14 / 18
14日がさすところに影あり
しおりを挟む
ラノイはギルドにいた。
「薬草20本とってきました。精算お願いします」
「少々お待ちください」
受付嬢は慣れた手つきで薬草を数え始めた。
「確かに20本ありますね。ではこちら報酬です」
そう言ってラノイに手渡されたのは20枚の銅貨だった。誰でも出来る依頼のため報酬も多くはない。
しかし、ラノイは報酬をもらっても不満げな顔をしなかった。
「すいません、これも追加で」
そう言いながら森で拾った魔石を差し出す。
「確認しますね。……こちらの魔石はゴブリンのものですね。買い取りでよろしかったですか?」
「あ、はい」
「かしこまりました。ではこちらが代金となります」
受付嬢は銀貨を10枚ラノイへ渡した。予想よりも高価な額に「おほっ」と言う下品なリアクションをとってしまう。
とっさに手で口を隠し、急いで銀貨を回収する。
「それにしても、よく魔石なんて持ってこれましたね~」
「え?」
「一番出やすいゴブリンの魔石でも十数体倒して一個出るか出ないかの確率なんですよ。運がいいですね」
「ああ、まあ」
森の中で拾ったんです、とは言えなかった。なぜ森の中に落ちていたのかは謎だが、あまり深くは考えないことにした。
思わぬ臨時収入のおかげで、懐はだいぶ暖かくなっていた。
贅沢して高い料理を食べるか、はたまた武器や防具を新調するか、このまま貯金するか。有り余る選択肢にラノイは頭を悩ませる。
貨幣の入った袋を手の中でジャラジャラと動かしながら考える。すると、急に手の中からその重みが消えた。
はっとして辺りを見回す。ふと前方に猛ダッシュでかける少年の後ろ姿が見えた。
ラノイは直感的にその少年を追いかける。しかし走れど走れど追いつけず、それどころかついていくので精一杯だった。
「くっ、まだついて来る」
少年は路地に入り飄々と障害物を飛び越え奥へと消えていった。ラノイも見失ってなるものかと必死に後を追う。
「やった、これだけあればしばらくは……」
少年は袋の中を見て歓喜する。突如、首を何者かに掴まれた。
「つ……捕まえたぞ」
額に大粒の汗をかき、息も絶え絶えになったラノイだった。少年はその手を振りほどこうとするが、動かざること山の如しと言った具合にラノイの手は首を掴んで離さない。
「さあ、その袋返してもらうよ」
「……わーったよ」
不満げに少年は袋を返す。
「あれ、金貨が入ってないけど」
「知らねーよそんなの」
「じゃあ君のポケットの膨らみは何?」
「こ、これは」
「え、まじで入ってるんだ」
「おまえ! ハメやがったな!」
少年は大きなため息をつき、しぶしぶ金貨を返した。
「なあ、もう離してくれよ」
「まだだめ。第一、なんで人のものを盗ったんだい?」
「しょうがねーだろ。ここで生きる皆んなのためだ」
「みんな?」
「周り見てみろよ」
言われた通りまわりを見渡す。
皆着ている衣服はぼろく、家も簡素な作りだ。さっきまでいた場所、人とは明らかに異なっている。
「わかったか? これが俺たちの現状だ」
「でも、今まで働いたりはしなかったの?」
「働こうにも、あいつらロクな賃金くれやしない。だったら、盗んだほうがいい」
「もし、旅のおかたですか?」
路地の奥から誰かが話しかけてきた。見るとその男には片腕と片足が無かった。男は話を続けた。
「一応冒険者です」
「それは失礼。時に、その子――ドゥールを悪く思わないでくれませんか。私たちがこんなだから、ドゥールは仕方なくやっているんです」
「そ、そんなこと言われましても」
確かにここにいる人たちは老人や、子供連れや、負傷した冒険者などが多い。皆痩せこけており、目に生気がなく濁っている。
ラノイはもう一度周りを見渡し、何かを考えだす。
「……ドゥール、もう盗みはしないって約束できるか?」
「なっ、急に何言って――」
そう言うと、ラノイは男の方へ歩き、復元の魔法を唱え始めた。
「これでいいですかね」
すると男の腕と脚は元通りになっていた。突然の出来事に、本人はおろかそこにいる皆がポカンとしている。
次にラノイは皆の衣服に復元魔法を使い始めた。たちまち衣服は新品と同様になっていく。
「え、ちょ、何が起こって……」
「ふぅ、こんなところかな」
ゆっくりとではあるが事態を飲み込んだのか、さっきまで濁っていた皆んなの目は次第に輝きを取り戻していた。遅れて、路地を震わすような絶叫と歓声が飛び交い始めた。
「俺の腕と足が!」
「ママー! アタシの服ピカピカ!」
「おぉ……神じゃ、神の慈悲じゃあ」
「さて、ドゥール」
ラノイは改まってドゥールに話しかける。
「な、なんだよ」
「もうみんなのために盗まなくていいんだ。盗み、辞めてくれるね?」
「でも、そしたらどうやって食ってけば」
「大丈夫さドゥール。冒険者になって僕とパーティーを組もう」
「…………え?」
「薬草20本とってきました。精算お願いします」
「少々お待ちください」
受付嬢は慣れた手つきで薬草を数え始めた。
「確かに20本ありますね。ではこちら報酬です」
そう言ってラノイに手渡されたのは20枚の銅貨だった。誰でも出来る依頼のため報酬も多くはない。
しかし、ラノイは報酬をもらっても不満げな顔をしなかった。
「すいません、これも追加で」
そう言いながら森で拾った魔石を差し出す。
「確認しますね。……こちらの魔石はゴブリンのものですね。買い取りでよろしかったですか?」
「あ、はい」
「かしこまりました。ではこちらが代金となります」
受付嬢は銀貨を10枚ラノイへ渡した。予想よりも高価な額に「おほっ」と言う下品なリアクションをとってしまう。
とっさに手で口を隠し、急いで銀貨を回収する。
「それにしても、よく魔石なんて持ってこれましたね~」
「え?」
「一番出やすいゴブリンの魔石でも十数体倒して一個出るか出ないかの確率なんですよ。運がいいですね」
「ああ、まあ」
森の中で拾ったんです、とは言えなかった。なぜ森の中に落ちていたのかは謎だが、あまり深くは考えないことにした。
思わぬ臨時収入のおかげで、懐はだいぶ暖かくなっていた。
贅沢して高い料理を食べるか、はたまた武器や防具を新調するか、このまま貯金するか。有り余る選択肢にラノイは頭を悩ませる。
貨幣の入った袋を手の中でジャラジャラと動かしながら考える。すると、急に手の中からその重みが消えた。
はっとして辺りを見回す。ふと前方に猛ダッシュでかける少年の後ろ姿が見えた。
ラノイは直感的にその少年を追いかける。しかし走れど走れど追いつけず、それどころかついていくので精一杯だった。
「くっ、まだついて来る」
少年は路地に入り飄々と障害物を飛び越え奥へと消えていった。ラノイも見失ってなるものかと必死に後を追う。
「やった、これだけあればしばらくは……」
少年は袋の中を見て歓喜する。突如、首を何者かに掴まれた。
「つ……捕まえたぞ」
額に大粒の汗をかき、息も絶え絶えになったラノイだった。少年はその手を振りほどこうとするが、動かざること山の如しと言った具合にラノイの手は首を掴んで離さない。
「さあ、その袋返してもらうよ」
「……わーったよ」
不満げに少年は袋を返す。
「あれ、金貨が入ってないけど」
「知らねーよそんなの」
「じゃあ君のポケットの膨らみは何?」
「こ、これは」
「え、まじで入ってるんだ」
「おまえ! ハメやがったな!」
少年は大きなため息をつき、しぶしぶ金貨を返した。
「なあ、もう離してくれよ」
「まだだめ。第一、なんで人のものを盗ったんだい?」
「しょうがねーだろ。ここで生きる皆んなのためだ」
「みんな?」
「周り見てみろよ」
言われた通りまわりを見渡す。
皆着ている衣服はぼろく、家も簡素な作りだ。さっきまでいた場所、人とは明らかに異なっている。
「わかったか? これが俺たちの現状だ」
「でも、今まで働いたりはしなかったの?」
「働こうにも、あいつらロクな賃金くれやしない。だったら、盗んだほうがいい」
「もし、旅のおかたですか?」
路地の奥から誰かが話しかけてきた。見るとその男には片腕と片足が無かった。男は話を続けた。
「一応冒険者です」
「それは失礼。時に、その子――ドゥールを悪く思わないでくれませんか。私たちがこんなだから、ドゥールは仕方なくやっているんです」
「そ、そんなこと言われましても」
確かにここにいる人たちは老人や、子供連れや、負傷した冒険者などが多い。皆痩せこけており、目に生気がなく濁っている。
ラノイはもう一度周りを見渡し、何かを考えだす。
「……ドゥール、もう盗みはしないって約束できるか?」
「なっ、急に何言って――」
そう言うと、ラノイは男の方へ歩き、復元の魔法を唱え始めた。
「これでいいですかね」
すると男の腕と脚は元通りになっていた。突然の出来事に、本人はおろかそこにいる皆がポカンとしている。
次にラノイは皆の衣服に復元魔法を使い始めた。たちまち衣服は新品と同様になっていく。
「え、ちょ、何が起こって……」
「ふぅ、こんなところかな」
ゆっくりとではあるが事態を飲み込んだのか、さっきまで濁っていた皆んなの目は次第に輝きを取り戻していた。遅れて、路地を震わすような絶叫と歓声が飛び交い始めた。
「俺の腕と足が!」
「ママー! アタシの服ピカピカ!」
「おぉ……神じゃ、神の慈悲じゃあ」
「さて、ドゥール」
ラノイは改まってドゥールに話しかける。
「な、なんだよ」
「もうみんなのために盗まなくていいんだ。盗み、辞めてくれるね?」
「でも、そしたらどうやって食ってけば」
「大丈夫さドゥール。冒険者になって僕とパーティーを組もう」
「…………え?」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
[完結:1話 1分読書]幼馴染を勇者に寝取られた不遇職の躍進
無責任
ファンタジー
<毎日更新 1分読書> 愛する幼馴染を失った不遇職の少年の物語
ユキムラは神託により不遇職となってしまう。
愛するエリスは、聖女となり、勇者のもとに行く事に・・・。
引き裂かれた関係をもがき苦しむ少年、少女の物語である。
アルファポリス版は、各ページに人物紹介などはありません。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
この物語の世界は、15歳が成年となる世界観の為、現実の日本社会とは異なる部分もあります。
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
才能に縛られた世界の『無能』でも、『運』が良ければ成り上がれるはずだ
飛楽ゆらる
ファンタジー
——地球にダンジョンが発生してから数十年。ダンジョンと共に才能やステータスという新たな概念が芽生え、世界はそれらを中心としたシステムに切り替わって行った。
そんな中で生まれた、ダンジョン資源を求めダンジョンへと潜る"ダンジョンハンター(DH)"という職業。
そんなDHに生きるための最後の望みを懸けた少年。彼は、戦いに関する才能どころか、何一つ才能が芽生えない"無能"。
教育学校での虐めや暴力に耐え、教育学校へと通い続けた彼だが、ある日無能を理由に強制退学させられてしまう。
その時に校長が投げつけて来た物。それは古い箱と呼ばれ、ランダムにアイテムを入手出来る、通称"ガチャ"の最下級品。
最下級品は、ゴミ同然のアイテムしか出ない筈だった——だが少年が手にしたのは、唯一無二でユニークレア等級の"聖剣エクスキャリバー"だった。
そこから少年の人生は大きく変動し、人間同士の争いや過去を乗り越えて、DHとして駆け上がって行く。
ーーーーーー
小説家になろう様でも投稿中です。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
無能を装って廃嫡された最強賢者は新生活を満喫したい!
えながゆうき
ファンタジー
五歳のときに妖精と出会った少年は、彼女から自分の置かれている立場が危ういことを告げられた。
このままではお母様と同じように殺されてしまう。
自分の行く末に絶望した少年に、妖精は一つの策を授けた。それは少年が持っている「子爵家の嫡男」という立場を捨てること。
その日から、少年はひそかに妖精から魔法を教えてもらいながら無能者を演じ続けた。
それから十年後、予定通りに廃嫡された少年は自分の夢に向かって歩き出す。
膨大な魔力を内包する少年は、妖精に教えてもらった、古い時代の魔法を武器に冒険者として生計を立てることにした。
だがしかし、魔法の知識はあっても、一般常識については乏しい二人。やや常識外れな魔法を使いながらも、周囲の人たちの支えによって名を上げていく。
そして彼らは「かつてこの世界で起こった危機」について知ることになる。それが少年の夢につながっているとは知らずに……。
ドロップキング 〜 平均的な才能の冒険者ですが、ドロップアイテムが異常です。 〜
出汁の素
ファンタジー
アレックスは、地方の騎士爵家の五男。食い扶持を得る為に13歳で冒険者学校に通い始めた、極々一般的な冒険者。
これと言った特技はなく、冒険者としては平凡な才能しか持たない戦士として、冒険者学校3か月の授業を終え、最低ランクHランクの認定を受け、実地研修としての初ダンジョンアタックを冒険者学校の同級生で組んだパーティーでで挑んだ。
そんなアレックスが、初めてモンスターを倒した時に手に入れたドロップアイテムが異常だった。
のちにドロップキングと呼ばれる冒険者と、仲間達の成長ストーリーここに開幕する。
第一章は、1カ月以内に2人で1000体のモンスターを倒せば一気にEランクに昇格出来る冒険者学校の最終試験ダンジョンアタック研修から、クラン設立までのお話。
第二章は、設立したクラン アクア。その本部となる街アクアを中心としたお話。
第三章は、クラン アクアのオーナーアリアの婚約破棄から始まる、ドタバタなお話。
第四章は、帝都での混乱から派生した戦いのお話(ざまぁ要素を含む)。
1章20話(除く閑話)予定です。
-------------------------------------------------------------
書いて出し状態で、1話2,000字~3,000字程度予定ですが、大きくぶれがあります。
全部書きあがってから、情景描写、戦闘描写、心理描写等を増やしていく予定です。
下手な文章で申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる