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8.自分の力で未来を切り開いていく
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私としてはおかげで助かったのだ。
結婚してしまっていたらどうあがいたってルイス殿下とはどうにもなれなかった。いくら私に甘いお父様であっても不貞は許さないだろう。
でも今なら。
私のことを溺愛していて目に入れても痛くないって状態のお父様相手なら、ルイス殿下との既成事実さえ作ってしまえばいける。
前世の記憶が戻るのがエリオット殿下との婚約前だったらもしかしたら違った展開になっていたかもしれないけれど、今更そんな事を言っても仕方がない。
ただとにかく私としては結婚までいっていなかったことを喜ぶべきなのだ。
つまり私がいま会いたいのはルイス殿下で、エリオット殿下に割く時間は惜しい。
なによりも、エリオット殿下は何を考えているのか全然分からなくて油断ならない。
万一にだってルイス殿下との前にエリオット殿下と既成事実を作られてしまったら、それこそ結婚したのと大差なくなってしまうんだから。
メイドが淹れたお茶を優雅な動きで口にするエリオット殿下に、負けじと私も微笑んだ。
とにかく気力で圧されるわけにはいかない、私が目指しているのは悪女なんだから。
ほんの短い間、視線が絡んだ。静かな琥珀色の瞳に心の中までもを見透かされそうで震えそうになる心臓を押さえ込んで、私も対面のソファに座る。
だというのにふいに笑顔を深くしたエリオット殿下がカップを置いて立ち上がった。
「レベッカ嬢は観劇に興味はあるかい?」
「え? ……あ、まぁ。人並みには」
前世と違ってテレビや映画のないこの国で、観劇は数少ない娯楽の一つだ。
しかも王都にある劇場にの舞台に立てるのは最高峰の演者たちばかりで、どの演目も評価がとても高い。
前世では舞台にそこまでの興味が無かった私でも、とても楽しめたくらいだ。
でもそれが一体なんだというのか。
にょきりと突然差し出された手を、私は瞬きをして見つめた。
「そしたら、今日は観劇に行かないかい?」
*
前世と違って印刷技術のないこの国がとても残念で仕方ない。パンフレットがあったのなら絶対に買ったのに。
「楽しめたみたいだね」
「はい、とても」
馬車の中で私は頷いた。
公演が人気なだけあって、劇場は毎日満員だ。突然思いついて見たいと思ってもそんな簡単にはいかない。
そう思ったのだけど、流石王都の劇場だけあって二階に王族専用の席があったのだ。
私も以前に貴族専用の席では見たことがあったけど、まさかそれとは別に王族専用の席が常設されているとは知らなかった。
演目は美しくて聡明な貴族のお嬢様が、実は子供の頃に取り違えられた使用人の子供だったっていう、出生と血筋に様々な思惑が絡むストーリーだった。
「血筋も何も関係なく自分の力で未来を切り開いていくっていう最後がとても良かったですわ」
そう答えるとエリオット殿下の目が丸くなった。
驚いたような表情は初めて見るもので、どこか新鮮だった。
「君は貴族に流れる高貴な血を関係ないと言うのかい?」
「ええ」
探るような視線を気にせずに頷く。
ふうん、と意味ありげに目を見られたけれど気にしない。
イグノアース王国は代々続く王族と貴族によって成り立っている国だ。血統主義的な考えが深く根付いているし、実際のところ私も少し前まではそちら側だった。
けれどバリバリの庶民だった前世を思い出した今となっては、大切なのは血よりも中身だなと思う。
とはいえそんな考えは王族であるエリオット殿下には到底理解出来ないだろう。
舞台も血統主義者である貴族とそうでない多数の人たち、どちらにも配慮されたストーリーだったし。
とにかくこれ以上話を深くされても何も生まないから、ふわりと笑顔を浮かべて話題を有耶無耶にする。
エリオット殿下は何故か私をじっと見つめてきていて、お尻のあたりがそわそわする。もちろんそんな動いたりはしないけれど、どうも居心地が悪い。
結婚してしまっていたらどうあがいたってルイス殿下とはどうにもなれなかった。いくら私に甘いお父様であっても不貞は許さないだろう。
でも今なら。
私のことを溺愛していて目に入れても痛くないって状態のお父様相手なら、ルイス殿下との既成事実さえ作ってしまえばいける。
前世の記憶が戻るのがエリオット殿下との婚約前だったらもしかしたら違った展開になっていたかもしれないけれど、今更そんな事を言っても仕方がない。
ただとにかく私としては結婚までいっていなかったことを喜ぶべきなのだ。
つまり私がいま会いたいのはルイス殿下で、エリオット殿下に割く時間は惜しい。
なによりも、エリオット殿下は何を考えているのか全然分からなくて油断ならない。
万一にだってルイス殿下との前にエリオット殿下と既成事実を作られてしまったら、それこそ結婚したのと大差なくなってしまうんだから。
メイドが淹れたお茶を優雅な動きで口にするエリオット殿下に、負けじと私も微笑んだ。
とにかく気力で圧されるわけにはいかない、私が目指しているのは悪女なんだから。
ほんの短い間、視線が絡んだ。静かな琥珀色の瞳に心の中までもを見透かされそうで震えそうになる心臓を押さえ込んで、私も対面のソファに座る。
だというのにふいに笑顔を深くしたエリオット殿下がカップを置いて立ち上がった。
「レベッカ嬢は観劇に興味はあるかい?」
「え? ……あ、まぁ。人並みには」
前世と違ってテレビや映画のないこの国で、観劇は数少ない娯楽の一つだ。
しかも王都にある劇場にの舞台に立てるのは最高峰の演者たちばかりで、どの演目も評価がとても高い。
前世では舞台にそこまでの興味が無かった私でも、とても楽しめたくらいだ。
でもそれが一体なんだというのか。
にょきりと突然差し出された手を、私は瞬きをして見つめた。
「そしたら、今日は観劇に行かないかい?」
*
前世と違って印刷技術のないこの国がとても残念で仕方ない。パンフレットがあったのなら絶対に買ったのに。
「楽しめたみたいだね」
「はい、とても」
馬車の中で私は頷いた。
公演が人気なだけあって、劇場は毎日満員だ。突然思いついて見たいと思ってもそんな簡単にはいかない。
そう思ったのだけど、流石王都の劇場だけあって二階に王族専用の席があったのだ。
私も以前に貴族専用の席では見たことがあったけど、まさかそれとは別に王族専用の席が常設されているとは知らなかった。
演目は美しくて聡明な貴族のお嬢様が、実は子供の頃に取り違えられた使用人の子供だったっていう、出生と血筋に様々な思惑が絡むストーリーだった。
「血筋も何も関係なく自分の力で未来を切り開いていくっていう最後がとても良かったですわ」
そう答えるとエリオット殿下の目が丸くなった。
驚いたような表情は初めて見るもので、どこか新鮮だった。
「君は貴族に流れる高貴な血を関係ないと言うのかい?」
「ええ」
探るような視線を気にせずに頷く。
ふうん、と意味ありげに目を見られたけれど気にしない。
イグノアース王国は代々続く王族と貴族によって成り立っている国だ。血統主義的な考えが深く根付いているし、実際のところ私も少し前まではそちら側だった。
けれどバリバリの庶民だった前世を思い出した今となっては、大切なのは血よりも中身だなと思う。
とはいえそんな考えは王族であるエリオット殿下には到底理解出来ないだろう。
舞台も血統主義者である貴族とそうでない多数の人たち、どちらにも配慮されたストーリーだったし。
とにかくこれ以上話を深くされても何も生まないから、ふわりと笑顔を浮かべて話題を有耶無耶にする。
エリオット殿下は何故か私をじっと見つめてきていて、お尻のあたりがそわそわする。もちろんそんな動いたりはしないけれど、どうも居心地が悪い。
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