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第1章「始まり」
第44話「因縁」
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「—————っ雫!!!!」
それもう、自分では分からないほどに凄い勢いだったという。
近所迷惑だとか、そんなのはもう考えてすらいなかった。借り家で、国からの補助金で生きている身だってことも考えず、俺は雫を救いたい一心で突っ込んでいた。
扉を蹴り飛ばして中に入ると、リビングから声がする。
急いでドアノブを捻って入ると、そこに居たのはクサビとジンがソファーに縛り付けた雫を笑いながら眺めていた。
雫の目には涙が浮かんでいて、今に崩れてしまいそうなのが見てすぐに伝わってくる。
制服の上着ははだけていて、中のワイシャツが見えている。
下着も薄っすらと窺えて、おそらく脱がされるときに抵抗したのか頬と首筋にむち打ちのような痣が見えた。
スカートも激しき乱れていて、履いていたタイツは雫の横、ソファーに無造作に置かれている。
まさに、最悪な状況。いや、生きているだけでいいともいえるだろうか。
否、こんなことして許されるわけが無い。
俺の大事な妹に、それも顔に、自慢の可愛い顔に痣を作ったんだからな。許せることなんかじゃねえ。
反射的にこぶしを握り、殴りかかろうとする身体をなんとか抑え込んだ。
——違う、落ち着け俺。
まずは事情を聴かなくちゃ意味がない。ここで屠っても、今後もこんなことがあれば助けたことが水の泡になる。
それに、次は本当に殺されるかもしれない。
落ち着いて、事情を探れ。
この2人がこんなことができるようなたまではないことは分かっている。
それに、電話でクサビはこう言っていた。
『キハハハッ!!! ジン君、話は短く済ませないとって言われてるから早く話さないとぉ~~』
言われているから――というのに引っ掛かる。
冷静に考えてみれば、それこそ、ここまでの暴挙に出られるわけが無いんだ。はめられたか、仕組まれたか、どちらにせよ。
絶対に何かの裏があるはずだ。それを掴んで、根こそぎ叩き潰す。
「——おぉ、遂にお出ましかなァ!?」
「キハハハハッ、かっこいぃ~~‼‼ ほんと、Fのくせにやっちまってなぁ!」
「お前ら……何してんだよ、俺の妹に‼‼‼」
グググ。
爪が剥がれるくらいに拳を強く握りしめて抑えつけながら、喉元に引っ掛かっていた言葉を捻りだした。
すると、二人は不敵な笑みを浮かべてこう言ってきた。
「あぁ、別に俺たちは妹にちょっかい出そうとか考えてないし、殺すつもりもないんだよォ?」
「こ、殺すつもりもない? じゃあ、何が目的だ? 俺に何かさせたいのか?」
「あぁ、もちろん。お前に頼みがあるんだが……最近、俺らはなぁ思うんだよなぁ?」
「な、なんだ……」
ッチと舌打ちで吐き捨てる。
一気に俺を睨みつけて、がんを飛ばす様にこう言った。
「俺達、スキルで差別するのはやめたんだよォ」
言われた言葉は目から鱗――というよりかは衝撃的だった。
今更、スキルで馬鹿にするのはやめるということか? この二人が、そんなことをするのか? 天性のいじめっ子で、俺のスキルのランクが分かった途端にいじめを強めさせた奴らだぞ?
「口から出まかせだ。何が目的なんだ?」
「ははっ! F君が疑ってるよ?」
「何が差別しないだ、今もクサビが貶しただろうが! 俺のスキルを!」
追及するもジンの顏は変わらなかった。
まるで悟った様に、それでいて憎しみと何か他のものを孕んだ瞳でじっと見つめながら、雫の横に座って呟く。
思わず突っ込みかけそうになったが、ギリギリのところで立ち止まる。
「——俺らはなぁ、最近。上里の野郎に馬鹿にされてるんだよ。いや、いじめられてるんだァ」
「か、上里?」
「あぁ、上里誠也。A級探索者の行け好かねえ奴だよ」
「どうして、あいつがお前らを……」
上里誠也、最近はあまり姿も見ていなかったがそんなことをしていたのか?
いじめを大っぴらにするような人間ではないことも確かだし、いじめられていた俺を助けてくれたこともある。
結局貶されたが正義感のある男なんだと思っていたくらいだ。
しかし、とジンは歯ぎしりをして、目つきが一気に変わる。
「なぁなぁなぁ、それがなァ——あいつはぁよォ、うちのクラスに来たァ――甲鉄の氷姫が来てから変わったんだよぉ‼‼‼ でもなァ、氷姫さんはお前にべったりだからなァ?」
「べ、べったり?」
「嘘言っちゃいけないよ、F君? いっつも一緒にいるじゃないか?」
「は、え?」
「ほら、いっつもべったりくっ付いてさ……僕もジン君だって見てるんだよ? それに、あの日、横やりだって入れてきたくらいにすんごく付け入ってるんじゃないか?」
「——っお、俺は別に、そんな仲じゃない。それに、黒崎さんは関係ないだろ!!」
こういうとき、本当に目がさえているのはクサビのほうだ。
俺の苦しむ顔に、ニヤリと笑みを見せて、一歩近づいてこういった。
「関係はある、それに理由はそこにもあるんだ」
「は、え?」
「上里はなァ、黒崎さんと付き合いたかったんだよ。可愛くて強くてクールな甲鉄の氷姫をものにしたくて躍起になってたァ。F、お前が見てないだけで裏でじゃ凄く目で追ってるくらいだったんだよォ。でもよそ、そこにお前が掻っ攫うように現れてからそれはもう酷くて酷くて、死んでるくらいにいかれちまってなァ」
いかれた?
あの上里君が?
だいたい、俺は黒崎さんを奪った記憶なんてないぞ。
「でも上里は正義の味方を気取る奴だ。Fが悪役でない限り、傷めつけに行こうと復讐しようとだなんて考えねェ。だが、その矛先は俺らに向きやがったんだァ!! あいつの馬鹿強いスキルを行使されてボコボコにされて、警察に掛け合おうって思ったけどそうすることも出来ずになァ!!!! 思ったよぉ、世界は理不尽だァ。勝てねェ。奴に俺達では勝てねエんだってなァ」
「——でも、俺達はある日拾われたんだ。救世主に」
救世主……胡散臭い、だれがそんなの。
「アンチスキル」
「な、何……っ!?」
ぼそっと言われた言葉に俺は硬直した。
そして、目の前に縛られた雫の目が大きく見開いていた。
その名前はよく知っている。
巷で聴く裏の組織、スキルをアンチする者たちの集まりであり、数々の大事件を起こしながらも未だ警察や自衛隊も手を焼いている超絶機密的な厄介組織だ。
しかし、それ以上に俺と雫にとっては奴らは特別な相手だ。
それは——俺と雫の両親を殺した組織だからだ。
雫はほとんど記憶はないだろうが、俺は当時3歳だったから少しだけ記憶がある。
スキルに関して重要なお役所仕事についていた両親を殺したんだ。
悔やんでも悔やみきれない、今でも恨みが消えない相手。
ただ、何でそんな奴らの名前が二人の口から出てきたんだ。
「いやァ、なにも。俺たちは虐めたくないから入ったんじゃないんだ。いじめられたくもないし、大きな志もあるってわけじゃアない」
「ただね、組織の意見が一致しただけなんだ」
「俺らをめちゃくちゃにした現況ォ、お前を痛めつけれるってなァ‼‼‼ お前を生かしてさえ入ればぁ、ボコボコにしていいってよォ! それなら俺たちもアンチスキルのクソどもと一緒の考え方でいてやれるゥ。後ろに大きなバックがいるゥ。氷姫なんか屁じゃねえほどに、怯えなくて済むゥんだよォ!!!」
やりたいことは俺への復讐か?
「——何がしたいんだよ、傷めつけて」
「あぁ? 分からねえか? 俺は上里のやつにやられたんだよォ。それをなァ、後片付けだって全部受け持ってくれるって言うんだからやるしかないだろ? それに、妹使って呼びだせば来るって言ってたし、まんまと引っかかってくれたわけだ。ハハッ。なんで組織がFなんてやつを探してるのかは知らないがァ……腕一本くらい、切り落として……妹犯して楽しんじゃいてえんだよ‼‼‼ お前の前で犯したら、どうなるか? 絶望の顔を見てみてェ!!!!!」
高笑いが響く。
クソみたいな理由を言われて、頭に血が上りそうになるもいつの間にか俺は冷静に話を聞いていた。
——ゴクリ。
生唾を飲み込んで、腹を括る。
「ジン君、そこまでにしよう。辛くなるよ」
「あァ、そうだなァ~~。ここで、この気持ち晴らしてぶっ壊す。馬鹿みてえにぶっ倒して、亡骸ごと持って行ってやる。マァ、安心しろ。殺しはしねエ、半殺ししてやっから」
「——だいたい、いいのか? 前、俺に負けた癖に」
俺は鎌をかけてみた。別に今でも勝てる自信があるわけでもないが、心で負けてちゃやられる。
そう言うと、立ち上がった。
そして、がんを飛ばす様に彼は俺の胸倉をつかんで襲い掛かろうとしてきた。
——遅い。
前も経験した動き。
すらっと躱して、そのまま放り投げた。
しかし、彼の表情は変わらない。
以前、笑みを浮かんでいた。
「——Fのくせにィ、粋がりやがってェ。でもまァ、通用しないのなら仕方ねえエな」
「ほらっ」
すると、クサビがジンに何かを投げる。
見えたのは注射器のようなもので、中に液体が入っていた。
「……そ、それは!」
「スキルステータス増強剤だァ」
「この凝り固まったスキル社会に仇成す正義の薬って感じかなぁ?」
爆発したかのように、まるで黒崎さんと同じほどの速さまで加速した二人が俺目がけて飛び掛かってきた。
それもう、自分では分からないほどに凄い勢いだったという。
近所迷惑だとか、そんなのはもう考えてすらいなかった。借り家で、国からの補助金で生きている身だってことも考えず、俺は雫を救いたい一心で突っ込んでいた。
扉を蹴り飛ばして中に入ると、リビングから声がする。
急いでドアノブを捻って入ると、そこに居たのはクサビとジンがソファーに縛り付けた雫を笑いながら眺めていた。
雫の目には涙が浮かんでいて、今に崩れてしまいそうなのが見てすぐに伝わってくる。
制服の上着ははだけていて、中のワイシャツが見えている。
下着も薄っすらと窺えて、おそらく脱がされるときに抵抗したのか頬と首筋にむち打ちのような痣が見えた。
スカートも激しき乱れていて、履いていたタイツは雫の横、ソファーに無造作に置かれている。
まさに、最悪な状況。いや、生きているだけでいいともいえるだろうか。
否、こんなことして許されるわけが無い。
俺の大事な妹に、それも顔に、自慢の可愛い顔に痣を作ったんだからな。許せることなんかじゃねえ。
反射的にこぶしを握り、殴りかかろうとする身体をなんとか抑え込んだ。
——違う、落ち着け俺。
まずは事情を聴かなくちゃ意味がない。ここで屠っても、今後もこんなことがあれば助けたことが水の泡になる。
それに、次は本当に殺されるかもしれない。
落ち着いて、事情を探れ。
この2人がこんなことができるようなたまではないことは分かっている。
それに、電話でクサビはこう言っていた。
『キハハハッ!!! ジン君、話は短く済ませないとって言われてるから早く話さないとぉ~~』
言われているから――というのに引っ掛かる。
冷静に考えてみれば、それこそ、ここまでの暴挙に出られるわけが無いんだ。はめられたか、仕組まれたか、どちらにせよ。
絶対に何かの裏があるはずだ。それを掴んで、根こそぎ叩き潰す。
「——おぉ、遂にお出ましかなァ!?」
「キハハハハッ、かっこいぃ~~‼‼ ほんと、Fのくせにやっちまってなぁ!」
「お前ら……何してんだよ、俺の妹に‼‼‼」
グググ。
爪が剥がれるくらいに拳を強く握りしめて抑えつけながら、喉元に引っ掛かっていた言葉を捻りだした。
すると、二人は不敵な笑みを浮かべてこう言ってきた。
「あぁ、別に俺たちは妹にちょっかい出そうとか考えてないし、殺すつもりもないんだよォ?」
「こ、殺すつもりもない? じゃあ、何が目的だ? 俺に何かさせたいのか?」
「あぁ、もちろん。お前に頼みがあるんだが……最近、俺らはなぁ思うんだよなぁ?」
「な、なんだ……」
ッチと舌打ちで吐き捨てる。
一気に俺を睨みつけて、がんを飛ばす様にこう言った。
「俺達、スキルで差別するのはやめたんだよォ」
言われた言葉は目から鱗――というよりかは衝撃的だった。
今更、スキルで馬鹿にするのはやめるということか? この二人が、そんなことをするのか? 天性のいじめっ子で、俺のスキルのランクが分かった途端にいじめを強めさせた奴らだぞ?
「口から出まかせだ。何が目的なんだ?」
「ははっ! F君が疑ってるよ?」
「何が差別しないだ、今もクサビが貶しただろうが! 俺のスキルを!」
追及するもジンの顏は変わらなかった。
まるで悟った様に、それでいて憎しみと何か他のものを孕んだ瞳でじっと見つめながら、雫の横に座って呟く。
思わず突っ込みかけそうになったが、ギリギリのところで立ち止まる。
「——俺らはなぁ、最近。上里の野郎に馬鹿にされてるんだよ。いや、いじめられてるんだァ」
「か、上里?」
「あぁ、上里誠也。A級探索者の行け好かねえ奴だよ」
「どうして、あいつがお前らを……」
上里誠也、最近はあまり姿も見ていなかったがそんなことをしていたのか?
いじめを大っぴらにするような人間ではないことも確かだし、いじめられていた俺を助けてくれたこともある。
結局貶されたが正義感のある男なんだと思っていたくらいだ。
しかし、とジンは歯ぎしりをして、目つきが一気に変わる。
「なぁなぁなぁ、それがなァ——あいつはぁよォ、うちのクラスに来たァ――甲鉄の氷姫が来てから変わったんだよぉ‼‼‼ でもなァ、氷姫さんはお前にべったりだからなァ?」
「べ、べったり?」
「嘘言っちゃいけないよ、F君? いっつも一緒にいるじゃないか?」
「は、え?」
「ほら、いっつもべったりくっ付いてさ……僕もジン君だって見てるんだよ? それに、あの日、横やりだって入れてきたくらいにすんごく付け入ってるんじゃないか?」
「——っお、俺は別に、そんな仲じゃない。それに、黒崎さんは関係ないだろ!!」
こういうとき、本当に目がさえているのはクサビのほうだ。
俺の苦しむ顔に、ニヤリと笑みを見せて、一歩近づいてこういった。
「関係はある、それに理由はそこにもあるんだ」
「は、え?」
「上里はなァ、黒崎さんと付き合いたかったんだよ。可愛くて強くてクールな甲鉄の氷姫をものにしたくて躍起になってたァ。F、お前が見てないだけで裏でじゃ凄く目で追ってるくらいだったんだよォ。でもよそ、そこにお前が掻っ攫うように現れてからそれはもう酷くて酷くて、死んでるくらいにいかれちまってなァ」
いかれた?
あの上里君が?
だいたい、俺は黒崎さんを奪った記憶なんてないぞ。
「でも上里は正義の味方を気取る奴だ。Fが悪役でない限り、傷めつけに行こうと復讐しようとだなんて考えねェ。だが、その矛先は俺らに向きやがったんだァ!! あいつの馬鹿強いスキルを行使されてボコボコにされて、警察に掛け合おうって思ったけどそうすることも出来ずになァ!!!! 思ったよぉ、世界は理不尽だァ。勝てねェ。奴に俺達では勝てねエんだってなァ」
「——でも、俺達はある日拾われたんだ。救世主に」
救世主……胡散臭い、だれがそんなの。
「アンチスキル」
「な、何……っ!?」
ぼそっと言われた言葉に俺は硬直した。
そして、目の前に縛られた雫の目が大きく見開いていた。
その名前はよく知っている。
巷で聴く裏の組織、スキルをアンチする者たちの集まりであり、数々の大事件を起こしながらも未だ警察や自衛隊も手を焼いている超絶機密的な厄介組織だ。
しかし、それ以上に俺と雫にとっては奴らは特別な相手だ。
それは——俺と雫の両親を殺した組織だからだ。
雫はほとんど記憶はないだろうが、俺は当時3歳だったから少しだけ記憶がある。
スキルに関して重要なお役所仕事についていた両親を殺したんだ。
悔やんでも悔やみきれない、今でも恨みが消えない相手。
ただ、何でそんな奴らの名前が二人の口から出てきたんだ。
「いやァ、なにも。俺たちは虐めたくないから入ったんじゃないんだ。いじめられたくもないし、大きな志もあるってわけじゃアない」
「ただね、組織の意見が一致しただけなんだ」
「俺らをめちゃくちゃにした現況ォ、お前を痛めつけれるってなァ‼‼‼ お前を生かしてさえ入ればぁ、ボコボコにしていいってよォ! それなら俺たちもアンチスキルのクソどもと一緒の考え方でいてやれるゥ。後ろに大きなバックがいるゥ。氷姫なんか屁じゃねえほどに、怯えなくて済むゥんだよォ!!!」
やりたいことは俺への復讐か?
「——何がしたいんだよ、傷めつけて」
「あぁ? 分からねえか? 俺は上里のやつにやられたんだよォ。それをなァ、後片付けだって全部受け持ってくれるって言うんだからやるしかないだろ? それに、妹使って呼びだせば来るって言ってたし、まんまと引っかかってくれたわけだ。ハハッ。なんで組織がFなんてやつを探してるのかは知らないがァ……腕一本くらい、切り落として……妹犯して楽しんじゃいてえんだよ‼‼‼ お前の前で犯したら、どうなるか? 絶望の顔を見てみてェ!!!!!」
高笑いが響く。
クソみたいな理由を言われて、頭に血が上りそうになるもいつの間にか俺は冷静に話を聞いていた。
——ゴクリ。
生唾を飲み込んで、腹を括る。
「ジン君、そこまでにしよう。辛くなるよ」
「あァ、そうだなァ~~。ここで、この気持ち晴らしてぶっ壊す。馬鹿みてえにぶっ倒して、亡骸ごと持って行ってやる。マァ、安心しろ。殺しはしねエ、半殺ししてやっから」
「——だいたい、いいのか? 前、俺に負けた癖に」
俺は鎌をかけてみた。別に今でも勝てる自信があるわけでもないが、心で負けてちゃやられる。
そう言うと、立ち上がった。
そして、がんを飛ばす様に彼は俺の胸倉をつかんで襲い掛かろうとしてきた。
——遅い。
前も経験した動き。
すらっと躱して、そのまま放り投げた。
しかし、彼の表情は変わらない。
以前、笑みを浮かんでいた。
「——Fのくせにィ、粋がりやがってェ。でもまァ、通用しないのなら仕方ねえエな」
「ほらっ」
すると、クサビがジンに何かを投げる。
見えたのは注射器のようなもので、中に液体が入っていた。
「……そ、それは!」
「スキルステータス増強剤だァ」
「この凝り固まったスキル社会に仇成す正義の薬って感じかなぁ?」
爆発したかのように、まるで黒崎さんと同じほどの速さまで加速した二人が俺目がけて飛び掛かってきた。
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