上 下
6 / 55

5話 通報されました…

しおりを挟む
「冒険者登録証見せて」
「はい……」

 俺の冒険者登録証は、普段は鎖についないで首からかけ、服の中に入れている。それを取り出し鎖ごと保安兵に差し出すと、保安兵はそれを一瞥して、フン、と鼻を鳴らした。

「Aランク冒険者か」
「はい」

 登録証の番号を控えた保安官が、投げるようにしてそれを返してきた。

 俺はそれを再び首にかけ、服のなかにしまう。

 一口に保安兵といっても色々いるが、今回のはハズレだな、と心の中で愚痴る。

 部屋の惨状を見た宿の女将が、俺たちが言い訳をする暇も与えず通報してしまったのだ。

 今は、宿屋の一階にある小部屋で取り調べを受けている。まずはパーティリーダーである俺から。タニアとガストンはそれぞれ別室で待機させられていた。

「それで? これは、元の仲間がやったって?」
「はい。多分、ですけど」
「その仲間の冒険者番号は?」
「あ……それが、聞いてなくて」
「はぁ?」
「登録証を、その、盗まれたと言っていて。再発行申請するようには言ってたんですが、結局その前に別れてしまったので」
「えぇー? 冒険者登録証なしの冒険者稼業は違法だよ? 知ってるよねー?」

 保安兵が、ネチネチとした言い方で居丈高に睨みつけて来た。それは知っている。加盟各国にギルドからの要請という形で適用されている、ギルド法というやつだ。しかし、その法が形骸化していることも知っている。いまどき、いわゆる冒険者や賞金稼ぎというやつらの半分くらいは登録なしのモグリだ。

 だいたい、冒険者登録は年単位での更新でその度にいちいちそれなりの金額を出して丸一日の講習を受けなければいけないという面倒なものだ。それで登録することの最大メリットは、国境を越える際の身分証明になるというもの。特定の国の中でクエストをこなしている中小規模の冒険者、あるいは冒険者でなくとも国境間の行き来が自由な平和な国同士ではまずもって意味がないので、そういうやつらは大抵未登録で活動している。

 ギルド側はあくまでも登録を呼びかけているが、ギルド法はあくまで各国への要請という形にとどまり、違反した場合にギルドが科すことができる権限というのはせいぜいがそのギルドを永久追放というくらい。つまり、もとから登録する気のないやつにはまったく意味がない。

 いっぽうで冒険者ギルドの力が強くなりすぎることを警戒している国側は、よほど悪質なやつでもないかぎり、モグリの冒険者を黙認していることがほとんどだ。クエストの発注者もいちいち正規の冒険者であることを確認したりはしない。

 かつてはギルドのランクがあがるとより上位の、難易度が高いがその分報奨金も高いクエストを受注できたというが、今どきは誰でも好きなランクのクエストを受注できる。そういうやつは大抵が早い者勝ちの成功報酬型ではあるが。提示した金額でやってほしいことをやってくれる相手なら、正規だろうか非正規だろうがランクがあろうがなかろうがどうでもいい、というのが発注側の本音だろう。

 そんななかで、俺、タニア、ガストンは、正規の冒険者登録をしているいわば真面目なほうの冒険者だ。デンスも、冒険者登録を済ませているというからこそ、仲間に入れたのだが――

「仲間の冒険者登録確認はパーティリーダーの責任だよ? わかってる?」
「はい……」
「はあー、まったくこれだから冒険者は。まあいいや。被害はこの宿のあの部屋だけなんだよね?」

 そうだといいんだが、と、俺は心の中で呟きつつ、こくりと頷いた。

「仲間がやったことはパーティみんなの責任だからさー。元仲間とか言い逃れしてないで。女将さんも、賠償さえしてくれれば大ごとにはしたくないと言ってくれてるし。俺も……ねえ? せっかくの冒険者資格を、破壊行為により剥奪、みたいな真似はしたくないわけよ。Aランクになるまでには、色々大変だったんでしょ? 穏便にすませられるなら、そのほうがいいんじゃない?」

 そういいながら保安兵は、なにかいいたげに目配せしてくる。賄賂を渡せってことか。俺は心のなかでため息をついた。

 とはいえ、賄賂くらい、こういう稼業をやっていればよくある話だ。いちいち目くじらをたてるのも馬鹿らしい。

 賠償といっても、宿屋まるごと壊滅させたわけじゃない。割れた窓ガラス。焦げた床や壁紙の張り替え。あとは備品の再購入費用。多少ならず痛い出費だが、金食い虫のデンスもいなくなったことだし、しばらくこの街にとどまってクエストの二、三個もこなせばどうにかなるだろう。

 俺は腰のベルトに差していた財布をさりげなく取り出し、机の下で中身を数えた。この国の紙幣をありったけ……いや、半分くらいは残しておこう。と思ったが、さすがに少ないか? ごねられると面倒だし……でも全部渡してしまうと次のクエストを受注する前に装備を整える予算すらなくなってしまいかねない。

 ちょうど狭間にあった紙幣の一枚を渡すか渡さないかでしばらく悩んだあと、しかたなく渡すほうに割り振り、小さく丸めた札束をそっと机の上に差し出した。

「ん? なんだこれは? ちょっと見せてみろ……」

 保安兵が、やにさがった表情で札束に手を伸ばした。その時である。

「幻獣の敵は誰だあああああああっ?!」

 部屋のドアが、予告なくバン、と開け放たれると、やたらとハイテンションな男がそこにいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。 が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。 災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。 何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。 ※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

処理中です...