと熱くなった。

「きもち、わるぃ、といれ……」
「ああ……ほら、おいで……そんなに口抑えたら、もっと気持ち悪くなる。間に合わなければ僕の手に出してしまってもいいから、おいで」

 全てを拒絶するような、つららのように冷たく尖っていた声は、この瞬間にとけた。
 背に腕を回し脇を支え、俺の顎周りをゆるく覆いながら立ち上がる。そのまま引き摺られるようにトイレまで連れられていき、便器に顔を突っ込む勢いで抱え込む。
 苦しい、苦しいのに何も出ない。
 出してしまいたい。
 あからさまに甘ったるくて、やたらと飾り付けたバースデーケーキ。
 いま、俺の腹の中で見る影もない醜い姿になって、胃液と混ざった汚物。
 出したい。出ない。嘔吐いては目が熱くなる、そればかり。

「寒くない?」

 女を抱いたまま全裸だった俺の背をさすりながら、背後にぴったりとくっつく水泡。抱きしめられているみたいで少し安心する。

「みなわぁ……」
「うん?」
「ごめんなさい」
「うん。そうだね」
「怒んなよぉ……」
「ううん、怒る」
「やだぁ、俺悪くねぇもん、悪くない、お前来るの遅い」
「僕の可愛い子は……いい子で待てができるはずだよ?」
「できねぇのぉ……ばか、ばかっ……!」
「まったく……」

 ため息混じりのあきれ声。しかし背中をさする手が頭をたっぷりと撫でてくれて、胃の中で暴れる高波が少し穏やかになるのを感じる。
 それでも治まらない吐き気に呻くが涎しか出ない。苦しい。生理現象としての涙が溢れる。

「……大丈夫? 出ない、ね。やめる? 出したい?」
「ン、ゔぅ……みなわぁ、みなわぁ……出したい、腹ん中からっぽにしたい……っ」
「うん。指、入れるよ? 汚していいから、出せるなら、出すんだよ?」

 こくこくと頷いて、背後から顎を掴まれるようにして入ってきた人差し指と中指を受け入れる。長い指が奥までぐっと入ってきて、喉をゆすり、出入りする。
 苦しくて堪らないのに、ふわっと後頭部が浮くような感覚が降ってくる。
 その直後、腹の中のものがぶちまけられた。
 胃から逆流してくる気持ち悪さの中に、ある種の開放感がある。吐き出す自分を他人事のように見るような、思考が自分の身体から乖離するような、不思議な感覚と気持ちよさ。

「いい子だね、ちゃんと出せた」

 肩で息をするので精一杯で、水泡に反応することができない。今は止まっているけれど、たぶんまだ波がくる。
 水泡は汚れないようにか俺の髪を片側ずつ丁寧に耳にかけながら、息がかかるほどに唇を寄せてきた。

「隼人……? おちんちん、立ってる。気持ちよかった?」
「はぁ、はぁ、ぁ……」
「かわいい。ケーキ、食べたの? 生クリームと、いちごの。可哀想に。我慢して、食べちゃったの? 辛かったね。頑張ったんだ。いい子だね 」

 いい子だね、と言われて、嘔吐いて出たのとは違う涙が今度は溢れる。しゃくりあげて、鼻水垂らして、子供みたいに盛大に泣き始めてしまった。
 もっと、もっと早く水泡に会いたかったよ。女なんか抱いてないで、すぐに水泡に抱きついて、いい子だったねって言われたかった。肺が震えて苦しい。苦しいよ。

「う、おれぇ……きょ、かずとさん、いなくてっ…………えらいひと、いっぱい、いて……っ! みんな、おれたくさん食うの知ってるから、たくさん、食べた…………えらい?」
「うん、頑張ったんだね。でも、もう無理しちゃ……駄目。来年は、こんなことないようにしないと。ね? 心配になっちゃうよ?」
「ん、あっ……や、みなゎ……ちくび、やだぁ……」
「うん?」

 いいこいいこするみたいに、人差し指の爪が触れるかどうかスレスレで胸の先を引っ掻いてる。やだ、やだ、て言いながら腰がビクッと小さく何度も跳ねる。なんだか刺激に敏感になっている気がする。

「隼人、もう出ない?」
「ぇ、あ、あ…………まだ、出した、ぃ……」
「また指、入れていい?」
「え、おぐッ」

 返事も待たずにずるりと指が入ってくる。喉奥を掻き回しながら、親指と人差し指を使って優しく乳首を摘んで扱かれて。
 頭ん中はぐちゃぐちゃになって、胸と連動して下半身は甘くとろける。
 乱暴な甘さに気が狂いそうになりながら、また胃の中のものを吐き出す。

「あー、やばい、かわいい……」

 興奮に吐息の混じった声が耳の奥を湿らす。
 この変態。クソ野郎。
 そう罵ってやりたいが、さっきから腰がそわそわして、気持ちよくて、チンポの根元にまで響いて堪らなくて。
 自分の胃液に汚れた加賀見の、骨のまっすぐとした綺麗な指先を、歪む視界でぼんやりと眺めるしかできない。

「……どうかな。だいぶ、よくなった?」

 水洗で便器を流しながら、水泡は聞いた。

「ん、はぁ、あ、はやく……」
「うん?」
「ケツ、ぐちゅぐちゅしてぇ……だめ、なんか、へん……さっき喉ぐるぐるやったみたいに、ン、ちゅ……ケツほじってぇ、まんこにされてぇよぉ……っ」

 腰を回すように振り、まだ顔の近くにあった水泡の指を舐めてしゃぶりながらおねだりする。
 好き、大好き、この指大好き。なんでもしてくれる。もっと気持ちいいのほしい。

「さっき女の子抱いて、満足しなかったの?」
「は、なんで……なんでそんなこと言うんだよ! するわけねぇじゃん……っ」
「さぁ? どうなの? ケーキ食べたのまでは、わかるよ。でも僕に抱かれる予定のベットで女の子抱いてたのは、良くないな」
「お前、そういうの平気じゃん……興奮する、て」
「……たしかに、そう。でも、やだった。すごく、不愉快だった。僕の前で抱いてくれるなら、良かったのかな……?」

 俺がしたことは褒められたことじゃねぇけど水泡なら「君がさっきまで女の子抱いてたベッドで君を犯すの興奮する」くらいこと言いそうである。つかそんなような発言を聞いたことはある。
 だからしたわけでもねぇけど。
 肩越しに首を傾げる水泡を見ながら、なぜだかドキドキとしている。じっと見つめて、その先の言葉を待つ。

「ううん。やだ。考えてみたけど、興奮しない。不愉快」
「妬いてんの?」
「……どうかな。とにかく、悪い子だ。どうしてそんなことしたの。そんなに、寂しかった?」

 聞かれて、素直に頷いた。

「うん……」
「一人になりたく、なかった?」
「うん」
「気持ちよかった?」
「あんまり」
「そう」

 なんだか、わからないけど。
 女を抱いたことに対し、ストレートに「不愉快だ」と言われて安心していた。女があのまま居座って3Pしようって言っても水泡は別にするんじゃねぇかなとすら、思ってた。
 今日という日をめちゃくちゃにしてやろうって思ってた。どうせなら最低最悪な一日にしてやろうって。
 でも水泡は不愉快だって言った。
 あの時に女が応じてたとしても、最低最悪な一日にはならなかったんだ。

「お前のこと待てなくて、誰かに甘えたくなった。乱暴にしてやりたかった。叔母さんみたいに俺に適当に突っ込まれて喘いでる女が見たかった」

 その安心感が、やたらと素直にさせる。
 全部見せたくなる。
 俺、お前に全部話して一緒にいてもらってるのに、まだ何も変わってない。
 恐る恐る、水泡の顔を見る。水泡は眉を下げて、子供を注意する大人みたいな顔をして笑ってた。

「悪い子だね。あの子にも、失礼だ」
「ん……」
「ごめんね。僕が早く、来てればよかった」
「違ぇし……仕方ねぇじゃん、そんなの……」
「さっきは怒ってたのに。ふふ、おもしろいね」

 背中にピッタリと水泡がくっついてくる。なんか照れるというか、むずむずする。でも心地いい。

「はやと。言うことは?」
「……ごめんなさい」
「他には?」
「もーしない……」
「うん。いい子」

 こめかみにチュッとして、頬ずりしてくる。うわ、なんか。なんか超嬉しい。なんだこれ、恥ず。早くエッチしたい。
 弱ってるからか、よしよし甘々セックスされたくてたまんねぇ。
 こんなこと考えてる時点でクソ恥ずかしいけど。胃の中すっきりしたからかな、憑き物が落ちたみたいにスッキリして、誕生日祝いのやり直しがしたくて期待してしまう。

「軽く、シャワー浴びよう。そのあとは、あの女の子の匂いがぷんぷんするベッドで、お仕置……しようね。いっぱい。からっぽにするのと我慢するの、どっちがいい?」
「はぇ、え……? いま、和解……」
「うん? まだ……とっても、怒ってるよ?」
「でも、おれ……やだ、今日は甘やかされてぇの、酷いのやだ……おれ誕生日……」

 誕生日のやり直しが遠のいてく不安に甘えた声が出る。水泡はそんな俺を見てニコッと笑う。黒目のでかい目ん玉がなくなるくらい。
 え、普段そんな笑い方しねぇじゃん。怖。

「うーん。可愛いけど、だめ。君だって、汚されたいって言うだろう? 今日は徹底的にやろうね?」
「あ……」

 徹底的。徹底的に抱かれる、ということ。ぞくりとする。

「……期待した顔して。悪い子。さ……まずは、綺麗にしようね。それからドロドロに汚しちゃおうね。抱っこしてあげるから、おいで。」

  便器に向かってた身体を反転して首に抱きつけば、重いだろうにひょいっと抱き上げられた。
 抱っこは……好き。運ばれるの楽しいし、いい感じなんだよな。ぺっとりとくっつくと、水泡はまた俺に頬ずりしてきた。
 そうやってイチャイチャとしながらも、汚す前のお清めをするために浴室まで大人しく運ばれるのだった。




「隼人、ほら。これ、見て。この濃さ」
「ひっ、ぅ……やっ、出ないっ、出ないっ、出ないぃッ」
「あーくっさいなぁ、ほんと……久しぶりに嗅いだ。白くてぽろぽろしたの、たくさんついてる。あの子、とっても気持ちよかったんだね」

 コンドーム越しに俺のチンコ扱き、中身が溢れないよう口を縛った避妊具を自分の顔の前に掲げて見せつける水泡を、歪んだ視界で睨みつける。
 そのコンドームはベッド脇から水泡が発掘した、アイドルの女とセックスした時に使用したものだ。汚そうに指先でつまんでいるが……いや、本当に汚いだろ。きもいだろ。よくやるよ。
 中身はもちろん俺の精液が入っている。二日ぶりに出したやつ。水泡の言う通り、中身も白ければ外も女の愛液が乾いた白いカスがついていて、俺なら見たくも触りたくもない。

「久しぶりの、女のにおいにっ……興奮してんのかよっ……? この変態……」
「ううん……どうかな。嫌いでは、ないはずなのだけど。これには……嫌悪感が、強く出る。それより……」
「あッ、や、やだっやっ!」
「ほら、この中のと同じ濃さの……出して?」

 親指で鈴口を捏ねながら、上下に扱かれる……ケツには、ディルドも入ってる。水泡の気まぐれで振動が強くなる。サイズが控えめなだけ、まだ情けはかけてもらっているのかもしれない。
 水泡は「そろそろこれどう?」と大きいのを持ってはくるが、俺が怖がるので結局小さいのしか使ってない。でかいのは水泡ので十分だっつーの。
 しかし振動を強くされるともう小さいとか大きいとかじゃなくて、腰が浮くほどに中が……前立腺にジンジンと響いて、イキたくてイキたくてたまらなくなる。
 これイケそう、あれくる……そう頭ん中でいっぱいになりながら、腰浮かせてケツ振って、イける当たり方をする角度を探し、調整する。

「あッあッあッ、けちゅ、けちゅいいっ、きもちいいぃ……っ! や、あ、もっと、したっ、から……んっ、ちが、んんんっ、もっとごりごりほしいよぉっ、やだぁ、やだぁっ」
「んー……? 下からごりごり? こうかな?」

 ちんこから手を離した水泡がディルドの角度を調整し、下から押し上げるようにしこりを刺激する。その瞬間、ビリッと股んとこ全部引っ張られるみたいな衝撃がきて、ブリッジするみたいに腰が高く跳ねた。

「おッ、あっ、しょれぇっ! そこ、しょこしょこしょこっ、あ、あ、あっ!」

 やばいやばいやばい、下半身ビリビリきて頭ん中はちきれそう!
 ゴリゴリと強いピストンが短いスパンで繰り返され、快楽の逃げ場がない。
 きもちい、きもちい、きもちいよぉ、イク。イク。イキたい。イク。

「ふふ、いいね、イケるかな? 四発目だよ、濃いの出そうねー? 二発目と三発目と薄くなってるからね、頑張ろうね」
「でないいいぃっ、でねぇよぉ、うしゅいのしか、でにゃいっ!」
「なんで? あの子には出したのに。だめだよ。一番濃いの、出して?」

 ぴと、と頬にコンドームが当たる。やだ。きもい。

「やあっ、やっ、あっ、待ッ……! でる、でる、でる、うすいのでちゃぅ、あっ、でるぅ……みなぁっ、出るぅ……!」
「うんうん、よしよし。がんばれ。ほら、ごりごりしてあげるからね」
「あっ……あ、あ……あーっ……」

 あ、ちが、これ。
 いっぱい、出て。
 尿道が開く感じがする。じょばっと溢れる。コンドームが浮く、変な感じがする。
 おれ、薄い精液どころか……潮ふいちゃった。
 きもちいい。あ、でてる、でてる、いっぱい。きもちいい、とろとろする。

「あーあー……悪い子だね。コンドーム、ダメになっちゃった」

 ディルドの振動が止まる。振動が止まると、ケツがヒクヒクと律動しているのが自分でめっちゃわかる。こんな玩具にちゅうちゅう媚び売ってやがる。
 ゴムが伸びてたぷたぷになったコンドームが外され、指先がテキパキと動いて口が縛られていく様をぼんやりと眺める。太ももまで痙攣してたまんね。

「コンドーム、あと二個」

 行為を始めるとき。
 水泡はゴミ箱から使用済みコンドームを取り出し、持っているコンドームを全部出せと言ってきた。
 自分とする時は生ハメをねだってくるのだからいらないだろう、と。
 玲児と使うと抗議したが、ならその時だけ持ち歩けと言われた。
 持っていたのは使用済みを抜いて五個。

「もう少し、がんばろうか」

 二回は無理くり射精させられたけど、もう無理だ。ぶっちゃけチンコ触られんのももうヤダ。既に赤くなってきていて、痛い。

「も、むり……でねぇよぉ、ゆるしてぇ……」
「隼人は若いし、大丈夫」
「もぉ痛い、やだ、やだぁっ……」
「じゃああと二つ、どうするの?」
「あけて、捨てていいからぁ……もうしないからぁ……ごめんなさい、ごめんなさい……っ、もうしません……」
「うん……? 随分、おびえてるね。怒りすぎちゃった……かな」

 俺の足元に座っていた水泡の顔が近づいてくる。俺に乗って、頭を撫でてくる。ごめんね、と小さな声が降ってくる。

「いいこいいこ、もうしないよ」
「ほんとかよぉ……」
「うん。本当は……今すぐお店の女の子呼んで、僕がこの二つ使ってあげようかって…………脅そうと、思ったんだけどね」
「はっ?! やだァ!」

 水泡がどっか行かないよう、力いっぱいギュッと背中を抱き寄せる。

「はは、痛い痛い…………本当に、痛いな。そんなこと、しないよ?」
「ぜっっってぇヤダ、やだからな、だめ、ヤダッ……」

 チンコ虐められそうになってる時も何回も溢れそうになったが我慢していた涙がこのタイミングで流れ出す。

「ああ、泣かないで。こんな可愛い子がいるのに、そんなことしないよ。ね?」
「しんよぉっ……できねぇもんっ、やだぁ……っ」
「大丈夫だからほら、離して? よしよししづらいよ?」
「やだ、離さねぇもん、みなわ俺のぉ……」
「これは……逃げられないな。きみ、こんなに強いのにね。君が本気になったら、僕なんか負けちゃうのにね。いつも大人しく僕の言うこと聞いて、本当に……本当に、可愛くて、いい子だね」

 しんみりと、感慨深そうに語る声を聞きながら、何か物足りなさを感じる。なんかもっと、こう。
 疑問に思い、考えて、少し前の水泡の言葉を思い出して、腕の力を弱める。
 お、と水泡が俺から少し身体を浮かせるのを見送ったあと、ずいっと首の下あたりに頭を擦り寄せた。

「うん、いいこいいこ」

 察しがいい。そうそう、これ。頭撫でられながら言われたいセリフだった。さっきのやつ。

「そうだよ、お前なんかけちょんけちょんだからな」
「けちょんけちょんだね」
「おう」
「ね、騎乗位してもらった?」
「は?」

 急に話が変わったので、なんだよと首を傾げて眉間に皺を寄せる。

「枕からさ……君の匂いがして。香水と、あと君の耳の後ろとか、首からいつもする君自身の、匂い」
「は、きしょ。なんだよ俺自身のって」
「皮膚……毛穴? からする匂い。フェロモンみたいな?」
「はぁ?」
「してもらった?」
「もらったけど?」

 水泡の顔にくっと力が入り、目の眉の距離が近くなる。

「もぉー、お前は……そうやって怒るんだから聞くなよぉ……」
「うん……もうしない?」
「しねぇって」
「こんなに嫌な気分に……なるなんて」
「ごめんって……」
「謝罪が、軽い」
「ごめんなさい」
「あんな子より、君の方がずっとえっちだって……わからせなきゃ」

 頬にキスされる。そして太ももを撫でられ、開かれて……震えないまま入りっぱなしだったディルドを抜く。
 あ、やば。なんかすっげードキドキする。
 水泡の背を抱いていた腕を移動させ、自然と自分の胸を両手で抑えた。そうしていないと切ない感じがして、たまらなくて。

「はやと」
「ん……?」
「大好きだよ。君が生まれてきてくれて、本当に良かった。こんないい子に育って、僕の前に現れてくれて、ありがとう。僕は君のこと……この世の奇跡みたいに、思ってる」
「……なーんかじじくせぇし意味わかんねー」
「ただの、本心」
「じゃあ来年も、再来年も、同じこと言えよ。本心なら言えるだろ」
「君のお願いなら、なんでも聞くよ」

 じじくせぇとか、意味わかんねぇとか。
 そんなの大嘘で悪態でもつかないとニヤケてどうしようもなくなりそうだった。
 この世の奇跡っつーのはちょっと、馬鹿じゃねって思うけど。
 俺は母親には愛されてたんだと信じてる。
 でも俺を身篭って、産まれて、嬉しかったのかなって。そこは疑わしく思ってしまう。
 父親はきっとろくでもなかったのだろう。だから俺ができてしまったことで、母親は本格的に逃げられなくなってしまったのかもしれないとか。
 金もなかったようだし、生活の苦しさに後悔をたくさんしたんじゃないかとか。
 そもそも俺がいなければ母親は捨てられなかったし、死ぬこともなかったんじゃないかとか。
 俺のこと愛してたのは腹痛めた子で自分の分身で守る義務があったからでもう目の前にいるからで人が良かったからで。
 俺のこと産むんじゃなかったとか、そういうのはきっと、思ってたんじゃねぇかなって。
 あ、やば。
 だめだ思考が。
 ずっと沈んでく。
 真っ暗だ。

「隼人」

 名前を呼ばれ、ハッと目線をあげる。
 二重幅の広い瞼を細めて。涼し気な顔の割に、柔らかそうな少し厚みのある唇で笑みを作って。
 ほんの少しかすれたような、それなのに綺麗に通る声で、名前を呼ばれた。そして。

「君の名前を呼ぶのが、好き」

 それだけで、全てを許された気持ちになった。
 俺が生まれてきて良かったって言ってくれる人が、一人でもいて良かった。

「さ。君の生誕に感謝して……生殖行為、しようか」
「生殖しねーよ?」
「孕ませたい……」
「ぜってぇ子供とかいらねぇタイプだろ、お前」
「うん。いらない。ボテ腹は見たい」
「きっしょ、サイテー」
「でも、孕ませたい……挿れていい?」
「孕まねぇけどどうぞー」

 こいつとだと結局悪ふざけみたいな会話に落ち着くなと、口元をむずむずと緩ませながら腰を置き直す。

「なに、にこにこして。かわいいな」
「ん……」

 ディルドで十分ほぐされた穴に……まるで生殖器みたいにとろとろに熟れた穴に、水泡が入ってくる。ゆっくりとだが、存在感がありすぎてぶるりと肩が震える。
 もう数え切れないくらい受け入れてるのに、毎回毎回大きくってびっくりしてしまう。今日は入らないんじゃないかなんて心配したり。
 でも、ちゃんと入ってくる。
 俺の身体はちゃんと受け入れる。
 穴の縁がギチギチする。息を細く長く吐いて、怖いのを逃し、ン、と息む。
 するとズルッと前立腺を超えたところまで入ってきて、奥の弱いところを押してくる。
 水泡が前に、女の子で言えばポルチオ性感に近いって言ってたとこだ。

「あっ……あっ……」

 ポルチオ。子宮口。さっき生殖行為なんて言われたからそわそわして、ドキドキして、ちょっと怖くなる。肩を竦め、口元に手の甲を当て、顔を少し隠す。
 しかし耳元をぺろりと舐め、彼は囁いた。

「いっぱい気持ちよくして、おまんこ開いてあげようね。奥までちゃんと開いたら、種付けしてあげるからね。孕ませてあげるからね」

 ああ、もうだめだ。精子ほしくて堪らない。
 よしよししながらそんなこと言うなよ。
 こんなに、こんなに。
 身体の奥が水泡の種ほしがっているのに、本当に孕まないのかなって時々不安になる。
 まんこの奥開いてる感じ、するもん。
 精液ぐりぐり塗りつけられて、女抱いてたこのベッドでまんこに子種孕みたい。

「みなゎ、もっと、もっとぉ……そこ、いっぱいぐりぐりしてぇ」

 水泡のつっよいちんぽ、目いっぱい感じたくて、股を限界まで開いて腰を上下させ、迎え腰をする。
 これだけでもチン先は雄ポルチオ押してくるし、カリが前立腺擦ってすっげぇきもちいい……あ、あ、これじゃあおねだりじゃなくてオナニーになっちまうぅ。

「あ、あー、きもちい、きもちいぃ……頭ん中とろとろするぅ、ちんぽのさきっぽ好きぃ、ぉ、ちんぽぉ、ちんぽぉ」
「んん……? 僕は動かなくて、いいのかな?」
「んーん、腰、止まんねぇのぉ、みにゃあ、止めてぇ」
「でもきもちいいよ? あー、そう、それ、縁がカリ首に引っかかってきもちいい。くぽくぽ鳴ってる……やらし……んん……」
「みなわ、きもちい……?」
「うん、きもちいいよ」
「じゃあ、もっとぉ、もっとするっ……ん、ん、ぁ、ちんぽかたいぃ、ごりごりしゅるぅっ」
「ん、いい子、だね……すっごくきもちいい。あー、じょうず……」

 水泡の声、吐息混じりで途切れ途切れで、すっげーえっち。聞いてるだけでまんこにきゅんきゅん響く。
 水泡がこんなに気持ちよさそうにしてくれると俺も興奮してもっと気持ちよくなって、上下に、たまに回すようにぐりぐりとチンポ擦り付ける腰の動きが激しく大きくなる。

「あーっ……あーっ……」

 やっべぇ、まじで気持ちいい。奥って言ってもいつもより浅いとこなのに、ぐいぐい押してるだけで頭から首の付け根くらいまでぼんやりと幸福の膜に包まれてるみたいだ。頭ん中になんか充満してるの。これやべぇ。
 口開きっぱなしで、口の端に違和感して慌ててすするが、間に合わなかった。よだれ垂れてる。あーでもなんか、もういっか。きもちいい。すっごいきもちいいの。もうどうでもいい。

「はやと……すごいね、そんなに……そんなに夢中になって。きもちいいね、おまんこ気持ちいいね」
「おまんこきもちいよぉ、まんこきもちい、ずっとこれしゅるぅ、これやめねぇの、おまんこきもちいぃ……きもちぃよぉ」
「そんなに気に入っちゃったかぁ……可愛いね」
「んー、んー、きもちいよぉ」
「でも、そろそろもっと激しくしたい……かな?」
「はぇっ……?」

 骨盤を両手でしっかりと固定され、え、と目を丸くする。
 なに、なにされんの?
 水泡がずるずると腰を引いていく数秒間の間、緊張に心臓がぎゅっとした。
 そしてまた、きゅうきゅうに締まった肉壁の全部を抉りながら入ってくる間、長く深く沈んでく感覚に心臓がバクバクと騒がしくなる。
 奥に届くまでの間はまるで、ジェットコースターの落ちる瞬間を待っているみたいな気分だ。

「あ、や、あ」

 くる、くる、くる。
 狭い弁のとこまでかと思ったらそこも通過して、本当に本当に一番奥まできてしまうと悟る。
 恐怖と期待でぐちゃぐちゃになりながら、再び息んで受け入れ態勢にはいった。

「おッ! ゔっ」

 息んだまま、息が止まる。
 ぐぼっと入っちゃいけないとこまで入ってきて、頭のてっぺん弾けて目の前が白黒とする。

「おおぉぉー……ぅ、あ、ゔぐぅ……?」
「はぁ、あーっ、すっごい痙攣してる、まんこの責め、えっぐい……ンッ、はぁ……」

 痙攣してんの、イッてるの? 俺……腹から下? 胸から下? なんか、変。
 とにかく、チンポで、水泡で、いっぱい。
 水泡も止められないのか、ぐっぽぐっぽと激しく腹の中にある出入口を激しく揺すってる。

「あ、あ、はやとっ、きもちいい……こんな気持ちいいまんこついてるくせにっ、女の子抱いちゃダメだよ……はぁ、はぁ、あっ、隼人のまんこ、きもちいっ……! 鍛えてるオスまんこすっごい……っ!」

 水泡めっちゃ気持ちよさそうに声漏らしてんのに、俺はもう声が出ない。ヒッ、とか、ヒュッ、とか、息吸ってばっか。
 目に映ってるのは天井なのに、チカチカキラキラしてる。頭のてっぺん、どっかいってる。きもちい、きもちいんだけど、すっごい幸せで、なんかやばい。
 女抱くのと、全然違う。あんなのセックスじゃない。
 めちゃくちゃに腹ん中荒らされて、脳みそもケツもぐちょぐちょにされて、暴力的で、支配されて、それなのに多幸感に包まれて。
 ああ俺、犯されてる。
 全部奪ってくれる。
 そう思って最高に気持ちよくなる。

「あぁあぁぁっ、あぁあぁぁっ」

 繰り返されていくうちに少し力が抜けてきて、そうしたら今度は声が止まらなくなった。口開けっぱなしで涎垂らしながら間の抜けた声が押し出されるのを堪えられない。

「ふふ、ああもう、ぐっちゃぐちゃ……はやと、ちゃんとおまんこ奥まで開けたね……えらいよ、いいこだね……だいすきだよ」

 水泡の顔が迫ってきて顎にキスされて、そのあと下唇に吸い付かれる。俺が口閉じられなくてキスできないから……キスしたい、舌でべろべろしたい。でも上手くできない。
 下唇を浅く咥え、吸われて。舌が入ってきて、下の前歯をぺろぺろされて。また下唇ちゅぱちゅぱされる。きもちいい。
 攻されてる間も声も涎も止まんないのに、お構いなしでちゅっちゅちゅっちゅされてる。
 おれも、おれも好きってしたい。
 水泡だいすきってしたい。

「み、みな、ぁっ」
「うん?」
「あ、みな」
「うん。なあに?」
「みな、ぁっ、らいしゅっ、き……」
「おお……言えたね……ありがとう」
「んっ……」

 やっと。やっと、唇がちゃんと重なる。ずんずん突き上げられて身体揺さぶられながら、顔の角度を変えて深く深く交わる。

「はやと、はやとっ……出して、い? 僕の可愛いメスに種付けしていい?」

 言いながら、またチュッてしてくる。ああやばい、ほんと幸せ。だいすき。

「ほしい、ほしー……中出し、ほしぃよぉ。おまんこのおく、精子でぐちゅぐちゅしてほしーの、あ、あっ、みなわのめしゅなの、みなわのめしゅって、いっぱい教えてぇ。ぁ、かたい、かたいよぉ、おちんぽ硬いよぉ」
「あっ、あー……くそっ……この、ほしがりスケベまんこ……っ」

 おねだりの最中に中で硬く膨らんでくるのがわかって堪らなくなった。しかもばちゅばちゅばちゅばちゅと激しい音を立てて奥に突き立ててくる。
 その度に狭いとこやヒダが引っかかって揺さぶられて抉られて、もうずーっと腰が浮いてる。このまま天国いっちゃう。

「出る出る出る、きもちいい、まだパンパンしたい、あっ、だめだっ……」
「みなわぁ、みなわぁ、しゅき、ほしいよぉ、たんじょーびだから、いっぱいだしてぇ、おまんこにお祝い、してぇ」
「ううう、かわい……っ。僕のメス、僕のまんこちゃん、僕の、僕の、ぼくのっ、あ、出るッ……!」
「あっあっあっ、びくびくしてりゅ、あっ、あっ、あぁぁあっ、ぃ、くっ」

 中で、ちんぽビクビク跳ねてる。奥まで入ってるから、ギチギチの入口から根元がドクドク脈打つみたいに精液押し出してるのがわかる。
 中に精液吐き出されながら、ぐりぐりと腰を回して壁を捏ね回すように塗りつけられ、精液に溶かされるみたいに身体の奥の奥の奥から、ドロドロになりながらイク。
 この……独占欲丸出しなイキ方に胸がいっぱいになる。
 ずっとチンポ押し付けてぐりぐりしていた水泡が、はーっ、はーっ、と深く大きく息を吐き出し呼吸したあと、俺の上に崩れ落ちた。
 電池切れかなと思ったが、首筋をがじがじ噛んでくる。

「あ…………痕、だーめだって……」
「やだ……つける……」
「はっ……そんなじゃれついた噛み方じゃ、つかねぇか……」
「ん、はやと……隼人、好きだよ。僕のだよ。隼人」
「ま…………そーゆことでも……いいよ」

 さっきシャワー行ったとき、こいつ自分自身も首とか脇洗ってたから石鹸の匂いする。
 汗でべちゃべちゃでのしかかられてるのにいい匂いがして、なんか可愛く思えていつもされてるみたいに頭撫でてやる。
 あーでも腕あげるのも辛い。
 つかこいつ、前より重くなってね? 加齢か?
 水泡の誕生日は八月だったよな。見た目が謎に年齢不詳だけど、意外とおっさんだもんなぁ。

「なぁ……」
「うん……?」
「ケーキ。洒落たの買った?」
「……きみ、食べられるの?」
「食うよ。すっげ楽しみにしてた。どんな変なの買ってくるかなって」
「え……洒落たの、て……うん?」
「お前の洒落たのってなんだよって思ってさ」
「ううん……待って。一服、したら……動くから。あ、違う……ケーキの横に、煙草ある」

 のっそりと、緩慢な動作で、ベッドに手をついて水泡が起き上がる。そのあともよっこらせっという感じで起き上がってとぼとぼ歩いてく背中を、転けるなよとやや不安になりながら見守った。
 挿入してからずーっと、めちゃくちゃ激しかったもんな。あいつ本当元気だわ。
 水泡はテーブルの上にあるケーキの箱……を取るのかと思えば、すっと空振って煙草を手に取った。おいおいそっちが先かよ。
 煙草を咥えて火をつけて、崩れた長い前髪をかきあげながら、まずはプハーッと一服。
 そうしてやっと、ケーキ片手にこっちに戻ってくる。
 水泡の頭を撫でるのすら怠かったはずなのに、ぴょんと跳ねるみたいに起き上がって、ベッドの端に座った水泡と一緒にケーキの箱を覗く。
 変なやつかな、普通のやつかな、ちゃんと洒落たヤツだったりして。
 わくわくしながら箱が開かれるのを待つ。
 水泡の大き手が、取ってになっているケーキの箱上部を少し押して、箱を開く。
 その中にいたのは……艶やかなダークブラウンに金箔がまぶされた、一般的に誕生日ケーキには選ばれなそうな四角い形の、シンプルなチョコケーキだった。
 でも何故か、心惹かれる。
 斜めから見るといくつも層が重なっているのがわかるし、表面にコーティングされたチョコレートが嘘みたいにツヤツヤとしていて飾られた金箔に負けない美しさだ。おまけに甘すぎない、濃厚でダークなチョコレートの重くていい匂いまで香ってくる。

「すげぇ……ちゃんと洒落てんじゃん。チョコケーキ? ガトーショコラってやつ?」
「ううん。オペラ」
「オペラ?」
「苦めのチョコと……コーヒーのケーキ、かな。そろそろバレンタインで飽きたチョコが、恋しくなってるだろう? 毎年この頃、チョコ食いたいーって……言うから。きみ、コーヒーも好きだし」
「え、おま、えぇ……?」
「うん……? 気に入らなかった?」
「いや、予想外に完璧な仕事すぎて。動揺してる。つか、よくこんなケーキ知ってんじゃん」
「ケーキには……ね。ちょっと、詳しい」

 目を横に向けて、ちょっと気まずそうに言う。その仕草で理由を察してしまったが、触れることはしなかった。

「嬉しい、すげぇ……マジその通りだよ。しばらくチョコ食ってねぇから、なおさら美味そうに見える! な、手づかみで食っていーかな、腹減った……」

 あ、こら。
 注意する水泡の声を無視して、箱の中へ手を伸ばす。
 ホールケーキではなくカットケーキが二個入っていて、片方にはプレートが乗っかってる。これが俺のかなって下紙越しにそっと掴んで持ち上げると、そのプレートには『はやと』って書いてあった。
 プレートにはなんにも書いてない。マジでただ『はやと』って。
 なんだよ、はやとって。
 誕生日おめでとうとかハッピーバースデーとか入ってねぇのかよ。俺専用かよ。こんな綺麗なケーキで笑わせにくんじゃねーよ。

「お前、このプレートさぁ」
「隼人の名前、かわいい」
「可愛かねぇだろ」
「隼人にあげるから、はやと」
「なんだそりゃ」
「早く食べて?」
「言われんでも食う。ほれ、プレート持ってろ」
「僕、あんまり手……綺麗じゃない」
「いいよ、持ってろって」

 『はやと』プレートを持たせ、ケーキにそのままかぶりつく。
 オペラだって。まじオシャレ。こんな綺麗なケーキ手掴みで食っちゃった。変なプレートは乗ってるし。綺麗だけど誕生日っぽくねぇし。
 ちぐはぐ。だよなぁ、なんか。
 でも俺の希望通りか。
 あ、やべ、なんだ? なんか泣きそう。

「スゲーうまい」
「……ほんと?」
「うん。チョコがいー感じににが甘くて、口ん中で広がって、後からコーヒーのいい香りがふわってきて、超うまい」
「これが……芸能人の、食レポ……」
「どういう意味だよ、やめろよそーゆーこと言うの!」
「ごめん」
「ったく……」
「照れちゃった」
「…………チッ」
「舌打ち、しないの」
「ふん」

 うん。うん、でも本当、好みの味だ。こいつ俺の好みとかちゃんとわかってんだ。ふーん。
 もくもくと咀嚼していたら、隣からポリポリと聞こえてきて振り返る。するとそれは、水泡が『はやと』プレートをポリポリと齧っている音だった。これには機嫌の良かった俺も黙ってはいられない。

「おい! おいおいおい! 食うなよ、それ! はやとって書いてあんだろ?!」
「あ…………つい。おいしい」
「おいしいじゃねぇよ!」
「おいしいよ? あーん」
「あーん、てな……食う、けど。食うけどさぁ、お前さぁ、本当さぁ……」

 差し出された、チョコでできたプレートを食う。もう俺が食ったら『は』が半分になるくらい食われてやがる。くそ。

「あ、うまい」
「ね?」
「うん……まーいっか……お前にしてはちゃんとしてるし……九十五点、だな……」
「あと五点……」
「来年に期待だな」
「……うん、そうだね」
「来年もなんかテーマ決めるから」
「えぇ……」

 眉をひそめ、子首を傾げながら煙を吐き出す水泡の肩に、こてんと頭を乗っける。残ったケーキを口に全部放りこんで、チョコレートに埋まる。
 今日は最低最悪な日にならなかった。
 それどころか、まだ朝まで時間もある。
 これからもっと、最高の一日にしてやるんだ。
 その誓いに、水泡にキスをする。
 チョコレートと煙草の香りのキスはほろ苦くて、甘くて、大人で、それだけでもっと最高になった。



  


HAPPY BIRTHDAY!
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