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16話 温泉で女湯に
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そびえ立つような山が眼前に広がる小さな村へたどり着いたのは、夕陽が遠い山の向こうへ落ちようとしている頃だった。村に1軒しかないという宿屋にロディオが部屋をとるよう指示を出し、今夜はそこに泊まることになった。俺とガストンで1部屋、タニアは女性ということでひとりで1部屋、ロディオとバーレンのふたりで1部屋、バーレン以外の兵士たちもそれぞれふたりずつ分かれて部屋を与えられた。
「……俺たちとタニアで示し合わせて、夜の間に逃げることもできるよなぁ、コレ」
「おそらくはわしらが罪人であることすらもう忘れているのだろうな、あのお坊ちゃんは」
宿から提供された夕食を平らげたあと、久しぶりにベットをひとつ占有できる喜びに存分にひたりながら、俺とガストンがそんな話をしていると、部屋のドアがノックされた。
開けると、タニアが立っている。
「入っていい?」
「もちろん」
「ありがと。わあ、やっぱりこっちのほうが広いね」
「そっちはもう少し狭い?」
「うん、少しだけね。でもいつもならあれくらいの広さに三人で泊まってるかも」
「ここ、いくらくらいするんだろうな。これも公費の浪費ってやつか?」
「ライアンは真面目ねえ。向こうが勝手にやってるんだから気にしないでいいんじゃない。それより、この宿に露天風呂の温泉がついてるって話、聞いた?」
「聞いてない」
「案内してくれた人が教えてくれたの。一緒にいかない?」
「一緒に?」
三人で同じ部屋に宿泊したことは何度もあるが、タニアが着替える時にはわざわざ部屋の外に出ている俺たちである。そんな間柄であるはずなのに急に裸の付き合いを申し入れてくるとは、昨日の死刑の恐怖から一転解放された開放感によるものなのか、と、俺が尋ねる前に、タニアは顔を真っ赤にした。
「ち、違うわよ、バカ! 男湯と女湯は分かれてるの! お風呂のあるところまで一緒に行こうって話!」
考えてみればそりゃそうだ。
俺たちとて温泉にゆっくりとつかることはやぶさかではない。念のためロディオたちの部屋まで断りに行くと、ロディオは意外にも難色を示し――
「何を言っている? お前たちは罪人だぞ! そのお前たちだけで風呂へ行くなどとおこがましいッ! ……とはいえ罪人だからといって不当に過酷な扱いをするのはこのロディオ様の主義主張に反する……罪人とて旅の疲れを癒すくらいの権利はあろう……うむ! このロディオ様が貴様らの見張りをしておけば安心、ということかッ!」
……つまりは、一緒に行くことになった。
難色を示したというか、そもそも自分も入りたかっただけだと思われる。
俺たちだけでロディオを相手にしていると疲れを癒すどころか逆に疲れが溜まりそうだったので、ロディオと同室のバーレンも誘い、俺たちは五人連れ立って宿の裏手から外へ出た。ロディオがいつも胸に抱いているマンダがいるため、正確には五人と一体か。
小さな石が左右に置かれただけの簡単な通路の向こうに見えるぼんやりと明りの灯る小さな建物へ向かって歩いて行くと、温泉の湯気が醸し出すふんわりとやわらかい、独特の匂いを含んだ湿気の多い空気が漂ってきた。
「女湯はこっち、男湯はあっちみたいね。じゃあ私はここで」
分岐路で、タニアがそう言って行こうとすると、ロディオがけったいな声をあげた。
「ん? うわ、わ、わあっ!」
ロディオがタニアのほうへつんのめるようにして倒れる。
「きゃっ?!」
タニアも叫んだ。倒れる直前のロディオの腕のなかから、マンダがひょいと飛び出して、タニアの足をよじ登り始めたからだ。
「やだ、ちょっと、なに?!」
足をよじ登り、スカートの中にまで入って来たマンダにタニアは慌てて、マンダを自分の足から引き剥がした。
「くぅっ、急にあばれるとは、一体……」
「俺たちはなにもしてないですからね!」
膝をついて起き上がるロディオに、俺はまずなにより先にそう言った。何度も濡れ衣を着せられているのだ。それだけははっきりさせておかねばなるまい。
「ほら、マンダ、暴れちゃだめじゃない。ロディオさんのところにいなさい。ね?」
タニアが優しく言って、マンダをロディオをのもとに返そうとするが、マンダはタニアの手からするりと抜けると、腕をよじ登って今度はタニアの肩へと登った。
とにかく、タニアがお目当のようだ。
そのとき、ずっと後ろから様子を見ていたバーレンが言った。
「もしや、タニア殿と一緒に風呂へ入りたいのではないでしょうか?」
「ああ、なるほど」
「なるほど」
俺とガストン、そしてバーレンは顔を見合わせた。
口には出さなかったが、その時俺たちの心はひとつになっていた。
エロサラマンダー…………
と。
「……俺たちとタニアで示し合わせて、夜の間に逃げることもできるよなぁ、コレ」
「おそらくはわしらが罪人であることすらもう忘れているのだろうな、あのお坊ちゃんは」
宿から提供された夕食を平らげたあと、久しぶりにベットをひとつ占有できる喜びに存分にひたりながら、俺とガストンがそんな話をしていると、部屋のドアがノックされた。
開けると、タニアが立っている。
「入っていい?」
「もちろん」
「ありがと。わあ、やっぱりこっちのほうが広いね」
「そっちはもう少し狭い?」
「うん、少しだけね。でもいつもならあれくらいの広さに三人で泊まってるかも」
「ここ、いくらくらいするんだろうな。これも公費の浪費ってやつか?」
「ライアンは真面目ねえ。向こうが勝手にやってるんだから気にしないでいいんじゃない。それより、この宿に露天風呂の温泉がついてるって話、聞いた?」
「聞いてない」
「案内してくれた人が教えてくれたの。一緒にいかない?」
「一緒に?」
三人で同じ部屋に宿泊したことは何度もあるが、タニアが着替える時にはわざわざ部屋の外に出ている俺たちである。そんな間柄であるはずなのに急に裸の付き合いを申し入れてくるとは、昨日の死刑の恐怖から一転解放された開放感によるものなのか、と、俺が尋ねる前に、タニアは顔を真っ赤にした。
「ち、違うわよ、バカ! 男湯と女湯は分かれてるの! お風呂のあるところまで一緒に行こうって話!」
考えてみればそりゃそうだ。
俺たちとて温泉にゆっくりとつかることはやぶさかではない。念のためロディオたちの部屋まで断りに行くと、ロディオは意外にも難色を示し――
「何を言っている? お前たちは罪人だぞ! そのお前たちだけで風呂へ行くなどとおこがましいッ! ……とはいえ罪人だからといって不当に過酷な扱いをするのはこのロディオ様の主義主張に反する……罪人とて旅の疲れを癒すくらいの権利はあろう……うむ! このロディオ様が貴様らの見張りをしておけば安心、ということかッ!」
……つまりは、一緒に行くことになった。
難色を示したというか、そもそも自分も入りたかっただけだと思われる。
俺たちだけでロディオを相手にしていると疲れを癒すどころか逆に疲れが溜まりそうだったので、ロディオと同室のバーレンも誘い、俺たちは五人連れ立って宿の裏手から外へ出た。ロディオがいつも胸に抱いているマンダがいるため、正確には五人と一体か。
小さな石が左右に置かれただけの簡単な通路の向こうに見えるぼんやりと明りの灯る小さな建物へ向かって歩いて行くと、温泉の湯気が醸し出すふんわりとやわらかい、独特の匂いを含んだ湿気の多い空気が漂ってきた。
「女湯はこっち、男湯はあっちみたいね。じゃあ私はここで」
分岐路で、タニアがそう言って行こうとすると、ロディオがけったいな声をあげた。
「ん? うわ、わ、わあっ!」
ロディオがタニアのほうへつんのめるようにして倒れる。
「きゃっ?!」
タニアも叫んだ。倒れる直前のロディオの腕のなかから、マンダがひょいと飛び出して、タニアの足をよじ登り始めたからだ。
「やだ、ちょっと、なに?!」
足をよじ登り、スカートの中にまで入って来たマンダにタニアは慌てて、マンダを自分の足から引き剥がした。
「くぅっ、急にあばれるとは、一体……」
「俺たちはなにもしてないですからね!」
膝をついて起き上がるロディオに、俺はまずなにより先にそう言った。何度も濡れ衣を着せられているのだ。それだけははっきりさせておかねばなるまい。
「ほら、マンダ、暴れちゃだめじゃない。ロディオさんのところにいなさい。ね?」
タニアが優しく言って、マンダをロディオをのもとに返そうとするが、マンダはタニアの手からするりと抜けると、腕をよじ登って今度はタニアの肩へと登った。
とにかく、タニアがお目当のようだ。
そのとき、ずっと後ろから様子を見ていたバーレンが言った。
「もしや、タニア殿と一緒に風呂へ入りたいのではないでしょうか?」
「ああ、なるほど」
「なるほど」
俺とガストン、そしてバーレンは顔を見合わせた。
口には出さなかったが、その時俺たちの心はひとつになっていた。
エロサラマンダー…………
と。
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