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89.功績をあげればきりがない

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 続いて、並ぶ顔の中からエリオットを王太子にしてはならんと言った人を見た。

「バビントン子爵が十年ほど前から国王陛下に毎年要望しておりましたイリーヴェル川の大規模治水工事、あれを采配したのもエリオット殿下でしたこと、お忘れになりましたの?」

 ルイス殿下に王位を継承をと主張した人に視線を向ける。
 目があった途端にぎくりと動揺したのが見えた。

「エリオット殿下がグラザニ王国との和平協定を結んだおかげで、領地を接するキャボット男爵の地も落ち着いたのですわよね。軍事費に圧迫されていた財政が随分と回復したとか?」

 他にもエリオットの功績をあげればきりがない。
 国王陛下のお手伝いと言いながら、エリオットが国政に関わるようになってから様々な問題が解決されていたのだ。

 三人とも反論の言葉もないのかぎりぎりとはがみしつつも押し黙る。

 さっきの盛り上がりが落ち着いてしまった宮殿内に、パチパチと白々しい拍手が鳴った。
 でっぷりと太ったライルズ侯爵だ。

「随分ご立派な功績を並べていただいたが、しかしそれが全て本当だとする証拠がどこにあるのですかな? お嬢様が酔狂で、国政に憶測や空想を持ち込むのは止めていただこう」
「証拠でしたら王立図書館に記録がありますわ。全てエリオット殿下直筆のサインで承認と処理されたものですのよ」

 余裕そうにふんぞり返っているライルズ侯爵に笑いかけた。
 瞬間にたっぷり脂肪の乗った顔が硬直する。

「そんなものが王立図書館に……っ!?」

 ライルズ侯爵が知らないのも無理はない。
 あそこは王族以外に立ち入りを禁じられているのだから。
 セシリアは入室の権利があるし実際に入ってきていたけれど、彼女がそんな記録に興味を持つはずがない。

 私だって今まで気にかけたことすらなかったから、あまり偉そうなことは言えた立場でもないけれど。

「皆様はこれだけの功績と手腕を持つエリオット殿下を、たかが妾腹だからというそんな理由だけで退けるというのかしら? 聡明なる、選ばれしこの国の貴族ともあろう方々が」

 小さなざわめきが広がる。
 流れが変わるのではないかと思ったけれど、ライルズ侯爵は簡単には折れなかった。

「エリオット殿下の手腕が見事なことは認めよう。しかしそれがルイス殿下を退ける理由にはなるまい? ルイス殿下であればエリオット殿下以上に素晴らしい功績を上げていただけることは明白だ!」
「その根拠はなんですの?」
「決まっておる! 国王陛下と王妃陛下の、正当なる王族の血を引いていらっしゃるからだ!」

 ちらりと見たルイス殿下は、話の中心にいるというのに興味は無さそうだった。
 私たちの婚約披露のパーティーで一人庭に出てワインを飲んでいた時と同じ顔。
 あの時はその行動の理由も分かっていなかった。
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