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【番外編】セックスしないと出られない部屋で未来の〇〇に童貞(仮)を捧げる話①
しおりを挟む自分はいつのまにかベッドについて眠ったのだろうか。
目を閉じて、覚醒するかしないかギリギリの部分で考える。
なんだかやけに温かい。頬になにか……誰かに触られている?
「あ、起きた」
重い瞼を開いてみれば、この世のものとは思えないほど綺麗な顔をした男が僕の頬に触れ、見下ろす形で顔を覗き込んでいた。
柔らかく光に透けた赤茶色の髪が頬を撫でている。
というか。
ベッドで乗られている?
どういう状況?
当たりを見渡しても白い壁ばかり……かと思いきや。扉の上に看板のようなものがあり、でかでかと「セックスしないと出られない部屋」と書いてあった。
何も意味がわからない。
まだ夢の途中なのだろう。寝よう。
しかし瞼を閉じればペチペチと頬を叩かれて。
「おい、寝るなよ! 寝んなって!」
「……なに。君、誰?」
もう一度よく彼の顔を見る。
やはり黄金比なんてものでは片付けられないほど綺麗な顔だ。西洋系ではないが彫りが深く、鼻筋は高いのにまっすぐ綺麗に伸びていて、輪郭は骨の凹凸を感じさせないほど滑らかだ。西洋系ではないといったが、国籍もあまり感じさせない。それは彼が瞬きをしたり瞼を伏せたり開いたりする度に色の変わる、美しい飴色をした瞳のせいかもしれない。
こんな顔の男がこの世に存在するわけないと思ったが、そうか夢だった。そうでなければバーチャル映像だ。なにか変なゲームでも買っただろうか。いや、そんなゲームは現代に存在しないからあるわけないか。
「なぁ、お前さぁ……加賀見じゃね?」
「え?」
「なんか若いけど……加賀見だろ? 加賀見水泡」
「なんで……」
「あれ? お前は俺の事わかんねーの?」
「知らない……君の顔、一度見たらたぶん……忘れない。だから絶対に、知らない」
顔に似合わず乱暴な言葉遣いだ。勿体ない。
そうじゃなくて、どうして彼は僕を知っているのだろう。いくら人とまともに関わっていなくても、同じ大学にこんな男がいたらすぐ目につくだろう。
男は顎をさすり考える素振りを見せながら、相変わらずじっとこちらを見つめている。
「お前いくつ?」
「馴れ馴れしい……」
この男は誰に対してもこうなのだろうか。
「なぁ、何歳?」
「二十一」
「お、同い年じゃん」
「……そう」
「若返って記憶がねぇのか? タイムスリップ? 意味わかんねぇけど、絶対加賀見本人だよな」
いよいよ訳がわからない。首を傾げ、男を指さす。
「危ないひと……?」
「ちげぇよ。俺さ、三十五歳のお前と知り合いなんだよね」
「……寝よう」
「あー、寝るなって! まじまじ、信じらんねぇだろうけど! つかこの部屋だって意味わかんなくね? 窓もねぇし、外出られそうな扉は何しても開かねぇし、開く扉はユニットバスがあるだけだったし。ここに来る前の記憶もなくね? 俺は無い」
あまりにも理解できない話をしてくるので、こんなに綺麗な顔をしているのに頭がおかしいなんて哀れな男だと思ったが、彼の話にも一理ある。確かにここに来る前の記憶がない。
自分が何者かはわかっているのだが、今日が何月何日で何曜日とか、大学に行った後なのかだとか、昨日は何をしたとか、そういう記憶がない。
彼の言うことが本当なのか確かめるために部屋を一通り調べてみたが、外の音もしない、壁はやたらと分厚い、扉はビクともしない。意味がわからない。
まともな家具がベットしかないので、彼と二人で並んで座る。
知らない男とベッドしかない部屋にいるとか、いくら顔が綺麗でも気持ちが悪い。
などと考えていたのだが、彼はあっけらかんととんでもない事を提案してきた。
「なぁ、セックスしてみよーぜ。そしたらなんかわかるかもしれねぇし」
「……え」
「セックス」
「君と、僕……?」
「他に誰がいんだよ」
「ゲイ……?」
「んー、どっちもいけるよ」
「僕はそのケは、ない」
「ほーお?」
二人分ほど感覚を開けて座っていたのに、ずいっと近寄ってくる。やめてほしい。パーソナルスペースはきちんと確保したい。近寄られた分だけ僕も逆方向へ移動する。
「でもさ、セックスしないと出られないんだぜ?」
「しても……出られない、かも」
「なんで?」
「さらに何かを要求される可能性……否定、できる?」
「あー……確かに? まぁセックスしたらわかるしとりあえずヤッてみてもいいんじゃね?」
「君と? 無理……」
「なぁ、お前まだ童貞?」
「……どうだろう」
「どうだろうってなんだよ? あ、あれだな、素人童貞だろ」
なんでそんな話をしなければならないのだろう。めんどうくさい。僕の経験の有無などどうでもいい。この男と接触することはないのだから。
第一に彼は僕を知っていたとしても、僕は知らない。まったくの他人だ。この特異な状況下だから仕方なくしているが、本当は会話をするのも避けたい。
こんな赤毛の、不良みたいな、馴れ馴れしい態度の人間は好きじゃない。元々誰かと関わり合いたくなどないが、どうでもいいではなく、彼のような人種は好きではない。
「なぁ、言いたくねぇの?」
つんつん、と太ももあたりを人差し指でつつかれる。触らないでほしい。切実に。
「初体験失敗した?」
「……失礼」
「いや、悪かったかなって。そんな話されたことあったなって思い出してさ。すっげぇ痛がられたとか、入らなかったって」
「何……?」
「だから、お前に聞いたんだよ。俺の知り合いの、三十五歳のおっさんになってるお前に。おっさんっつっても結構かっこいいけどな」
驚いた。
彼の、言う通りだった。
全然好きな相手ではない。今まで生きてきて人を好きになった記憶もない。
けれどかなりしつこく言い寄られて、断るほうが無駄な労力を必要としそうで、嫌々大学の女の子二人と付き合ったことがある。
自分一人で自分のためだけに時間を使いたい僕にとって、恋人なんて面倒くさいだけで本当に必要なかった。
ただ、セックスだけはしてみたかった。
おそらく僕は人より性欲が強い。自慰の回数も多い。
女性器に挿入する、ということをしてみたかった。
すぐ振られるだろうと思っていたが、セックスだけはしてからがいいと思った。
しかしできなかったのだ。退屈でくだらないデートをそれぞれ一回ずつ、セックスのためだけに付き合ったというのに(キスはどうしてもしたくなかった。虫歯がないのならなんとか我慢できるかもしれないと治療歴を聞いたら、何故かキスはしなくて済んだ)。
二人とも経験者であり、処女ではなかった。むしろ、手慣れていたと思う。
それなのに一人は亀頭すら挿入ができず。
もう一人はなんとか亀頭は挿入したが、脂汗をだらだら流して苦悶の表情を浮かべ痛い痛いと騒がれて、それ以上やる気にはなれなかった。
これでは付き合っても意味が無いと思ったが、僕から別れを切り出すこともなく、二人ともなんとなくで別れた。
男性器が大きすぎてセックスができないなんてことがあるのかと、普段は何事にもあまり感心をもたない僕でもさすがにショックを受けた。
自分は一生セックスを知らずに生きるのかと。
一生童貞で生きていかなければならないのかと。
いや、亀頭まで収めたのだから一応童貞ではないのか。
でもあれはセックスとは言えないだろう。
しかし女性器は出産に耐えられるようにできている。ならば僕のが入らないのはさすがにおかしいのではないか。
でも出産は苦痛を伴う。相手を愛してるわけでもないのにそんな痛みを強要するのも気が引ける。弱みを握られてるみたいだ。
わざわざ僕の性器に合う相手を探すという行為も僕にできる気はしない。
人に興味を湧くことが……ない。
「君が……どんな風に、セックスをしようとしてるか……知らないけど」
わざわざ言うこともない。でも、僕のせいでこの部屋から出られないということになるのなら。彼には一応伝えておこうと思った。
これ以上うるさく何か言われないために。
「その、三十五歳の僕が言う通り。僕は、セックスができない。男性器が大きくて、入らない。あそこに書いてあることが、本当なら……もう……ここから、出られない。諦めて」
俯いて、組んだ自分の手をなんとなしに見つめる。同じ空間にこのあと暫くいることになるだろうが、関わりたくない。どんな顔で僕の話を聞いてるかもどうでもいい。
しかし気づけば彼はまた距離を詰めてきていて。
さらに悪いことに、逃げ続けた僕はもう壁に追いやられていて。
彼の香水の匂いがわかるほど、顔を寄せられる。
「男同士でどうやんのかは知ってんの?」
「予想は、つく。教えなくていい、必要にならない」
「尻の穴にチンコ入れんだよ」
「君……はぁ。わざわざ聞きたくなかった。不潔……」
「うるせぇなぁ、お前だってケツの穴はあるだろ? セックスできんじゃん。俺のチンコ入れればいいんだから」
何を言ってるんだ。全く理解したくない。目を合わせまいとしていたのにあまりに気持ちが悪い発言に思わず顔を上げてバッチリ見つめ合ってしまった。
顔の筋肉を動かすこと自体が普段ない。それなのに今僕は、眉根をきつく寄せている。
「そんな顔すんなよ。俺、抱けるよ? お前のこと。すげー綺麗な顔してんじゃん? 俺よりでっけーのに女みてぇな顔。肌白くて、まつ毛バサバサで、黒目デカくてさ。お前こんな美少年だったんだな。二十一は少年じゃねえか。でもまだ少年って感じする。年齢より若いと思ってたけど童顔なんだな」
「いや、本当に。やめてほしい。興味が無い」
「ちょっとだけ我慢してろよ。俺慣れてるから大丈夫だって。ちゃんと気持ちよくしてやれると思うし。な?」
「いやだ。触られるとか、気持ち悪い」
「三十五歳のお前はすっげぇ触ってくるよ? 俺のこと。お前に触られてない場所なんかないんじゃね?」
「え……?」
その言葉の意味を考えていたら、ガクンと体が揺れた。
押されて、僕の背は壁にぴったりとくっついて。その背には彼の手が添えられている。
目の前には綺麗なアーチを描いて笑う唇。
本当に綺麗な顔をしている。そのせいで度々見惚れてしまい、行動が遅れるんだ。
バニラのような、レザーのような、甘くて重い香りがする。酔いそうな香りにちょっと気をやれば、耳に柔らかくて温かい感触。
今、口つけられたな。嘘だろう。
「気色悪い。きみ、なに。ありえない」
血の気が引くとはこういうことか。袖を汚すのも嫌だけど耳が気持ち悪すぎて仕方なしに袖で耳をゴシゴシと拭う。
「君じゃねぇーよ。隼人。は、や、と。呼んでみ?」
「隼人……?」
「そう。なんか可愛いな、お前。同い年だとこんな感じなんだ。な、本当にセックスしよ? 俺とならちゃんとできるから。な?」
男の……隼人の息が、耳の穴に入ってくる。実際どこまで届くか知らないが、中へ入ってこめかみのほうまで上がっていくように感じてゾクリとした。
あー、いやだ、無理だ、気持ち悪い。鳥肌が立つ。
なんとなく、僕はこの……隼人のことが、嫌いではない気がする。黙っていれば鑑賞の価値があるくらいに顔が美しいからだろうか。しかし性行為をするのはごめんだ。ありえない。気色が悪すぎる。
「お前さ、いっつもこうやって耳にキスしたり、舐めたり、囁いたりしてくるんだぜ? 俺の耳責めんの大好きなんだろーな」
それが本当に将来の僕だとしても今の僕にはまるで関係ない。着ていたシャツの裾から、彼の手が侵入しようとしている。指先が脇腹に触れる。だからそれ以上は許さないと、彼の手首を強く握りしめた。握りつぶしてやろうという気持ちで。
肩幅や腕をみると、綺麗に筋肉がついているのがわかる。それでもスラッとした彼の手首は細かった。
「あ、おいお前、痛い痛い痛い、痛てぇよ! 離せ!」
「君が手を、引っ込めるなら」
「わかった、わかったよ! 服に手突っ込んで乳首いじったりしねぇから離せ!」
「おぞましい……絶対、だめ。訴える」
想像しそうになって、急いで思考を止める。ない。なんでそんなことされないといけないんだ。僕が彼のを弄るならともかく。ともかく?
自分の発想に首を傾げる。こんなこと考えるのか、僕は。初対面の男相手に。
「あーくっそ、痛ってぇー。とんでもねぇ力出すじゃん。骨折れるかと思った」
実際には握り潰せるわけのない手首をぶんぶん振っている彼をじっと見つめる。本当に綺麗に顔だ。それに酔いそうなほどいい香りがする。
首筋から、香っていたと思う。
そんなことを考えていたらその首筋に顔を埋めたいという、ありえない衝動が起こった。
ドクンと心臓が鳴る。
「なぁー?」
「……なに」
「俺のケツ入るよ、お前のチンコ」
「え?」
なんなんだろう、この人は。僕の表情筋をこんなに使わせるなんて。
「抱いてやろーと思ったけど、嫌ならしょうがねぇじゃん。俺が抱かれるんでもいいっつってんの」
「君を抱く? 僕が? 入らない」
「入るよ」
また、彼は僕の耳元に唇を寄せた。自然と僕の顔も彼の首筋に近くなる。甘い香りがする。
「水泡の、でっけぇチンコ入るよ? 俺のケツ。下曲がりの、とんでもない怪物みたいなチンコ。亀頭パンパンでカリ首のとこぶっといすっげぇエロいチンコ。お前がさ、入るようにしたんだぜ?」
エロいかどうかは知らないが、自分の男性器の特徴とは合致している。
彼の……隼人の中になら、入ることができる? 僕がそうしたのか。将来の僕が。
僕の性的指向は変わってしまうのか。
「セックスできないなんてことねぇよ? お前いっーぱい、セックスしてんだぜ、俺と。入るよ、ちゃんと」
いくら綺麗でも男だ。僕は同性で抜いたことなんてない。胸は大きい方が好きだし、柔らかい肌の方がいい。
それなのに。
僕の性器はありえないほどに勃起していた。さっきまでなんともなかったのに、熱くて今すぐ出したいほどだ。
そんな僕に隼人は吐息混じりに誘惑してくる。
「俺のケツ、女代わりに使っていーよ」
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