上 下
44 / 74
第1章「始まり」

第44話「因縁」

しおりを挟む
「—————っ雫!!!!」

 それもう、自分では分からないほどに凄い勢いだったという。

 近所迷惑だとか、そんなのはもう考えてすらいなかった。借り家で、国からの補助金で生きている身だってことも考えず、俺は雫を救いたい一心で突っ込んでいた。


 扉を蹴り飛ばして中に入ると、リビングから声がする。

 急いでドアノブを捻って入ると、そこに居たのはクサビとジンがソファーに縛り付けた雫を笑いながら眺めていた。

 雫の目には涙が浮かんでいて、今に崩れてしまいそうなのが見てすぐに伝わってくる。
  
 制服の上着ははだけていて、中のワイシャツが見えている。

 下着も薄っすらと窺えて、おそらく脱がされるときに抵抗したのか頬と首筋にむち打ちのような痣が見えた。

 スカートも激しき乱れていて、履いていたタイツは雫の横、ソファーに無造作に置かれている。

 まさに、最悪な状況。いや、生きているだけでいいともいえるだろうか。

 否、こんなことして許されるわけが無い。
 俺の大事な妹に、それも顔に、自慢の可愛い顔に痣を作ったんだからな。許せることなんかじゃねえ。

 反射的にこぶしを握り、殴りかかろうとする身体をなんとか抑え込んだ。

 ——違う、落ち着け俺。

 まずは事情を聴かなくちゃ意味がない。ここで屠っても、今後もこんなことがあれば助けたことが水の泡になる。


 それに、次は本当に殺されるかもしれない。

 落ち着いて、事情を探れ。
 この2人がこんなことができるようなたまではないことは分かっている。

 それに、電話でクサビはこう言っていた。

『キハハハッ!!! ジン君、話は短く済ませないとって言われてるから早く話さないとぉ~~』

 言われているから――というのに引っ掛かる。

 冷静に考えてみれば、それこそ、ここまでの暴挙に出られるわけが無いんだ。はめられたか、仕組まれたか、どちらにせよ。

 絶対に何かの裏があるはずだ。それを掴んで、根こそぎ叩き潰す。

「——おぉ、遂にお出ましかなァ!?」
「キハハハハッ、かっこいぃ~~‼‼ ほんと、Fのくせにやっちまってなぁ!」

「お前ら……何してんだよ、俺の妹に‼‼‼」

 グググ。
 爪が剥がれるくらいに拳を強く握りしめて抑えつけながら、喉元に引っ掛かっていた言葉を捻りだした。

 すると、二人は不敵な笑みを浮かべてこう言ってきた。

「あぁ、別に俺たちは妹にちょっかい出そうとか考えてないし、殺すつもりもないんだよォ?」
「こ、殺すつもりもない? じゃあ、何が目的だ? 俺に何かさせたいのか?」

「あぁ、もちろん。お前に頼みがあるんだが……最近、俺らはなぁ思うんだよなぁ?」
「な、なんだ……」

 ッチと舌打ちで吐き捨てる。
 一気に俺を睨みつけて、がんを飛ばす様にこう言った。

「俺達、スキルで差別するのはやめたんだよォ」

 言われた言葉は目から鱗――というよりかは衝撃的だった。

 今更、スキルで馬鹿にするのはやめるということか? この二人が、そんなことをするのか? 天性のいじめっ子で、俺のスキルのランクが分かった途端にいじめを強めさせた奴らだぞ?

「口から出まかせだ。何が目的なんだ?」

「ははっ! F君が疑ってるよ?」

「何が差別しないだ、今もクサビが貶しただろうが! 俺のスキルを!」

 追及するもジンの顏は変わらなかった。

 まるで悟った様に、それでいて憎しみと何か他のものを孕んだ瞳でじっと見つめながら、雫の横に座って呟く。

 思わず突っ込みかけそうになったが、ギリギリのところで立ち止まる。

「——俺らはなぁ、最近。上里の野郎に馬鹿にされてるんだよ。いや、いじめられてるんだァ」
「か、上里?」
「あぁ、上里誠也。A級探索者の行け好かねえ奴だよ」
「どうして、あいつがお前らを……」

 上里誠也、最近はあまり姿も見ていなかったがそんなことをしていたのか?

 いじめを大っぴらにするような人間ではないことも確かだし、いじめられていた俺を助けてくれたこともある。

 結局貶されたが正義感のある男なんだと思っていたくらいだ。

 しかし、とジンは歯ぎしりをして、目つきが一気に変わる。

「なぁなぁなぁ、それがなァ——あいつはぁよォ、うちのクラスに来たァ――甲鉄の氷姫が来てから変わったんだよぉ‼‼‼ でもなァ、氷姫さんはお前にべったりだからなァ?」

「べ、べったり?」

「嘘言っちゃいけないよ、F君? いっつも一緒にいるじゃないか?」

「は、え?」

「ほら、いっつもべったりくっ付いてさ……僕もジン君だって見てるんだよ? それに、あの日、横やりだって入れてきたくらいにすんごく付け入ってるんじゃないか?」

「——っお、俺は別に、そんな仲じゃない。それに、黒崎さんは関係ないだろ!!」

 こういうとき、本当に目がさえているのはクサビのほうだ。

 俺の苦しむ顔に、ニヤリと笑みを見せて、一歩近づいてこういった。

「関係はある、それに理由はそこにもあるんだ」

「は、え?」

「上里はなァ、黒崎さんと付き合いたかったんだよ。可愛くて強くてクールな甲鉄の氷姫をものにしたくて躍起になってたァ。F、お前が見てないだけで裏でじゃ凄く目で追ってるくらいだったんだよォ。でもよそ、そこにお前が掻っ攫うように現れてからそれはもう酷くて酷くて、死んでるくらいにいかれちまってなァ」

 いかれた?
 あの上里君が?
 だいたい、俺は黒崎さんを奪った記憶なんてないぞ。

「でも上里は正義の味方を気取る奴だ。Fが悪役でない限り、傷めつけに行こうと復讐しようとだなんて考えねェ。だが、その矛先は俺らに向きやがったんだァ!! あいつの馬鹿強いスキルを行使されてボコボコにされて、警察に掛け合おうって思ったけどそうすることも出来ずになァ!!!! 思ったよぉ、世界は理不尽だァ。勝てねェ。奴に俺達では勝てねエんだってなァ」

「——でも、俺達はある日拾われたんだ。救世主に」

 救世主……胡散臭い、だれがそんなの。

「アンチスキル」

「な、何……っ!?」

 ぼそっと言われた言葉に俺は硬直した。

 そして、目の前に縛られた雫の目が大きく見開いていた。

 その名前はよく知っている。
 
 巷で聴く裏の組織、スキルをアンチする者たちの集まりであり、数々の大事件を起こしながらも未だ警察や自衛隊も手を焼いている超絶機密的な厄介組織だ。

 しかし、それ以上に俺と雫にとっては奴らは特別な相手だ。

 それは——だからだ。

 雫はほとんど記憶はないだろうが、俺は当時3歳だったから少しだけ記憶がある。

 スキルに関して重要なお役所仕事についていた両親を殺したんだ。

 悔やんでも悔やみきれない、今でも恨みが消えない相手。

 ただ、何でそんな奴らの名前が二人の口から出てきたんだ。

「いやァ、なにも。俺たちは虐めたくないから入ったんじゃないんだ。いじめられたくもないし、大きな志もあるってわけじゃアない」

「ただね、組織の意見が一致しただけなんだ」

「俺らをめちゃくちゃにした現況ォ、お前を痛めつけれるってなァ‼‼‼ お前を生かしてさえ入ればぁ、ボコボコにしていいってよォ! それなら俺たちもアンチスキルのクソどもと一緒の考え方でいてやれるゥ。後ろに大きなバックがいるゥ。氷姫なんか屁じゃねえほどに、怯えなくて済むゥんだよォ!!!」

 やりたいことは俺への復讐か?

「——何がしたいんだよ、傷めつけて」

「あぁ? 分からねえか? 俺は上里のやつにやられたんだよォ。それをなァ、後片付けだって全部受け持ってくれるって言うんだからやるしかないだろ? それに、妹使って呼びだせば来るって言ってたし、まんまと引っかかってくれたわけだ。ハハッ。なんで組織がFなんてやつを探してるのかは知らないがァ……腕一本くらい、切り落として……妹犯して楽しんじゃいてえんだよ‼‼‼ お前の前で犯したら、どうなるか? 絶望の顔を見てみてェ!!!!!」

 高笑いが響く。

 クソみたいな理由を言われて、頭に血が上りそうになるもいつの間にか俺は冷静に話を聞いていた。

 ——ゴクリ。

 生唾を飲み込んで、腹を括る。

「ジン君、そこまでにしよう。辛くなるよ」
「あァ、そうだなァ~~。ここで、この気持ち晴らしてぶっ壊す。馬鹿みてえにぶっ倒して、亡骸ごと持って行ってやる。マァ、安心しろ。殺しはしねエ、半殺ししてやっから」

「——だいたい、いいのか? 前、俺に負けた癖に」

 俺は鎌をかけてみた。別に今でも勝てる自信があるわけでもないが、心で負けてちゃやられる。

 そう言うと、立ち上がった。

 そして、がんを飛ばす様に彼は俺の胸倉をつかんで襲い掛かろうとしてきた。

 ——遅い。

 前も経験した動き。
 すらっと躱して、そのまま放り投げた。

 しかし、彼の表情は変わらない。

 以前、笑みを浮かんでいた。

「——Fのくせにィ、粋がりやがってェ。でもまァ、通用しないのなら仕方ねえエな」

「ほらっ」

 すると、クサビがジンに何かを投げる。
 見えたのは注射器のようなもので、中に液体が入っていた。

「……そ、それは!」

「スキルステータス増強剤だァ」
「この凝り固まったスキル社会に仇成す正義の薬って感じかなぁ?」

 爆発したかのように、まるで黒崎さんと同じほどの速さまで加速した二人が俺目がけて飛び掛かってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...