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45.丸ごと僕のものにする(side:エリオット)
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「そちらの案件に何か不備がございますか、殿下」
「あ、ああ……。いや、すまない何でもない」
側近に声をかけられて、自分のペンの動きが止まってしまっていた事に気が付かされた。
ため息を飲み込んで手元の書類に意識を戻す。
気を抜くとすぐに意識がそれてしまう。
先日触れたレベッカの滑らかで柔らかい肌が、記憶だけでなく手やそこかしこに残っているせいだ。
可愛らしく甘い声音や、頼りなく震える身体を。
ルイスとキスをしそうになっていたことへの嫉妬。
ふいに見せてくれた無邪気な笑顔。
強烈に膨れ上がった彼女に触れたいという気持ちを、「ルイスを誘惑したいなら、教えてあげようか」なんて強引な理由で包んで行為に及んだ。
あの時は一線を超えてしまいたいという欲望を意志の力でねじ伏せたが、あのまま本能に任せていたらどうなっていただろうか。
あの熱い中に自らの想いを直接注ぎ込んでいれば……。
「……殿下?」
呼ばれ、またも手が止まってしまっていたことに気がつく。
小さく息を吐いて、そして椅子の背もたれに身体を預けた。
「君は確か結婚していたね?」
「……は、はい」
「どのような経緯で結婚したんだい?」
「は? ……あ、いえ、失礼いたしました」
驚く側近の顔を見上げる。
僕の執務机の横に立っている側近は今年で三十を越えたところだったと記憶している。
薄茶の髪に鋭さのある目元、今まで真面目で有能だという以外に気に留めていなかったが、こんな顔をしていたのかと新鮮な気持ちだった。
今まで誰にも秘密を知られないようにと気を張っていた。それは相手が側近であろうとも、だ。
雑談など交わしたこともないのだから、この驚きも当然だろう。
「経緯、ですか。特にご報告申し上げるような特別な事情もなく、親のすすめる相手と婚約し、結婚いたしました」
「そうだよね、普通はそういうものだろうね」
この側近はウォルター公にこそ及ばないがそこそこに力のある家の次男だ。
継ぐ家を持たないならばと、僕がその腕をかって取り立てた。
貴族であるのならなんら不思議はない、結婚にいたる経緯だ。
「それがどうかいたしましたか?」
「いや、なんでもない。大した話でもないから忘れてくれないかい?」
「……は」
頭を下げる彼に、何度目かも分からないため息を飲み込む。
親のすすめる相手と会い、婚約し、結婚して初夜を迎える。貴族であるのならばなんら疑問に思うこともない流れだ。
僕も親である国王陛下の勧めでこそないものの、その後はそのような経緯で新しい生活を始めるものだと思っていた。
まぁその予定はウォルター公により当初から雲行きが大分怪しかったのだが。
まさか結婚を飛び越えて相手の身体に触れてしまうとは。
自分がそのような暴挙に出る日が来るとは驚きだった。
そして一切の後悔をしていないことにも。
レベッカに触れて改めて分かった事がある。
僕は彼女を逃さない。例えどんな手段を用いようとも。
あの全てが可愛らしく愛おしい存在は丸ごと僕のものにする。
「……身体を使って誘惑するという選択肢を取ったのは君だ。だから僕だって同じ手を使おうと責められる謂れなどどこにもない」
小さく呟いた言葉に首を傾げた側近に、なんでもないと笑みを返した。
「あ、ああ……。いや、すまない何でもない」
側近に声をかけられて、自分のペンの動きが止まってしまっていた事に気が付かされた。
ため息を飲み込んで手元の書類に意識を戻す。
気を抜くとすぐに意識がそれてしまう。
先日触れたレベッカの滑らかで柔らかい肌が、記憶だけでなく手やそこかしこに残っているせいだ。
可愛らしく甘い声音や、頼りなく震える身体を。
ルイスとキスをしそうになっていたことへの嫉妬。
ふいに見せてくれた無邪気な笑顔。
強烈に膨れ上がった彼女に触れたいという気持ちを、「ルイスを誘惑したいなら、教えてあげようか」なんて強引な理由で包んで行為に及んだ。
あの時は一線を超えてしまいたいという欲望を意志の力でねじ伏せたが、あのまま本能に任せていたらどうなっていただろうか。
あの熱い中に自らの想いを直接注ぎ込んでいれば……。
「……殿下?」
呼ばれ、またも手が止まってしまっていたことに気がつく。
小さく息を吐いて、そして椅子の背もたれに身体を預けた。
「君は確か結婚していたね?」
「……は、はい」
「どのような経緯で結婚したんだい?」
「は? ……あ、いえ、失礼いたしました」
驚く側近の顔を見上げる。
僕の執務机の横に立っている側近は今年で三十を越えたところだったと記憶している。
薄茶の髪に鋭さのある目元、今まで真面目で有能だという以外に気に留めていなかったが、こんな顔をしていたのかと新鮮な気持ちだった。
今まで誰にも秘密を知られないようにと気を張っていた。それは相手が側近であろうとも、だ。
雑談など交わしたこともないのだから、この驚きも当然だろう。
「経緯、ですか。特にご報告申し上げるような特別な事情もなく、親のすすめる相手と婚約し、結婚いたしました」
「そうだよね、普通はそういうものだろうね」
この側近はウォルター公にこそ及ばないがそこそこに力のある家の次男だ。
継ぐ家を持たないならばと、僕がその腕をかって取り立てた。
貴族であるのならなんら不思議はない、結婚にいたる経緯だ。
「それがどうかいたしましたか?」
「いや、なんでもない。大した話でもないから忘れてくれないかい?」
「……は」
頭を下げる彼に、何度目かも分からないため息を飲み込む。
親のすすめる相手と会い、婚約し、結婚して初夜を迎える。貴族であるのならばなんら疑問に思うこともない流れだ。
僕も親である国王陛下の勧めでこそないものの、その後はそのような経緯で新しい生活を始めるものだと思っていた。
まぁその予定はウォルター公により当初から雲行きが大分怪しかったのだが。
まさか結婚を飛び越えて相手の身体に触れてしまうとは。
自分がそのような暴挙に出る日が来るとは驚きだった。
そして一切の後悔をしていないことにも。
レベッカに触れて改めて分かった事がある。
僕は彼女を逃さない。例えどんな手段を用いようとも。
あの全てが可愛らしく愛おしい存在は丸ごと僕のものにする。
「……身体を使って誘惑するという選択肢を取ったのは君だ。だから僕だって同じ手を使おうと責められる謂れなどどこにもない」
小さく呟いた言葉に首を傾げた側近に、なんでもないと笑みを返した。
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