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2.身体の関係から迫るしかない

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 胸元が深く開いたドレスは、大きな膨らみをこれでもかと強調している。
 柔らかい丸みが、押し付けたルイス殿下の手によってむにゅんと形を変えた。
 自分でやっておきながら思わず声が出てしまいそうなくらいの恥ずかしさを、どうにかこうにか飲み込む。

 ルイス殿下の目が驚いたように丸くなる。

「レベッカ」
「王都一番のタルトよりもオススメですの」
「エリオットはどうした?」
「あら、そんなこと」

 エリオット殿下はルイス殿下のお兄様で、この国の第一王子だ。
 そして私、公爵令嬢であるレベッカの婚約者でもある。
 けれども。

「婚約者だなんて名前だけであること、ルイス殿下もご存知でしょう? 別にわたくしが誰と何をしていようともエリオット殿下は気にもかけませんわ」

 確かに私とエリオット殿下は正式な婚約者ではあるけれど、その関係はとても希薄だ。
 婚約した当時エリオット殿下は今のルイス殿下と同じ二十歳で、私は十六歳だった。
 それから二年は経つけれど、顔を合わせて会話をした回数は片手で足りる。手紙のやり取りだって大差ない。
 そんな程度だ。

 そんなことより、とルイス殿下に密着するように近寄って耳元で囁く。

「わたくしのこの身体に魅力を感じるでしょう?」
「……婚約者の居る身でこんなことをして、婚約を破棄されても文句は言えないな」
「わたくしの心配をしてくださいますの? ルイス殿下はお優しいですわね。けれど問題ありませんわ、わたくしはこの国の宰相の娘ですのよ」

 私は宰相であるウォルター公爵の一人娘だ。お父様の発言力は強くて、国王陛下ですら無碍には出来ないらしい。
 そしてお父様は私のことをとても愛してくれているし、甘やかしてくれている。

 自分で出来る限りの色気を意識して微笑んだ。

「だからいまここでルイス殿下とわたくしが何をしようと、咎める者はおりませんわ」

 誘惑するように上目遣いで見上げる。
 このまま乗り気になってくれたら、と期待をかけて。

「……レベッカ・ウォルターがまさかこんな女性だったとはな」
「悪い女はお嫌い?」

 私のことをじっと見下ろしたルイス殿下の唇が開いた、その瞬間。

「ルイス殿下、申し訳ございません!」

 そんな空気を壊すように声をかけられた。
 慌てて振り向けばガゼボの外に兵士が立っている。

「王妃殿下がお呼びになられております!」
「ふーん、そりゃ無視するわけにはいかないな」

 直立不動の兵士からの報告に、引き止める間もなくルイス殿下がするりと立ち上がってしまう。
 私を見下ろす瞳は素っ気ない。

「それじゃあなレベッカ」
「あ……ルイス殿下っ」

 ただそれだけの言葉を残して、ルイス殿下はガゼボを出て行ってしまう。

 広い中庭に残されたのはその背を追うように立ち上がった私一人だ。
 余韻も何もない立ち去り方に、ルイス殿下と私の距離感を突きつけられる。
 まぁ当たり前といえば当たり前。ルイス殿下にとって、私はお兄様であるエリオット殿下の婚約者ってだけの存在なのだから。

 やっぱり正攻法じゃなく身体の関係から迫るしかないかなぁ。
 でもそれにしたって。

「焦りすぎちゃったかなぁ?」

 はぁ、と大きなため息をつきながら椅子に腰を落とす。
 さっきまでは背筋を伸ばして指先の動きにまで気を使っていたけれど、もう誰もいないし意識する必要もない。
 というより、緊張の糸が切れてしまったみたいで何も考えられない。

 こんな事じゃよくないのは分かってる。
 たった一回上手くいかなかっただけ、それだけだ。
 それだけなんだけど……。

「何を焦りすぎたんだい?」

 誰もいないはずの中庭で声を掛けられた。
 慌てて振り向いた先にはガゼボの壁をひらりと乗り越えた、婚約者であるエリオット殿下がいた。
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