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16.ベッドの中でなら

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 電話なんて便利なもののないこの世界で、約束を取り付けるとなれば手紙しかない。
 でもそんな悠長な事をしていたら予定を合わせるだけで何日もかかってしまうし、何よりもまずルイス殿下に断られてしまったらそれでお終いだ。

「呼び出す相手を間違えてるんじゃないか?」
「いいえ、そんなことはありませんわルイス殿下。わたくしがお茶をしたいと思ったお相手はルイス殿下で間違いありません」

 前回中途半端に迫るような形になってしまったから、警戒されて呼び出しにも応じてくれなかったらどうしようかと思ったけれど、ルイス殿下はあっさりと来てくれた。
 王城の中庭の庭園、前回と同じようにガゼボに用意してもらったお茶の席には色とりどりのマカロンが並んでいる。
 天気の良い日を選んで来たから、日差しも暖かい。

 ルイス殿下は私の胸元にちらりと視線を落として、そして何事もないかのようにそっぽを向いて椅子についた。
 反対に私が立ち上がると、側に控えてくれていたアンナが心得たように椅子を動かしてくれる。そうしてルイス殿下に寄り添うように座り直すと、アンナはそっとその場を離れて行った。

 ルイス殿下といえば一瞬怯んだように身体を引いたが、またすぐに平静になってしまってお茶に手を伸ばす。

「今日のお茶は我がウォルター公爵領の一番摘みの紅茶にしましたの。お口に合いますかしら?」
「ああ。まぁ、旨いんじゃないか?」
「何よりですわ。ほら、こちらのマカロンも食べてみてください。うちの料理人、渾身の作ですのよ」

 お皿に並べられた赤色のマカロンを真っ赤なネイルの指先で摘む。
 そうしてルイス殿下の口元に差し出しす私を、エリオット殿下と同じ琥珀色の瞳がじっと見ていた。

「なぁ。この前といい今日といい、どうして俺に声を掛ける? エリオットの差し金か?」
「エリオット殿下は関係ありませんわ。わたくしはわたくしだけの意思で、ルイス殿下とお話がしたくてお誘いしていますの」
「何を企んでいる?」
「……わたくしの事が気になります?」

 くすりと微笑む。そしてマカロンをルイス殿下の口にそっと押し込みながら、むにゅりと大きな胸をルイス殿下の身体に押し付けた。
 勿論今日のドレスも胸元は大きく開いていて谷間がはっきり見えている。
 エリオット殿下のあの沢山のキスマークはどうにか化粧で隠してもらったから問題ない。

「ベッドの中でなら、ルイス殿下に隠し事など出来なくなってしまうかもしれませんわね」

 ちらりと見上げながら微笑んだ。
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