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93.眩しい女神そのもの(side:エリオット)
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「悪女になってでも、好きになった人とこれ以上なく幸せになるって決めたんです」
そう言い切って笑うレベッカは美しかった。
胸のあたりを鷲掴みにされた気がして、苦しさに息がし辛くなる。
気丈な事を言っているけれど、本来のレベッカは決して気が強いわけではない。
他人を踏み台にしてなんとも思わないわけでもない。
自信ありげに笑う姿こそ確かに「悪女」の言葉が似合うが、けれど声を上げて立ち上がった時からずっと、強く握りしめた手は小さく震えていた。
その手をそっと包み込む。
僕はレベッカが思うほど、出来た人間じゃない。
レベッカとこの国と、天秤に掛けるまでもなくレベッカを選ぶ。
それでもレベッカが僕に価値を見出してくれるなら、レベッカがそのために頑張ってくれるなら、その期待以上に応えたいと思う。
僕が何度だってレベッカに惚れ直すのと同じくらい、レベッカにとっての理想であり続けたいから。
「レベッカは悪女なんかじゃない。僕にとっては眩しい女神そのものだよ」
唇に触れたい思いをぐっと耐えて、国王陛下を、そして宮殿内を見渡した。
緊張感に包まれていたが、誰一人として僕を排斥しようとする声を上げる者はいなかった。
「エリオット・イグノアースが今日ここに宣言しよう! 王太子となり国王となった暁には、このイグノアース王国と貴兄らにさらなる栄光と発展を約束すると!」
*
「僕は誰からも望まれていないのだと思っていたよ」
二人で短い廊下を歩きながら呟く。
小さな頃からずっと一人だと思っていた。
周りは弱みを見せれば簡単に手のひらを返されるのだと。
「変えてくれたのは、全てレベッカだ」
僕が初めて心から欲して、応えてくれたのが奇跡だと思っていたのに。
まさか一生隠さなければならないと思っていた秘密を公にされ、それでも受け入れられる日が来るだなんて夢にすら見たことがなかった。
「誰からも、なんてありません」
レベッカに手を引かれた。
国王陛下からの任命式を終えて、あとはバルコニーから国民への顔見せのみだ。
太陽の光の差すバルコニーへ向かうレベッカは美しいな、そんな事を考えながら外へ出た。
瞬間、洪水のような音に襲われた。
宮殿前の広場は人が溢れ返っていた。
それだけじゃない、そこから伸びる道も、近くの建物の窓にも、見渡す限り人で埋め尽くされていた。
王都中に人がひしめいて、そして誰も彼もが笑顔でこちらに手を振っている。
「二人で見に行った観劇を覚えていますか?」
「あ、ああ」
忘れるはずもない。
レベッカを初めて自分から誘ったのだ。
そして僕がレベッカにこの上なく惹きつけられる、そのきっかけだった。
「あの物語で自分が貴族ではなかった事を知った主人公は、血筋も何も関係なく自分の力で未来を切り開いていくと決意していました。あの観劇は大成功をおさめています。分かりますか? 国民は血筋が全てだとは思っていないんです」
確信を持って言い切るレベッカに目眩がした。
どうして、君はこうも……。
「僕はレベッカには一生敵わないな」
「え?」
「なんでもないよ」
ぽつりと口にした言葉を聞き返されて、曖昧に頷いた。
改めて周囲を見る。
手を上げて挨拶をすれば、より一層の歓声が上がった。
以前の僕だったら同じ景色を見ても冷めていただろう。
国民全員を欺いているという事実と、絶対に知られてはいけないという気持ちでかたくなになっていたから。
それが今はこんなにも心が震える。
集まってくれた一人ひとりの顔が、きちんと見える。
この光景はレベッカとでなければ見ることはできなかった。
横に立つレベッカの細い腰を抱き寄せる。
より一層盛り上がった国民の声は、長く長く続いた。
そう言い切って笑うレベッカは美しかった。
胸のあたりを鷲掴みにされた気がして、苦しさに息がし辛くなる。
気丈な事を言っているけれど、本来のレベッカは決して気が強いわけではない。
他人を踏み台にしてなんとも思わないわけでもない。
自信ありげに笑う姿こそ確かに「悪女」の言葉が似合うが、けれど声を上げて立ち上がった時からずっと、強く握りしめた手は小さく震えていた。
その手をそっと包み込む。
僕はレベッカが思うほど、出来た人間じゃない。
レベッカとこの国と、天秤に掛けるまでもなくレベッカを選ぶ。
それでもレベッカが僕に価値を見出してくれるなら、レベッカがそのために頑張ってくれるなら、その期待以上に応えたいと思う。
僕が何度だってレベッカに惚れ直すのと同じくらい、レベッカにとっての理想であり続けたいから。
「レベッカは悪女なんかじゃない。僕にとっては眩しい女神そのものだよ」
唇に触れたい思いをぐっと耐えて、国王陛下を、そして宮殿内を見渡した。
緊張感に包まれていたが、誰一人として僕を排斥しようとする声を上げる者はいなかった。
「エリオット・イグノアースが今日ここに宣言しよう! 王太子となり国王となった暁には、このイグノアース王国と貴兄らにさらなる栄光と発展を約束すると!」
*
「僕は誰からも望まれていないのだと思っていたよ」
二人で短い廊下を歩きながら呟く。
小さな頃からずっと一人だと思っていた。
周りは弱みを見せれば簡単に手のひらを返されるのだと。
「変えてくれたのは、全てレベッカだ」
僕が初めて心から欲して、応えてくれたのが奇跡だと思っていたのに。
まさか一生隠さなければならないと思っていた秘密を公にされ、それでも受け入れられる日が来るだなんて夢にすら見たことがなかった。
「誰からも、なんてありません」
レベッカに手を引かれた。
国王陛下からの任命式を終えて、あとはバルコニーから国民への顔見せのみだ。
太陽の光の差すバルコニーへ向かうレベッカは美しいな、そんな事を考えながら外へ出た。
瞬間、洪水のような音に襲われた。
宮殿前の広場は人が溢れ返っていた。
それだけじゃない、そこから伸びる道も、近くの建物の窓にも、見渡す限り人で埋め尽くされていた。
王都中に人がひしめいて、そして誰も彼もが笑顔でこちらに手を振っている。
「二人で見に行った観劇を覚えていますか?」
「あ、ああ」
忘れるはずもない。
レベッカを初めて自分から誘ったのだ。
そして僕がレベッカにこの上なく惹きつけられる、そのきっかけだった。
「あの物語で自分が貴族ではなかった事を知った主人公は、血筋も何も関係なく自分の力で未来を切り開いていくと決意していました。あの観劇は大成功をおさめています。分かりますか? 国民は血筋が全てだとは思っていないんです」
確信を持って言い切るレベッカに目眩がした。
どうして、君はこうも……。
「僕はレベッカには一生敵わないな」
「え?」
「なんでもないよ」
ぽつりと口にした言葉を聞き返されて、曖昧に頷いた。
改めて周囲を見る。
手を上げて挨拶をすれば、より一層の歓声が上がった。
以前の僕だったら同じ景色を見ても冷めていただろう。
国民全員を欺いているという事実と、絶対に知られてはいけないという気持ちでかたくなになっていたから。
それが今はこんなにも心が震える。
集まってくれた一人ひとりの顔が、きちんと見える。
この光景はレベッカとでなければ見ることはできなかった。
横に立つレベッカの細い腰を抱き寄せる。
より一層盛り上がった国民の声は、長く長く続いた。
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