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53.優しさや気遣いはない
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ルイス殿下がニヤニヤと笑いながら私たちを見ていたことに。
そこに、私の惹かれた優しさや気遣いはない。
ルイス殿下の琥珀色の瞳に浮かんでいるのはただの享楽だった。
「ルイス殿下はわたくしの想いを叶えようとしてくれているんですの? それとも、わたくしを愛人にすることでエリオット殿下をおとしめようとしていらっしゃるのかしら?」
そうでなければいいという願いは「はっ」という笑い声によって潰えた。
「お前のそのエロい身体はエリオット一人のものにするには勿体なさ過ぎるだろ。俺が可愛がってやるよ。そのためにわざわざ薄ら寒い慰めをしてやったんだからな」
そうだったのか、と今更気がついた。
あのエリオット殿下との婚約パーティーの夜のルイス殿下は偽物だったのかと。
自分の中で何かがストンと剥がれ落ちたのが分かった。
ちらりと隣にいるセシリアを見る。
「セシリア様とも随分と仲が良くなられたようで?」
「セシリアから持ち掛けられた話だからな。そこんとこを腹割って話してお互いに同意したってこった。お前にはもう少しくだらない茶番を演じてやるつもりだったが、まぁ仕方ない」
セシリアも異論はないのか笑っている。
けれども彼女の考えなんか聞かなくても分かる。私がルイス殿下を好きだと知っていたからこそ、自分がルイス殿下と結婚して、そして「貸してあげる」ことで私を貶めて満足したいんだろう。
気が合わないとは思っていたし性格が良いとも思っていなかったけど、ここまでだったとは。
「お前も無理して誘うくらい俺に惚れてんだから、これ以上ない提案だろ?」
ルイス殿下もまさかこんな人だったなんて。
小さなため息をつくと、背中に回されていたエリオット殿下の手がぴくりと反応した。
温かな手の温度がふわりと心の中まで伝わってくる。
自分でも驚く程に、ショックはない。
ただそうだったのかという納得だけがある。
けれども胸の中にざわざわとしたものが広がったのもまた確かだった。
二人は私だけじゃなくて、エリオット殿下をもバカにしているのだ。
以前の、そして前世の私だったら何も言えなかっただろう。
自分自身を軽んじられても、大切な人がけなされても、ただ俯いて黙って耐えていただけ。
でも私はそんな自分を変えようと決意したのだ。
今ここで黙って耐えるのはエリオット殿下への暴言を許したことと同じになってしまうのだから。
「ルイス、いい加減に――」
「大丈夫ですわエリオット殿下」
何かを言ってくれようとしてくれたエリオット殿下の言葉を遮る。
ぐっとお腹に力を入れて、そして微笑んだ。
「素敵なご提案ありがとうございますルイス殿下」
「ああ、お前にとっても良い話だろう?」
「そうですわね。おかげさまでルイス殿下が品もなくただのつまならい下衆だと理解できましたわ」
「なんだと……っ」
アンナが完璧に仕上げてくれたメイクで、真っ赤なリップで微笑んだ。
「わたくしが二番目で満足するような女だと思われていた事がそもそも侮辱ですわ。ルイス殿下が乞うて求めるのが正しい在り方でしょうに」
「はぁ!? 誰がそんなことするかっ」
今まで上からの物言いだったルイス殿下が、語調を強める。
そんな反応にほんの少しだけ胸がすく思いがしてしまう。
「あら、ルイス殿下はわたくしの身体が欲しいのでしょう? 会えばいつもわたくしの胸ばかり見て、発情した犬のようにヨダレを垂らしておりましたものね。セシリア様の貧相な身体には魅力を感じないからこそ、いつも舐め回すようにわたくしを見ていたのではないですか?」
セシリアのドレスは今日もフリルとリボンで巧妙に胸元の寂しさをカバーしている。
それをわざと視線を動かして笑えば、セシリアもぐっと押し黙った。
「そんなにも見つめるのなら、地面に膝を付き頭を下げて懇願してくださればお相手してあげるのもやぶさかではないと思っておりましたのに。女は男に激しく求められることで美しくなりますもの、ルイス殿下もわたくしの美しさの糧にしてあげても良いかと思っておりましたのよ?」
「……っ」
口からペラペラと今まで思ってもいなかったことが出てくる。
自分からよくこんな言葉が出てくるなと、そんな驚きを感じてしまった。
「駄目だよレベッカ」
「エリオット殿下?」
腰を引き寄せられて、エリオット殿下の胸に柔らかく抱きしめられた。むにゅりと大きな胸が潰れる。
顔を上げればとろりと甘い顔でエリオット殿下が私を見つめていた。
そこに、私の惹かれた優しさや気遣いはない。
ルイス殿下の琥珀色の瞳に浮かんでいるのはただの享楽だった。
「ルイス殿下はわたくしの想いを叶えようとしてくれているんですの? それとも、わたくしを愛人にすることでエリオット殿下をおとしめようとしていらっしゃるのかしら?」
そうでなければいいという願いは「はっ」という笑い声によって潰えた。
「お前のそのエロい身体はエリオット一人のものにするには勿体なさ過ぎるだろ。俺が可愛がってやるよ。そのためにわざわざ薄ら寒い慰めをしてやったんだからな」
そうだったのか、と今更気がついた。
あのエリオット殿下との婚約パーティーの夜のルイス殿下は偽物だったのかと。
自分の中で何かがストンと剥がれ落ちたのが分かった。
ちらりと隣にいるセシリアを見る。
「セシリア様とも随分と仲が良くなられたようで?」
「セシリアから持ち掛けられた話だからな。そこんとこを腹割って話してお互いに同意したってこった。お前にはもう少しくだらない茶番を演じてやるつもりだったが、まぁ仕方ない」
セシリアも異論はないのか笑っている。
けれども彼女の考えなんか聞かなくても分かる。私がルイス殿下を好きだと知っていたからこそ、自分がルイス殿下と結婚して、そして「貸してあげる」ことで私を貶めて満足したいんだろう。
気が合わないとは思っていたし性格が良いとも思っていなかったけど、ここまでだったとは。
「お前も無理して誘うくらい俺に惚れてんだから、これ以上ない提案だろ?」
ルイス殿下もまさかこんな人だったなんて。
小さなため息をつくと、背中に回されていたエリオット殿下の手がぴくりと反応した。
温かな手の温度がふわりと心の中まで伝わってくる。
自分でも驚く程に、ショックはない。
ただそうだったのかという納得だけがある。
けれども胸の中にざわざわとしたものが広がったのもまた確かだった。
二人は私だけじゃなくて、エリオット殿下をもバカにしているのだ。
以前の、そして前世の私だったら何も言えなかっただろう。
自分自身を軽んじられても、大切な人がけなされても、ただ俯いて黙って耐えていただけ。
でも私はそんな自分を変えようと決意したのだ。
今ここで黙って耐えるのはエリオット殿下への暴言を許したことと同じになってしまうのだから。
「ルイス、いい加減に――」
「大丈夫ですわエリオット殿下」
何かを言ってくれようとしてくれたエリオット殿下の言葉を遮る。
ぐっとお腹に力を入れて、そして微笑んだ。
「素敵なご提案ありがとうございますルイス殿下」
「ああ、お前にとっても良い話だろう?」
「そうですわね。おかげさまでルイス殿下が品もなくただのつまならい下衆だと理解できましたわ」
「なんだと……っ」
アンナが完璧に仕上げてくれたメイクで、真っ赤なリップで微笑んだ。
「わたくしが二番目で満足するような女だと思われていた事がそもそも侮辱ですわ。ルイス殿下が乞うて求めるのが正しい在り方でしょうに」
「はぁ!? 誰がそんなことするかっ」
今まで上からの物言いだったルイス殿下が、語調を強める。
そんな反応にほんの少しだけ胸がすく思いがしてしまう。
「あら、ルイス殿下はわたくしの身体が欲しいのでしょう? 会えばいつもわたくしの胸ばかり見て、発情した犬のようにヨダレを垂らしておりましたものね。セシリア様の貧相な身体には魅力を感じないからこそ、いつも舐め回すようにわたくしを見ていたのではないですか?」
セシリアのドレスは今日もフリルとリボンで巧妙に胸元の寂しさをカバーしている。
それをわざと視線を動かして笑えば、セシリアもぐっと押し黙った。
「そんなにも見つめるのなら、地面に膝を付き頭を下げて懇願してくださればお相手してあげるのもやぶさかではないと思っておりましたのに。女は男に激しく求められることで美しくなりますもの、ルイス殿下もわたくしの美しさの糧にしてあげても良いかと思っておりましたのよ?」
「……っ」
口からペラペラと今まで思ってもいなかったことが出てくる。
自分からよくこんな言葉が出てくるなと、そんな驚きを感じてしまった。
「駄目だよレベッカ」
「エリオット殿下?」
腰を引き寄せられて、エリオット殿下の胸に柔らかく抱きしめられた。むにゅりと大きな胸が潰れる。
顔を上げればとろりと甘い顔でエリオット殿下が私を見つめていた。
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