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第1章「始まり」

第1話「レベルがバグる」

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ある日、世界中に地下迷宮が出現した。

 一夜にして地下迷宮からあふれ出した未知の生物「魔物」が解き放たれて世界中の都市は機能不全に陥った。

 数週間ほどかけて各国の軍隊が最新兵器により魔物を制圧。

 徐々に機能を取り戻し、国連は謎の地下迷宮を迷宮区ダンジョンと命名し、次々に位置を特定し、立ち入りを禁じた。

 そこから世間の注目は迷宮区に集まり、企業や民間団体が解明をしようと躍起になる中、国際連合は各国に探索者ギルドを作ることを採択。

 迷宮区に入るためには探索者ギルドで探索者免許ライセンスを取得する必要などの規制を設け、一気に法整備が進んだ。

 同時に、探索者には「レベル」という力の概念ができ、「スキル」と呼ばれる異能の力が人間に発現するようになった。

 「レベル」は個人の運動能力を底上げする指標であり、「スキル」は一人につき一つ、ギルドにて開眼することで新たな力を手にすることができるように。

 S級のスキルを持つ者が国からもいい扱いを受けて各国の宝として将来が確約される。

 もちろん、スキルや魔力、迷宮区の出現は良い方面だけではなかった。

 スキルの発現によって悪くなった治安を鎮圧できる警察や自衛隊の部隊や、各家庭での銃器の確保。

 そして、義務教育を満了した未成年への少年法の適用までもなくし、夢をより早く、より強く、より厳正に、手にできるような法改正までも進んだのである



 ――ダンジョンとスキル、そしてレベルが混在する実力至上主義社会になりつつあった。
 



 ——そんなダンジョン黎明期から半世紀。

 世はまさに大探索者時代。


 多くの学生がより強い探索者になれる探索者科がある高校に入学し、探索者ギルドで探索者免許取得や『オリジナルスキル』の開眼から応用、レベルなどの身体強化などを目指し日々鍛錬を積む日々の中。

 学校で植物ムーブをかます陰キャ、國田元春くにたもとはるもまた探索者に憧れている一人だった。

 一気に躍進する英雄と呼ばれる探索者の姿。

 昔、魔物から助けてもらったことで彼の目は感謝から憧れに変わり、こうして受験戦争を勝ち抜き探索者専門の高校に入学したのだが……

 ……現実は非情だった。






「よぉ~~Fぅ!」
「お! お前ぇ、今日もこんなところで勉強してんのかよぉ!」

 知っている声が聞こえてビクつく肩。
 知らないわけがない。
 名前を仁井田ジンと鮫肌クサビ。中学校の頃から俺のことをいじめる同級生で、神様の悪戯なのか同じ高校に進学し、さらに同じクラスになってしまった。

「おいおい、Fが勉強しても一人前の探索者なんてなれねーぞぉ!」
「ぶはははは!!! まぁそんなこと言っても万年F級のお前には分からねぇ―か!」

 爆笑しながら俺の背中をバシバシと叩いてくる。
 昔はただ単にからかわれているだけだったのだが、高校に入学し、スキル開眼をしてから俺に対する二人のあたりはさらにエスカレートしていった。

 原因は二つ。

 一つは、俺が最弱のF級スキルを手にしてしまったこと。
 そしてもう一つは、二人が探索者の中ではかなり強力なB、C級スキルを手にしてしまったこと。

 弱いことを知ってからはよりいじめに歯止めが効かなくなり、抵抗したい気持ちはあってもスキルの差によって負けることを知っているために耐えることしかできなかった。

「やめなよっ、二人とも」

 そんなところで聞き覚えのある声がして振り向くとそこに居たのは俺の通う高校で一番有名な男子生徒「上里誠也かみさとせいや」だった。

 高校で十人しかいないと言われているA級のスキルを持ち、国からも学校からも多大な支援を受ける英雄的な存在の彼が俺と二人の間に入った。

「お、お前は……」「関係ないだろっ」

「いいから、だめだよ。弱い者いじめは」
「ははっ」「正義の味方気取りか!」
「二人がその気ならいいけど、知ってるよね?」
「っち」「いくぞ」

 喧嘩を吹っ掛ける気満々の二人に上里は爽やかに言葉でねじ伏せ、二人は退散していく。

 すると、肩の荷が下りたのか「はぁ」とため息を漏らし、俺のほうに駆け寄ってくる。

「君、大丈夫?」
「あ、うん……ごめんね上里くん」
「俺は、うん……にしても君、結構あれだねっ」
「?」
「っふふ、弱いね」

 助けてくれたと思ったら唐突な蔑み。

 まるで道端で潰された虫でも見るかのような含みのある笑みで呟いてきた。

 思わず殴ってしまいそうになったがなんとか溢れる気持ちを抑えて、俺はその場にとどまった。

「っ——」
「うん、いい判断だ。君じゃ僕には勝てないからね」
「……」
「それじゃ」

 そう言って去っていく上里。
 見れば分かる通り、この世界は実力至上主義。

 弱ければ馬鹿にされ、排除されていく世界に変わりつつあるというのに俺は今日も最弱キャラを極めていた。



★★★


 その日の帰り、俺は今日も今日とてFランク迷宮区と呼ばれる近所の最弱ダンジョンにて最弱と言われている魔物『ゴブリン』を狩ってレベリングを行っていた。

 レベリングとは名ばかりで、淡々と弱いモンスターを狩るだけ。
 経験値など大して貰えるわけもない。

 最近は力も強くなったのか一撃で倒せるようにはなったが相手は最弱の魔物だ。

 戦いを見たことないため一概にはいえないがS級探索者なら吐息でも倒せるレベルだと思う。

 レベルよりもスキルが大事な世界ではそれが現実。
 そう、F級の俺がレベルを上げても意味がないのだ。

 Fランクは0~10、Eランクは10~30、Dランクは30~50、Cランクは50~100、Bランクは100~500、Aランクは500~800、Sランクは800~

 と上限値が1000であるステータスの上がり幅は既に設定されているのだ。

 そのため俺は自分のレベルには興味はなかった。

 正直なところ、ただのストレス発散のようになっていて、ひたすら無心でゴブリンを討伐するだけのルーティンでもある。

 ちなみに、俺のスキル名が【神様の悪戯】と呼ばれるF級スキルで、効果としては「無」というもの。

 名前の通り、神様が悪戯で仕向けたスキルであり、このスキルには特殊効果がないため、ただの生身の人間のまま迷宮区に潜る必要があり、探索者になるのは厳しいとされている。

 頑張っても意味はない。

 そう言う世界だと知っていながらも諦めきれずに今日この日までゴブリン狩りを続けていたが……。

 それも限界だった。


 まぁ、どうせ最後ならと。

 ゴブリン狩りを終えた後、おぼろげにこの数年は見てすらいなかった探索者免許に保存しているステータスを久々に見てみることにした。

 腕に取り付けているデバイスから免許を開く。

「明日にでもやめて普通科に編入して……普通の生活、って、を…………ん?」

 俺は思わず、探索者免許、ライセンスのデータ情報に驚いた。

 空中に映し出されたホログラム状のステータス情報。

 書かれていたのはこんなものだった。



———————STATUS————————
☆個人情報☆
 名前:國田元春
 年齢:16歳
 探索者職業:武術家
 探索者レベル:Lv.99,999/100
 オリジナルスキル:神様の悪戯(F)

☆オリジナルステータス☆
 攻撃力:99,999/1000
 防御力:99,999/1000
 魔法力:0/1000
 魔法抵抗力:99,999/1000
 敏捷力:99,999/1000
 精神力:99,999/1000



―――――――――――――――――――――――――――――――――

「え……?」

 疑問しか募らない。

 というよりは怖い。
 これじゃあまるで化け物じゃないか。

 それに、レベルカンストどころか、上限を突き抜けているじゃないか。

 オリジナルステータスだって突き抜けている。

 本来の上限はレベルが100で、オリジナルステータスが1000。

 なのに俺のレベルと言ったら99999とほぼ1000倍、ステータスに関してもほぼ100倍になっている。

 実際、オリジナルスキルと自分のレベルにはそれぞれの役割があり、オリジナルスキルは個々の能力にプラスαで何かを及ぼすもので、レベルがステータスを地道に上げていくもの。

 いくらレベルが高くてもプラスαされるオリジナルスキルの方が比重が重いためにS級に近いスキルを持てば持つほど強くなる。

 S級のLv.1とF級のlv.100じゃ圧倒的にS級の方が強くなる。
 普通に、F級のLv.100とE級のLv.1でも一緒でE級が強くなる。

 つまり、どんなに頑張ってレベルを上げたとしても自分よりも高いランクの探索者には勝てない。

 それが今までの通説だ。
 そのくらい、この世界ではスキルのランクは大事なのだ。


 だがしかし、今の俺の状態は例外だ。

 なんて言ったってレベルが100を超えている。それに加えてステータスも突き抜けて超えている。

 こんなステータスの数値は一度も聞いたことがない。

 今いる最強の探索者でも1000の上限値に達している者なんて一人もいない。そう言われている。毎日のように上位スキルの探索者のランキングを確認している俺でも見たことがない。

 それなら、なぜ俺が。
 考えれば考えるほど出てくる矛盾に頭が痛い。

 確かに最近はダンジョンの魔物が弱くなったなと思うことが多くなってたけど……これはいくらなんでもおかしい。

 あり得ないとも言える。


 ただ、この世界にあり得ないものはない。

 今、ステータスを開いている探索者免許は国によって厳正な基準で定められている法律のもと、魔力によって作られているために改ざんなどの不正は確実に起こらない。

 昔の時代にはあったと聞いているがそれはまだ魔力による操作をしていなかったからだ。

 だが今は違う。

 全ての電力製品や公文書、生活に使う用品が魔力と呼ばれる宇宙に発現した永遠物質によって動いている。

 それに、もしも不正があったとしてもS級の秘匿スキルを持っている場合だけで、日本でそのスキルを持つものは一人もいないためあり得ない話なのだ。

 もう一度見返してみたが何もおかしなところは見当たらない。

 俺が持っているスキルの名前もあっているし、年齢だってレートだってF級と書かれている。

 念のため魔力認証をしてみても特に問題はなかった。


「ま、まじかよ……」

 生唾を飲み込み、喉を鳴らす。
 一度深呼吸をして、冷静になる。
 
 俺はF級だ。
 F級スキル持ちのF級探索者なんだ。

 才能なんて絶対ない。
 あんなの普通なんだ。きっと。
 カンストして当たり前……むしろそこからスキルで差を開かせるんだ絶対。

 うん、そうに違いない。

「うん、そうだ。レベルがカンストしても俺はFなんだ。そこに変わりはないし、絶対にS級の方が強い……よなっ」

 考えるのも怖くなり、自分に言い聞かせて、いつも通りゴブリンの皮と肉の換金をギルドで済ませて帰ることにした。



 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【ステータス】

〇ゴブリン(F)
・ステータス
 攻撃力:10/1000
 防御力:8/1000
 魔法力:0/1000
 魔法抵抗力:3/1000
 敏捷力:9/1000
 精神力:5/1000

 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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