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第1章「始まり」
第4話「氷姫のF級」
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「触るんじゃないわよ、私に!!!!」
朝の高校の階段に弾ける綺麗な音と高く綺麗な怒号が飛び散った。
痛い、ヒリヒリする。
なんだよ朝からこの仕打ちは。
パシリにされてパンを買わなくちゃいけないし、階段から急にぶつかってきた黒崎さんには理不尽に引っ叩かれるし、本当に俺は何をやっているんだろうか。
今更そんなことを真剣に考えたところで何も答えは出てこないが、流石に理不尽の連続で誰かに話くらいは聞いてほしい気がする。
ただ、レベルが上がったせいなのかいつもよりかは傷つき具合が浅い気もするし、そういうのもあって混乱気味な自分もいてなんだかよく分からない。
結局、階段でぶつかってしまった“黒崎ツカサ”は俺を引っ叩くだけ引っ叩いて、そのまませっせとどこかに行ってしまった。
何か先を急いでいるようには見えたもののぶつかったことを謝るくらいはしてほしかった気もする。
まぁ、この探索者やダンジョンが蔓延る今の世界で昔の日本人像を押し付けるなって言う話か。
それにきっと、S級の探索者となれば周りの人や国からも手厚い補償が受けられるし、いろいろな恩恵がもらえるのも事実。
そんな風に、褒められてチヤホヤして当たり前の日常を送っていればマナーなんて気にするわけもないか。
俺も他人のことを考えすぎだ。
あのくらい、許してやればいい。
俺は俺、彼女は彼女。
いつも通り、俺は明日食べるご飯と妹の雫のことを考えながら高校では陰キャムーブかましてればいいんだ。
教室に入るといつも通りの賑やかな光景が待っていた。
そのままパンを二人の机に渡すと颯爽と無視されて、呆れ疲れた俺は存在感を消しながら窓際の端の席に静かに座った。
「ふぅ」
ぽろっとため息が溢れて、前の席でぺちゃくちゃと話している女子に睨まれる。
「きもっ」
「Fくんか」
「座んなよ」
ぽろっと出てくる一言。
一つ一つ棘があって胸にちくりと刺さってくる。きっと、数年前の俺なら死ねたかもしれない酷い言いように心は慣れていた。
にしても、不思議だ。
レベルが上がってから怒りが湧いてこない。
あれなのか。精神力が上がったからか?
でも、実際精神力のステータスなんて医学的にも根拠は薄いなんて言われているし、気のせいかもしれない。
それに精神力なんて探索者としてあまり大事じゃないステータスだ。そこまでいいものでもないだろう。
うざそうな目で見てくる女三人組を無視しているとあっという間に先生が教室に入ってきてホームルームの時間が始まった。
先生が何か喉を鳴らすと、途端にこんなことを言い出した。
「えぇ、今日は一人、転校生が来ています」
転校生?
急な知らせに教室中が歓喜に渦巻いている中、俺はふと今朝のことを思い出した。
そうだ、転校生には心当たりがある。
この高校の生徒ではないのに、颯爽と階段から現れてぶつかったと思えば引っ叩いて去っていた女子生徒。
まじか、いやいやそんなまさか。
きっと何かの講演会か何かだろう。
この高校は第一線で戦う探索者を連れてきて講演会をよく開くし、特別講師で来た可能性もある。
だいたい、この高校に来る理由はないはずだ。
俺が言えたことではないがここの偏差値は東京にある超人気探索者科がある高校とはいくつか低い。
だから、と。
そんなことはないだろうと予想するも束の間、前の入り口から現れたのは
「皆さんもご存知の通り……」
ガラガラと引き戸を開けて中に入ってきたのは銀髪が美しく輝く美少女だった。
絵になる横顔に、思わず見惚れてしまうスタイル。
可憐さと苛烈さを併せ持つ、今の日本で最も“最強”に近い探索者の一人。
ーー黒崎ツカサ、その人だった。
「うぉおおおおおおおおお!!!!!」
「おいおいおい、マジかよこれ夢じゃないんだよなぁ!!!!」
一気に声量が上がるクラスメイトたち。
それはもう、全員にとっては目指そうにも目指せられない目標であり、憧れの存在。
まるでお伽話から飛び出してきたかのような、かのS級探索者がそこにいたのだから。
生唾を飲み込んだ。
まじかよ、と。
教壇に立ち、綺麗に銀髪をはためかせる。
そのエメラルドグリーン色の瞳からは冷気すら感じるほどに近づけないオーラがある。
その覇気にやられて、周りの声もピタリと止まった。
すると、静かになるのを待って彼女は口を開いた。
「黒崎ツカサです。この学校には国からの命令でやってきました。これから二年間よろしくお願いします」
淡々としていた。
感情のこもっていない、それでいて怖さのある瞳。
胸がキュッとなりそうな感覚があって、周りのクラスメイトも皆同じく胸を掴んでいた。
「えと、それじゃあ黒崎さんはね……窓際の、あそこ、名前はあぁーーっと、まぁいいや、後ろの影が薄そうな子の隣でいいかしら?」
おい、ちゃんと名前覚えてくれよ。
俺の名前は國田元春》だ。
なんだか失礼に指を刺されて、俺は手を上げる。
「あぁ、そうそう、あそこね? 大丈夫かしら?」
「はい……っあ」
そこで、彼女の目がガラリと変わった。
目が合う。
そして、黒崎さんは大きく目を見開きながら俺に指を刺した。
「あんた朝のおっぱい揉んできた男じゃないのよ!!!!!!!!!!」
俺はその時、音が聞こえた。
まだまだ耐えていられていた高校生活が一気に崩れ落ちていく音が聞こえたのである。
朝の高校の階段に弾ける綺麗な音と高く綺麗な怒号が飛び散った。
痛い、ヒリヒリする。
なんだよ朝からこの仕打ちは。
パシリにされてパンを買わなくちゃいけないし、階段から急にぶつかってきた黒崎さんには理不尽に引っ叩かれるし、本当に俺は何をやっているんだろうか。
今更そんなことを真剣に考えたところで何も答えは出てこないが、流石に理不尽の連続で誰かに話くらいは聞いてほしい気がする。
ただ、レベルが上がったせいなのかいつもよりかは傷つき具合が浅い気もするし、そういうのもあって混乱気味な自分もいてなんだかよく分からない。
結局、階段でぶつかってしまった“黒崎ツカサ”は俺を引っ叩くだけ引っ叩いて、そのまませっせとどこかに行ってしまった。
何か先を急いでいるようには見えたもののぶつかったことを謝るくらいはしてほしかった気もする。
まぁ、この探索者やダンジョンが蔓延る今の世界で昔の日本人像を押し付けるなって言う話か。
それにきっと、S級の探索者となれば周りの人や国からも手厚い補償が受けられるし、いろいろな恩恵がもらえるのも事実。
そんな風に、褒められてチヤホヤして当たり前の日常を送っていればマナーなんて気にするわけもないか。
俺も他人のことを考えすぎだ。
あのくらい、許してやればいい。
俺は俺、彼女は彼女。
いつも通り、俺は明日食べるご飯と妹の雫のことを考えながら高校では陰キャムーブかましてればいいんだ。
教室に入るといつも通りの賑やかな光景が待っていた。
そのままパンを二人の机に渡すと颯爽と無視されて、呆れ疲れた俺は存在感を消しながら窓際の端の席に静かに座った。
「ふぅ」
ぽろっとため息が溢れて、前の席でぺちゃくちゃと話している女子に睨まれる。
「きもっ」
「Fくんか」
「座んなよ」
ぽろっと出てくる一言。
一つ一つ棘があって胸にちくりと刺さってくる。きっと、数年前の俺なら死ねたかもしれない酷い言いように心は慣れていた。
にしても、不思議だ。
レベルが上がってから怒りが湧いてこない。
あれなのか。精神力が上がったからか?
でも、実際精神力のステータスなんて医学的にも根拠は薄いなんて言われているし、気のせいかもしれない。
それに精神力なんて探索者としてあまり大事じゃないステータスだ。そこまでいいものでもないだろう。
うざそうな目で見てくる女三人組を無視しているとあっという間に先生が教室に入ってきてホームルームの時間が始まった。
先生が何か喉を鳴らすと、途端にこんなことを言い出した。
「えぇ、今日は一人、転校生が来ています」
転校生?
急な知らせに教室中が歓喜に渦巻いている中、俺はふと今朝のことを思い出した。
そうだ、転校生には心当たりがある。
この高校の生徒ではないのに、颯爽と階段から現れてぶつかったと思えば引っ叩いて去っていた女子生徒。
まじか、いやいやそんなまさか。
きっと何かの講演会か何かだろう。
この高校は第一線で戦う探索者を連れてきて講演会をよく開くし、特別講師で来た可能性もある。
だいたい、この高校に来る理由はないはずだ。
俺が言えたことではないがここの偏差値は東京にある超人気探索者科がある高校とはいくつか低い。
だから、と。
そんなことはないだろうと予想するも束の間、前の入り口から現れたのは
「皆さんもご存知の通り……」
ガラガラと引き戸を開けて中に入ってきたのは銀髪が美しく輝く美少女だった。
絵になる横顔に、思わず見惚れてしまうスタイル。
可憐さと苛烈さを併せ持つ、今の日本で最も“最強”に近い探索者の一人。
ーー黒崎ツカサ、その人だった。
「うぉおおおおおおおおお!!!!!」
「おいおいおい、マジかよこれ夢じゃないんだよなぁ!!!!」
一気に声量が上がるクラスメイトたち。
それはもう、全員にとっては目指そうにも目指せられない目標であり、憧れの存在。
まるでお伽話から飛び出してきたかのような、かのS級探索者がそこにいたのだから。
生唾を飲み込んだ。
まじかよ、と。
教壇に立ち、綺麗に銀髪をはためかせる。
そのエメラルドグリーン色の瞳からは冷気すら感じるほどに近づけないオーラがある。
その覇気にやられて、周りの声もピタリと止まった。
すると、静かになるのを待って彼女は口を開いた。
「黒崎ツカサです。この学校には国からの命令でやってきました。これから二年間よろしくお願いします」
淡々としていた。
感情のこもっていない、それでいて怖さのある瞳。
胸がキュッとなりそうな感覚があって、周りのクラスメイトも皆同じく胸を掴んでいた。
「えと、それじゃあ黒崎さんはね……窓際の、あそこ、名前はあぁーーっと、まぁいいや、後ろの影が薄そうな子の隣でいいかしら?」
おい、ちゃんと名前覚えてくれよ。
俺の名前は國田元春》だ。
なんだか失礼に指を刺されて、俺は手を上げる。
「あぁ、そうそう、あそこね? 大丈夫かしら?」
「はい……っあ」
そこで、彼女の目がガラリと変わった。
目が合う。
そして、黒崎さんは大きく目を見開きながら俺に指を刺した。
「あんた朝のおっぱい揉んできた男じゃないのよ!!!!!!!!!!」
俺はその時、音が聞こえた。
まだまだ耐えていられていた高校生活が一気に崩れ落ちていく音が聞こえたのである。
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