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第1章「始まり」
第33話「訓練」
しおりを挟む「それで、師匠。実際、どうするのが正解なんですか? 今まで割となんとなくで行使してきたんですけど」
「だから、師匠言うなっ。ってもう、面倒だからそれでいいわよ」
「はい、師匠!」
「はぁ……面倒な弟子ね。えっと、それでスキルの使い方ね。厳密にいうと……スキルの使い方に正解はないわ」
驚いた、そうなのか。
唐突な告白でびっくりした。
「厳密に言うと使い方は人それぞれなの。私自身もまだまだだけれど、みんなそれぞれ違う中でも一つのスキルには必ず特徴がある。だからまず、そこを探るところからって感じね」
スキルを探る。
コツか何かがあるということか。
「じゃあ、まずはどこから攻めます? 俺、たくさんスキルもありますし」
そう訊ねると黒崎師匠はやや曇った表情をした。
少しだけ悩んだ顔して、呟くように言う。
「普通なら一個だけだし、大事なのはもちろんその一個、オリジナルスキルなんだけど……國田君の場合は聞いた事もないスキルだものね。私もそうだけど、正直名前からして気まぐれなのかと思っちゃうし」
「ははは……まぁ、それは俺も思ってます。恥ずかしながらですけど……」
「それなら分かりやすいところからにしたほうがいいわね」
「分かりやすいほう……?」
正直その善しあしは分からないが、黒崎さんは知っているのだろうか。流石師匠だ。
そんなことを考えていると思いだしたように呟いた。
「——まず、その前に準備運動ね」
「え、準備運動?」
「えぇ、まずは格下の魔物と戦って体を温めるところから始めましょう。そうでもしないといざって言う時に力が出せないわっ」
そう言うものなのか、と初耳だった。
さすが、S級探索者。考えることが何から何まで違う。昨日一緒にご飯食べた時はただの女の子だなって感じたけど、やっぱりこうしてみるとベテランの探索者って感じがする。
よくよく考えてみると殲滅戦の時もギルド長がいる部屋に走っていったのもその一環だったのかもしれないな。
いや、すごいな。そう思うと……同じ年の女の子には見えない。立派過ぎるよ。つくづく俺なんかにはもったいない人だ。
「ねぇ、聞いてるの? ずっと見つめてるけど」
「えっ!? あ、いやっ。すみません。ついっ――」
「っい、意味深に、おどおどしないで」
え、意味深?
別に普通にボーっとしてただけなんだけど、何を言っているんだ黒崎さんは。
あ、いや、先読みしてるのか。
俺が色々緊張してるところとか、スキルについて理解できていないから何かやらかすんじゃないかって……そこまで考えているなんて。
やっぱり、見えている知識が違うんだな。
「とにかく、行くわよっ!」
「は、はいっ!」
黒崎さんはお得意の氷剣――は出さず、今回は冷気を纏った拳を構えていた。
昨日は緊急事態だったから本気でやっていたのか、今回は俺の訓練ということもあって本気で倒しにはいかないみたいだ。
まったく、そう言うところまで気を使ってくれるだなんて。
一番強い人間は手加減ができると聞くけど、本当に俺のこと考えてくれているんだ。
そう思うと、やばいな、好きになってくる。
「ったぁ!」
いつもとは見違えたように遅いスピードで駆けていきアックスホーンの勢いを殺す。脚をひっかけ転ばして俺の方へ。距離にして100mはあったと思う。ザザザと音を起て地面を転がり、途中の岩出ふわりと空へ飛びあがった。
宙を舞うアックスホーンの向こう側から黒崎さんが言う。
「國田君っ、まずは私の前に飛んできたときに使ってた『跳躍』からよっ!」
おっと、急に来たな。
早速特訓らしい。
あの考えていた顔は嘘なのかと思うくらい唐突だった。
【跳躍】
スキルのランクはC級。
名前の通り、脚に力を入れて飛び上がるスキル。オリジナルスキルの中ではそこそこ有名なスキルでもあり、探索者向けとは言わないまでも便利なスキルでもある。クラスメイトでも数人持っている人がいるほどだ。
あの一瞬はなぜだか扱えたが、本来は力を溜め込んで射出し、その勢いで攻撃するものだ。
簡単に言えば戦車の砲弾と一緒の原理だ。
爆発力だけで貫通させるんじゃなくて、勢い、つまりスピードを出してその和でもあるエネルギー量で貫く――なんて技も出来る。最近では各々の工夫で色々な使い方をされていて一概には言えないが勢いが大事なスキルでもあり、パーティに一人いればその勢いを借りて他の人の攻撃をうまく活用することだってできるものでもある。
「大事なのは勢い。私にはないからその勢いの出し方は分からないけど、とにかく、その勢いを想像して! 使った時のことを思い出して、とにかくイメージ。自分がスキルを使うことを思い出してっ」
黒崎師匠の声が聞こえてくる。やはり、俺の考えていたことは合っていた。
その勢い。
勢いだけ
とにかく、何を言おうとも大事なのは勢い。
どうやってスキル本来の勢いを出すことができるのか。
それを考えるんだ。
イメージしろ、反復して練習だ。
あの時、なぜ使えたか。
黒崎さんが危なかった。
やられそうになっている所が見えて、それで、体が瞬間的に動き出した。
ただでさえ早かった足にさらに力が圧し掛かった。
普段からリミッターの様に駆けられている部分を超えて、限界を超えた動きを繰り出せていた。
グググと脚に力を籠める。
俺のステータスを信じろ。攻撃力、敏捷力、ともに数字がバグったくらいにデカいはずだ。それをどう扱うか、俺次第。
どんなに力だあっても、その出し方を知らなくては意味がない。
センスは合っても努力して磨かないと意味がないと一緒だ。
キック力あるのにサッカーせず野球してるやつと同じ、記憶力あるのに覚えようとしないやつと同じ——感じだろう。
筋肉を感じろ。
体の中を感じろ。
足にずっしりとかかった重み、その圧。
力を溜め込んで、それを一気に放出してばねの様に反発させるイメージ。
瞬間的に開放するイメージ。
そう、それだ。
そのイメージだ。
足りなかったものが埋め尽くされる気がする。
その瞬間、周りの景色が一気に遅く見えた。
あの時と一緒だ。
なぜだか、遅くなる。思考力が上がるあれ。
思考力……そうか、あのスキルだな。
怒涛の勢いで獲得した『神経伝達速度上昇・弱』と『神経伝達速度上昇・強』が発動したのか。
ここに来て発動するとは何たる……あれか、俺が本気を出そうとすると使えるとかそんな理由なのかこの二つは。
ため込んで、それを瞬発的にはじき出す。
すると、驚くほどに身体が浮き上がった。
というか、逆に跳ぶことしか考えたなかったから、空中に舞い上がったアックスホーンの場所に行くことなんて意識外。
「——っとぉ⁉」
ドガッ‼‼‼
あまりに勢いに俺は天井に頭を打ち付ける。
「いっ……」
「ちょ、ちょっと大丈夫なの⁉」
「飛び過ぎましたっ……」
「んもぉ、あとでポーション渡すから先に倒して! ほら、来るわよっ!」
ポーションなって持ってきてたのか。
あんな高いもの買えるなんて――ってあれ、あんまり痛くない。
あのスピードで激突したのにダメージを食らわないのはレベル様様なのかな、これは。
とはいえ、ジャンプ力もバグってるし、スキルもいいがこの身体にも慣れなきゃいけないし、やることは山積みだな。
「って、うぉっ」
その瞬間、さっき舞い上がったはずのアックスホーンが突進してくる。
ぶつかりそうになったところを躱し、勢いのまま放り投げた。
「——ほら、もう一回。反復よ!」
「は、はいっ」
それから二体のアックスホーン。
やはり、俺はまだまだ伸びしろがあるようだ。
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