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「冒険者登録証見せて」
「はい……」
俺の冒険者登録証は、普段は鎖についないで首からかけ、服の中に入れている。それを取り出し鎖ごと保安兵に差し出すと、保安兵はそれを一瞥して、フン、と鼻を鳴らした。
「Aランク冒険者か」
「はい」
登録証の番号を控えた保安官が、投げるようにしてそれを返してきた。
俺はそれを再び首にかけ、服のなかにしまう。
一口に保安兵といっても色々いるが、今回のはハズレだな、と心の中で愚痴る。
部屋の惨状を見た宿の女将が、俺たちが言い訳をする暇も与えず通報してしまったのだ。
今は、宿屋の一階にある小部屋で取り調べを受けている。まずはパーティリーダーである俺から。タニアとガストンはそれぞれ別室で待機させられていた。
「それで? これは、元の仲間がやったって?」
「はい。多分、ですけど」
「その仲間の冒険者番号は?」
「あ……それが、聞いてなくて」
「はぁ?」
「登録証を、その、盗まれたと言っていて。再発行申請するようには言ってたんですが、結局その前に別れてしまったので」
「えぇー? 冒険者登録証なしの冒険者稼業は違法だよ? 知ってるよねー?」
保安兵が、ネチネチとした言い方で居丈高に睨みつけて来た。それは知っている。加盟各国にギルドからの要請という形で適用されている、ギルド法というやつだ。しかし、その法が形骸化していることも知っている。いまどき、いわゆる冒険者や賞金稼ぎというやつらの半分くらいは登録なしのモグリだ。
だいたい、冒険者登録は年単位での更新でその度にいちいちそれなりの金額を出して丸一日の講習を受けなければいけないという面倒なものだ。それで登録することの最大メリットは、国境を越える際の身分証明になるというもの。特定の国の中でクエストをこなしている中小規模の冒険者、あるいは冒険者でなくとも国境間の行き来が自由な平和な国同士ではまずもって意味がないので、そういうやつらは大抵未登録で活動している。
ギルド側はあくまでも登録を呼びかけているが、ギルド法はあくまで各国への要請という形にとどまり、違反した場合にギルドが科すことができる権限というのはせいぜいがそのギルドを永久追放というくらい。つまり、もとから登録する気のないやつにはまったく意味がない。
いっぽうで冒険者ギルドの力が強くなりすぎることを警戒している国側は、よほど悪質なやつでもないかぎり、モグリの冒険者を黙認していることがほとんどだ。クエストの発注者もいちいち正規の冒険者であることを確認したりはしない。
かつてはギルドのランクがあがるとより上位の、難易度が高いがその分報奨金も高いクエストを受注できたというが、今どきは誰でも好きなランクのクエストを受注できる。そういうやつは大抵が早い者勝ちの成功報酬型ではあるが。提示した金額でやってほしいことをやってくれる相手なら、正規だろうか非正規だろうがランクがあろうがなかろうがどうでもいい、というのが発注側の本音だろう。
そんななかで、俺、タニア、ガストンは、正規の冒険者登録をしているいわば真面目なほうの冒険者だ。デンスも、冒険者登録を済ませているというからこそ、仲間に入れたのだが――
「仲間の冒険者登録確認はパーティリーダーの責任だよ? わかってる?」
「はい……」
「はあー、まったくこれだから冒険者は。まあいいや。被害はこの宿のあの部屋だけなんだよね?」
そうだといいんだが、と、俺は心の中で呟きつつ、こくりと頷いた。
「仲間がやったことはパーティみんなの責任だからさー。元仲間とか言い逃れしてないで。女将さんも、賠償さえしてくれれば大ごとにはしたくないと言ってくれてるし。俺も……ねえ? せっかくの冒険者資格を、破壊行為により剥奪、みたいな真似はしたくないわけよ。Aランクになるまでには、色々大変だったんでしょ? 穏便にすませられるなら、そのほうがいいんじゃない?」
そういいながら保安兵は、なにかいいたげに目配せしてくる。賄賂を渡せってことか。俺は心のなかでため息をついた。
とはいえ、賄賂くらい、こういう稼業をやっていればよくある話だ。いちいち目くじらをたてるのも馬鹿らしい。
賠償といっても、宿屋まるごと壊滅させたわけじゃない。割れた窓ガラス。焦げた床や壁紙の張り替え。あとは備品の再購入費用。多少ならず痛い出費だが、金食い虫のデンスもいなくなったことだし、しばらくこの街にとどまってクエストの二、三個もこなせばどうにかなるだろう。
俺は腰のベルトに差していた財布をさりげなく取り出し、机の下で中身を数えた。この国の紙幣をありったけ……いや、半分くらいは残しておこう。と思ったが、さすがに少ないか? ごねられると面倒だし……でも全部渡してしまうと次のクエストを受注する前に装備を整える予算すらなくなってしまいかねない。
ちょうど狭間にあった紙幣の一枚を渡すか渡さないかでしばらく悩んだあと、しかたなく渡すほうに割り振り、小さく丸めた札束をそっと机の上に差し出した。
「ん? なんだこれは? ちょっと見せてみろ……」
保安兵が、やにさがった表情で札束に手を伸ばした。その時である。
「幻獣の敵は誰だあああああああっ?!」
部屋のドアが、予告なくバン、と開け放たれると、やたらとハイテンションな男がそこにいた。
「はい……」
俺の冒険者登録証は、普段は鎖についないで首からかけ、服の中に入れている。それを取り出し鎖ごと保安兵に差し出すと、保安兵はそれを一瞥して、フン、と鼻を鳴らした。
「Aランク冒険者か」
「はい」
登録証の番号を控えた保安官が、投げるようにしてそれを返してきた。
俺はそれを再び首にかけ、服のなかにしまう。
一口に保安兵といっても色々いるが、今回のはハズレだな、と心の中で愚痴る。
部屋の惨状を見た宿の女将が、俺たちが言い訳をする暇も与えず通報してしまったのだ。
今は、宿屋の一階にある小部屋で取り調べを受けている。まずはパーティリーダーである俺から。タニアとガストンはそれぞれ別室で待機させられていた。
「それで? これは、元の仲間がやったって?」
「はい。多分、ですけど」
「その仲間の冒険者番号は?」
「あ……それが、聞いてなくて」
「はぁ?」
「登録証を、その、盗まれたと言っていて。再発行申請するようには言ってたんですが、結局その前に別れてしまったので」
「えぇー? 冒険者登録証なしの冒険者稼業は違法だよ? 知ってるよねー?」
保安兵が、ネチネチとした言い方で居丈高に睨みつけて来た。それは知っている。加盟各国にギルドからの要請という形で適用されている、ギルド法というやつだ。しかし、その法が形骸化していることも知っている。いまどき、いわゆる冒険者や賞金稼ぎというやつらの半分くらいは登録なしのモグリだ。
だいたい、冒険者登録は年単位での更新でその度にいちいちそれなりの金額を出して丸一日の講習を受けなければいけないという面倒なものだ。それで登録することの最大メリットは、国境を越える際の身分証明になるというもの。特定の国の中でクエストをこなしている中小規模の冒険者、あるいは冒険者でなくとも国境間の行き来が自由な平和な国同士ではまずもって意味がないので、そういうやつらは大抵未登録で活動している。
ギルド側はあくまでも登録を呼びかけているが、ギルド法はあくまで各国への要請という形にとどまり、違反した場合にギルドが科すことができる権限というのはせいぜいがそのギルドを永久追放というくらい。つまり、もとから登録する気のないやつにはまったく意味がない。
いっぽうで冒険者ギルドの力が強くなりすぎることを警戒している国側は、よほど悪質なやつでもないかぎり、モグリの冒険者を黙認していることがほとんどだ。クエストの発注者もいちいち正規の冒険者であることを確認したりはしない。
かつてはギルドのランクがあがるとより上位の、難易度が高いがその分報奨金も高いクエストを受注できたというが、今どきは誰でも好きなランクのクエストを受注できる。そういうやつは大抵が早い者勝ちの成功報酬型ではあるが。提示した金額でやってほしいことをやってくれる相手なら、正規だろうか非正規だろうがランクがあろうがなかろうがどうでもいい、というのが発注側の本音だろう。
そんななかで、俺、タニア、ガストンは、正規の冒険者登録をしているいわば真面目なほうの冒険者だ。デンスも、冒険者登録を済ませているというからこそ、仲間に入れたのだが――
「仲間の冒険者登録確認はパーティリーダーの責任だよ? わかってる?」
「はい……」
「はあー、まったくこれだから冒険者は。まあいいや。被害はこの宿のあの部屋だけなんだよね?」
そうだといいんだが、と、俺は心の中で呟きつつ、こくりと頷いた。
「仲間がやったことはパーティみんなの責任だからさー。元仲間とか言い逃れしてないで。女将さんも、賠償さえしてくれれば大ごとにはしたくないと言ってくれてるし。俺も……ねえ? せっかくの冒険者資格を、破壊行為により剥奪、みたいな真似はしたくないわけよ。Aランクになるまでには、色々大変だったんでしょ? 穏便にすませられるなら、そのほうがいいんじゃない?」
そういいながら保安兵は、なにかいいたげに目配せしてくる。賄賂を渡せってことか。俺は心のなかでため息をついた。
とはいえ、賄賂くらい、こういう稼業をやっていればよくある話だ。いちいち目くじらをたてるのも馬鹿らしい。
賠償といっても、宿屋まるごと壊滅させたわけじゃない。割れた窓ガラス。焦げた床や壁紙の張り替え。あとは備品の再購入費用。多少ならず痛い出費だが、金食い虫のデンスもいなくなったことだし、しばらくこの街にとどまってクエストの二、三個もこなせばどうにかなるだろう。
俺は腰のベルトに差していた財布をさりげなく取り出し、机の下で中身を数えた。この国の紙幣をありったけ……いや、半分くらいは残しておこう。と思ったが、さすがに少ないか? ごねられると面倒だし……でも全部渡してしまうと次のクエストを受注する前に装備を整える予算すらなくなってしまいかねない。
ちょうど狭間にあった紙幣の一枚を渡すか渡さないかでしばらく悩んだあと、しかたなく渡すほうに割り振り、小さく丸めた札束をそっと机の上に差し出した。
「ん? なんだこれは? ちょっと見せてみろ……」
保安兵が、やにさがった表情で札束に手を伸ばした。その時である。
「幻獣の敵は誰だあああああああっ?!」
部屋のドアが、予告なくバン、と開け放たれると、やたらとハイテンションな男がそこにいた。
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