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43.本当の君に近づく事ができる(side:エリオット)
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天気の良い日の王立公園は人出がある。
そんな中を王族である僕と公爵家の令嬢であるレベッカ嬢が並んで歩けば、それは目立つだろう。
そんな突き刺さる視線にあえてアピールするように、僕はレベッカ嬢の腰を強く引き寄せてぴったりとくっついていた。僕らは正式な婚約者なのだから何も遠慮する必要はない。
緊張なのかなんなのか、レベッカ嬢が身体を固くしているのがまた愛らしい。
ルイスに対していた時のような「慣れた女」を演じるのであれば、もっと僕にしなだれかかってきても良いのに。
そんな不器用さと素直さが可愛くて仕方がない。気を抜くと口元が弛んでしまいそうだ。
「ルイスと話していた時は演技をしていたの?」
「……いえ、あの」
「少し前まではこんな風じゃなかったよね。僕の目も真っ直ぐに見れなかった程だ。それとも、そっちが演技だったのかな」
僕が問い掛けるとレベッカ嬢の視線が泳いだ。
目鼻立ちをはっきりさせ、真っ赤に塗られた唇の化粧。身体のスタイルを隠すことのないドレス。
ルイスに迫っていた時はその外見に見合った妖艶さをまとわせていたというのに、今は欠片も見当たらない。その落差を、彼女自身の表情をもっと見たい。
そのためにはどうすれば良いのだろう。
「少し前までの君、ルイスに迫っていた君、そしてさっきの君。さて、本当の君はどれだろう? それとも全部が嘘かな?」
「嘘だなんて、酷いですわ」
「『それ』が本当のレベッカ嬢?」
「あ、当たり前です」
会話をしながら考える。
僕が持っているカードは多くない。
その中で何を使えば彼女を留め置けるか。
彼女の視線を僕に向けられるか。
追い詰めて、視界と思考を僕だけで占めることが出来るか。
足を止めると、つられるようにレベッカ嬢も僕を振り仰いだ。
「正直な話をしよう。僕はいま君に不信感を持っている。それはそうだよね、今まで殆ど城に来る事のなかった君が突然弟にあからさま過ぎる色仕掛けを仕掛けているとなれば、疑わない方が難しい」
「疑う?」
「君の父親であるウォルター公が何かを企み娘に吹き込んだ、または娘を利用しているのではないか、とかね」
「企むだなんて、そんなっ」
さっと顔色を変えた彼女にゾクリと何かがわきおこる。
ウォルター公が何かを企んでいるだなんて疑うはずがない。
彼が溺愛している娘をわざわざルイスなんかに近づけるはずも、ない。
けれどそんなことを正直に教えてあげる理由もまたないのだ。
「レベッカ嬢が嘘を付くのなら僕も真剣に裏がないか調べなければいけないと、君もそう思うだろう?」
逃げ道を塞ぐようにレベッカの揺れる瞳を覗き込む。
父親への無用な疑いは困るだろう? 大丈夫、ルイスには言わない。言うはずもない。
ただ君はその隠そうとしている自分を僕だけに晒してくれればそれでいい。
それだけで、僕はルイスよりも本当の君に近づく事ができる。
はう、と赤い唇から小さなため息が溢れた。
「……本当の私は『これ』です。ルイス殿下と会話していた時には少しだけ演技をしていました」
「そうか。少し前までのレベッカ嬢はもっと気弱そうに感じていたが、あれも演技だったのかい?」
「いえ、あれも本当です。少し、自分の性格や考え方を改める機会がありまして」
「その機会とは?」
「……言えません。けれど何かを企んでるとか、そういう事ではありません」
真っ直ぐに僕を見つめ返してきた彼女に、この件はこれ以上つっこんでも無駄だなと悟った。
恐らくはこれ以上踏み込んでも逃げられるか、最悪拒絶される。
それは駄目だ。
彼女に拒絶されたら、本気でウォルター公経由で正式に婚約が破棄されかねない。
それだけはなんとしてでも避けなければならないのだ。
僕とレベッカ嬢を繋いでいるのは、『婚約者』という名ばかりの関係だけなのだから。
そんな中を王族である僕と公爵家の令嬢であるレベッカ嬢が並んで歩けば、それは目立つだろう。
そんな突き刺さる視線にあえてアピールするように、僕はレベッカ嬢の腰を強く引き寄せてぴったりとくっついていた。僕らは正式な婚約者なのだから何も遠慮する必要はない。
緊張なのかなんなのか、レベッカ嬢が身体を固くしているのがまた愛らしい。
ルイスに対していた時のような「慣れた女」を演じるのであれば、もっと僕にしなだれかかってきても良いのに。
そんな不器用さと素直さが可愛くて仕方がない。気を抜くと口元が弛んでしまいそうだ。
「ルイスと話していた時は演技をしていたの?」
「……いえ、あの」
「少し前まではこんな風じゃなかったよね。僕の目も真っ直ぐに見れなかった程だ。それとも、そっちが演技だったのかな」
僕が問い掛けるとレベッカ嬢の視線が泳いだ。
目鼻立ちをはっきりさせ、真っ赤に塗られた唇の化粧。身体のスタイルを隠すことのないドレス。
ルイスに迫っていた時はその外見に見合った妖艶さをまとわせていたというのに、今は欠片も見当たらない。その落差を、彼女自身の表情をもっと見たい。
そのためにはどうすれば良いのだろう。
「少し前までの君、ルイスに迫っていた君、そしてさっきの君。さて、本当の君はどれだろう? それとも全部が嘘かな?」
「嘘だなんて、酷いですわ」
「『それ』が本当のレベッカ嬢?」
「あ、当たり前です」
会話をしながら考える。
僕が持っているカードは多くない。
その中で何を使えば彼女を留め置けるか。
彼女の視線を僕に向けられるか。
追い詰めて、視界と思考を僕だけで占めることが出来るか。
足を止めると、つられるようにレベッカ嬢も僕を振り仰いだ。
「正直な話をしよう。僕はいま君に不信感を持っている。それはそうだよね、今まで殆ど城に来る事のなかった君が突然弟にあからさま過ぎる色仕掛けを仕掛けているとなれば、疑わない方が難しい」
「疑う?」
「君の父親であるウォルター公が何かを企み娘に吹き込んだ、または娘を利用しているのではないか、とかね」
「企むだなんて、そんなっ」
さっと顔色を変えた彼女にゾクリと何かがわきおこる。
ウォルター公が何かを企んでいるだなんて疑うはずがない。
彼が溺愛している娘をわざわざルイスなんかに近づけるはずも、ない。
けれどそんなことを正直に教えてあげる理由もまたないのだ。
「レベッカ嬢が嘘を付くのなら僕も真剣に裏がないか調べなければいけないと、君もそう思うだろう?」
逃げ道を塞ぐようにレベッカの揺れる瞳を覗き込む。
父親への無用な疑いは困るだろう? 大丈夫、ルイスには言わない。言うはずもない。
ただ君はその隠そうとしている自分を僕だけに晒してくれればそれでいい。
それだけで、僕はルイスよりも本当の君に近づく事ができる。
はう、と赤い唇から小さなため息が溢れた。
「……本当の私は『これ』です。ルイス殿下と会話していた時には少しだけ演技をしていました」
「そうか。少し前までのレベッカ嬢はもっと気弱そうに感じていたが、あれも演技だったのかい?」
「いえ、あれも本当です。少し、自分の性格や考え方を改める機会がありまして」
「その機会とは?」
「……言えません。けれど何かを企んでるとか、そういう事ではありません」
真っ直ぐに僕を見つめ返してきた彼女に、この件はこれ以上つっこんでも無駄だなと悟った。
恐らくはこれ以上踏み込んでも逃げられるか、最悪拒絶される。
それは駄目だ。
彼女に拒絶されたら、本気でウォルター公経由で正式に婚約が破棄されかねない。
それだけはなんとしてでも避けなければならないのだ。
僕とレベッカ嬢を繋いでいるのは、『婚約者』という名ばかりの関係だけなのだから。
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