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メス堕ちさせた元タチへの愛のあるセックスの教え方①

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 セックスは、汚い。
 セックスは、気持ちが悪い。
 湿った肌が合わさる重なって。唇と唇、舌と舌、柔らかな部分が接触して。あらゆる体液が滲み、吹きでて、溶け合う。
 じっとりした汗。
 とろりとした涎。
 ねばついた鼻水。
 なまぐさい精液。
 それから多量に膀胱から強制排出される潮、尿。
 快感にひれ伏して、自分の体も相手の体もシーツもなにもかも濡らして、ドロドロにして、こんなセックスは、気持ち悪い。
 欲しいもののために、自分を捨てる。
 街では自分の顔が溢れている。
 陽気そうな家族と生活トラブルに困る息子。
 飲料水片手に太陽の下で笑うまっさらな学生。
 鏡の前で髪型キメただけで無敵になれる社会人。
 紅を塗った唇で意味ありげに誘い微笑む男。
 コイツら全員。
 全員が男の下でオンナにされて、汗だくで涎垂らして鼻水流して潮吹き出して小便漏らして腹ん中に精液ぶち込まれて自分も垂れ流して、苦しいともニヤけてるともとれる顔でアヘアヘ泣いてる。
 ああ、涙を忘れてた。
 体液なんて全部汚い。涙だって汚いよ。
 玲児の涙は綺麗だ。
 でも電車で隣に立ってる知らない奴の涙なんて気持ち悪いだろ。
 気持ち悪い。
 ぐっちょぐちょの液体を度の過ぎた快楽のために掻き混ぜてる。
 母親の話に耳を傾ける優しい息子を演じるあの耳は、自分を舐め回す唾液の音と、男としての自分を辱める卑猥な言葉に身を震わせ、皮膚を湿らす。
 唇が薄く、真っ赤に染めてもいやらしくないと褒めそやされてるあの口は、男を煽り自分を堕とすためにおぞましいほど媚びた声をあげ、いやらしくねだる。
 どんなに格好つけたって、気持ち悪い。
 人間が気持ち悪いんだか、俺が気持ち悪いんだか、そんなことはわからないけれど、精液啜りたくて必死にチンポしゃぶってる自分も、犯されたくてドアにケツ向けて玩具でマンズリしてる自分も気持ち悪いし、みっともないし、わけわからないくらい最悪だ。
 でもプライド粉々にしてでも得た快感は最上級で、脳みそパシャパシャになって、やめられない。
 ほら、セックスってこんなに気持ち悪い。
 そんなになってまで気持ちよくなってどうすんだよ。気持ち悪い。自分が自分でなくなっても気持ちいい方がいいなんて怖い。怖いだろ。
 でも。俺が一番初めに教えてもらった、人との触れ合い方はこれだから。やめられない。気持ちよくて温かいから、やめられない。
 こんな行為さ、玲児にしていいわけないじゃん。
 抱きしめられるより先に叔母さんにチンポしゃぶられた俺と違うもん。初めて肌が触れ合うと同時に膝に乗られて乳首弄られてた俺と違うもん。
 微笑みと子守唄を贈られて育った玲児にしていいわけないじゃん。
 白くて細くて毎日磨き上げてる陶器みたいな、ひんやりしててすべすべの、人間の汚い部分全部削ぎ落としたみたいな玲児に、そんなことしていいわけないじゃん。

「なんか気持ち悪いじゃん……セックスって。したくない。必要ないだろ。欲まみれの汚い感情を玲児にぶつけたくない。んなことしなくても俺は玲児のこと愛してる」

 セックスしないまま二ヶ月以上経ってしまった夜のことだった。俺の部屋に泊まりにきた玲児にベッドへ誘われた。
 それまでも誘われたことはあった。あらゆる言い訳をして逃げてきたけれど、この日の玲児は引き下がらなかった。
 理由を問われ、誤魔化しても問い詰められ、怒りが沈んで悲しみにどんどん色が変わっていくのがわかり、さっきの台詞を言ったのだ。
 すんなりわかってもらえるとは思ってなかった。けれどまさかトドメになるとも思わなかった。
 白い頬に涙が伝う。
 玲児から流れる体液はやっぱり自分のそれとは違くて美しいなと思った。
 ひんやりとした肌に流れる涙の温度はどれくらいだったっけ。

「昔、教えてくれただろう……そういうことは、もっと触れたいという気持ちの延長線上にあると……好きだとか、愛しいという気持ちと同じところにあると」
「そんなのっ……理想だろ。現実はそんな綺麗じゃねぇよ。俺が間違ってた」
「貴様っ……! 本気で、言ってるのか?」
「そりゃ俺だってあの時は、そんな気持ちでセックスできたらいいなって、そういうものならいいなって思ってたんだよ! 世の中の恋人とか夫婦がみんなしてるセックスに夢見てたんだよ! 俺だって知らなくて言ってたんだよ、そんなの理想だよ、わかれよ」

 あの言葉をお前に言った時の俺は叔母さんとのセックスと知らない女とのセックスしか知らなかった。
 だからまだ、まだ夢見てた。玲児に出会えたから。
 でもやっぱり現実はドラマとか映画みたいな綺麗な部分だけ切り取ったセックスと違う。
 汚い肉は隠して綺麗な皮膚だけ見せる作り物とは違う。
 本当にあれくらいあっさりとして、滑らかな、肌触りのいいものなら良いのに。

「違かったじゃん。お前だってその会話があったあと俺に何したか覚えてるだろ? セックスなんてさ、欲の押しつけあいだよ。お前だってわかるだろ?」

 俺の問いかけに玲児はピタリと表情も動きも固めた。
 ただ瞬きだけ繰り返し、俺を責める。
 なんでわかってくれないんだろう。
 俺たちの関係だってめちゃくちゃにしたし、玲児の気高さも狂わせた、存在も貶めて汚した、そんなものになんの未練があるんだよ。
 恋人だからそういうことするって、よく分からない価値観のせいで。
 そのせいで、玲児は俺に叔母さんと同じことした。
 怖くて、悲しくて、気分悪くて、玲児が可哀想で、それでも俺、エロいって思ったし、興奮したし、射精した。

「……気持ち悪い」

 悪寒が走り、自分の二の腕をさすりながら、苦々しく吐き捨てる。
 玲児は黙っていた。いつの間にか正座になって、背筋を伸ばしたまま首だけを下へ向けて。
 そして深呼吸を繰り返し、グッと顔を上げて、まっすぐに俺を見る。

「進藤先生にその考えは話したか」

 予想外の返しに言葉が詰まる。首をゆるく絞められたようだ。
 進藤先生とは長年お世話になっている精神科医だ。水泡に繋いでもらった先生だ。

「もう無理強いはしない。しないから、きちんと相談しろ。そうして、細かい内容を俺に話す必要はないが、経過はこまめに報告してほしい」

 俺が返事をしなくとも顔を見て、話をしていないことを玲児は察したようだった。
 ため息をついて、伏し目がちに微笑む。垂れた長い睫毛が頬に陰を作る。悲しい顔だった。

「俺に話せることなら、もちろん話してくれていい。なにかきっかけがあったか?」

 目の前に座る玲児の顔を見ることもできず、俺は首を横に振った。戸惑いがちに、肩に手が置かれる。重みのない手のひらだ。励ますためにさすっているのか、それとも離れようかどうしようか悩んでいるのか、わからないような。

「……隼人。俺以外の者とは……」

 言いかけて玲児は俺の肩から手を退けた。そしてその場を立ち上がり、俺の視界に入るのは床を踏みしめる玲児のつま先だけになった。

「いや、いい。聞かん。とにかく、先生に相談は絶対にしろ。わかったな? それができないというなら、相談するまで会わぬ」
「……わかった。話してみる」
「それがいい。必要だ、絶対に」

 返事をするだけで精一杯で、去っていく恋人を引き止めることもできない。引き止めたところで何も言えることはないのだからそれが正しいのだろう。
 昔の玲児ならもっと怒ってそれこそ無理矢理にでも行為に及んだだろうなって、ふと思った。
 あれから時を重ねて、玲児は変わったんだ。なんでなんでと追い詰めるのではなく、俺に寄り添ってくれたのだろう。
 余計に自分が汚く思える。
 玲児と自分の差が開くばかりだ。
 でも水泡はそんな俺をもっと汚して、好きだよって言ってくれる。水泡だったらどんなに嫌なところも好きだよって言ってくれる。
 全部知ってて俺のこと好きだよって言ってくれる。
 そんな水泡のことも気持ち悪いなって思う。
 こんなものが可愛いと思うなんてあいつも頭がちょっとおかしいんだと思う。
 なんなんだろうな。
 優越感とか、征服欲とか、保護欲とか……こんなの可愛がる理由なんて、どうせろくなもんじゃない。
 きっと水泡は俺の近いところにいる。でも凄く優しいんだ。
 それがあいつの汚い欲を満たすためでもいい。
 自分でも自分がどこまで気持ち悪いかわからないから、限界まで堕としきってほしい。そして可愛いよって頭を撫でてキスしてほしい。いっぱい抱きしめて体の中も外も満たしてほしい。
 それでやっと。
 あの広告で笑う俺たちみたいな顔をして、また玲児と向き合えるんだ。



 ※※※※※※※



 この日の僕はとても機嫌が良かった。
 暫くは短時間しか隼人と会うことができず、回数はこなしても物足りなさを埋められない日々に悶々としていたが、隼人から午前の仕事のみでその翌日も休みの二日間があると連絡がきた。
 金曜と土曜だったので僕も午後から半休でもとってしまおう、どこかいいところに泊まりたいなどと、まだ計画とも呼べない週末を思い描く。
 しかし気分の上昇はそれだけに留まらず、僕は今すぐ隼人に会いたくなってしまった。泊まりの予定を考えているというのに。
 でも実は、浮かれた男にはよくあることなのではないだろうか。
 何をしようかと考え、隣を歩く姿や、美味しそうにご飯を食べる顔や、ベッドの中での温もりを想像して……予定は予定として、とりあえず今すぐその顔が見たいと思ってしまうことが。
 ダメ元で、その日はもちろんだが、今日も会えないか聞いてみる。すると夜更けのラジオ収録の前なら会えると言うので、気分は上がりっぱなしだ。
 そんなに長い時間はとれないが、今日はシャワーのあるところがいい。ラジオ局の近くまで僕が行こう。近くのラブホテルを調べよう。
 即ハメとか即尺じゃない、あの子の身体をたっぷりと可愛がりたくて、ぐずぐずに甘やかして心も体もドロドロにしてやりたくて、堪らなかった。

「あっン……みなわぁ、ちゅ、して……そこぐちゅぐちゅしながら、ちゅぅ……」

 だから丁寧に丁寧に愛撫した。
 おちんちんは何度も寸止めして潮吹かせて。
 お尻をふやけそうなくらい舐めてイかせて。
 穴の中も指でたくさんほじって捏ねてあげた。
 前立腺や雄ポルチオを入念に刺激したらまた数え切れないくらい潮を吹いた。
 乳首を虐めながら、卑猥な言葉を囁きながら、後ろから挿入して。男の子のくせに温かくて柔らかいお尻の穴が可愛くて可愛くて。
 最初四つん這いだった隼人が崩れて、五体すべてベッドに沈めても、どれだけイッても、たまに抜いて快感を逃しながらも、パコパコパコパコ止まらなかった。
 顔が見たくて身体をひっくり返して仰向けにしたら、どろっとした虚ろな目をして、弱々しく唇に縋ってきて。
 自分のいろんな液体でぐしょ濡れのシーツの上で、蛙みたいなガニ股をして、汗に濡れた髪を額や頬に張り付かせ、鼻水と涎たらして、へぁっへぁっと間の抜けた呼吸をしてる。
 挿入し直したあと悪戯に思いっきり抜いたら、おならしたみたいにヌボッと空気の抜ける音までして、あんまりにもみっともなくて嬉しくなってしまった。顔がニヤケるのが止まらない。
 ホテルに入る前に立ち寄ったコンビニにあった店で、お酒と一緒に隼人が表紙を飾るファッション雑誌を購入した。
 隼人は買うのを凄く嫌がったけれど、美しく伸びた背筋の映えるタイトなダークトーンのスーツを纏い、黒の革手袋をはめた指先を顎に添え、もの鬱げに悩むような仕草をする姿がとても気に入った。
 珍しく長い前髪を耳にかけて、いつも隠しているのが勿体ないほど美しい、丸みの少ない額から彫りの深い目元に繋がるライン、無駄な肉の一切ない輪郭を惜しげも無く露出しているところもいい。どこか退屈そうな、全てがどうでもよさそうな、彼方を見つめる冷めた流し目に、きっと誰もが視線をもらいたくて堪らなくなる。見下されたいとすら思うかもしれない。
 中途半端に飲んだビールの入った缶と、その雑誌がベッド脇にあるテーブルに置かれてる。
 汗の一筋もかかなそうな芸術品のような彼と、目の前にいる色んな体液の匂いが混ざる彼に興奮が止まらない。

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